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■娘たちの世界挑戦(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-02-04
 
オーストラリアとは予選リーグでも当たったが、あの時は向こうは負けたい事情があった。それで日本が4点差で勝ったのだが、今回は銅メダルが懸かった戦いである。向こうはマジ100%で来るだろう。しかも1度対戦してこちらの手の内もかなり把握している。
 
実際スターターはこのようであった。
 
8.スミス/7.ハモンド/6.ブラウン/5.サンディー/4.マーティン
 
向こうのベストメンバーであろう。
 
ハモンドはU19の時に大会ベスト5のシューターに選ばれている。千里の方が遙かに多くのスリーを放り込んでいたのにハモンドがベスト5に選ばれたのはオーストラリアは3位で日本は7位だったからであろう。さすがに7位のチームからベスト5を選ぶことはあり得ない。
 
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日本はこういうメンツで始める。
 
11.早苗/7.千里/6.玲央美/12.江美子/10.サクラ
 

前回日本がけっこうやることを認識したろうから、今日の試合は最初から猛攻を掛けてくるだろうと踏み、冷静さを失いにくいメンバーを入れた。
 
案の定向こうは無茶苦茶気合いが入っていたが、日本は無理せずマイペースで攻撃チャンスには慎重にせめて、千里・玲央美が遠距離から得点する方式で行く。
 
すると向こうが2点ずつ取るのにこちらは平均2.5点くらいずつ取るので、勢いとしてはオーストラリアがまさっているのに、点数としては均衡して進む。結局第1ピリオドは18-19と、日本が1点リードする形で終わった。
 
千里はこの試合ではひたすらハモンドとマッチアップした。予選リーグの時はハモンドはオーストラリアの戦力調整作戦もあって、あまり長時間プレイしなかったので、あの試合ではハモンドのスリーは5本に留まっている。だが、今回は向こうもたくさんスリーを入れてやるぞ、という雰囲気で出てきていた。
 
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しかし千里は彼女に全くスリーを撃たせなかった。そもそもボールを持ちにくいようにパス筋を塞ぐ。ボールを持っていても近接ガードして撃ちにくくする。ハモンドは身長が173cm, 千里が168cmで5cmの差であるが、千里の跳躍力が大きいので、彼女の精度の高い低い弾道のシュートは全てブロックしてしまった。
 
このあたり、実は前回は、千里も予選リーグだしと思って少し手を抜いていた所もある。それでハモンドは自分がそんなに封じられるとは思っていなかったので半ば戸惑っていた。
 
ジャンプシュートや高い軌道のシュートなら千里のブロックをかいくぐれるのだが、どうしても精度が落ちる。実際ハモンドは千里とマッチアップしている間、どうしてもスリーを入れることができなかった。オーストラリアチームとしても、ハモンドが千里に封じられているので、彼女を使わずに他の選手で点を取りに来る。
 
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それで結局ハモンドは第1ピリオドは半分まで行った所で下げられてしまった。この試合でハモンドは1本だけスリーを入れたが、千里がベンチに下がっている間であった。
 

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千里がハモンドを抑えている間に、玲央美は向こうのスモールフォワード・ブラウンを抑えていた。実は予選リーグでのオーストラリアを観察していてブラウンが様々な攻撃の起点になっていることに玲央美は気付いていたのである。
 
前回対戦した時、ブラウンもハモンド同様そう長い時間プレイした訳ではなかったものの、玲央美はしっかり彼女の動きを見ていた。
 
そしてこの試合ではその動きを読んで抑えに掛かったのである。
 
ブラウンも進攻しようとすると前に玲央美がいるし、パスしようとするとそのパス筋を塞がれるので、最初戸惑うというより驚いていたようである。それでもレベルの高い彼女なので、何とか玲央美を抜いたり、離れたりしようとする。しかしバックステップやサイドステップが巧い玲央美を抜くのは至難の技である。しかも抜いたはずが、また前に回り込まれているという、玲央美の“分身の術”に「What!?」とか「Kidding!」とか、ついには「Ninja!?」とか叫んでいて、玲央美が忍術でも使っているように見えたようである。
 
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ブラウンはハーフタイムにビデオを再生してもらって玲央美の“分身の術”のタネが分かったようだが、それでも短時間にこの“術”を破るのは難しい。実際、破る方法が分からなかったであろう。
 
そういう訳でブラウンが封じられたことで、オーストラリアの得点力は大幅にダウンしてしまったのである。
 

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第2ピリオド、向こうは積極的にコンビネーションプレイを仕掛けてきた。第1ピリオドが個人技の勝負で来て必ずしも得点に結びつかなかったので、戦術を変えてきたのである。
 
ところがそういう戦い方はむしろ日本が得意とする所である。
 
スクリーンに対しては、基本的に「スイッチしない」方式で対処するが、千里と江美子、玲央美とサクラのように、スイッチしても“ミスマッチ”が発生しない組合せでは一時的にスイッチして、相手にフリーな時間を作らせないようにする場合もある。これは相手に「どちらもあるぞ」と認識させて相手を牽制する効果が大きい。
 
また相手がこちらをトラップに掛けようと仕掛けて来た場合、それを逆用して相手をこちらのトラップに誘い込んでしまう。この手の駆け引きは日本国内の試合ではよくあるのだが、個人技中心の欧米の選手は必ずしも慣れていない部分も多く、オーストラリアはきれいにやられてしまった。
 
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それで第2ピリオドは17-21と日本が4点もリードする展開となった。
 
前半合計で35-40と5点差である。
 

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ハーフタイムの間には地元の女子高生たちのチアリーディングが披露されていた。かなりアクロバティックなものもあり、満員に近いStaples Center Arenaの客席から大きな歓声があがっていた。
 
パフォーマンスが終わり、控室に戻っていた両チームの選手がフロアに戻る。
 
千里はその時、アリーナ席の日本人応援団が陣取っている席の所に、少し青い顔をした女子高生っぽい子とそのお母さんのような感じの人がいるのに気付いた。よく見ると近くに折り畳みの車椅子が置かれている。病気か怪我してるのかな?と思い、千里が彼女に握手しようと手を出すと、驚いたようにして手を握って、笑顔になった。その握力が弱いので、ああやはり病気か何かかなと思った。
 
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第3ピリオド、オーストラリアはゲームを丁寧に進める戦術で来た。
 
できるだけ近くまで寄って、確実性の高いシュートを撃つ。このピリオドではハモンドもブラウンも下げられていた。出しても千里や玲央美に封じられるとみられたようである。それでこのピリオドではGFのトロが攻撃の起点を務めていた。
 
しかしそういう丁寧な攻めというのは、元々日本が最初からやっていたものである。またトロの攻撃の組み立て方はブラウンに比べて凡庸で、すぐ見抜くことができた。オーストラリアはなかなかリードを奪えない。
 
結局このピリオドは19-19の同点で終わる。ここまで54-59と5点差のままである。
 

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最後のインターバル、日本では篠原監督が選手全員に目を瞑らせ、穏やかな声で語った。
 
「君たちは強い。君たちは勝てる。自分たちの力を信じて、結果は考えずに持てる力を全部出し切りなさい」
 
一方、オーストラリアでは監督と選手たちが激論していたようで、大きな声が響いてきていた。
 
フロアに出てきた時、オーストラリア側の選手たちが怒りにも似た表情であったのが、日本側はみな穏やかな表情であった。
 
ハモンドも出てきて千里とマッチアップする。しかし彼女はどうしても千里に勝てない。どんなに複雑なフェイントを入れても千里は引っかからない。一瞬反対側に動いても、すぐに反射神経でカバーしてしまう。ボールをスティールされたり、あるいは弾かれたりしてターンオーバーになってしまう。
 
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ブラウンも出てきているが、どうしても玲央美に勝てない。彼女もたくさんスティールされてしまう。
 
オーストラリアは激しい攻撃を仕掛けてくるのだが、日本側の落ち着いた対応にやられて、得点に結びつかない。むしろオーストラリア側のファウルが取られる。途中でチーズマンや副主将のサンディーまで5ファウルで退場になってしまう。チームファウルがかさむので、日本はこのピリオドの後半、向こうのディフェンス・ファウルの度にフリースローを得て、それでまた得点を重ねていく。王子はどうしても狙われるのだが、このピリオドで王子は4回もフリースローを得て、8本のシュートの内5本も成功させて喜んでいた。
 
試合終了。
 
最後にボールを持っていたブラウンがかなりの距離からゴールに向けてボールを投げ、これが偶然にも入ってしまって、大観衆のどよめきが起きたが、それでもオーストラリアのこのピリオドの得点は20点。一方日本は22点をもぎとっていた。
 
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「83 to 74, Japan won」
と主審が告げた。
 
AUS 18 17 19 20 | 74
JPN 19 21 19 22 | 81
 
点数の経過を見ると、どのピリオドも僅差であり、オーストラリアは負けた気がせず、どうにもフラストレーションの残る試合だったかも知れない。
 
それでも両軍の選手が握手したりハグしたりする。千里はハモンドと握手したが、彼女は言った。
 
「I lost today. But next time, I will win」
 
オーストラリア英語はアメリカ英語で"ei"と発音する所を多く"ai"と発音するので、彼女の最初のことばは千里には一瞬"I lost to die"と聞こえ、敗戦のショックで自殺するつもりか!?と驚いたが、オーストラリア英語であることにすぐ気付いた。
 
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「Let's play at London」
と千里は彼女に言った。それで再度握手した。
 
こうして日本は今回で最後となるU21世界選手権で、銅メダルを獲得するという大健闘をしたのである。日本女子が世界大会でメダルを獲得したのは1995年のユニバーシアードでの銅メダル以来16年ぶりである。
 

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試合が終わった後、ロビーで応援団やサポートチームの人たちと交歓する。千里や玲央美はサインを求められて何枚も書いた。王子もサインを求められ慌てていた。結局普通に《たかはし・きみこ》とひらがなで書いていた。漢字で書くよりは、少しはまともな字かもと彼女は言っていた。
 
千里はふと、ハーフタイムから戻る時に握手した少女が車椅子に乗って、こちらをじっと見ているのに気付く。サポートチームの人に
 
「色紙1枚もらえませんか?それとシャーピー貸してください」
と言って受け取ると、彼女にサインを書いて渡した。彼女は驚いた表情であったが、すぐに笑顔になった。
 
「早く元気になってくださいね」
とこちらも笑顔で言う。
 
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「はい!ありがとうございます」
と彼女も笑顔で答えた。
 
その時、千里は彼女が“男性の波動”を持っていることに気付いた。
 
男の娘だったのか!
 
しかし声は普通に女の子の声である。きっと小学5〜6年生頃から女性ホルモンを飲んで声変わりを防止していたのだろう。
 
でも性転換手術でもした直後だったりしてね、などと思ったが正解だった!
 

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19時から行われた決勝戦は88-64でアメリカが勝った。
 
これでアメリカはU21世界大会を3連覇(完全制覇)である。
 
フィオリーナはこの試合でスリーを10本も入れた。8日間の大会の中でこの日だけフィオリーナのスリーの数が千里を上回った(今日の千里の3Pは8本)。それでも総計では千里に及ばない。
 
3ポイント最終成績。
日本・村山 68本
アメリカ・フィオリーナ 61本
スペイン・フェルナンデス 30本
オーストラリア・ハモンド 29本
 
最終戦でハモンドは千里に完全に抑えられてしまったので、フェルナンデスに抜かれてしまう結果となった(今大会では日本とスペインの試合は無かった)。
 

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