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■娘たちの世界挑戦(12)

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18日(月)の朝、千里は朝起きてトイレに行きギョッとした。
 
『また男の子になってる!なんで?』
と千里はため息をつく。
 
すると《いんちゃん》が言った。
 
『千里、明日19日に去勢手術することになっているだろ?だから男の身体に戻ったんだよ。男の身体は明日で終わりだから、男のオナニーするなら今日が最後だよ』
 
千里の顔が引き締まる。
 
『別に男のオナニーとかしたくない』
『まあ千里はそうだろうね』
 
と言って《いんちゃん》は優しく微笑んだ。
 
『千里、男湯にでも行く?』
と《りくちゃん》が言う。
 
『それはおっぱいあるから無理』
 
『確かに』
 

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貴司は出かける前にもう1度セックスしたいようであったが、今はできないので「また今度の楽しみにね〜」と言って、朝御飯を作り、お弁当も持たせて会社に送り出した。
 
その後で少し料理のストックを作り、お掃除・洗濯もしてお昼過ぎに新幹線で東京に帰還した。
 
葛西のマンションで少し作曲作業していたら、桃香から
「お腹空いたぁ、千里、今夜は戻らないの?明日は楽しい楽しい去勢だよ」
 
などというメールが入っている。去勢が楽しいのか!?
 
取り敢えず千葉に戻ることにする。食材をたくさん買い込んでいき、ビーフストロガノフを作ったら、桃香は美味しい美味しいと言って食べてくれた。何か私って、貴司のマンションでもこのアパートでも主婦してるなあ、などと思う。貴司は大阪の夫で、桃香は千葉の夫だったりして!?
 
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その日は今になってアメリカ遠征の疲れが出たようで、熟睡してしまった。ふと夜中目が覚めると、繋がってる!?
 
「ちょっと、桃香!?」
「今夜が千里、男の子としての最後の夜だからさ、記念にいいじゃん」
などと言う。
 
「でも精子の採取もするのに!」
「いいじゃん、いいじゃん、精子は何とかなるよ」
 
その夜は確かに自分が男の子であるのはこれが最後だしと思うとなぜか許容的になってしまった。それで桃香の中で逝ってしまった。千里は成人式の翌日にも一度桃香と結合しているのだが、あの時は嫌で嫌でたまらなかったのが、今日はそれほど嫌でも無かった。多分男の子の快感を味わったのはこれが最初で最後だ。
 
ああん、でも私浮気しちゃったよと思うと少し心が痛んだが、まあ無かったことにしようと思った。
 
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「でも桃香、もし妊娠したらどうするの?」
「認知してくれなんて言わないから大丈夫だよ。養育費よこせとも言わないし」
「悪いけど認知はできない。認知してしまうと私性別変更できなくなるから」
「そうだよな。でもあれ変な規定だね」
「うん。訳が分からない規定だよ」
 
「ところで桃香、前回の生理はいつあった?」
「うーん。。。2週間くらい前かなあ」
「超危険日じゃん!」
 

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いつもは長野の産婦人科で精子採取をするのだが、今日は去勢をするので、その病院で一緒に採取してもらうことにしている。
 
都内の病院に行き、精子の採取を行う。桃香は朝方やっちゃったので出るかなと心配したようだが本当に精子を出すのは千里ではなく武矢なので!問題無く濃いのが採取できた。そのままこの病院で冷凍してもらい、追って手術終了後長野に持っていくことにしている。
 
「ねぇ、摘出した睾丸ってどうするの?」
と桃香が訊く。
「え?普通に捨てるんじゃない?」
「なんかもったいない。私、もらってもいい?」
「桃香、睾丸を移植するの?」
「いや、私は男になるつもりはない。もらって冷凍してとっておくとか」
 
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「何のために〜〜? それに冷凍保存って年間5万くらい掛かると思うよ」
「うちの冷蔵庫に入れておこう」
「それでは全然保存にならないと思うけど」
 
ともかくも桃香が摘出した睾丸を欲しいというので、医師はいいですよと言い、桃香が持ち帰ることになった。
 
「たまに持ち帰りたいという人もいるんですよ」
「へー。どうするんでしょうね?」
「まあ使い道は無いとは思いますが」
 
手術は10時から行われた。
 
「もうこれで千里も男の子卒業だね。何か思い残すことは?」
「別に死ぬ訳でもないし」
 
桃香は手術を見たいと言ったので、手術着を付けて一緒に手術室に入った。そしてずっと千里の手を握っていた。
 
「はい、これでもうあなたも男の子を卒業しましたよ」
と医師が言う。
 
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「ありがとうございます」
と千里はホッとして言った。これでもう男の子に戻されることはなくなった。もっともペニスの方はまだ付いたままである。これは来年手術することになるはずだ。
 

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30分ほど病室で休んでいて、その後医師が診察して傷跡を確認する。
 
「お風呂は傷が治るまで1週間程度は避けてください。シャワーは今夜から構いません」
「分かりました。ありがとうございます」
 
それで精算して病院を出る。そのまま東京駅に向かい、北陸新幹線に乗る。終点の長野で降りて、水浦産婦人科に行き、持参した保冷容器に入れた精子のアンプルの冷凍保管をお願いした。
 
この日はそれを渡すだけなので、ふたりは夕方には千葉に戻った。
 
ちなみに摘出した“千里の睾丸”の方は冷凍も何もしていない。ビニール袋に二重に入れて口を縛り、そのまま桃香のバッグの中に放り込んでいるだけである。桃香はそれを本当にそのまま自宅の冷蔵庫の冷凍室に入れた。
 
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ところでスリファーズの春奈は先週木曜日に都内の病院で去勢手術を受けた。(実は千里が去勢したのと同じ病院である)
 
19日の夕方、春奈の家に“千里”が訪問する。
 
「あ、どうも〜」
「手術の跡、傷まない?」
「もう痛みは無いんですけど、何か結構変な気分です」
「ホルモンバランスが崩れているんだろうね。睾丸は機能停止していても、やはり何かの作用はしているから」
「ああ」
「そのあたりも調整してあげるよ。ちょっと見せてくれる?」
「はい」
 
それで春奈はベッドの上で横になり、スカートをめくってパンティを下げた。
 

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千里は青葉に電話して去勢したことを言おうと思ったのだが、桃香が私が言うと言って、千里の携帯を取って自分で青葉に電話した。すると青葉が、実は私も睾丸が消失して、それを14日に実際にMRIで確認してもらったと言った。
 
「おお、青葉も睾丸消失おめでとう!」
「これまでも機能停止していたはずなのに、無くなると結構感覚が違うんだよね〜」
「へー。そういうものか。私は睾丸付けたことないから、そのあたりが想像できないなあ」
と桃香。
 
「それでさ、青葉、もしよかったら、私もう男性器は使わないから、私の気の流れをペニスには流れないようにしてくれない?」
と千里は言う。
 
「いいけど、それやるとペニスは2度と立たないし、最悪壊死したりする場合もあるよ」
「壊死するのは全然構わない」
「だよね〜」
 
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それで青葉はリモートで“千里”の股間付近の気の流れを確認し、それが一部摘出した睾丸にも流れているのを流れを変え、ペニスにも流れないようにし、むしろ女性の陰部の形状に流れるように強制変更した。
 
「これでもう感覚はむしろ女性器の感覚になるはず」
「ありがとう。なんか確かに感覚が変わったよ。ついでに私の身体自体の気の巡りを女性型の回転に変えられる?」
 
「できるよ。ちょっとショックが来ると思うけど大丈夫?」
「全然平気」
 
「じゃやるよ」
 

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その頃、春奈の自宅に居る“千里”は、春奈に言った。
 
「お股の付近の感触が変わったでしょ?」
「はい。まるでおちんちんが無いみたい」
「触ってごらん」
「まるで自分のものじゃない感じです」
「気の巡りや感覚を遮断しちゃったからね。今、春奈ちゃんの気の巡りは女性の陰部の形に流れているんだよ」
「なんか本当に割れ目ちゃんがあるみたいに感じる」
「バーチャル・女性器だね。じゃ、次は身体全体のチャクラの回転を逆転させるけど、ちょっとショックが来るよ」
 
「はい、構いません。お願いします」
 

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青葉は慎重に“千里”のチャクラの回転を確認すると、それと自分のチャクラの回転を一時的に繋ぐ。
 
一時的に物凄く強烈なチャクラが生まれる。これはふたりが合体したようなものなのである。
 
ちー姉のチャクラやはり凄いなと青葉は思った。そしてそれを強制的に自分と同じ方向の回転に変える。その上で自分のチャクラと切り離した。
 
「終わったよ」
「ありがとう。何か生まれ変わったみたい」
 
これは施術者のチャクラのパワーが被術者のチャクラよりも強くなければできない操作である。青葉はこれ結構たいへんだったと思った。
 

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「終わったよ」
と“千里”は言った。
 
「ありがとうございます!なんか生まれ変わったみたいです」
と春奈は言った。
 

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こうして千里のチャクラの回転は「女性型に変えられたので」それ以降、青葉の前に姿を見せる千里はちゃんと女性型のチャクラを持つようになっていたのである。
 
なお春奈の前に現れた“千里”は実際には小春のエイリアスである。小春は自分のエイリアスを千里に擬態させて春奈の所に行かせる一方で、自分自身は青葉の操作を春奈の身体に《中継》した。この頃は、小春もまだこのような大規模な操作ができるほどの力を持っていた。むろんその操作に必要なエネルギー自体は千里本体から吸い上げている!
 
千里は、12人の眷属、小春、青葉のエネルギー電池である。より正確には変電所のようなものである。この時期青葉は千里が渡したローズクォーツの数珠を媒介としてエネルギーを受け取っていたのだが、こういうのに疎い青葉はそのことに全く気付いていなかった。
 
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青葉がこの時期物凄くパワーアップしていったのは、ひとつには彪志との関係が本格的な恋愛に発展して自立心が育って行ったことと、もうひとつは千里から直接エネルギーを得られるようになったことがあった。
 
昨年末に名古屋で春奈と会った時、千里は何かそういう機会がありそうという予感のもと、春奈のチャクラを女性型に変えてあげるよと言っておいたのだが、震災の後に青葉に会った時、そうか私はこの子を利用して春奈の“内面的性転換”をしてあげられるのかと思った。それと同時にそのことを利用して、千里は自分の“素性”を当面青葉に隠し通せることに気付いて、小春と一緒にこの計画を練ったのである。春奈が去勢手術を7月に受けることは早い時期に分かっていたので、うまく自分と春奈のスケジュールを調整して、去勢の時期を合わせたのであった。
 
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千里がこの日手術で摘出してもらった睾丸の由来については『少女たちの』の方で書くことになるだろう。
 
 
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