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7月23日(日).
千里たちH大姫路の剣道部女子は新幹線で博多に移動した。玉竜旗剣道大会に出場するためである。H大姫路は8月のインターハイ(京都)にも出るが、その前にこの玉竜旗がある。高校剣道の四大大会のひとつで、ある意味最も盛り上がる大会でもある。この大会には都道府県予選が無く、参加したい学校は申し込むだけで参加できる。元々は九州の高校の大会だったが、現在は全国から参加可能である。日程は7/24-29 で、前半の3日間に女子の試合、後半3日間に男子の試合がある。今年の女子の参加校は342校で会場は福岡市のマリンメッセである。とても広いアリーナであり、各種イベントやコンサートなどのほか、臨時プールを設置して世界水泳が行われたこともある。今回はここに試合場が16個取られていた。
概略スケジュール
7/24 9:00-11:00 1回戦86試合 172->86 (342->256)
7/24 12:00-14:40 2回戦128試合 256->128
7/25 9:00-10:20 3回戦64試合 128->64
7/25 11:00-11:40 4回戦32試合 64->32
7/25 12:30-12:50 5回戦16試合 32->16
7/25 13:30-13:50 6回戦8試合 16->8
7/26 9:00-9:20 準々決勝4試合 8->4
7/26 10:00-10:20 準決勝2試合 4->2
7/26 11:00-11:20 決勝
今回のメンバーはこのようにした。
先鋒・木里清香(1年・三段)
次鋒・島根双葉(1年・二段)
中堅・武原玲花(2年・三段)
副将・島根芽依(3年・三段)
大将・村山千里(1年・三段)
横山部長はこれを“時短チーム”と呼んだ。千里や双葉は
「先頭に清香が居たら後の4人は誰を入れてもどういう順番でも意味無い」
と言った。
玉竜旗は勝ち抜き戦なので、清香が相手の全員を倒すと2人目以降は全く試合をしないことになる。だから総試合時間が短くなり“時短”になるのである。また清香が負けるような相手に他の誰かが勝てる確率はとても低いので「後の4人は誰が入っても順番も無意味」
という双葉の言葉になる。
博多に到着した日は博多駅近くの“ふきや”というお好み焼き屋さんに行った。ここのお好み焼きはボリュームが凄くて普通の女性だと2人掛かりでも残してしまうほど量があるのだが(残した分を持ち帰るためのフードパックまでくれる)、さすが剣道女子は
全員完食してお店の人が驚いていた。
「あんたたちプロレスか何かの団体?」
「剣道でーす。玉竜旗で来ました」
「凄いね。あんたたちきっと優勝するよ」
「頑張ります」
この日は駅近くのビジネスホテルで泊まった。
島根姉妹は「博多名物の明太子を食べるぞ」と言って、駅の売店で“ふくやの辛子明太子”(*2)を買ってきて、御飯はルームサービスで頼んで、それに載せて食べていた。千里と清香も相伴に預かった。なおホテルの部屋は島根姉妹でひとつ、千里と清香でひとつで隣の部屋である。
(*2) 辛子明太子は元々戦時中朝鮮半島にいた“ふくや”の創業者・川原俊夫が現地の郷土料理を戦後日本に帰国してから再現したものである。彼はレシピを公開したので、博多に辛子明太子を作る店が多数できて、今日の明太子文化が生まれた。明太子の好みについて博多の人の間では長らく“ふくや”派と“やまや”派に分かれていたが、近年では“かねふく”の評価もあがってきている。その他に料亭の稚加榮の明太子も昔から評価が高い。筆者は“ふくや”派。“ふくや”は品質保証の問題から直販しかしない(その代わりたくさん直営店を作っているし通販もしている)。ふくや以外の土産物店などで売られているふくやの明太子は、ふくやの店頭で買って来た物を勝手に再販しているものなので値段も高いし、傷んでいる可能性もある。
大会初日。
予想通り、1回戦も2回戦も清香だけで相手5人を倒して勝ち上がる。後の4人は座ったままである。清香は春の大会では全く試合ができず、インターハイ予選でも団体戦は準々決勝からしか出番が無かったが今回はたくさん対戦できた。もっとも下位の試合は相手もあまり強くないので楽しさは微妙だったようである。相手は「下位でこんな強い所と当たるなんて」という表情であった。
この日はお昼は水炊き、夕食にはもつ鍋を食べた。
大会2日目。
3〜6回戦が行われたが、今日も4試合とも清香1人で全員倒して勝ち上がる。清香も今日は昨日よりやり甲斐のある相手で少しは楽しかったようである。
この日はお昼は博多ラーメンを食べ、夜はちゃんこを食べた。ちやんこ屋の仲居さんは
「女性には無理だと思いますが」
と言ったが完食したので驚いていた。
大会3日目。
準々決勝。相手は長崎県のK女学院である。清香は相手の副将まで倒したが大将に2-1で負けてしまった。
「清香ちゃんより強い人が居るなんて」
「そりゃ居るさ」
「そんな人に私が勝てるわけない」
「とにかく対戦してきなよ」
相手大将はそのあと、こちらの島根姉妹・武原を倒したが千里は彼女に勝つ。それでH大姫路は準決勝に進出できた。
準決勝。相手は福岡のN学園である。こことの試合でも清香は相手の副将まで倒したが大将に敗れた。そして相手大将がこちらの残り4人を倒した。千里も彼女に完敗だった。物凄く強い人だった。それでH大姫路は今大会ではBEST4 で終わったのである。優勝はそのH大姫路を破ったN学園である。でも千里たちは三位の賞状を持ち帰ることになった。表彰式では島根姉が賞状を受け取った(横山部長は来ていない)。
女子チームの一行は表彰式の後、天神の裏通りにある長崎ちゃんぽんの美味しい店に連れて行ってもらい、それを食べてから新幹線で姫路に戻った。
お店の中をゴキブリが走り回っていたが「汚い店が美味いんだよ」などと島根姉は言っていた。
同じ日に男子チームが新幹線で博多入りをした。男子チームはBEST8だった。準々決勝で熊本のB高校に敗れた。そのB高校が優勝であった。つまり男女とも優勝校に敗れたことになる。
神戸のE高校で川添はこの大会でも“川添慎”として男子のチームに参加した。そしてBest16であった。彼は大会では男子チームに参加したが、福岡に来る時は女子チームと一緒に来て女子たちの練習相手を務め、会場にも女性の!コーチとして同伴した(服装は白いブラウスとグレーのスカート)。女子と一緒に移動するならと言われ移動中は女子制服を着た。席はクラスメイトでもある湯中みどりと並んだ。
「さくらちゃん、9月からはもう完全に女子制服登校にしなよ」
「1週目だけは女子制服着る。でもその後は男子制服に戻す」
「だって女子制服で何も問題起きてないし」
むしろ男子制服を着ている時に不都合が発生している気もした。
なおE高校の場合は新幹線では無く、伊丹から福岡空港に飛行機で飛んできた(実は大阪や神戸からは飛行機の方が新幹線より安い)。ホテルは前半は女子顧問の宮古先生と同じ部屋に泊まった(後半はシングル)。
「さくらちゃん、やっぱり女の子の身体になってたのね。女子に参加すれば良かったのに」
と先生から言われる。
「私が参加すれば、代わりにかすみちゃんかつばさちゃんが弾き出されてました」
「かすみちゃん大活躍だったね」
「今日は彼女だけで勝ち上がりましたからね。それに私が出た場合、私はこないだまで男だったから私の参加資格が審議されると女子選手としての参加資格が無いということになり、チームの成績も取り消される危険があります。うちの女子チームは私が出なくても充分強いから、そんなことになったらみんなに悪いですもん」
「確かに審議されたら微妙かもね。そこまで考えたのなら仕方ないね。でもさくらちゃん、いつか女子選手として国体とかにでも出られたらいいね」
「私はずっと男子の方に出たいです。だって強い人とやりたいから」
「なるほどー。その気持ち分かる」
と先生はさくらの考えを理解してくれた。
「H大姫路の工藤さんが男子に参加するのもきっと同じ理由ですよ」
「ああ、そうかもね」
ただ宮古先生は北島先生に連絡して、さくらを他の男子とは同室にしないよう言ってくれた。さくらも男子と同じ部屋には泊まりたくないと思った。またインターハイ本戦には北島先生ではなく宮古先生が引率者として同行してくれることになった。
バンダイキャンディーと万代飴の味の差問題について、交野と片倉が最初に疑ったのは製造工程の問題である。それで試しに万代飴の材料をバンダイキャンディーの工場のラインに投入して機械を動かしてみたら、ほぼ万代飴と同じ味の物が出来た(“バンダイキャンディー・プレミアム”と命名して景品に使用した)。それで、味の差は製造工程では無く原料の問題と推測された。
交野はそれでバンダイキャンディーに使用した中国産蜂蜜の品質に問題があるのではと考えた。実際万代飴に使用している近隣の菅原養蜂園の蜂蜜と食べ比べるとかなり味が違う気がした。
「やっぱり中国産はだめかなあ」
と交野は言ったのだが、片倉は別の事を考えた。その問題の蜂蜜もそう悪くない気がしたのである。中国産の“蜂蜜”には砂糖や水飴を混ぜたような粗悪品もよくあるが、この蜂蜜は混ぜ物の無い純粋蜂蜜だと思った。桜最中に使っている森田養蜂園というところの蜂蜜と食べ比べてみても、そんなに差を感じなかったのである。
「ひょっとしたら花の違いかも」
バンダイキャンディーに使用した中国産蜂蜜も桜最中に使用している森田養蜂園の蜂蜜も養蜂にレンゲの花を使用していた。これに対して万代飴の材料に使用している菅原養蜂園は電話して確認してみると、キンカンの花を使用しているということだった。
「キンカンとレンゲの差かも」
「あり得るね」(←すっかり仲良くなった交野と片倉)
片倉は菅原養蜂園の蜂蜜を使用した桜最中の試作品を作ってみたら、これも物凄く美味しかった。それでやはり、レンゲ蜂蜜とキンカン蜂蜜でかなり差が出ることを認識する。
片倉は蜂蜜問題から幾つかのことを考えた。
(1) 菅原養蜂園のキンカンを挿し木で傘下の養蜂園(森田養蜂園・松田養蜂園・杉田養蜂園)に移植増殖してキンカン蜂蜜の生産量を増やす。
杉田養蜂園には最初挿し木ではなく、種から育てたキンカンを導入したが、菅原養蜂園系統のに味が及ばなかったので結局、挿し木に入れ換えた。
(2) キンカン蜂蜜を使用した桜最中の特級品を作る。彼はこれに“姫最中”と命名した。
・普通の桜最中は五角形だが、こちらは八角形にした。
・最中の皮の材料に富山県産コシヒカリの米粉を使用した。(普通のは兵庫県産ヒノヒカリの米粉)
・黒あんはこれまで北海道産の1級小豆を使っていたが、兵庫県(篠山)産の丹波大納言を使う。
・白あんはこれまで北海道産の白インゲン(手亡:てぼう)を使っていたが岡山産の白小豆を使う。
(千里はこの動きと並行して九重達を動かし、篠山で丹波大納言・丹波黒豆の耕作をもう辞めようとしていたお年寄りから畑を買い取り、狐たちに耕作をさせた。また岡山でも同様に白小豆の畑を多数継承した:男の子たちに耕作させ、女の子たちに売ってくれたお年寄りの面倒を見させた。お年寄りたちの多くはこちらを狐と気付いたが感謝して油揚げをくれたのでありがたく頂いた。また岡山には峠の丼屋を幾つも出店した。猪カレーがよく売れた。牡蛎丼も売れた。牡蛎丼は北海道の店舗でも売ったら好評だった。青沼海産の岡山牡蛎を送った)
・桜最中は20個(黒白各10個)入り1000円だったが、姫最中は少し小ぶりにして12個(黒白各6個)入り1000円。
・姫最中の包装紙・手提げ袋の絵は姫路出身の漫画家・姫野さくらさんに描いてもらう。
・その絵のゆるキャラ的マスコット人形“姫っ子さくら”を作りそのストラップを姫最中の手提げ袋に添付する。ストラップは単品で桜製菓の店舗ほかキオスクなどでも買えるようにする。
倍の値段にしたら売れないと考えるのが普通の経営者だが、片倉も交野も「高いのが売れる」と考えた。その予想通り、姫最中は“特別なお土産”としてよく売れたのである。桜最中は姫路のお土産としては古くからあるので最近は陳腐化しつつあったが、姫最中は新製品として多く買ってもらえた。またストラップが地元の女子中高生に人気となった(川添さくらも友人からプレゼントされて愛用の可愛い桜色の携帯に付けておいた)
それで姫最中は桜製菓の営業成績を大きく伸ばすことになった。
(3) また2人はこれと別にコンビニ向け商品“小桜饅頭”も作った。これはコンビニおやつ用に一口サイズのお菓子にし、最中ではなく饅頭(円形)にしたものである。基本的な材料は通常の桜最中と同じだが、1個だけ姫最中の材料で作ったのを金色パッケージで混ぜた(1個だけ混ぜたのが宝探し感覚で人気となった)。ミニサイズ10個入りで300円である。これもサークルKの店頭に置いてもらい物凄く売れた。これも桜製菓の売上を大きく押し上げた。。