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■娘たちの世界挑戦(8)

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夕食後、アメリカチームのフィオリーナから千里の携帯に電話があった。
 
「千里、ガスレスタの魔法を破ったんだね?」
「それあまり他人には言わないで。バスケットはあくまで人間と人間の戦いだからさ。超自然的な力は排除するだけ」
 
「あの時の会話から、千里は魔法を打ち破る力があるんじゃないかと思ってた」
 
「基本的に私は試合中はその手の能力を全て閉じている。でも相手がそういう力を使ってきた場合だけは例外。相手のそういう操作をやめさせるために必要なことだけはするよ」
 
「なるほど〜。ホワイト・ウィッカだね」
「まあ私はウィッカじゃなくて、シャーマンだけどね」
「千里、仏教の祈祷師(witch doctress of Buddhism)か何か?」
「私は神道の霊媒(psychic of Shinto)なんだよ」
「そっちか!」
 
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「でも明日は直接対決だね」
「うん。楽しみ〜」
「試合の勝敗とは関係無く、私たちの勝敗はスリーの成功数でということで」
「OKOK」
 

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準々決勝(Quater Final)の結果。
 
FRA80×−○87JPN ESP72×−○76AUS CAN68×−○80RUS USA90○−×64BRA
 
この結果勝った日本・オーストラリア・ロシア・アメリカが準決勝に進出し、負けたフランス・スペイン・カナダ・ブラジルは5-8位決定戦に回ることになった。
 
3ポイント成績。
日本・村山 48本
アメリカ・フィオリーナ 40本
オーストラリア・ハモンド 22本
スペイン・フェルナンデス 19本
 

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7月11日(月)。
 
この日は9時からまず11-12位決定戦のエジプト対ウクライナ、11時から9-10位決定戦の中国対ラトビアが行われた。
 
EGY58×−○74UKR CHN75×−○85LVA
 
この結果、9-12位の順位が確定した。
 
9.ラトビア、10.中国、11.ウクライナ、12.エジプト
 
更に13時と15時からは5-8位決定戦が行われた。
 
FRA81○−×73BRA ESP84○−×70CAN
 
勝ったフランスとスペインが5-6位決定戦へ、負けたブラジルとカナダが7-8位決定戦に回ることになる。
 
そして17時と19時から、準決勝(Semi Final)の2試合が行われた。
 
RUS-AUS USA-JPN
 

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先に行われたロシア対オーストラリアの試合は83-69の大差でロシアが勝った。そして19時からアメリカ対日本の試合が行われる。
 
アメリカとの対戦はなかなか機会が無いのだが、2年前にU19世界選手権では109-68、昨年のU17世界選手権でも133-71で大敗している。
 
今の時点で日本にとってアメリカは雲の上のチームである。
 
それで篠原監督は選手たちに、
「今日はもう勝敗は考えないこと。自分たちのプレイをしなさい」
と言った。
 
それで各々が思いっきり開き直り、笑顔でプレイした。アメリカが何点取ろうと全然気にしない。こちらは各自の実力を思いっきり出していくだけである。
 
すると第1ピリオドは30-14という完璧なダブルスコアになった。しかし日本選手たちはみんな笑顔であった。
 
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この試合で千里はフィオリーナのスリーを敢えて停めなかった。停めた所で試合に勝てるとは思えないので、むしろお互いにフリーに撃って競争したいと考えたのである。
 
それでこの試合では千里もフィオリーナもたくさんスリーを撃った。
 

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アメリカチームが、日本のこれまでの試合を見て、絶対にあなどれないと思い全力で叩きに来ているのに、日本側の選手たちが明るいのでアメリカ側にかえって焦りが出てくる。
 
それで第2ピリオドはアメリカ選手たちにミスが目立ち、ミスがあればすかさず日本はそこを攻めるので、このピリオドは22-24と日本が2点リードする展開となった。前半合計は52-38で14点差である。
 
ハーフタイムが終わって出てきたアメリカ選手の表情が厳しい。アメリカは日本に対して複雑なコンビネーションプレイを仕掛けて来た。このような戦い方をするのは、この試合は勝てたとしても、ラフなプレイで決勝戦に響くとまずいという考えからであろうと、玲央美や彰恵は考えた。
 
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しかし日本はスクリーンに対しては、スイッチせずにしっかり元のマーク相手を追いかける方法で対処するし、千里や玲央美がどんどんスリーを放り込む。また相手が仕掛けたトラップには、彰恵や玲央美が注意して、なかなか引っかからない。
 
それでこのピリオドをまさかの18-22と日本の4点リードで終えた。ここまでの合計は70-60で、10点差に迫る。
 
アメリカはお尻に火が付いてしまった。
 
それで第4ピリオド、アメリカは総攻撃態勢で日本を叩きに来た。アメリカの物凄い猛攻で、一時は16-4という凄いスコアになるが、ここから日本は千里や玲央美、彰恵・江美子といった冷静さを失わないメンバーを投入して、24-18まで盛り返してしまう。
 
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アメリカはますます必死になる。しかしその必死さが災いして、副キャプテンのカーターが5ファウルで退場になってしまう。
 
終わってみれば28-22と6点差しか付いていなかった。総得点では98-82で、アメリカの圧勝ではあるものの、点差は16点。本来ならもっと点差があって良いはずの所を、これだけしか点差を付けられなかったことで、アメリカはあらためて日本の成長の度合いを感じることとなった。
 

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試合終了後、負けた日本選手たちが笑顔だったのに対して、勝ったアメリカ選手たちは一様に厳しい表情だった。
 
試合後の握手もキャプテンの朋美とサミット、そしてフィオリーナと千里が握手しただけであった。
 
フィオリーナが千里と握手した時
「私たち叱られる〜(They will scold us)」
と小声でもらしていたので
「あんたたちも大変ね〜(I'm sorry to hear that)」
と言っておいた。
 
きっと今夜は遅くまで厳しい練習が行われるのだろう。
 
なお「スリーポイント競争」はこの日千里は14本撃って12本決め、フィオリーナは16本撃って11本決めたので、千里の勝ちであった。
 
準決勝の結果。
 
RUS83○−×69AUS USA98○−×82JPN
 
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勝ったロシアとアメリカで明日の決勝戦は戦われる。負けたオーストラリアと日本は3位決定戦に回る。
 
3ポイント成績。
日本・村山 60本
アメリカ・フィオリーナ 51本
オーストラリア・ハモンド 28本
スペイン・フェルナンデス 24本
 

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7月11日、平良真紗は午前中に医師の診察を受け、この日退院して良いという診断をもらった。それで母が帰りの航空券を手配したが、明日12日の成田行き(LAX->NRT)が取れなかった。それで病院と相談した結果、今日まで病院に泊まり、明日12日朝に退院して日中の便でロサンゼルスに向かって、一泊し、13日のお昼の便で帰国することにした。
 
7/12 SFO 13:20 (SQ1337) 14:40 LAX 7/13 LAX 15:45 (SQ11 11h30m) 7/14 19:15 NRT
 
真紗は自分のiPhoneを病室のベッドで見ていて、その12日にはロサンゼルスでU21女子バスケットの世界選手権が行われ、日本が決勝戦(19:00)か3位決定戦(17:00)に出場することを知った。
 
「お母ちゃん、これ見られないかな?」
「明日でしょ?チケットあるかしら?」
 
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それで母が旅行代理店に問合せてみた所、
 
「日本からわざわざ来られた方で、入院もしていたのでしたら何とかしますよ」
と言ってくれた。1時間ほど後に確保できましたよという連絡があり、実際に病院まで航空券と一緒に持って来てくれた。見るとアリーナ席なのでびっくりする。
 
「チケットは売り切れていたんですけどね。日本人や日系人の応援団とかサポートチームが結成されていて、そこに照会したら2枚譲ってもらえたんですよ」
 
「わぁ!それは申し訳無い」
「サポートチームの人が、できるだけ一般の人に見てもらいたいからと言ってました」
「ありがとうございますと言っていたとお伝え下さい」
 

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翌日朝、真紗は再度医師に診察してもらい、順調に回復していることを確認してもらった。
 
「2〜3ヶ月は痛くてたまらないだろうけど、無理せずに静養してね」
と医師は言った。
 
「はい。日本は今から8月末まで夏休みなので、その間ずっと自宅で寝ています」
 
「だけど、今この部屋にいる人、全員性別を変えているんですね」
と真紗はふと言った。
 
「ああ、確かに」
「そうだね。あんたも男の子に生まれて女の子になったし、私も男から女になったし」
と母。
 
「私も性別変更しているし、この病院の看護婦は全員性転換者ですからね」
と医師も笑って言う。
 
「ええ。でも皆さん経験者だから、色々細かい所が分かって親切にサポートしてもらえました」
と真紗は笑顔で言った。
 
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この病院では、性別変更した人がやはり職を得にくいのをサポートする目的もあり、性転換している看護婦を積極的に採用しているのである。
 

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7月12日(火)。U21世界選手権最終日。
 
この日は13時から7-8位決定戦が行われ、15時から5-6位決定戦が行われた。
 
BRA66×-83○CAN ESP77×−○78FRA
 
これで5-8位の順位が確定した。
 
5.フランス 6.スペイン 7.カナダ 8.ブラジル
 
スペインとフランスは接戦になったが、最後の決勝点を入れたのはガスレスタである。スリーではなく2ポイントのミドルシュートであったが、ガスレスタは自分が決勝点を入れて、みんなから抱きつかれたり肩や背中を叩かれたりしているのに、自身は物凄く厳しい表情をしていた。千里は玲央美と後でビデオでその試合を見たが、彼女が邪法を使わず自力でシュートを決めたのを確認して、玲央美と握手した。いつか・・・“自分の力”でまた這い上がってくるよね?
 
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一方この試合でスペインのシューター、マリア・クララ・フェルナンデスは6本もスリーを放り込んで、スリーポイント競争の暫定3位に浮上した。
 
(スペインにはマリア・サラ・フェルナンデスという名前の似た選手も居る)
 
そして17時から3位決定戦の日本対オーストラリア、19時から決勝戦のロシア対アメリカが行われる。
 
 
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娘たちの世界挑戦(8)

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