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■女子高校生・冬の宴(12)

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2007年3月、P神社の元常連巫女の乃愛が、札幌の大学を卒業した。乃愛には彼氏もいるが、現時点ではまだ結婚の予定などは決まってない。
 

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花絵が来年度一年間、京都國學院の神職研修所に通うことにし、入学手続きをした。1年間で権正階の取得を目指す。また通学のため、京都市内にアパートを借りることにした。来年度1年間はリモート夫婦になるが、そもそも夫は仕事が忙しすぎて全く帰宅していないので、姫路にいても京都にいても変わらない、と花絵は言っていた。
 
花絵が神職の資格を取れば和弥とまゆりが結婚して姫路に住んだ場合、留萌側でのお祭りの時などに、夫婦揃って留萌に移動して、花絵が姫路の神社の留守を預かることが可能になる。
 
宮司のまゆりが姫路に残り、和弥だけが留萌に行く場合も夫婦揃って留萌に行く場合も、姫路側に“男神主”が居ない状態は変わりないから、それなら夫婦揃って行動できた方がいいだろうという親切心なのである。越智さんが神職の資格を取ってくれるといちばん助かるのだが、越智さんの奧さんがそういう展開を嫌がっている。実際、越智さんが神職になれば和弥とまゆりは留萌にずっと住むようになり、姫路では越智さんがひとりでこの神社を任されることになるだろう。
 
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3月26日(月)、H大姫路の剣道部一行は朝から新幹線で名古屋に移動した。春日井市で行われる全国高等学校剣道選抜大会に出場するためである。会場となる春日井市総合体育館までは名古屋駅から電車とバスで30-40分でアクセスできる。
 
この日は大会初日だが、試合は行われない。実は剣道の大会で初日には試合の無い大会はとても多い。この大会も初日は、道具検査・代表者会議・そして開会式だけが行われた。名古屋に戻って夕食にきしめんと味噌カツを食べ、ホテルで一泊する。
 
大会2日目。この日は男女の1−3回戦が行われた。H大姫路女子は1回戦では最初の3人が勝って勝ち上がった。千里と清香の出番は無かった。2回戦では西山は負けたが、その後の3人で勝ち上がった。3回戦も同じパターンだった。結局この日は清香の対戦が無かったので、清香のご機嫌がよくない。
 
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なおこの日の夕食は土手鍋を食べた。
「こういうお肉がたくさん食べられる物は大歓迎」
と清香が言っていた。賛同する意見が多かった。
 

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28日、男女3人ずつの控え部員が引率の徳永先生と一緒に名古屋駅から新幹線に乗り、“次の目的地”に向かった。実は日程がタイトなので、大会に出るメンバーの予備の道具を持ち、先行して会場に行き、道具の検査を受けるためである。雑用に近い仕事だが、担当したのは(卒業式も終わっている)3年生の部員である。大会出場機会の無かった彼らに最後に大会の雰囲気だけでも味わってもらおうという親心なのである。
 
春日井市の選抜大会のほうだが、準々決勝は先鋒・次鋒と負けたが、その後、双葉・千里・清香で勝って勝ち上がる。しかし準決勝の山形県A高校との試合では中堅の双葉も負けてH大姫路はベスト4で終わった。
 
「ごめーん」
「向こうの人無茶苦茶強かったもん。仕方無いよ」
「あの人は千里や私が相手でも勝負が分からなかったと思う」
「東北にも強い高校あるんだね」
 
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このA高校が結局優勝した。決勝戦の後行われた表彰式で主将の清香は3位の賞状を受け取った。
 
(「あんたが大将なんだから主将しなさい」と言われて清香が主将を務めた)
 
大会後メンバーはすぐに名古屋駅に戻り東京行き新幹線に飛び乗る。増田コーチが買っておいてくれたお弁当を車内で食べて夕食とした。それと別に千里はアイリスにパンをたくさんに“ひつまぶし”を買わせておいたので、他の選手ともシェアして食べた。ひつまぶしはとても好評だった。
「ひつまぶしとか豪華だ」
「コンビニのだから1200円だよ」
「千円超えたら豪華だよ」
 
ひつまぶしの代金は先生も少し寄付してくれた。
 
東京駅に着くとすぐに秋田新幹線に乗り継ぐ。東京駅ではシレーヌにハンバーガーと、ミスドを買っておいてもらったので秋田行きの新幹線内でみんなで食べた。秋田駅には夜遅く到着し、駅の近くのホテルに泊まった。
 
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清香が「腹減った」と言うので今度はアイリスにコンビニでお弁当とカップ麺を買ってきてもらい、双葉・千里・清香の3人で食べた。これは公世の部屋にも差し入れてあげた(公世はシングルである。彼は男子と同室にはできない。一方千里たちはツインの部屋にエクストラベッドを入れて双葉・千里・清香の3人が泊まっている)
 

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そういうわけで、3月29-31日は秋田県立武道館で魁星旗(かいせいき)争奪全国高校剣道大会が行われる。これは夏の玉竜旗同様オープン大会である。予選は無く、全国どこの高校でも1校1チーム申し込むだけで参加できる。
 
(但し諸事情で秋田県内の高校のみ、あるいは東北北海道の高校のみで開催された年もある。また同じ高校から複数チームの参加を認めた年もある)
 

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魁星旗では、H大姫路ではこういうオーダーで出た。
 
先鋒・島根双葉(1年・三段)
次鋒・村山千里(1年・三段)
中堅・木里清香(1年・三段)
副将・西山明理(2年・三段)
大将・武原玲花(2年・三段)
 
清香の出場機会を増やしてあげるためである。
 
「今回は私の出番は無いな」
と武原さんは言っていた。
 
男子のほうも、1年生トリオを先鋒・次鋒・中堅に並べた。女子はまだ双葉がいるからマシだが、男子は公世を大将にすると大将戦まで行く前に敗退決定という事態になると悔しい。実際選抜では女子の準決勝がそうなった。
 
初日3月29日、この日は女子の1回戦と男子の1〜2回戦が行われた。H大姫路はこの日は男女とも最初の3人だけで勝ち上がり、明日に駒を進めた。西山さんと武原さんは試合では出番が無かった。武原さんは主将の務めだけ果たした。
 
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この日のお昼は会場で配られたお弁当を食べた後、清香が「足りない」と言うので外でラーメンを食べてきた。夕食は、しょっつる鍋だった。
 

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2日目3月30日、女子は2〜4回戦、男子は3〜5回戦が行われた。この日も男女とも最初の3人だけで勝ち上がり、明日に駒を進めた。
 
今日もお昼は会場でお弁当が配られたが千里はみんなに
「玉子焼きは食べないほうがいいよ」
と言った。
「何か変?」
「いや何となく」
「千里ちゃんが何か感じたのなら、みんなやめた方が良い。この大会では以前お弁当で集団食中毒が起きたこともあるし」
と先生も言ったので、みんな玉子焼きはやめておいた。
 
「私はどっちみちいつも幕の内の玉子焼きは食べない」
「私はそもそも玉子焼きが嫌い」
などと言っている子もいた。
 
この日もお弁当の後、ラーメンを食べに行った。
 

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この日の夕食はきりたんぽ鍋を食べた。
 
「きりたんぽって竹輪麩に似てるね」
「ごめん。その竹輪麩を知らない」
 
関西では竹輪麩の分かる人は少ないと思う。
 

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31日最終日は男女の準々決勝以上が行われる。
 
女子の準々決勝は最初の3人で勝って勝ち上がる。準決勝では先鋒の双葉が1−1で引き分けになってしまった。
「ごめん」
「いや、今の人かなり強かった」
「向こうも強い人を先に並べてるな」
 
その後、千里と清香は勝ったが、次は副将戦である。
「嘘。私対戦するの?」
などと西山さんが焦っている。
「頑張って」
「ごめん。私負ける」
などと言って、西山さんは出て行ったが、西山さんは接戦だったものの、1−0で勝つことができた。
 
「嘘みたい」
と本人が言っていたが、これで決勝進出である。
 
「私まで回らなくて良かった」
と武原さん
「多分向こうは強い順に並べてた」
と先生。
 
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決勝は宮崎の高校とである。
 
いきなり先鋒の双葉が2-1で負けてしまう。
「ごめーん」
「いや相手は凄い強かった」
 
その後、千里は勝ったが清香は引き分けに持ち込まれてしまった。
「ごめん」
「向こうは最初から引き分け狙いだった気がする」
「でも逃げ方の上手い人だった」
 
この後、西山と武原が負けて、H大姫路は決勝戦で敗退。準優勝に終わった。
 
なお男子は準々決勝で敗れてベスト8だった。
 

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千里Rは試合が終わったところで、ジェーンと交替し、留萌に行った。一応前もって頼んでいたのだが、ジェーンは着替えておくのをきれいに忘れていて
「ごめん。着替えるまで待って」
と言って慌てて着替えていた。急ぐなら服の下の中身だけ入れ換える手もあるが、交替した側(この場合R)は裸で放り出されるので、あまりやりたくない。
 
留萌では実はこの日の夕方から、桜鱒プロジェクトの納会が行われた。
 
会場はP神社の会議室(多忙時には第2待合室として使用される)である。
 

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「わずか20匹ではあったけど、水揚げまで到達できたのは1年目にしては上出来だと思う」
「来年はもっと多く水揚げできるように頑張ろう」
 
それで神居酒造の清酒“ルルモッペ”の一斗樽で鏡割りをして前祝いをした。
 
千里は未成年なのでむろんサイダーである。でも水流君などはまだ17歳なのにお酒を飲んでた。なお、お料理は民宿“北の宿”(蓮菜の親戚がやっている民宿)三泊支店の製作である。この支店は、11月に建てた“三泊会館”の調理場が拠点になっている。お弁当の宅配で結構稼いでいる。糖尿や高血圧の人向けの食事お弁当も作っているので、老人宅などでも利用が多い。また距離的に近いことから、漁協や新鮮産業などからの昼食や夜食のオーダーも多い。
 
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神居酒造は玖美子の祖母が杜氏をしている酒屋さんである。留萌では第2勢力だが、玖美子が長くこの神社に関わっていた関係で、この神社ではここのお酒が使われることが多い。現在、玖美子の妹の由梨子が6年生でこの神社によく顔を出している。
 
 
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