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■娘たちの開店準備(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-03-31
 
2010年4月、中学に進学した川上青葉は私服で入学式に出て行ったので先生から咎められるも「親から制服を買ってもらえなかったので」と言い、同級生たちも「この子、制服どころか御飯ももらってないんですよ」と青葉の家庭状況を説明した。それで先生が卒業生数人に連絡した結果、制服を譲ってもいいという女子が居たのでそれをもらって着て青葉は「女子中学生」として通学し始めた。
 
ところが青葉の性別は4月の連休前に、担任の先生が小学校の時の担任に連絡を取ったことからバレてしまった。
 
それで青葉は「男子なら男子制服を」と言われて、やはり先生が卒業生に連絡して譲ってもらった学生服を渡されてそれで通学し、トイレや更衣室も男子トイレや男子更衣室をと言われてしまう。
 
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これに青葉の同級生の女子たちが抗議し「川上さんはほとんど女子生徒です」と主張。あらためて小学校の時の扱われ方などについて小学校の時の先生と話したり、青葉の姉の未雨を学校に呼んで事情を聞いたりした結果、このような妥協的な扱いが決まった。
 
・授業中は「男子生徒」である以上「男子制服」を着ること。
・登下校や部活中は「制服」であればよい。
・トイレは男子制服の時は男子トイレで、女子制服の時は共用の多目的トイレで。
・体育の着替えは専用の更衣室を用意する。
 
それで青葉は女子制服で登校してきて、授業中だけ男子制服を着ていて、昼休みや放課後は女子制服を着て、女子制服で下校していくという、ややこしい生活を送るようになった。体育の着替えは専用更衣室でと言われていたものの、実際には女子の友人たちが「拉致して」女子更衣室に連れて行って着換えさせていた。
 
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実際問題として青葉の下着姿は女の子の下着姿にしか見えなかった。パンティにも変な盛り上がりは無かったし、胸も微かに膨らんでいた。
 
「その青葉の下着姿見ていたら、青葉を裸にしてみたくなった」
 
などと、当初は“男の子”の青葉が女子更衣室を使うことに抵抗感を持っていたものの次第に青葉自身への興味を深めて行きつつあった椿妃が言う。
 
「別に裸になってもいいけど」
と青葉はいつもの能面のような表情で言う。
 
「だったら、みんなで裸にならない?」
と小学校の時の同級生で、かなり青葉の実態を把握している元香が言った。
 
「みんなで!?今裸になるの?」
「裸になるのはお風呂だよ。みんなで温泉に行かない?うちの親戚がやっている温泉、ゴールデンウィークが終わった後なら、安く入れるよ」
 
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「はぁ!?」
「それ、私たちが男湯に入るの?それとも青葉を女湯に入れるの?」
「男湯に入ってみたい気もするが騒ぎになるだろうから、青葉を女湯に連れ込むんだな」
「それも騒ぎになると思うが」
 
「いや、多分何の騒ぎにもならない」
と元香は言った。
 

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2010年春、千里は4月1日から11日までA代表の合宿に参加した後、12日の午前中に健康診断を受け、12日午後から大学の講義に出席した。今期は代表活動と重なった日程の講義は全て出席したことにしてもらえることになっているので、11日までの講義は全て出席扱いである。
 
ところで千里たちの大学では2年生まで体育の授業がある。1年生の前期ではソフトボール、後期ではサッカーを選択したのだが、2年生の前期では希望としてはエアロビクスで出していた。しかし、12日の午後に大学に出て行ったら、学生課の人から呼び出され「今期、エアロビクスの希望者が少なかったので、エアロビクスは行われないことになりました。バスケットに入ってもらえませんか?」と言われた。
 
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「私、バスケットは日本代表候補にも入っていて、自分の専門なので、できたら授業では避けたいのですが」
と言ったのだが、
「ぜひその代表技を披露してください」
などと言われた。
 
それで仕方ないので、14日(水)に、千里は愛用のバッシュを持って大学に出て行った。バスケットの授業の参加者は40人ほどであったが、その中にC大のバスケ部に入っている人が男子で4人、女子で3人居た。
 
その中で女子で千里と同じ2年生の今畑さんという人が授業の冒頭、
 
「日本代表の村山さんの技を見せてもらえませんか?」
と言い出した。
 
先生も「ああ、それもいいかもね」と言ったので、結局千里を入れると女子が4人になって男子バスケ部部員と同じ人数になるから、各々に少し人数を足して試合をやってみようということになった。
 
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「ちなみに村山さんは女子ですよね?」
とわざわざ友紀が訊いた。
 
「え?女子でしょ?」
と先生。
 
「山崎、何言ってんの?村山が女子に見えなかったら目がおかしい」
と紙屋君が言った。
 

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中学や高校のバスケ部に入っていた人が男子で3人、女子でも2人居たので、自ら志願した元バレー部の友紀も入れて、男子7人 vs 女子7人(千里を含む)で10分ハーフ20分の試合をしてみようということになる。他の人は見学である。
 
女子用の6号ボールを使うことにする。ティップオフは男子は2年生の186cmという立川君、女子は172cmのやはり2年生・室田さんが出て行った。立川君が勝って男子が攻めて来る。ボールを持った横峰君は敢えて千里の前に攻め込んできた。
 
千里は割とリラックスした雰囲気で対峙したのだが、横峰君は「うっ」と小さな声を挙げた。後で彼は「どちらから行っても停められる気がした」と言った。
 
ドリブルしながら3秒近く迷うような顔をしてから、思い切って千里の左側に攻めてきた。
 
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一瞬で千里がボールを奪い、今畑さんにパスする。今畑さんがドリブルで攻めていく。男子の八坂君が回り込んで停める。そして今畑さんからボールを奪ったのだが、ドリブルを始めようとした瞬間、千里が彼からボールを奪う。
 
そして次の瞬間シュートする。
 
入って2点。0-2.
 

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こんな感じで試合をしたものの、5分経った所で、点数は4-24である。女子の24点の内、16点が千里の得点で千里はこの間にスリーも2本放り込んでいる。
 
先生が長い笛を吹いた。
 
「この試合はこれで打ち切り」
と宣言する。
 
「コールドゲームだな」
などと先生は言っている。
 
「やり方を変えよう。バスケ部の男子4人・女子3人で1チーム。対するは村山と他の5人」
 
「あ、私たちも村山さんと対戦したいと思い始めてました」
と今畑さんが言った。
 

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それで長身でジャンプ力もある友紀と、女子バスケ部の室田さんとでティップオフした。
 
これに友紀が勝ったものの、友紀のタップしたボールをキャッチしてドリブルで攻めあがった東石さんが、バスケ部の今畑さんにボールを奪われる。
 
それでターンオーバーとなって、今畑さんが攻めあがって来る。例によってわざわざ千里の所に来るが、千里は一瞬にしてボールを奪って、前方に居てこちらを見ていた小松君にボールを送る。小松君が速いドリブルで攻め込んで行く。バスケ部の男子ポイントガード西林君が追いついたが、小松君は西林君を巧みなフットワークで抜くと華麗なランニングシュートを決めた。
 
その後、向こうから攻めて来るバスケ部員たちはやはり千里との対決を望み、千里の前に攻め込んでくるのだが、誰も千里を抜くことができない。逆に千里が攻めて行った場合は誰も停めることができない。
 
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更に千里はこの試合でも前半で3本、後半で4本のスリーを放り込んだ。むろん1本も外さない。
 
それで20分の試合で22-68というトリプル・スコアで千里たちのチームが勝った。バスケ部ではなくても、小松君と東石さんの2人がかなり上手かったので、千里を含めてこの3人が核になって、他の子もうまく活用してバスケ部チームを圧倒した。小松君も16点、東石さんも12点取っている。ちなみに友紀も6点取った。
 
「いや、村山さんがうちのバスケ部に入らなかった訳が充分分かった。私は天体望遠鏡ででも村山さんのしっぽが見えない」
などと今畑さんは厳しい顔で言っていた。
 
「まあ、俺らでは全く練習相手にもならないだろうな」
と千里とたくさん対峙して1度も勝てなかった横峰君も激しく息をしながら言っていた。
 
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「まあ、それが日本代表でしょ」
と先生は言っていた。
 

「では残りの時間は2つのコートで10人対10人の試合をしますが、村山君、Bコートの審判やってくれない?」
と先生が言う。
 
「いいですよー」
 
ということで結局、今期のバスケットの授業では、千里は次回以降もずっと審判を務め、プレイヤーとしてはコートインしなかった。千里が代表活動で休んだ日は横峰君が審判を務めたようである。
 

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「ところで、東石さん、結構うまいよね。うちのチームに入らない?」
などと千里は勧誘している。
 
「日本代表のいるようなチームに入れないですよぉ」
と彼女は言うが
 
「うちはバスケのルールもまだ分かってないような子もいるから」
「ほんとに?」
 
「初心者から元プロまで揃っていて、好きな時に好きな時間だけ練習すればいいというのが、うちのチームなんだよ。毎日10時間練習したい人はする、月に1度1時間汗を流したいなら、それでもいい。プロチームじゃないからお給料とかは出ないけど、スポンサーがいるからユニフォームは無償支給。スポーツ保険とかバスケ協会の登録費用もチーム持ち。遠征の交通費宿泊費も全部出る。会費は月1000円だけど、実質月に1度程度の食事会の費用」
 
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「それもちょっと面白いかも」
と彼女は少し興味を持ったようである。
 
「なんかその条件なら、私もそちらに行きたいくらいだ」
などと今畑さんが言っている。
「その代わり大学生チームじゃないから、インカレとかには出られないけどね」
と千里は言っておく。
 
「東石さん、下の名前は何だったっけ?」
「聡美です」
「じゃ、聡美ちゃん、今度1度練習見に来ない?」
「見にいくだけ行ってみようかなあ」
 
と言って、結局彼女はローキューツに参加することになる。彼女はその後4年に進級する時に退団したものの、後に40 minutesに参加し、40 miunutesのマネージャー的な存在になっていくことになる。
 
「でも東石さんだけ勧誘するのね。小松君は勧誘しないんだ?」
と友紀が言ったが
 
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「うちは女子チームだから」
と千里は言う。
 
「なるほどー。千里は女子チームに入っている訳か」
「私が男子チームに入る訳無い」
「そうだろうなあ」
 
などと言いながら、友紀は千里もけっこう開き直っているなと思う。
 
「小松君も性転換してくれるなら、参加して欲しいけど」
「いや、遠慮しておく」
 
などと言っていたら、横峰君が
 
「小松君、むしろうちのバスケ部に入らない?」
と勧誘していた。
 
「そうだなあ。性転換しなくてもいいのなら、そちらは考えてみようかな」
と小松君は答えていた。
 

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