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12月30日(水)。
この日の午前中、N高校の現役メンバーはレッドインパルス2軍との練習試合をしていたのだが、OGの川南・夏恋・千里・暢子の4人は、朝御飯が終わった後、群馬県渋川市に向かった。
移動は千里のインプを使用した。これは川南のマーチに4人乗るとけっこう窮屈であるのと、合宿所の方で買い出しの用事が発生したような場合にMT車のインプは運転できる人が限られるので、川南のCVTのマーチを置いて行こうというのもあった。マーチの鍵は南野コーチに預けてきた。
なおMTが運転できるのは千里と暢子で、川南と夏恋は自信が無いと言っていた。
10時頃、渋川市内の病院の駐車場にインプを駐める。4人で病室にあがっていく。
「おーい、来たぞぉ」
と川南が明るい声で言って中に入る。
「あ、チサトさん、カレンさん、ノブコさん」
と龍虎が言ったのに対して
「こら、なぜ私の名前を呼ばん」
と言って、川南は龍虎に絞め技を掛けているが、龍虎は結果的に頭が川南のEカップのバストに押しつけられて結構焦っている感じだ。
「カナさん、こんにちは」
と龍虎はバストプレス?されたまま言う。
「何時に退院するの?」
と夏恋が訊く。
「お昼食べてからですー」
龍虎は幼稚園の年長の時から小学1年の12月まで、ほぼ2年間を病院の中で過ごした。もっとも最初の1年くらいは、病気の原因がよく分からないまま数回転院している。
最初に入院した時は、龍虎は志水さんという家の里子だったのだが、そこのお父さんが亡くなったことから、千里たちが龍虎と知り合った頃は実のお母さんの妹という長野さんという人が面倒を見ていた。
ただ長野さんは仕事が忙しく、龍虎が入院している間は良いものの退院したあと、面倒を見る自信が無いと言って困っていたようである。何でも仕事が忙しい時は1ヶ月くらい自宅に戻れないこともあるらしい。そんな折り、龍虎は同じ病院に入院していた田代さんという人と仲良くなり、その夫婦に子供が無いことから田代さんは「うちの子供にならない?」と誘った。
それで叔母の長野さんと田代さん夫婦の話し合いで、龍虎は田代さんちの里子になることになったのである。結果的に龍虎は短期間しか長野さんちでは暮らしていない。また病室のネームプレートも、最初入院した時は「志水龍虎」、その後「長野龍虎」になって、退院する時は「田代龍虎」と変化していた。
「これだけ名前変わったのなら、ついでに下の名前も龍子に変えて、女の子として退院したら良かったのに。女の子になる手術は腫瘍の手術に比べたら簡単で入院期間を延ばさなくてもいいらしいぞ」
などと川南に言われたが龍虎は
「ボク、女の子にはならないよお」
と反発して言っていた。
それが1年前のことで、「田代龍虎」は2009年1月に田代さんの家の近くの小学校に編入。ここ1年間は学校に通いながら、月に1度くらい病院で診察を受けるという生活をしていた。
しかし退院から1年経ち、一度しっかりと精密な経過観測をした方が良いということになり、学校が冬休みに突入した12月25日から今日まで検査のため再度入院していたのである。
「龍虎が退院する時に着るようにと可愛い服を買ってきたぞ」
といって川南は可愛いキティちゃんのブラウスとセーターにチェックの温かそうなロングスカートを見せる。
「なんでカナさん、ボクに女の子のふくばかりくれるんですか〜?」
「龍虎がちんちんを取ることになった時のためだよ」
「ねんのために先生にもきいたけど、べつにちんちんをとることはないって言われましたよ」
「いや、分からないぞ。ちんちんに腫瘍ができたら、取ることになるかも知れん」
「万一、おちんちんとることになっても、ちゃんとかわりのおちんちん作ってくれるらしいですよ。だからボク女の子になったりはしないから」
「でもこういう可愛い服、着るの嫌いじゃないだろ?」
「えっと・・・・」
「女の子用のパンティとか穿いてみたりしない?」
「たまに・・・」
「スカートとかも穿いてみたりしない?」
「ちょっとだけ」
「キティちゃんって好きじゃない?」
「かわいいとは思うけど」
そばについてる田代のお母さんも笑っていた。
「検査結果はどうでしたか?」
と夏恋がお母さんに尋ねる。
「全く問題ないそうです。腫瘍を除去した付近は特に念入りにMRIで検査しましたが、怪しい所は無いそうですし、血液検査の結果も体内のどこかに腫瘍があれば出るはずのマーカーが見られないということで。転移が起きやすい部位についてもかなり調べたのですが、大丈夫ということです」
「それは良かった」
「元々悪性ではないという診断ではあったんですけどね」
「それが運が良かったですよね」
「まだ原因がよく分からず、血液の癌と診断された時期に投与していた抗癌剤が結果的には病気の進行を抑えていたということらしいんですよね」
「そのあたりも運が良かったですよね」
「龍虎のその頭はもう自毛になったんだっけ?」
などと言って暢子が頭に触っている。
「もうこれ自分のかみの毛だよ」
と龍虎は答えている。
龍虎は治療のためにかなり強い薬を使っていたため、一時は髪の毛が完全に無くなっていた。千里たちが高校3年の時に龍虎と出会った頃も彼は頭を丸刈りにしていたが、あの後また1度全部抜けてしまい、学校に復帰してからしばらくはカツラを使っていたらしい。
「実際薬の副作用はあちこちに出ていたんですよね」
と田代のお母さんは言う。
「御飯食べられなかった時期もあると言ってたね」
と夏恋。
「うん。食べても、はいてしまうから、ずいぶん点てきされてた」
と龍虎。
「便秘も酷くで、かなり浣腸されたね」
「あれ、つっこまれるのすごくイヤだったけど、してもらわないと苦しいし」
「身体の再生機能が落ちてるみたいで、ちょっとした怪我も治るのに時間が掛かっていたし、口内炎とか手荒れも酷かったし、爪も随分折れやすかったね」
「うん。手あれもつらかった。お母さんがずっとローションを手にぬってくれたから、あれでけっこう楽になったけど」
「ちんちんはもう元のサイズに戻ったの?」
と唐突に暢子が訊く。
「えっと・・・」
と龍虎は口を濁す。
「今回測定したのでは3.2cmまで戻って来ているんですよ」
とお母さんが言う。
8歳の子のペニスの標準サイズは7-8cmくらいで4cm以下はマイクロペニスとみなされる。
「一時は2cm切ってたんでしょ?」
と暢子。
「いちばん縮んでいた時が1.8cmと言ってました」
と母。
「今は当時の倍近くですね」
と夏恋。
「立って、おしっこできるの?」
と暢子が訊く。
「まだ・・・」
と答えて龍虎はまた恥ずかしがっている。
「実際問題として3.2cmの内、外に出ている部分はその半分程度で。握ること自体が困難みたいなんですよ」
と母。
「それ握ってもズボンのチャックの外まで届かないのでは?」
「そうみたいです」
「龍虎、座っておしっこするのなら、ズボンよりスカートの方が楽だぞ」
と川南がまたからかう。
「べつにスカートはかなくても、ちゃんとちんちん大きくなるから、だいじょうぶだよ」
と龍虎は口をとがらせて言う。
どうも川南には反発するのが龍虎の流儀のようだ。
「でも男子トイレは個室が少ないから、しばしば埋まっているんですよね。特にお年寄りは長いし」
と母。
「そんな時、どうすんの?」
と暢子。
「一応、子供だし女子トイレの個室使ってもいいよと言われてるんです」
と母。
「女子トイレ使うの、ちょっとはずかしー」
と本人は言っている。
「だったら、いっそのこと、女の子になれば堂々と女子トイレ使えるぞ」
「ボク、男の子だもん」
「いや、龍虎は女の子ですと言われたら信じてしまうと思う。可愛いもん」
と夏恋が言う。
「前の里親の志水さんとも何度か話したんですが、この子、実際小さい頃はよく女の子と間違われていたらしいですよ。むしろ男の子と思われたことが全く無かったらしいです」
「私たちが龍虎と会った時は、頭が丸刈りだったから男の子と思ったけど、普通の髪なら、むしろ女の子と思っちゃうよね」
「それで結果的には女子トイレにいても誰も気に留めないみたいで」
「なるほど、なるほど」
「前入院していた時は、お風呂でも揉めたもんなあ」
と川南が言う。
「それ言わないでよー」
と龍虎が言うのだが
「何があったんだ?」
と暢子は興味津々な様子。
「この病院に入院したての頃の話らしいんですけどね」
と田代(母)は言う。
「当時はまだ髪がけっこうあったもので、よけい女の子に見えたらしいです。それに当時、抗癌剤の影響でおちんちんは小さくなっていて、実際問題として2cmくらいのサイズだとほとんど体内に埋もれてしまって、ちょっと見たのでは付いてないように見えたんですよね。だから、お股を見ても女の子に見える状態で。それで男性の入浴時間にこの子が入って行ったら、先客のおじいさんが龍虎を見て女の子が入って来たかと思って、びっくりして」
「あらら」
「足をすべらせて腰を打って入院が延びちゃったらしくて」
「それはいかん。やはり龍虎は女性の入浴時間に入らないと」
と暢子。
「いっそ幼稚園生ならそれでもいいんだけど、という話もあったらしいです。でもやはり小学1年生を女性の入浴時間に入れる訳にはということになって、結局、本来の入浴時間帯ではない時間に、龍虎だけ入れてもらえることになったんですよ」
と母。
「なんだ。つまらん」
「それでその続きの話があるんだよな」
と川南は楽しそうに言う。
「もう・・・」
と言って龍虎は不満そう。
「最初男の子だからということで、男性の看護師さんが付き添ってくれたらしい。ところがさ」
「一度でも龍虎を風呂に入れた看護師さんが、みんな、次からは他の人にしてと言ったらしい」
「なんで?」
「龍虎があまりに可愛いんで、過ちをおかしてしまいそうで、自分を抑えるのに苦労したとかで」
「うーん・・・・」
「顔が可愛いし、雰囲気が優しいし、それでちんちんが縮んでいてお股には何も付いてないように見えるから『この子は男の子』と思っていても、やはり女の子に見えるし、龍虎の裸を見ている内に立っちゃうらしいんだよ」
「ああ・・・」
「あれって考えて制御できるもんじゃなくて、生理的な反射らしいから」
「そのあたりが女の私たちには分からない所だよね」
「それで結局、中年の既婚女性の看護師さんが水着着用して龍虎を風呂に入れてくれることになったんだって」
「大変だね」
「病院としても、男性看護師が患者の男児を・・・なんて新聞記事が出たら困るし」
「それはその看護師さんにとっても病院にとっても、龍虎にとっても悲劇だな」
「結局女性の看護師さんが付いてあげるのが平和ということで」
「だったら、龍虎が女の子になってしまうのがもっと平和だな」
「ボク、女の子になるのはイヤだよぉ」
「でも当時、お母さん不在の状態だったから、中年の女性に入れてもらうのは、まるでお母さんのぬくもりを感じられるみたいで、よかったと言ってたね」
川南。
「まあね」
と龍虎もその件に付いては素直に答えている。
「でもそれ付き添いは必要なんだっけ?」
と暢子が訊くが
「治療の副作用で貧血を起こしてお風呂の中で倒れる可能性もあるので、ひとりで入浴はさせられないということで」
「ああ、それは気をつけてあげなければ」
「実際入院中は湯船からあがった所で、気が遠くなり掛けて、額に冷たいタオル当てて意識回復ってことも何度かあったんですよ」
「あれあがった時が危ないんだよなあ」
「血圧が一時的に低下するからね」
浴槽に入っている間に血管が膨張するため、浴槽から出てすぐは下半身に血液が溜まりすぎて脳の血液が足りなくなるのである。
「今、おうちではどうしてるんですか?」
と夏恋が訊く。
「私が一緒に入ってますよ」
と田代母。
龍虎は少し恥ずかしがっている。
「なるほどー!」
「まあ小学3年生くらいまではいいよね、と言っているんですけどね」
「まあ4年生くらいになったらひとりで入るよな」
「ええ。その頃にはもう貧血も起きなくなっているだろうということで」
「家でも貧血起こしたことあります?」
「入院中は何度かやったけど、退院してからは、1月に1回起こしただけかな」
「うん。でもあれ1度だけで、その後は起こしてないよ」