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その日千里たちは、お昼の時間になるまで龍虎の病室に居て、龍虎と母、そしてやがてやってきた田代父とも色々話した。11時半頃に主治医の教授が来て、
「龍虎君、身体のどこにも悪い所無かったぞ。安心して学校頑張れよ」
と言った。念のため聴診器を当てたり、体温・血圧などの測定をして体調を確認していた。
その診察が終わってから、龍虎は田代のお父さんが持って来てくれた服に着替える。下着も交換するということで、ベッドの周囲のカーテンを引き、千里たちがその外で待機している間に中で着替える。
「あれ?このパンツ・・・」
「ありゃ。間違ったかな」
「どうしよう?」
「別にそのパンツでもいいんじゃない?」
「うーん。。まあいいことにするか」
などという会話が聞こえてくるので千里たちは顔を見合わせる。
やがてカーテンが開かれる。龍虎は青いセーターに温かそうなコーデュロイのズボンを穿いている。
「龍虎、パンツどうかしたの?」
と川南が訊く。
「なんでもない」
と龍虎。
「もしかして女の子パンティだったとか」
「カナさんがたくさん送ってくるからだよ!おかげで、ボクのタンスの中、女の子のふくがいっぱい入っているんだもん」
「ごめーん。俺が間違ったから」
とお父さん。
「やはり女の子パンティ穿いてるんだ?」
と川南。
「帰ったら着替えるよ」
と龍虎。
「ごめん。年末で忙しかったから洗濯物ためちゃって。男の子パンツがもしかしたら無かったかも」
と田代母。
「女の子パンティならたくさんあるんだ?」
「そうだね。とりあえずそれ穿いとけばいいよ」
「うーん・・・・」
「どっちみち、龍虎は前の開きは使わないんだから、女の子パンティでも問題なかろう?」
「問題あるよぉ」
「よし。龍虎にはまたキティかマイメロのパンティをたくさん送ってあげよう。キティとマイメロとどちらがいい?」
「えっと、キティちゃんたくさんあるから、マイメロの方がいいかな」
「ああ、やはり女の子の服、着たいんだ?」
「あれ〜?」
「よし。マイメロのパンティとか可愛いスカート送ってやるな」
千里も夏恋も笑いをこらえるのが辛かった。
「おかあさん、龍虎のサイズはまだ110でいいですか?」
と川南が訊く。
「今の所は問題無いですね。やはり薬の副作用で身長の伸びも遅れているみたいで。でもこの後は、薬もだいぶ軽いものになってきたから、身長伸びるかも」
「んじゃ、120サイズを送ろうかな」
「そうですね。その方が余裕あるかも」
「今の所クラスで男の子・女の子入れていちばん小さくて2年生なんだけど1年生と思われることが多いみたい。でも病気をしていたから仕方ないよと言っているんですけどね」
「クラスの子、しんちょうのことでボクをからかうなって言われてるみたい。ボクべつに気にしないけど」
「まあ少しずつ大きくなるさ」
と川南は言う。
「私が背が高いから、お母さんがそんなに背が高いならきっと君も大きくなるよとかも言われたみたいなんですけどね」
と田代母。
「その後、俺を見て、お父さんが背が低いから龍虎も背が低くても仕方ないよ、とも言われたみたいです」
と田代父。
「なるほどー」
田代母は身長173cmくらいで、田代父は身長158cmほどである。
「この子の実の両親も私たちと似たパターンだったらしいです」
「へー!」
「この子のお母さんは178cmくらいあったらしいんですよ」
「凄い!」
「だって支香叔母さんも175cmくらいだもんな」
と川南が言う。
「うん。しかおばさんもせがたかい」
と龍虎。
「でもこの子のお父さんは165cmくらいだったそうで。だから両親とも私たちより少し背が高いんですけどね」
「でもお父さんの方が背が低いパターンだったんだ」
「結果的には色々な意味でいいお父さん・お母さんの所に行ったんだな、龍虎」
と暢子が言うと
「えへへ。いいお父さん・いいお母さんだよ」
と龍虎も嬉しそうに言った。
30日の日は千里たちは龍虎が田代夫妻と一緒に退院するのを見送った後で、暢子がインプを運転して、宿舎に戻り、午後からのN高校の練習に付き合った。
そして2010年の年は明けた。
朝6時に起床して、おとそ代わりのサイダーとお雑煮を食べてからP高校とN高校で20分間の練習試合をする。
その後、一休みしてから、調理担当メンバー手作りのおせち料理を食べる。年末最終便で札幌から出てきたP高校の理事長さんが持って来た新巻鮭も焼いてふるまう。
その後、旭川N高校のメンバーは午前中たっぷりと練習で汗を流したが、札幌P高校のメンバーは午前中を休憩時間とした。仮眠する子も多かった。この日のP高校の試合は第4試合19:00からである。
お昼前に東京体育館に移動して、試合を観戦するが、純子や秋子は絵津子や久美子が練習相手になってあげて、軽い(?)調整をしていた。江森月絵は不二子が「相手しようか」と言ったものの「うーん。。。」と言って悩んでいたので、結局ソフィアと紫が練習相手になってあげていた。
初戦の相手はインカレ8位の山形S大学だったが、80対68で快勝した。N高校との練習試合で不二子に叩かれて自信崩壊していた江森はこの試合では精神的なリハビリをするかのように、オーソドックスなゲームコントロールでチームを勝利に導いた。これでかなり自信を取り戻すことができたようだ。
「いやあ、不二子ちゃんには私も手痛い目に遭ったから」
と猪瀬キャプテンは言っていたが、月絵はどうしても不二子に対する苦手意識が残ってしまっているようだ。
この日の結果は下記である。
福岡C学園(九州)○−×札幌F大学(北海)
東京W大学(大7)○−×クレンズ (社2)
神奈川J大(大5)○−×ジョイフル(四国)
大阪E大学(近畿)○−×信濃K大学(北信)
スクイレル(W12)○−×宮城B大学(東北)
岐阜F女子(東海)○−×関西L大学(大6)
札幌P高校(高校)○−×山形S大学(大8)
赤城鐵道RR(関東)○−×大阪M体育(大4)○
今日は高校3チームはいづれも勝って2回戦に駒を進めた。関東総合でローキューツを準決勝で破りそのまま優勝した赤城鐵道は今日は勝ち上がった。ウィンターカップ期間中N高校のお世話係をしてくれた田崎舞の所属するW大学、敦子や大野百合絵・竹宮星乃の所属するJ大学も勝ち上がった。敦子はこの日はかなり出してもらったようであるが「1回戦だからね〜」と本人は言っていた。敦子は整列する時はいちばん端に並んでいた。
P高校・N高校のメンバーは宿舎に帰って夕食後、夜11時くらいまで練習を続けた。
「気のせいでしょうか。私たちP高校の倍の練習している気がします」
とソフィアが言ったが
「そりゃ地獄の合宿だから」
と南野コーチが言うと、何だか納得していた。
2日目の試合は同じ第4試合だが、始まる時間が早くなっているので17:00からであった。この日もだいたい昨日と同様のスケジュールで進んだ。
この日のP高校の相手は中国地区代表のIP大学であったが、70-57で今日も快勝することができた。そのほかの結果は下記である。
愛知SP大(大2)○−×福岡C学園(九州)
バタフライ(W11)○−×東京W大学(大7)
ブリリアン(W10)○−×神奈川J大(大5)
フリューゲ(W9)○−×大阪E大学(近畿)
DV大学 (大3)○−×スクイレル(W12)
茨城TS大(大1)○−×岐阜F女子(東海)
札幌P高校(高校)○−×IP大学(中国)
赤城鐵道RR(関東)○−×山形D銀行(社1)
この日からはWリーグの下位チームが登場した。
桂華たちの後輩・C学園、彰恵たちの後輩・F女子高、敦子や星乃たちのJ大学、田崎舞たちのW大学、早苗たちの山形D銀行がここで消えた。F女子高を破ったのはそのF女子高出身の彰恵や、日本代表で一緒に活躍した渚紗・桂華、そして旭川M高校の中島橘花、釧路Z高校の松前乃々羽がいるTS大学である。その5人も全員ベンチ枠に入っていた。
「でも凄いハイレベルな試合ばかりですね」
と2年生の胡蝶が言う。
昨年はウィンターカップが終わったらすぐ旭川に戻ったので、オールジャパンは彼女たちは観戦していない。千里自身は昨年は暢子・橘花・麻依子と4人で観戦に行ったのだが。
「こういう試合見ると刺激されるでしょ?」
と千里は言う。
「こういう所で戦いたいと思います」
と胡蝶。
「うん。頑張ろう。雪子の後任のN高校の正ポイントガードは未定だからね。ファレちゃんにもチャンスあるよ」
「ですよね。頑張らなくちゃ」
3日目もまた第4試合なので、例によって朝からP高校とN高校で練習試合をした後、朝食後にN高校は密度の濃い練習、P高校は休憩してからお昼前に会場に入って試合を見学する。
この日のP高校の相手はWリーグ8位のハイプレッシャーズである。試合は終始ハイプレッシャーズがリードする展開であったものの、最終ピリオドになってからP高校は猛攻を掛ける。
疲れの見え始めたプロ相手に純子・秋子が近距離と遠距離からどんどんゴールを奪い、この遠近両用攻撃に相手は混乱する。そして最後は1年生久保田希望のスリーで逆転。1点差勝ちをおさめた。
今日の結果はこのようになった。
フラミンゴ(W7)○−×愛知SP大(大2)
サンドベー(W2)○−×バタフライ(W11)
ステラスト(W6)○−×ブリリアン(W10)
レッドイン(W3)○−×フリューゲ(W9)
エレクトロ(W5)○−×東京DV大(大3)
ビューティ(W4)○−×茨城TS大(大1)
札幌P高校(高)○−×ハイプレッ(W8)
ブリッツレ(W1)○−×赤城鐵道RR(関東)
この日はP高校を除けば、全部この日から登場したチームの方が勝った。TS大も赤城鐵道もここで消えた。
千里は会場で会った花園亜津子(エレクトロ・ウィッカ)から
「今日はスリーポイント競争しようね」
と言われたものの
「ごめーん。今年は出てない」
と言っておいた。
「来年は?」
「社会人選手権を勝ち抜いたら」
「千里がいるのに勝ち抜けないというのはおかしい」
「そんなこと言われても」
「関東総合で優勝してもいいし」
「それは結構狙っている」
1月4日はP高校の試合は無いので、たっぷり練習する。
いつものように朝食前にN高校とP高校で練習試合をし、朝食を取った後、密度の濃い練習をする。
いくつかのグループに分かれて、マッチング練習→ミドルシュート/リバウンド練習→パス練習→ドリブル/ランニングシュート練習と30分単位でローテーションしていく。
N高校はこれを午前中に毎日2サイクルやっていたのだが、初めてこの練習に付き合うことになったP高校のメンツから悲鳴が出る。
「これきつーい」
「地獄の合宿だから」
「途中休憩しないの?」
「地獄の合宿だから」
「ひゃー」
明らかに疲れているメンバーは南野コーチ、高田コーチなどが見つけてはコート外に連れ出して休ませていた。また全員に水分補給はしっかりしろと、よくよく言い聞かせていた。
練習が終わったら汗を掻いた服を交換して会場に行き、今日の試合を見学する。今日からは会場は代々木競技場第1体育館に移動する。今日は準々決勝の2試合が行われた。
サンドベージュ(W2)○−×フラミンゴーズ(W7)
レッドインバルス(W3)○−×ステラストラダ(W6)
「強すぎる〜」
という声が見ていた面々からあがる。
「まあオールジャパンというのは実は準々決勝からが本戦なんだよ。その前は前哨戦にすぎない」
と高田コーチが言うと、P高校のメンツもN高校のメンツも、頷いていた。
みんながビビっていた所で、純子が高田コーチに訊く。
「私たち明日勝てますかね?」
「いい質問だ」
と高田コーチは言った。
「相手より1点でも得点で上回れば勝てる」
と高田。
その言葉に純子は大きく頷きながら試合を見ていた。
この日の試合は16時半くらいに終わったので、宿舎に戻ってから、基礎練習を1クルーやってから、晩ご飯とした。
たくさん身体を動かしているので、みんな食べる食べる。この日は炊いた御飯があっという間に無くなり、予備で冷凍していた御飯を解凍したが、それも全部無くなった。
「今夜5升炊いて予備を作らなきゃ!」
と調理担当チームのキャプテン・月原天音が言う。
「お腹を空かせた生徒たちの夜食で朝までに無くなってたりして」
合宿しているのはN高校・P高校合わせて50人ほどなのだが、5升炊きの炊飯器2個で炊いたごはんが1度の食事で無くなるのである。
実際この日は夕食の後、また練習を1クルーやってから終了にしたものの、純子や秋子などスターター組が絵津子・ソフィア・不二子・久美子・紅鹿・胡蝶たちを相手にかなり遅くまで練習しており、夕食後炊いた1斗の御飯が夜中過ぎまでにきれいに無くなり、天音さんたちは夜中の2時からまた御飯を炊いて、予備を何とか作った。