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■娘たちの世界挑戦(3)

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昨日は午前11時の試合だったので、その後練習したのだが、今日は19時の試合だったので、もうホテルに帰ってシャワーを浴びて夕食を取ったら寝ようということになった。
 
この日は気分を変えようということで、ホテルの外に出て、ステーキハウスで夕食を取った。
 
「あと4点だったんだけどなあ」
「その4点がやはり実力差なんだよ」
「まあ向こうが調子悪かったら、ひょったしたら勝てたかもというレベルかもね」
「実際2年前は勝っちゃったしね」
 
「とにかくお肉食べよう」
「うん。このお肉、柔らかくて美味しい」
 

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この日は夕食後は早めに寝て明日の試合に備えなさいという指示であった。実際問題として、練習場に割り当てられている中学校の体育館は夜間は使用することができない。ロサンゼルスの夜間は危険なので外出自体が禁止である。
 
しかし、絵津子と純子に王子が千里の所に来た。
 
「千里さん、例の場所ってアメリカからも使えますよね?」
「使えるよ」
「練習したいんです」
 
「だったら、あと2人呼ぼう」
それで千里は江美子と玲央美を呼び出した。
 
「またあそこで練習か?」
と玲央美が言う。
 
「むろん、寝ていた方がいいと思う」
「いや、今日の試合はスッキリしなかった。少し汗を流した方が気持ち良く眠れる気がする」
 
それで千里は美鳳さんに頼んで、この6人を月山頂上のバスケットコートに転送してもらった。
 
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ここは普通の人には単にバスケットのゴールが1個置かれているだけにしか見えない。しかし特殊な方法でここに来ることにより、バスケットコート(片側だけのハーフサイズ+シュート練習用のゴール3つ)が出現するのである。これは美鳳さんと京平が共同で作ったものである。
 

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6人なので千里・江美子・絵津子vs玲央美・純子・王子で3on3をかなりやった。千里たちが168, 166, 164cmで、玲央美たちは181, 180, 183cmということで、この対決は小型選手と大型選手の対抗戦なのである。
 
これが千里・江美子・玲央美vs純子・絵津子・王子の対決なら、千里たちの圧勝になる所だが、玲央美が向こう側に入っているので、かなりうまくやられてしまう。それでこれはかなり良い勝負になった。
 
更に江美子や絵津子にとっては大型選手に対抗する練習になるし、純子や王子にとっては、シューターの千里、変幻自在の江美子、スピードのある絵津子という全く違ったタイプの相手を如何にして同時に止めるかという難しい練習になるのである。
 
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それでお互い工夫も出てくるし、不用心だった所を修正して行く。2時間、3時間と練習している内に、今日の試合で不完全燃焼だった部分がスッキリしていくし、感覚も研ぎ澄まされて行った。
 

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バーリンゲームの病院に入院している平良真紗はこの日、医師の診察と包帯交換で初めて手術後の自分の股間を見た。
 
「わぁ」
と思わず声が出る。真紗はこの時、物凄く感動していた。
 
余計なものは全て無くなってスッキリした形になり、美しい縦のグランドキャニオンができている。まだ手術直後なので、その左右に1本ずつ縫い目の跡もある。ヴァギナの詰め物も交換するが、こんな大きなものが自分の身体の中に入るのかと、意識革命が起きる気分だった。
 
なお、性転換手術の後で左右に1本ずつ縫い目ができるのは、最初会陰部を切開して睾丸を摘出、陰茎海綿体を切除した上で、陰茎付近の皮膚を下に引っ張っていき、陰茎皮膚を反転して体内に押し込みヴァギナとするためである。つまり切開した所に前の方の皮膚を填め込んで女性の陰部を形成するので、切開部分に割り込ませたことで、縫い目が2つできるのである。
 
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「後悔したりはしてない?」
と念のため女性の医師が訊く。この医師も実は元男性である。自身が性転換した後、性転換手術をする医師になったという人は割といる。
 
「とんでもないです。嬉しくて涙が出そうです」
「女の子になれて良かったね」
「はい。ありがとうございます。先生のおかげです」
 

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7月6日(水)。U21世界選手権は予選リーグ3日目を迎える。
 
ここまで2日続けて僅差の試合を落としているだけに今日はそろそろ1勝をあげなければ決勝トーナメント進出がかなり厳しくなる。
 
この日9時,11時はA組の試合だったので、日本−ラトビア戦は13時からの試合になった。午前中7−9時に軽い練習をした上で休憩を取り(仮眠した子が多かった。千里や玲央美も寝ていた)、そして軽食を取ってから会場に入った。軽いウォーミングアップや柔軟体操をしてからフロアに入る。
 
現在ラトビアは暫定4位、日本は暫定5位で、決勝トーナメントに進出するには、どちらにとっても負けられない試合である。
 

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ラトビアの選手登録はこうなっている。
 
PG 7.ラクサ166, 12.アガレ170
SG 8.アンティピーナ167, 9.クレスリーニャ184
SF 5.チュミカ176, 13.タラソバ173
PF 6.クラスティーニャ184, 14.ヴァシレフスカ182, 15.イブラギモヴァ181C 4.ロチャーネ196, 10.マティーサ194, 11.オーズメナ192
 
「ここもセンターは3人とも190cm越えか」
「まあ世界に出てきたら、そんなチームばかりさ」
 
「シューティングガードとパワーフォワードに同じ名前の人がいるのは姉妹ですか?21歳と19歳だし」
という質問があるが
 
「姉妹ではないよ。似ているけど違う名前だよ」
と高田コーチが言う。
 
じっと見ていて「クレスリーニャ」と「クラスティーニャ」で微妙に違うことが分かる!
 
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「違う名前だったのか!」
と声をあげた子が何人も居た。
 
「見間違いそー」
「番号も6と9か」
「ちなみにこの2人、体格も似てるよ」
「うむむむ」
 
ちなみにラテン文字で書くとKreslinjaとKrastinjaである。
(セディーユ付きのn(エニュ)をnjで表現した。なお本当はeはマクロン付き(ガライス・エー)である)
 
「体格のいいシューティングガードということは、スラッシャータイプですか?」
「そうそう。この子に安易に侵入されると辛いよ」
「もうひとりのアンティピーナは背が低いですね」
「そちらは完全なシューター型だね。この子から離れて守ると即スリーを撃たれる」
 
「違うタイプのシューティングガードを備えているのは、気をつけないといけないですね」
「うん。どちらが出てきているかによって、相手の攻め方ががらりと変わる」
と高田コーチは言った。
 
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試合の冒頭、ラトビアはそのスラッシャー型のクレスリーニャを入れてきた。フォワードのクラスティーニャも入っているので、確かに紛らわしい。最初日本側の守備が混乱して10-4まで行くが、そこから挽回していく。
 
「髪の色が違う」
「うん。どちらもブロンドだけど、色の濃い方がSGで、薄い方がPFだ」
 
そのあたりは今朝見た映像ではよく分からなかったのである。実地に見て判別が付いた。
 
それで2人の区別がちゃんと付くようになってからは混乱も収まり、ちゃんと対処できるようになる。そして千里・王子・玲央美が遠近両方から得点を挙げ、何とか追いつく。
 
結局日本は最終的に1点差まで迫り、19-18の1点差で第1ピリオドを終えた。
 
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第2ピリオド、向こうは今度はシューター型のアンティピーナを入れてきた。しかしこのタイプのシューターには、日本側も日々千里と一緒に練習しているので対処法が分かる。瞬発力もスピードもある絵津子が付いて、絶対に離れないようにして守る。アンティピーナがなかなかフリーになれず、イライラしているのが見て取れた。
 
もっとも彼女を抑えていても190cm代のセンターの破壊力は大きい。向こうもしっかり“屋上パス”でつないで、ダンクで確実にゴールを奪う。
 
それで第2ピリオドも拮抗した点数になり、このピリオドは15-17と日本が2点リードする形で終えた。前半合計は34-35である。
 

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第3ピリオド、ラトビアはスラッシャー型のクレスリーニャ(濃いブロンド)とシューター型のアンティピーナ、更にフォワードのクラスティーニャ(薄いブロンド)も投入してくる。
 
的を絞らせない攻撃で、様々なパターンから得点を奪う。
 
日本側はこの攻撃に対処のしようがなく、途中1度タイムを取って作戦を練ったものの妙案は出ず、結局このピリオドで21-14と7点差を付けられた。
 
ここまでの合計得点は55-49と6点差である。ラトビアの応援団が興奮している。日本の応援団も必死に応援してくれる。
 

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千里は最後のインターバルの2分間、じっと目を瞑っていた。実は監督の話も聞いていない。それで監督から
 
「村山聞いてる?」
と訊かれる。
 
千里は目を開けて答えた。
「要するに勝てばいいんですよね?」
 
「うん。勝とう」
 
「1人1人が相手に勝てばいいと思うんです」
と千里が言うと、玲央美も似たことを考えていたようで、こう言う。
 
「結局作戦とか考えても、向こうは思わぬコンビネーションで攻めてきます。1人1人が相手の1人1人を抑えるしかないという気がします」
 
片平コーチが言った。
「シューターのアンティピーナは村山(千里)、スラッシャーのクレスリーニャは佐藤(玲央美)、フォワードのクラスティーニャは高梁(王子)、もうひとり多分入ってくるフォワードのチュミカは湧見(絵津子)、センターのロチャーネは熊野(サクラ)で、各々相手を抑えてしまえば勝てるね」
 
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「それって、こちらは全員、本能型ですね」
「そうそう」
 
正確には玲央美以外が本能型だ!
 
「相手の方が実力が上なんですよ。こういう相手には頭で考えても勝てないです。本能で何とかするタイプが有効だと思います」
と彰恵も言った。
 
「よし、それで行こう」
と篠原監督も言い、その5人で出て行く。
 

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ラトビアはやはり最後のピリオド、突き放そうというのでポイントガードを入れずに、こちらの予想に近い陣営で出てきた。但しスモールフォワードはチュミカではなく、タラソバが出てきている。絵津子にそのままタラソバに付くよう、キャプテンマークを付けている玲央美が指示を出す。
 
それでゲームが再開されるが、このピリオドではコンビネーションは考えずに各人がそれぞれ自分の相手に仕事をさせないように動いた。
 
最後は個人vs個人で勝つしかないというスポーツでの究極の原理である。
 
千里・玲央美・王子は、アンティピーナ・クレスリーニャ・クラスティーニャをほぼ止める。絵津子とサクラはタラソバとロチャーネにやや負ける。でも他の3人は原則としてフォローしない。絵津子とサクラ自身に頑張ってもらうしかない。
 
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しかしこれで一時的に4-8となり合計59-57と2点差まで迫る。すると向こうは日本のディフェンスを見て、スクリーンを掛けてきた。
 
日本チームはこれまでスクリーンを掛けられていたら、概してスイッチしていた。
 
つまりマッチアップする相手を変更して、スクリーナーに付いていた選手がボールマンを追いかけるようにしていた。しかしこのピリオドではスイッチせずに元々のマッチアップしていた選手がファイトオーバー(そのままスクリーンの外側を無理矢理追いかける:後ろから追う形になる)あるいはスライドスルー(スクリーンの内側をショートカットして追いかける:運がいいと相手の前に回り込めるが相手を一瞬フリーにしてしまう)して、とにかく相手に付いていくようにした。
 
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すると、結果的に相手にシュートを撃たれたとしても、その精度が大きく落ちる結果となった。
 
リバウンドになった場合、相手センターのロチャーネは196cmに対してサクラは182cmしかない。14cmの身長差はリバウンド争いには絶対的に不利である。しかしサクラは勘の良い選手で、ボールが落ちてくる所にジャスト居ることが多い。それでこの身長差のハンディを補うので結局4割くらいサクラがリバウンドを取ってくれた。
 
結局この後、試合は互角の戦いとなった。
 
第4ピリオド初期の日本側の猛攻の結果がそのまま保たれる形になり、日本が追いつくとラトビアが2点入れ、という形で予断を許さない状況でゲームは進行した。
 
残り2分になって相手はタラソバに代えて長身のマティーサを入れて来た。日本は背が低くスピード型の絵津子に変えて長身の純子を入れる。疲労しているサクラを華香と交代させる。それ以外のマッチアップはそのままにしてゲームは進む。相手チームはなかなか日本選手を振り切れないのでイライラしている感があった。
 
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ロチャーネが強引に華香を突き飛ばすようにしてゴールを決めるがファウルを取られる。これが5つ目のファウルとなり、キャプテンのロチャーナが退場になる。ラトビア側が動揺しているのが明らかに分かった。
 
しかしそういう時こそ遠慮無く攻める。
 
残りは1分ほどである。
 
相手はロチャーナに代えてもうひとりのセンター・オーズメナを投入するかと思ったのだが、スモールフォワードのチュミカを投入してきた。日本は華香に代えて彰恵を投入する。彰恵がチュミカに対抗する。
 
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