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■娘たちの努力の日々(12)

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それで千里はラクティスを運転して道央自動車道・深川留萌自動車道と走る。なおこの時期には、深川留萌自動車道は留萌幌糠ICまでができている。2時間弱で留萌の実家に到達したが、父はほとんど寝ていたので、千里も気楽であった。実際には千里も1時間ほど運転席で仮眠し、その間は《きーちゃん》に運転してもらった。
 
千里が「男装」で実家に「ただいまあ」と言って入って行くと、その格好を見た母はすごく変な顔をした。玲羅は吹き出した。
 
父がビールを飲んでいる間に、千里はひとりで車で出かける。車内で女装に戻して、貴司の実家に行った。
 
「ただいま、戻りました」
と言って、こちらの家にも入る。
 
「お帰り、千里ちゃん」
と言って笑顔でお母さんが迎えてくれる。
 
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「母校の合宿に付き合っている最中を抜け出してきたんですよ。それで何もお土産がなくて済みません」
というが
 
「ううん。来てくれるだけでいいんだよ」
とお母さんは言った。
 
「取り敢えずこれは札幌で買ってきたお菓子です」
と言ってロールケーキを出す。
 
「わあ、それ大好き」
と言って理歌が飛んできた。
 

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「そうだ。これを貴司さんに頂きました」
と言って、千里は左手薬指に填めたアクアマリンの指輪を見せる。
 
これは12月13日に貴司からもらったものである。
 
「あらまあ、あの子にしては気が利いてるじゃん。これ誕生石だっけ?」
「はい。誕生石です。ここにこういう文字が」
 
と言って、指輪を外して、内側を見せる。そこには
<< Takashi to Chisato Love Forever >>
という文字が刻印されている。
 
「じゃこれエンゲージリング?」
「一応ファッションリングとして頂きました」
「へー。まあいいんじゃない?」
 
「26歳と24歳になるまで続いていたら結婚しようという約束でしたし。まだ5年あるんですよ」
「お互いの気持ちがしっかりしているなら、待たなくてもいいんだよ」
 
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「ええ。でも私も大学卒業した後かなと思っているんです」
「そうだねえ。在学中だと、妊娠したりすると学業が中断するし」
「そうなんですよ」
と千里が答えてから「あっ」とお母さんは小さな声をあげる。
 
「千里ちゃんは妊娠しないんだっけ?」
「赤ちゃん産む気満々です」
「だったら、それ期待してよう」
とお母さんは笑顔で言った。理歌も微笑んでいた。
 
結局、夕飯作りを手伝い、仕事から戻ったお父さん、部活から戻った美姫と一緒に石狩鍋を食べた後で、自分の実家に戻ることにする。夕食の後の片付けまでしてからと思ったのだが「お姉さん、片付けくらい私がしますから」と理歌が言うのでお任せした。美姫も千里がもらった指輪を見て
 
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「兄貴にしてはセンスがいい」
などと言っていた。
 
お父さんは
「結婚式、いつ挙げるんだっけ?」
と焦っていたが、
「大学を卒業した後になるから、まだずっと先ですよ」
と千里は答えておいた。
 

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実家では母が夕食におでんを作っていた。
 
「向こうでも食べたかなあとは思ったんだけど」
と母は言っていたが
「向こうでも食べたけど、こちらでももらうよ」
と千里は笑顔で言って、父・母・玲羅と一緒におでんを食べた。後片付けを母とふたりでした。
 
こちらでもロールケーキを出す。玲羅が切り分けてくれた。
 
「ここのは生クリームものが絶品だね」
と玲羅が言う。
 
父は日本酒を飲んだら眠くなったと言って奥の部屋に行き眠ってしまう。それでふすまを閉めてから、千里は母と玲羅にアクアマリンの指輪を見せた。
 
「あんた、それエンゲージリング?」
「貴司はエンゲージリングにしたいみたいだったんだけどね〜。どっちみち結婚できるのはずっと先だから、その頃になったら、あらためてダイヤのエンゲージリングくれるって。だからこれはそれまでのつなぎかな」
 
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「これだって結構なお値段しそうなのに」
「40万円くらいしたみたい」
「きゃー」
「でもエンゲージリングは給料の3ヶ月分って言うね?」
と玲羅。
「それなら200万円くらいのもらわないと」
「貴司さんって60-70万円も給料もらってるの?」
「住宅補助まで入れたらそんなものかな。あいつ月35万のマンションに住んでいるから」
「そんな凄い所に住んでるんだ!」
「その内25万が会社から出ている家賃補助で、実際のあいつの負担は10万円」
「高ーい」
「都会はそんなものだよ。私のアパートの家賃1万円なんてのは極めて異常な部類」
「あそこは色々問題のある物件だったからね」
 
「それに私、結婚する前に戸籍を女に直さないといけないし」
「20歳になったらすぐ申請するの?」
「まあ性転換手術した後でね」
「性転換手術はもう終わってるんでしょ?」
と母が訊くが
「まさか。お金貯めないと無理だよ」
と千里は言う。
 
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すると母と玲羅が顔を見合わせる。
 
「今更そういう嘘をつく姉貴が意味不明!」
と玲羅は言った。
 

翌1月11日(祝)。千里はこの日帰ることにした。
 
千里の『男装』に無理がありすぎて、長居すると確実に破綻しそうなので、早々に退散することにしたのである。父から『一緒に温泉に行こう』などと言われたら、無茶苦茶やばい。
 
それで朝10時頃、実家を出る。
 
ラクティスを運転し、留萌自動車道に乗って深川JCT方面に向かって走っていたら《たいちゃん》が言った。
 
『千里、ちょっと寄り道していかない?』
『いいけど、どこに?』
『旭岳』
『旭川の?』
 
それで千里は深川JCTを札幌方面ではなく、旭川方面に分岐した。
 

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旭川鷹栖ICで降りて、道道1160号線を走って旭岳山麓駅前まで行った。駐車場に車を駐め、ロープーウェイの往復切符を買う。
 
何となく気分でホットコーヒーを自販機で買った。
 
キャビンに乗り込み、10分ほどで姿見駅に着く。千里が姿見駅を出て左右をキョロキョロしていたら、駅員さんが寄ってきた。
 
「お客さん、観光ですか?」
「実は2年ほど前、2007年の11月なんですが、友人がこの近くで自殺を図りまして」
「え?」
「幸いにも通りかかった人が発見して無事生還したんですが、その場所がどのあたりだろうと思って」
 
「あなたが自殺するんじゃないですよね?」
「自殺するように見えます?」
「見えません!でもスキーとかもお持ちじゃないし、軽装だし、と思って」
 
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「ああ。ここに来る予定無かったのを急に寄ってきてと言われたもので」
と千里は言っている。
 
「でもその場所分かります。私がそのお客さんを助けてあげてと山慣れしておられる感じのお客さんに頼んだんですよ」
 
「そうだったんですか!」
 
駅員さんは、千里の格好はあまりにも寒すぎると言って、防寒具を貸してくれた。その上で、この付近の周遊図を示して、桃川さんを発見した場所を教えてくれた。
 
「じゃちょっと行ってみます」
「お気を付けて」
 

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千里は遊歩道らしきルートに沿って歩いて行く。実は軽装での山歩きは出羽でさんざんやっているので、そんなに問題は無いものの、貸してもらった防寒具は暖かかった。
 
7-8分歩いた所で夫婦池の所に到達する。
 
桃川さんが来た時は池は凍結していなかったらしいが、今はさすがに凍結している。しかしここからの旭岳の姿は美しい。なるほどここで死にたくなったのも分かるが、こういう所で春になって死体が出てきたという状況は迷惑だよね、というのも考える。
 
その時、バッグの中で何かが反応するのを感じる。
 
何だっけ?と思ってバッグの中を覗いてみると、財布の中のようだ。財布を取り出して開けてみる。
 
「これか」
 
と言って千里は、奥尻島のお寺で御住職から頂いた大日如来の玉が反応しているのを取り上げた。
 
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「何が言いたいのかなあ?」
などと独り言を言うが、玉はどこかに行きたいようだと感じる。それでその玉が行きたがっている方角に10mほど歩くと、やがてある場所で停まった。
 
『たいちゃん、ここに何かあるの?』
『体力のある子に雪を掘らせてみて』
『じゃ、こうちゃん、お願い』
『へいへい』
 
それで《こうちゃん》が雪を掘ってくれるのを千里はじっと見ていた。
 
「あ、何かある」
と言って千里は《こうちゃん》が掘ってくれた穴の中に落ちていた小さな玉を見つけ、拾い上げた。
 
『よくそんな小さな物を見つけるな』
と《こうちゃん》が感心している。
 
「勢至菩薩だ」
 
『桃川さんの守護本尊だよ』
と《たいちゃん》が言った。
 
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「これを見つけないといけなかったのか」
『それで本物の『雪の光』が書けると思う』
『マジ?』
 

千里は帰りが遅いと駅員さんが心配するかもと思い、掘った穴を《こうちゃん》に埋めてもらった上で、姿見駅に戻った。
 
「ありがとうございます。どこか座って作業できる所ありませんか?」
「うちの休憩室使っていいよ」
 
そこは桃川さんを運び込んできた秋月・大宅のふたりが彼女を介抱した部屋だということであった。
 
「たぶん最高の場所です」
と千里は言い、五線紙を取り出した。目の前に桃川さんの守護本尊・勢至菩薩の玉と自分の守護本尊・大日如来の玉を置く。
 
千里は自分でもよく分からない力に動かされて、さらさらと五線紙に音符を書きはじめていた。同時に歌詞も浮かんでくるので一緒に書き込んでいく。
 
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駅員さんが「へー」という感じで見ている。
 
この作業は30分ほどで完了した。
 
「終わりました?」
「書き上げました。ありがとうございます!」
 
千里がその場で歌ってみせると、駅員さんは涙を流してきいていた。
 
「凄く哀しいです。でも凄くいい歌です」
「私もそう思いました!」
 

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千里は「先日のとは違う『雪の光』を見つけた」と桃川さんに電話して言った。千里が札幌に移動する予定というと、桃川さんも札幌に出て行くと言った。
 
それで千里は山麓駅まで降りて車に戻ると、高速を走って札幌に移動したが、千里が札幌にもうすぐ着くというころ桃川さんから連絡があり、新千歳まで来たという。ちょうどいい連絡があったようである。それで千里はそのまま千歳に向かい、千歳市内のファミレスで落ち合った。
 
「まず、これを。旭岳で見つけました」
といって守護本尊・勢至菩薩の入った玉を渡す。
 
「凄い!これがあったんだ!!」
「きっとこの玉が桃川さんを守ったんですよ」
「これ大事にします」
 
「これが得られた楽譜なんですよ」
 
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桃川さんは譜面を見ていたが、涙がぼろぼろ出てきた。
 
「これ、私がまさに歌いたかった歌です」
と彼女は言った。
 
「じゃこれが本当の『雪の光』?」
「いえ、これは立派すぎます!」
「あら!」
 

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「これ、まるで木こりの泉の話ですよ」
と桃川さんは涙を拭いてから苦笑いしながら言った。
 
「そなたが落としたのは金の斧か?銀の斧か?って。これは金の斧です。私が落としたのは普通の鉄の斧です」
と桃川さんは言った。
 
「でもこの歌にも記憶があります」
「ほんとに!?」
 
「私が自殺未遂して、大宅さんたちに見つけてもらって名前呼ばれたり、頬を叩かれたりしていた時に、何か天使の歌声のようなものが聞こえていた気がして。でも私自身も忘れていた。この曲はあの時に聴いた歌だと思います」
 
「じゃこれもきっともうひとつの『雪の光』なんですよ」
「そうかも!」
 
千里は桃川さんをファミレスの駐車場に駐めている自分の車に誘い、その中で雨宮先生に電話した。ハンズフリーセットを使って、ふたりで聴けるようにする。雨宮先生は千里の報告を聞いて「面白い話だ」と言った。
 
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千里が新たに得られた曲をその場で歌ってみせると、桃川さんは再度涙を流していたが、雨宮先生は
 
「これは名曲だ」
と言った上で
 
「でも売れん」
と言った。
 
「確かにそれは分かります。売れないと思います。でもこの曲を売れるように改造すると、曲の良さが無くなる気がするんですよ」
と千里は言う。
 
「だったら、先日もらった曲とカップリングしてチェリーツインのCDを作ろう」
と雨宮先生は言う。
 
「今アルバムが完成間近なんですが」
「同時発売だな」
「え〜〜〜!?」
 
「その千里が新たに得た曲は『命の光』というタイトルで」
「分かりました」
 
それでチェリーツインの『雪の光/命の光』が制作されることになった。
 
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『雪の光』はメゾソプラノの少女X(陽子)が、情緒あふれる声でメロディを取り、味のある曲に仕上げた。『命の光』はソプラノの少女Y(八雲)が、本人もあまり使わないというオクターブ上のいわゆるスーパーヘッドボイスでサビ部分を歌唱して美しく仕上げた。
 
「この声は10年後には出なくなってるかも」
と八雲は言っていた。
「高い声が出なくなる前に性転換して女の子になるとかは?」
と陽子。
「性転換かあ。。。いいなあ」
 
クレジットは、『雪の光』を作詞作曲・桜桃/編曲・鴨乃清見、『命の光』を作詞作曲・桜桃&鴨乃清見とした。印税・著作権使用料に関しては、個別のダウンロード・利用の数によらず合計印税を桃川:千里=2:1で分けることを雨宮先生が提案し、双方了承した。
 
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この曲は大西典香・津島瑤子以外の歌に鴨乃清見の名前が使われた、ごく少数の例のひとつとなった。
 
そしてこの2曲は後にチェリーツインの代表曲と言われる曲になるのである。
 
 
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娘たちの努力の日々(12)

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