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■娘たちの世界挑戦(2)

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第3ピリオドは19歳トリオ、絵津子・純子・王子に、センター2人を出して、超攻撃的布陣で行く(華香がキャプテンマークをつける)。
 
しかし向こうもフォワードやセンターを並べて点を取りに来る。
 
このピリオドではお互いよくブロックしたので、なかなか点が入らなかった。結局16-16で、日本が5点リードのままである。合計では52-57である。
 
日本の応援席が興奮しているが、ブラジルの応援席は必死で声援を送っている。
 
最後のインターバル、王子が
 
「このまま勝てますかね」
と言った。
 
「うーん。。。こういう場であまり勝敗は口にしない方がいいんだけどね」
と彰恵が言う。
 
「そうですか!?」
 
「勝敗を気に仕出すと概して良くない。全力を尽くすだけ」
 
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最終ピリオド。ブラジルはフランシスコ196cm, カルネイロ193cm, ピント191cm, ベルト190cm, コスタ189cm と長身の選手を並べてきた。オルタネイティング・ポゼッションがブラジルだったので、ブラジルの攻撃から始まるが、ここからが物凄かった。相手は連携プレイ無し、全部個人技で攻めてきて、全員ダンクでボールをゴールに叩き込む。玲央美や王子が止めようとするが、止まらない。こちらがファウルを取られたりする。
 
それであっという間に20点取られ、逆転される。第4ピリオドの半分を過ぎたところで20-6、合計で72-63と9点差を付けられてしまった。
 
日本側応援席が悲鳴のような声をあげ、ブラジル側応援席は物凄い興奮である。
 
日本はタイムを取って選手を落ち着かせる。
 
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王子は自分を見失っている感じだったのでも、いったん下げる。ポイントガードも早苗が消耗しているのでいったん下げて休ませる。千里・玲央美・彰恵・江美子・サクラというメンツで出て行く。
 
相手の勢いを「いなして」いくプレイに徹する。まともにぶつかってもパワーで負けるので、相手が個人技で来ているのを利用して、うまくトラップに嵌めていく。早めに静止して衝突した場合は相手のファウルが取られるようにする。
 
それで相手はファウルがかさみ、得点にならない。その間に千里や玲央美のスリーで反撃する。
 
それで22-14まで挽回し、74-71と3点差まで追い上げた。
 

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しかしここで向こうはピントとベルトを下げて、アルベスとリマを投入する。そして彼女たちを核に、これまで見せていなかったコンビネーションプレイで点を取りに来た。
 
これは後から考えると、本当は予選リーグでは使いたくなかったプレイではなかろうかと思われた。
 
予選リーグではあまり手の内を見せずにおいて、決勝トーナメントで初めて出すつもりだったのかも知れないが、もうそんなことは言ってられなくなったのであろう。
 
190cmの背丈でスクリーンを掛けられると、こちらはどうにもならない。それでまた点差を付けられる。78-71になった所で日本がタイムを取る。
 

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「お前たち素人?」
と篠原監督が厳しい顔で言う。
 
「スクリーンに背の高さなんて関係無い。どっちみち静止しているプレイヤーの身体を包む円柱はその選手の絶対優先領域。身長140cmでも身長200cmでもそれは関係無い。相手の背丈を気にしていたら世界では戦えないぞ」
 
「じゃ相手は140cmだと思っちゃえばいいですね」
と絵津子が言う。
 
こういう時の絵津子は便利な性格だ。
 
「そういうこと。だから普通のプレイをしろ。スクリーンを掛けたプレイヤーが動いたら、向こうの反則だ」
 

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それで若手3人を出す。千里/玲央美/絵津子/純子/王子というラインナップである。
 
絵津子は元々背が低いので、国内の試合でもいつも背の高い相手と戦っている。それが180cmの相手か190cmの相手かというのは、彼女の背丈からは、ある意味、大差無いことかも知れない。
 
それで絵津子がうまくスクリーンを破ると、純子も絵津子に負けじと頑張る。王子は元々びびったりしない性格だ。一度ベンチに下がったことで冷静さを取り戻している。
 
それでここから相手のスクリーンをかいくぐって何とか相手の攻撃を止める。そしてこちらの攻撃につなげる。
 
千里と玲央美のスリーが入って、あっという間に78-77の1点差である。
 
しかしそこから向こうもカルネイロが頑張って個人技でゴールを奪い、80-77と突き放す。
 
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日本側は速攻から千里がまたスリーを放り込む。
 
これで土壇場で同点に追いつく。
 
残り8秒である。
 
日本応援団が物凄い歓声である。
 
しかし向こうもセンターライン付近に居たリマにロングパス。リマが制限領域の近くまで走り込み、ミドルシュートを撃った。
 
これを純子がブロックしたが、ファウルを取られる。
 

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フリースローである。残り時間はわずか1秒。
 
リマは慎重にセットしてまず1本入れる。
81-80.
 
続いてもう1本も入れる。
82-80.
 
ブラジル応援団が物凄い。
 
日本はロングスローインに賭ける。
 
千里がボールを審判から受け取ると、相手ゴールそばまで物凄い球を投げる。ボールは向こうに居た純子の所にジャスト飛んで行く。
 
そして純子がシュート。
 
しかし相手フランシスコがきれいにブロック。
 
直後に試合終了のブザーが鳴った。
 

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純子が悔しそうな表情で頭を両手で抱えて座り込んだ。
 
この場面、左に王子、右の少し離れた所に純子が居て、相手は王子を使うだろうと思うだろうと予想して敢えて純子を使ったのだが、相手はちゃんと両方に警戒していた。
 
整列する。
 
「82 to 80, Brazil won」
と主審が告げる。
 
挨拶して相手選手たちと握手する。
 
日本選手は皆悔しいという顔であったが、勝ったブラジル選手たちにも笑顔が無かった。
 
BRA 13 23 16 30 | 82 JPN 24 17 16 23 | 80
 
こうして日本は初戦を落としてしまったのである。
 

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この日の結果
 
LVA72○−×70UKR BRA82○−×80JPN RUS89○−×72AUS
 
暫定順位 1.RUS 2.BRA 3.LVA 4.UKR 5.JPN 6.AUS
 
1.RUS(1勝) 2.LVA(1勝) 3.BRA(1勝) 4.JPN(0勝) 5.UKR(0勝) 6.AUS(0勝)
 
暫定順位は得失点率で付いているので、1,2,3位に負けたチームが6,5,4位になる。一方A組の方はこのようになっていた。
 
CHN62×−○88ESP FRA86○−×42EGY USA93○−×68CAN
暫定順位 1.FRA 2.ESP 3.USA 4.CAN 5.CHN 6.EGY
 
フィオリーナと言った「3ポイント競争」だが、この日の主なシューターの成績は下記である。
 
日本・村山 7本
アメリカ・フィオリーナ 6本
オーストラリア・ハモンド 4本
スペイン・フェルナンデス 4本
 
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試合が終わったのが12時半頃であったが、日本チームは着換えて昼食を取ると、誰に言われることもなく、練習場所に指定されている中学校の体育館に行き、黙々と練習を始めた。
 
篠原監督も高田コーチ・片平コーチも、何も言わずに選手たちの練習をじっと見つめていた。
 
「一息入れよう」
と言って、高居代表がケンタッキーフライドチキンの差し入れを持って来てくれた。
 
「わぁ!」
と歓声があがり、みんな練習をいったん休んで集まってくる。
 
「しかしカリフォルニアにもケンタッキーフライドチキンがあるんですね」
「まあ世界中にあるしね」
 
「お茶もありますよー」
と言ってロサンゼルス在住の日本人で組織してくれた支援グループの女性が4人で大量のペットボトルを運び込んできてくれた。試合中チアリーダーをしてくれていた女性の姿もあった。
 
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「おお、伊藤園のお茶だ!」
「これアメリカでも結構広く売っているんですよね〜」
 

「やはり、私が『勝てるかな』とか言ったのが、よくなかったですかね」
と王子が言うが、あの時王子をとがめた彰恵が即否定する。
 
「関係無い。私たちの実力が足りなかっただけ」
「でも最後は向こうさん、マジ本気になってましたね」
 
「うん。それを引き出せただけでも良いことにしよう。今日の所は」
「やはり最初は弱小アジアとか楽勝と思っていたんだと思うよ」
「こちらの戦力を全く分析していなかったのが明らかだった」
 
「まあ日本は前の大会で10位、私たちのU19の時も7位だけど、あれはまぐれと思われたかも」
「いや、実際まぐれだったと思う」
「うん。様々な幸運が重なって、あそこまで行けた」
 
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「前回は運良く油断していたロシアに勝てたからね」
「ふつう勝てる相手ではない」
 
「さて、明日はそのロシア戦な訳だが」
「前回対戦した時のメンバーが結構いますね」
「まあ前回やられているから、今度は最初からマジ100%でくるでしょうね」
 
「それでもまた勝てばいいね」
と千里たちは言い合った。
 

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7月4日、サンフランシスコ近郊のバーリンゲーム市にあるX医院で、日本人の男子高校生がこの日女の子に生まれ変わった。
 
「おめでとう。あんたはもう女の子だよ」
と意識を取り戻した元息子に母は言った。
 
「ごめんね、お母ちゃん。私、女の子になっちゃって」
「あんたがそうしたいと願ったんだもん。それでいいんだよ。痛くない?」
「痛くないけど、まだ麻酔が効いているんじゃないかな。麻酔が切れた後が怖いよ」
と彼ではなく彼女となった高校生は答えた。
 
ナースコールに呼ばれて看護婦さんが入って来た。
「目が覚めたね。痛くない?」
「今はまだ痛くないです」
「凄く痛くなるから覚悟しておいてね」
「はい」
 
看護婦さんは体温・脈拍・酸素量を計って書類に書く。そして
「そうそう。これ交換しなくちゃ」
と言って《Mr. Masao Taira》というネームプレートを取り外し、代わりに《Ms Masa Taira》というネームプレートを取り付けていった。
 
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母がじっとそのネームプレートを見ている。
 
「あんたは今日から正男ではなくもう真紗なんだね」
「うん」
と高校生は答えた。
 

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7月5日。日本はこの日最後の試合、19:00から、ロシアと対戦した。
 
この試合でロシアは、千里たちも言っていたように最初からベストメンバーを揃え、いきなり全開で来た。第1ピリオドで20-12と大きく引き離される。しかしこちらもやられてばかりではない。元気のいい若手3人をうまく使い、その3人と千里・玲央美というパターンで第2ピリオドを反撃する。それでこのピリオドを16-22と日本が6点リード、前半合計では36-34と2点差で折り返した。
 
ハーフタイムが終わって出てきた時のロシア選手の顔が物凄く怖かった。クジーナなどこちらを睨み付けていたが、たちまち審判に警告をくらう。相手チームの選手に対して無礼な態度を取るのはテクニカルファウルである。もっとも悪質ではない場合は、最初警告してくれる。
 
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「あれ、選手たち、きっとハーフタイムに監督から殴られているよ」
「ああそんな気がする」
「クリモナがほっぺを手で押さえてるし」
 
それで第3ピリオドは最初ロシア側が猛攻を見せるものの、すぐに日本も挽回する。向こうが強気で、しかも挑発してくるのに対して、こちらは彰恵や千里など冷静さを保てるメンツでこのピリオドを運用したので、そういうプレイがことごとくファウルを取られる。
 
これでコフツノフスカヤが退場になってしまう。
 
そして結局このピリオドは18-15と互角の戦いであった。ただ点差としては5点に広がってしまった。ここまで54-49である。
 

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第4ピリオド、どちらも総力戦の様相となった。
 
厳しいプレイの連続なので、今度はプロツェンコまで5ファウルで退場になってしまう。しかし日本側は篠原さんが特に激高しやすい王子やサクラなどに釘を刺しておいたので、冷静にプレイする。こちらはほとんどファウルを取られない。
 
そしてゲームの進行は均衡していた。
 
こちらは5点のビハインドを背負っているので、何とか相手より多く点を取らなければならないのだが、比較的冷静なモロゾヴァがこちらの攻撃パターンを読んでいるかのようなうまい守備で取らせない。
 
それで結局このピリオドを19-20で終わることになってしまった。
 
終了時にボールを持っていたのは絵津子でゴール目掛けて、思いっきり投げたものの、バックボードにも当たらなかった。彼女が頭を抱えて座り込む。
 
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審判が整列を促す。
 
「73 to 69 Russia won」
 
どちらの選手も疲れ切った表情でお互いに握手したりハグしたりする。
 
クジーナとハグした時、彼女が厳しい顔で千里に言った。
 
「вы наши соперници(君たちは私たちのライバルだ)」
 
千里は微笑んで答えた。
 
「давайте снова сыграем(またやりましょう/また遊びましょう:掛詞)」
 
それで再度彼女とハグした
 

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そういう訳で日本は今日も落として2連敗となってしまったのである。
 
RUS 16 18 20 19 | 73 JPN 22 15 12 20 | 69
 
この日の結果。
 
BRA88○−×61UKR AUS72○−×63LVA RUS73○−×69JPN
 
暫定順位 1.BRA(2勝) 2.RUS(2勝) 3.AUS(1勝) 4.LVA(1勝) 5.JPN(0勝) 6.UKR(0勝)
 
この時点ではまだ全てのチームに決勝トーナメント進出の可能性があり、また全てのチームに落選の可能性もある。
 
一方A組はこのようであった。
ESP83○−×41EGY CAN69×−○83FRA USA91○−×51CHN
暫定順位 1.ESP(2勝) 2.USA(2勝) 3.FRA(2勝) 4.CAN(0勝) 5.CHN(0勝) 6.EGY(0勝)
 
3ポイント成績
日本・村山 13本
アメリカ・フィオリーナ 12本
オーストラリア・ハモンド 8本
スペイン・フェルナンデス 7本
 
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娘たちの世界挑戦(2)

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