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2010年6月9日(水)。
日本バスケット協会からU17女子日本代表、U18女子日本代表の最終メンバー12名が発表された。絵津子も紫もこの最終メンバーに残っていた。
同じ6月9日、日本バスケット協会は、国際競技規則2010を来年4月1日から施行すると発表した。主な改訂内容は下記である。
・制限エリアの形が従来の台形から、NBAと同様の長方形になる。
・スリーポイントラインが6.25mから6.75mに変更。近年スリーポイントの入る確率が高すぎるので、それを下げるために距離を50cm長くすることになった。
・スローインサイドラインの新設
・ノーチャージセミサークルが設定され、ゴール真下のこのエリアでは攻撃側の選手が常識的なプレイの範囲で守備側の選手に接触してもチャージングは取らない。これは守備側の選手がファウルをもらおうとしてゴール下で待ち伏せする行為を排除するものである。
・24秒ルールの変更。攻撃側がフロントコートでスローインする場合、残り時間が14秒未満であったらクロックは14秒に戻される。これは守備側が無駄なファウルで攻撃側の時計を消費させることを防止するためのものである。
今回はとにかくコートの形が変わるルール変更が多く、日本中の体育館を悩ませることになる。
この中でノーチャージ・セミサークルやスローインサイドラインは線を書き足せばいいのだが、制限エリアの形が変わるのと、スリーポイントラインの変更は今までの線を消して新たな線を書かなければならない。
なお、このコートの形の変更に関しては、日本国内では2013年5月31日まで移行猶予期間が設けられることになった。またミニバスでは当面制限エリアは台形のままということになった。
6月11-12日(金土)、インターハイ岡山県予選の1〜2回戦、準々決勝が行われた。E女子校はシードで2回戦からであったが、2008年12月のウィンターカップ以来、1年半ぶりに国内の大会に参加した王子のプレイが炸裂し、クワドルプル・スコアで2回戦を突破する。そして準々決勝もダブルスコアで勝ち上がって、翌週の準決勝に駒を進めた。
6月13日(日)。
旭川市内の中華料理店を10時から12時まで借り切って、千里の個人会社フェニックス・トラインの決算に伴う株主総会を開いた。ここにこの会社の株を買った友人たちが多数集まり、賑やかな総会になる。
「そういう訳で今回は3月23日に設立して3月31日決算なので、事業年度が9日間しかありませんが、設立の1ヶ月程度前からの売上は会社の売上として計上してよいということになっているので2月末と3月末に入金された印税・著作権使用料を計上しました。それで今期の売上は6236万2568円で・・・」
と千里は今期の決算の概要について、予め書いて税理士さんに見てもらった文章を読み上げた。
「まあそういう訳で今期は期間が短かったこともあり、1株あたり80円の配当にさせて頂きたいと思います」
と千里が言うと
「私は40株だから3200円か」
などと言っている人もいるが
「私は1株だから80円だな」
と暢子などは言っている。
取り敢えず拍手をもって決算の承認をしてもらった後は、懇親会となる。
「これ食べ放題?」
「食べ放題・飲み放題ですよ〜」
「よし食おう!」
といって、色々注文している子がいる。
「配当より、こちらの方がありがたい気がする」
「まあ、そういう会社も多いです」
懇親会が終わった後、千里は懇親会にも出ていた暢子・睦子と共に旭川N高校に行った。日曜日ではあるが、道大会が近いので、多くの部員が出てきている。
「わ、暢子先輩も居る」
などと絵津子が言ったので
「おまえ、私が来たら都合悪いのか?」
と言われてヘッドロックを掛けられている。
ちょうど志緒とリリカも来ていたので、
「OG対現役戦をしよう」
という話になった。
OG PG.志緒 SG.千里 SF.睦子 PF.暢子 C.リリカ
現 PG.紫 SG.ソフィア SF.絵津子 PF.不二子 C.紅鹿
というスターターで10分間の練習試合をした。
結果は16-24でOGの勝ちである。
「U17とU18の日本代表が入っててもフル代表1人には勝てなかった」
などという声もある。
「これならインターハイにはOGを出そうか」
などと南野コーチが言っている。
「え〜!?」
「まあ、そういう事態になりたくなければ、あと一週間必死で練習するということで」
と宇田先生は笑って言っていた。
今日は暢子が絵津子・不二子や紫を見てくれるので、千里はソフィアやシューター陣を見てあげた。睦子がリリカと一緒にセンターやフォワード陣を見てあげている。
練習している時に、不二子が体育館に貼っているビニールテープのラインに引っかかって転ぶ。
「大丈夫?」
「平気です。平気です。私は丈夫なのが取り柄だし」
確かに元々不二子はよく転んだり、物にぶつかったりしがちである。
「そこ貼り直した方がいいかも」
「ああ。端が結構めくれてるね」
「よし。ちょっとこのあたり貼り直すから、近寄らないで」
と言って、白石コーチがビニールテープを持って来て、いったんその付近を剥がし、白石・南野コーチと千里・志緒・睦子の5人で貼り直した。
「これずっとビニールテープなんですか?」
と志緒が訊く。
「制限エリアの形が変わりそうだというので、ペイントせずにビニールテープ貼っていたんだよね」
と千里が言う。
「そうなのよ。でもルール改訂が発表されたから、来年の3月にテープ全部剥がして、ペイントすることにした」
と南野コーチ。
「でもまた10年後くらいにルール改訂されたら、表面を削って描き直しですかね?」
と睦子が訊く。
「まあその時は仕方ないね」
その時、志緒が言った。
「ウィンターカップやった時にですね。東京体育館は2コート取る時はちゃんと2コートのライン、センターコートでやる時はちゃんと真ん中に1コート取るラインになってましたでしょ? あれどうなってるんですかね? あそこバレーとかで使う時は、バレーのラインになってたし」
「あ、私もそれ不思議に思ってた」
と千里が言った。
これについては白石コーチが知っていた。
「あれはタラフレックスといって、その度に床の板を敷き直すんだよ」
「へー!」
「ひとつひとつの床板は1.5m x 20m くらいのユニットなんだよ。その上にラインが引かれていて、それを敷き直すことで、様々なコートの形に対応できるんだよね。それにその床は木の床より柔らかいから、怪我とかも防止できる」
と白石コーチは説明する。
「ああ。木の床だと、バレーで回転レシーブとかした時に、床のささくれに当たって大怪我することとか、ありますよね」
「そうそう。それって、バレーでは結構問題になってる。毎年どこかでその手の事故が起きてるんだよ。あれは滑り込む感じになるから、小さなささくれがめくれて大きな破片になっちゃうんだよね」
と白石コーチ。
「そのえっと、タレハラックス?」
「タラフレックス(Taraflex)。実は結構昔からあるし便利なんだけど、やはり高いからなかなか普及しないね。東京体育館なんかは予算があるから用意しているけど」
「高いってどのくらいするんですか?」
と睦子。
「1平米あたりで1万5千円か2万円くらいだった気がする」
と白石コーチ。
「この朱雀って何平米だっけ?」
と睦子。
「34m x 60m だからえっと・・・2000平米くらいかな?」
「じゃ2万円として4000万円くらいか」
と睦子。
「いや、この朱雀は緑のテープは2コート・レイアウトだけど、練習用の黄色いテープは3コートレイアウトで、白いテープはセンターコート仕様で3種類必要なのでは?」
と志緒。
「だったら1億2000万円?」
「それコートの形の部分だけ線が引かれていればいいんだから、けっこうユニットを兼用できると思う」
と南野コーチ。
「あっそうか。無地のものがたくさんあれば並べ直しで行けるんだ」
と睦子。
「とすると、もしかしたら6000万円くらいで済むかも」
と白石コーチも言う。
「ちょっと寄付を募って、そのくらい集められませんかね。東京体育館と同じ仕様の床と言ったら、けっこう新入生にもアピールしますよ」
と志緒。
「それはアピールするかも知れないけど、6000万円も寄付を集めるのは大変だよ」
と白石コーチが言う。
すると睦子が言った。
「ここで千里がその6000万円をポンと寄付してくれたら、千里も女になれるな」
千里は苦笑する。
「女になれるって、まるで性転換するみたい」
「ああ。性転換でもいいと思うけど」
と睦子。
「じゃ今の私の性別は?」
「きっと6000万円寄付したら、赤ちゃん産めるようになる」
「ほんとに〜?」
と千里は笑いながら言ったが、続けて言った。
「いいよ。6000万円寄付しても。私赤ちゃん産みたいし」
「え〜〜!?」
「千里ちゃん大丈夫?12月にも1000万円寄付してくれたのに」
と南野コーチが心配する。
「年間の売上が昨年実績で4億円あったので」
「ひぇー!?」
「まあ2億円は税金で取られましたけど」
「なんか単位が凄い」
「それどっちみち、導入するのは来年の3月ですよね?」
「うん。そうなる」
「だったら、3月と4月で3000万円ずつ分割できませんか? それなら2つの事業年度に分割できるんで、こちらも処理がしやすいです」
「そのくらいの交渉は充分できると思うよ。そもそも3月に施工したら支払いは4月になると思うしね」
「その場合逆に前払いしても3月中に半額払えると、助かるんですよ」
「なるほどー!」
思いがけない話に宇田先生も寄ってきて千里たちと話し合った。
「確かにタラフレックスを使えば、怪我防止効果が大きいと思うよ」
と宇田先生も言う。
「先生、その見積もりを取ってもらえませんか? 施工費用も含めて私が寄付しますから」
と千里は言った。
「分かった。とにかく見積もり取ってみるけど、村山君、無理はしないでよ」
と宇田先生。
「ええ。無理はしませんけどね」
「よし。それではこの体育館に千里の名前を刻んであげよう」
と睦子は言っている。
「うん。そのくらいしてもいい」
と白石コーチ。
「そんなの恥ずかしいからやめて〜」
と千里は言った。
「ところで私、ほんとに赤ちゃん産めるようになる?」
と千里が訊くと
「どうしてもダメな時は私が代わりに産んであげるよ」
と睦子は答える。
「それ人工授精なんですか?」
と志緒。
「千里の結婚相手がイケメンだったら一晩一緒に寝ても良い」
と睦子は言った。