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■娘たちの努力の日々(6)

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「N高校さんも人が悪い。うちの祝勝ムードを台無しにした」
と高田コーチが笑って言う。
 
「実力からしたら、うちは全くP高校にかなってませんでした。まともな勝負になっていたのは、純子ちゃんと絵津子の所だけ。あとは全てのマッチングでこちらが負けていた」
 
と南野コーチは厳しい顔で言う。
 
「しかしバスケットは1点でも多く取った方が勝者だ」
と十勝監督も厳しい顔で言った。
 
そして十勝監督は提案した。
 
「N高校さん、物は相談ですが、そちらの宿舎にうちも泊めてもらえません?」
 
「え〜〜〜!?」
 
「うちは旅館に泊まっているので、食事の心配はしなくていいんですけどね。近隣の中学校の体育館を借りて練習しているので、朝9時から夜8時までしか使えないんですよ」
 
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「こちらは24時間使えますよ」
と宇田監督。
 
「それでオールジャパンまで徹底的に鍛え治す。ウィンターカップ優勝したぞ、夢の高校三冠だぞ、と浮かれていたらこのざまですよ」
と十勝監督は言う。
 
「こちらも毎日P高校さんが練習相手になってくれたら、言うことないですね」
と宇田監督は言った。
 
それでV高校側の許可も取って、翌日からP高校はN高校と一緒にV高校に泊まり込んで練習することになったのである。
 

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「すみません。私はいったんチームに戻っていいですか?」
とN高校のお世話係をしてくれていた田崎舞が言う。
 
「マイちゃんとこもオールジャパンに出るもんね!」
「あんたレギュラーだし」
「実は卒論の最終調整もあって」
などと田崎さんは言っている。
 
「私も帰ります」
とN高校の海原敦子とP高校の片山瑠衣が言う。ふたりはJ大学のチームメイトである。J大学もオールジャパンに出場する。
 
「私も帰るね」
とP高校の岡田琴音が言う。彼女は関東総合で優勝した赤城鐵道のメンバーである。赤城鐵道は関東総合の準決勝でローキューツを破った後、大学チームとの接戦を制してオールジャパンの出場権を取っている。
 
結局、N高校側では千里・夏恋・川南・暢子・留実子・薫の6人、P高校では佐藤玲央美・宮野聖子・坂本加奈の3人が残るほか、元々ウィンターカップ以降明日から参加することにしていたY大学の赤川佐恵、C大学の本郷充子が加わって5人になる。加奈と玲央美以外は大学生である。
 
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「まあ会社勤めの人は自由がきかないよね」
と玲央美は言っている。
 
「私はN高校許すまじと発言した手前、会社の有休取って参加する」
と加奈は言う。
 
「有休足りないのでは?」
「その先は首覚悟で」
 
「レオの所は良かったの?」
と聖子が訊くが
「私はプロ契約だから試合の無い日は自由がきく」
と言っている。
 
「ブロって凄いなあ」
「報酬は月5万円だけどね」
「うっそ〜〜!?」
 

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「レオ、例の100万円はどうしたの?」
と千里は後で小声で訊いた。
「ああ。あれは春まで返さなくていいと言われた。おかげで何とか3月まで生き延びられるかな」
「良かったね!」
 

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研修施設の4階にN高校のメンツは泊まっていたのだが、3階をP高校に使ってもらうことにした。もっとも3階は本来は男子生徒用で女子トイレが無い。それで、P高校の子たちはトイレは2階あるいは4階の女子トイレを使ってということにした。
 
「まあ自分が男子かもと思う人は3階の男子トイレを使ってもよい」
と高田コーチは笑って言う。
 
「トイレに行く時だけ一時的に性転換しようかな」
「おばちゃんたちにはよくいるよね」
「男子トイレに入る子はおばちゃん認定だな」
 
「僕は3階の男子トイレ使っていいですよね?」
とP高校の男子マネージャー稲辺君が言っている。
 
「もちろん。君が男子であるなら使って良い」
「一時的に性転換して女子トイレ使ってもいいよー」
「遠慮しておきます」
 
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またお風呂はどっちみち宇田先生やN高校教頭、十勝先生たちのために男性用入浴タイムがあるので、彼にはその時間帯に入ってもらうことにした。性別が微妙なN高校の横田倫代は、男性時間帯の後、女性時間帯の前に彼女ひとりで入ってもらうことにした。
 
「あんたたち倫代ちゃんがあがった後から入りなさいよ。彼女が入っている内に突入したらセクハラだからね」
と、南野コーチは、うかつしていると無茶をやりかねない面々には言っておいた。
 

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またスタッフ・OGは1〜2階の個室だけでは足りないので3〜4階の空いた部屋を使ったり、個室に布団を持ち込んで無理矢理2人泊まるなどの対応を取った。この部屋割りを考えている段階で、稲辺君に3階の部屋を1つ割り当てるのは厳しいということになり、結果的には彼は2階で高田コーチと同室になる。それで彼はトイレも2階の男子トイレを使うことになり、3階トイレは封鎖して使わないことにした。他にN高校の横田倫代も南野コーチと同室にすることにした。これは倫代の「身体の秘密」に興味津々な一部の女子部員が倫代にセクハラまがいのことをしかねないからである。
 
またここでは食事を作ることが必要なのでP高校側は首都圏にいるOG何人かに呼びかけて、食事係をしてもらうことにした。
 
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食事係が増えたので、千里や夏恋などは食事係免除で練習相手をしてやってと言われた。暢子・留実子・睦子の3人も練習相手として1月5日まで滞在することになった。睦子は30日まで付き合うが30日の夕方の便で旭川に戻ることになった。
 
「まあ食事も泊まるところもあれば滞在費が全く掛からないんだけどね」
などと暢子は言っていた。
 

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両校のスタッフは話し合いの上、練習相手にいくつかのチームをお願いした。
 
N高校OGの川西靖子を通じて彼女がスタッフをしているレッドインパルスの二軍選手にも来てもらった。レッドインパルスは当然お正月のオールジャパンに出るものの、二軍選手は必ずしもすることがない。
 
やってきたメンツの中には数人昨年の12月にN高校の練習相手になってくれた時のメンバーも入っていた。
 
おそらく彼女たちがチームを引き締めたせいだろう。向こうは女子高生相手とは思えないマジ100%のプレイをした。
 
初日29日の午後はP高校の現役メンバーが相手になったのだが、二軍とはいえプロの気迫で圧倒する。80-56の大差でレッドインパルスが勝ったが、彼女たちは
 
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「いや、あんたたちは強い」
とP高校のメンバーに言っていた。
 
30日の午前中には今度はN高校の現役メンバーと対戦する。こちらは92-46というダブルスコアになったものの、
 
「手を抜こうかとも思ったけど、この相手に手抜きしたら、逆転されると思って最後まで手抜きできなかった」
と言っていた。
 
最初の予定ではこの2試合だけのはずだったのを
「あんたたちとはまだやりたい」
 
と向こうは言い、31日にも来訪して午前中にN高校、午後にP高校と対戦してくれた。P高校にとっては最後の最後に強いチームとの実践練習ができてよかったようである。
 

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旭川N高校が居残りしていると聞いて、交流の深い、岐阜F女子高と福岡C学園も向こうからやってきて両チームと対戦してくれた。両チームともオールジャパンに出場する。
 
F女子高は29日午前中にP高校、午後にN高校と対戦。C学園は30日午前中にP高校、午後にN高校と対戦した。どれもいいゲームになった。
 

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29日のお昼前、千里は雨宮先生から連絡を受けた。
 
「これがその雪の下から見つかったというノートですか」
と千里はV高校研修施設の1階和室で先生と会い、かなり傷んだノートを見せられた。
 
「向こうの大学でこれを通常写真、赤外線写真、X線写真で撮ってもらった。そのデータをPhotoshopでコントラスト拡大することで、かなり読めたものもある。でもこの曲はどうにも読めないんだよ」
 
と言って、雨宮は中綴じのノートの中央の見開きの所を見せる。
 
「タイトルは読めますね。雪の光?」
「そうそう。雪の光。本人はこれがいちばんの名作だと言っているんだけど、ちょうど真ん中のページで水が入りやすかったせいだと思うんだけど、このページがいちばん読めない」
 
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「これを復元するのは難しそう。でもX線写真を詳細に分析したら何とかなりません?時間は掛かるだろうけど」
「1月中旬までに復元したいんだよ」
「無茶言いますね〜」
「千里ならできると思うからさ」
 
千里は腕を組んで考えた。
 
「取り敢えずやってみます。この原本を預かっていいですか?」
「うん。頼む」
 

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雨宮が帰った後、千里はそのまま和室でお茶を飲みながらそのノートを見ていた。
 
唐突に雪の舞うお墓のシーンが目に浮かぶ。それは雪が降っているのに太陽は照っているという少し不思議なシーンだった。
 
ああ。雪の中の太陽だから、雪の光なのか、などと思う。
 
それでカバンから五線譜を出すと、その情景を見ながら何となく聞こえてくる気がしたメロディーを書き留めてみる。ああ、何となくいい感じ・・・・
 
と思ったが、これでは復元ではなく、創作ではないかと苦笑する。
 
千里は雨宮先生に電話をした。
 
「これどこで作ったんですか?」
「奥尻島らしいよ。桃川春美は知っているよね?」
「桃川さんとは会ったことないです」
「そうだったっけ?あの子は奥尻島で生まれたんだよ。でも札幌の高校に行っている時に、北海道南西沖地震で、家族・親戚一同が全滅したんだよ」
 
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「きゃー」
 
「そのお墓参りに行ってた時に思いついたらしい」
「分かりました」
 
千里は実際にそこに行って来なければ復元できないと思った。それでN高校の東京合宿が終わって、北海道に移動する時に付いていって、その時に奥尻島を訪れようと考えた。
 

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