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慎は母に相談した。
母は大笑いしていた。
「許す。あんた女の子になる主術受けてもいいよ。手術代出してあげようか」
「断る」
「ちんちん切るのはハサミでちょきんと切るだけで一瞬で終わるし、割れ目ちゃん作るのは二重まぶたの整形と同じで皮膚を折りたたんで接着剤で留めるだけだから痛くもないらしいよ」
「ちんちんんってハサミで切るの?メスじゃないんだ?」
「剪刀(せんとう)とかメッツェンとかいう医療用のハサミらしい。ちんちんの根元に当ててチョキンと切り落とす」
と言って、母は指をチョキの形にして、彼のズボンの上からペニスの根元の所に当てて閉じるような動作をした。
「あんた小さい頃よくちんちん悪戯してて、そんなことしてたら切っちゃうよと言って断ちばさみをちんちんの根元に当ててたけど、ほんとに切っておけばよかったね。そしたら今頃は立派な娘になってた」
「今頃は立派な女子高生だね」
と姉も言う。
「きっと男の子からたくさんラブレター来てる」
やっぱり俺男と付き合うの〜?
「割れ目ちゃん作るのはメスやハサミも糸とかも使わないからほんとに簡単らしいよ。何ならちんちん付けたまま割れ目ちゃん作ることも可能らしい。あんたちんちん付けたまま割れ目ちゃん作ってもらって女の子になる?」
一瞬心が動いたが、いくら割れ目ちゃんがあってもちんちん付いてたら男では?という気もした。
「あ、そうだ。これ飲んで」
と言って母が錠剤を渡したので、彼は口の中に入れると水で流し込む。
「何の薬?」
飲む前に訊いたほうがいいと思うな。
「女性ホルモン。これ毎日飲んでたら半年くらいで、おっぱい大きくなるから」
「え〜?」
「おっぱい大きくなったら女湯に入れるよ」
いくらおっぱいが大きくても、ちんちん付いてたら女湯には入れない気がする。でもおっぱい大きかったら男湯にも入れない気がする。温泉に行った時、おっぱいもあってちんちんもある人はどうすればいいんだろう。彼は
真剣に悩んでみた。
「じゃこれ毎日飲んでね」
「え〜。おっぱいとか大きくなったら女みたいじゃん」
「おっぱい大きくして、ちんちん取ればもう完璧な女の子ね」
「取りたくない」
「まあおっぱいが大きくなってからゆっくりと考えるということで」
「ブラジャーはちゃんと着けようね」
「そんなもの着けてたら男子更衣室で恥ずかしい」
「女子更衣室を使うようになったんでしょ。問題無いじゃん」
「その内逮捕されるよ」
「おっぱいの大きな子が女子更衣室使ってて文句は言われない」
「チンコ付いてたら間違い無く逮捕」
「ちんちんはアンダーショーツで隠しておけばよい」
「いや、隠しててもちんこ付いてるのに女子更衣室に入るのは犯罪だと思う」
「じゃやはりちんちんは手術して取る方向で」
「いやだ」
「せっかく女の子になれる機会なのに」
「そもそも女になりたくない」
「なんで〜?男より女がいいのに」
「男がいいよー」
「まあ毎日女性ホルモン飲んで女らしくなつていけば女の良さも分かってくるよ」
彼は突然不安になった。
「この薬、おっぱい大きくする以外の効果は?」
「肌が女性的なきめ細かい肌に変化する」
「へー」
「ヒゲやスネ毛が生えなくなるからヒゲ剃りの必要が無くなる(*1)」
あ、ヒゲ剃りしなくていいのは楽だなと思った。
(*1) こういう効果が出る人が無いことはないが希であり、通常は
女性ホルモンにこのような効果は無い。
「体臭が甘い女の香りに変化する」
「へー」
女の子の香りっていいかも、などと少し考える。
「筋肉が減って脂肪が増え女らしい曲線的な体付きになる」
「筋肉減るのは困る」
「ペニスが勃起しなくなるから、女子更衣室とか女湯の中で突然立ってしまって騒ぎになるようなことが起きずに済む」
「待って。立たなくなるの?」
「ペニス自体も小さくなるから目立たなくなりアンダーショーツとか
使わなくても普通にショーツ穿いただけで隠せる」
「小さくなれば邪魔にもならないし、いいことずくめだね」
「ちんこ立たなくなるとか小さくなるとか、いやだー」
「だって女湯でちんちん立ったら顰蹙物だもん。そういう事故が起きなくなるのはいいこと。小さくなれば邪魔にもなりにくいし」
「顰蹙というより逮捕されると思うけど」
「だから逮捕されずに済んでいいじゃん」
「いやそもそも女湯に入るのが間違ってる」
それで彼は女性ホルモンを毎日飲むことは拒否したものの、母は翌日(木曜日)一緒に学校に来てくれて担任によくよく説明してくれた。担任も笑っていたが、女子のクラス委員と保険委員を呼び、彼が女の子になったというのは誤解であることを説明した。
「ああ。やはりね」
「川添さんが以前から女の子になりたがっていたような雰囲気も無かったから、やや疑問はあったんですけどね」
「でもちんちんは取ったんでしょ?」
「ごめん。取ってない。まだある」
「嘘?本当に無いように見えたのに」
「ごめんね。見ちゃったみんなの下着姿は全部忘れるから」
それで彼は教室でもみんなに謝罪して男子生徒に復帰した。
「本当に誤解を与えてごめんなさい。お詫びに一週間、女子制服で登校します」
それで彼は翌日(28.金曜日)と連休の間の平日、そして連休明けの一週間(8-12)、ほんとに女子制服で登校した。女子制服着るならと母から言われて女子用ショーツにブラジャー・キャミソールを着け、ブラウスも着た。足のむだ毛は姉がきれいに剃ってくれた。スネ毛の無い美しい足を見て彼は変な気分になりそうだった(結局足の毛を剃るのはその後も継続した)。学校の登下校は母に車で送迎してもらった。彼もさすがにこの格好でバスに乗る勇気は無かった(定期券の性別が男になっているので他人名義の定期券を使っていると疑われたと思う)。
でも彼がブラジャーを着けているので
「さくらちゃん、おっぱいあるように見える」
などとクラスメイト女子に言われた。またみんなから
「ほんとに女子制服似合ってるよ」
「このままずっと女子制服にしなよ」
と言われて結構悩んだ。頭には28日にはベレー帽をかぶっておいたのだが、姉にウイッグをプレゼントされ、以降はそれをつけておいた。彼はこの間は男子更衣室を使おうとしたのだが、女子制服を着て、女子下着まで着けてる子が男子更衣室に居ると
「うっかり押し倒してしまいそう」
と言われ、保健委員が先生たちと相談して保健室のカーテンの向こうで着替えることになった。
実を言うと押し倒し事故は発生した。柔道部の松下君に押しと倒されキスも奪われた。でも彼はすぐに理性を取り戻して
「ごめん」
と言ってすぐ離れたのでレイプ?は未遂に終わった。でも慎(さくら)はドキドキした。
なお、トイレはクラスの総意により当面女子トイレを継続使用してよい(使用してほしい)ということになった。つまり女子としてはどうせ個室だから実害が無い。男子としては1つしかない個室を塞がれたくないということだった。スカートでは小便器が使えないから必然的に個室を使うことになる。
剣道部では女子たちから
「え〜?男子に戻っちゃうの?さくらちゃんが女子に出てくれればインターハイ行けるかもと思ったのに」
と言われた。でも毎日女子たちとも手合わせするようになった。これで女子たちがみんな鍛えられた。この高校の剣道部は女子たちも、彼が本気を出さないと負けるような強い子ばかりである。
4月28日・金曜日の夕食時。
「女子制服登校・初日どうだった?」
「思ったより何とかなった感じ」
「じゃずっとこのまま女子制服で通う?」
「嫌だ。今回はみんなへのお詫びだから12日までは続けるけど、それで終わり」
「なんで?女子制服快適でしょ。これから夏になるとスカートは涼しくていいよ」
少し心が動くが
「いや、やめる」
と言う。
「それに女の格好してても声が男だから結構それで引かれるみたい」
「ああ。声の問題なら女の声で話せばいいんだよ」
と姉は言う。
「そんなの出ないよ」
「いや、出る。要領たけの問題」
と言って姉は女声の出し方を指導してくれた。
すると本当に女の子のような声が出るようになったのである。逆に男の声が出なくなった。
「男の声が出ないけど、どうしよう」
「12日までは出す必要無い。でもその内出るようになるよ」
「そうかも」
それで男声のことは彼も考えないようにした。しかしお陰で彼はその後は女子制服を着て、(ウィッグのお陰で)女子のような髪で、女の子の声で過ごすことになった。音楽の時間はソプラノに移動された。本人も女子制服で男声パートに並ぶのはやりにくかったので受け入れた。
「さくらちゃん、女の子の声になってる」
「きっと睾丸が無くなったせい」
と無責任な噂。
「ああ。カストラートと同じね」
彼はこの期間は剣道部でも最初から最後まで女子と一緒に練習した。女の声で「面」とか「小手」と言われるとやりにくいと男子たちに言われたし、女子たちは強い人との対戦を喜んだ。
「でも何かスピードが落ちた気がする」
と彼は自宅で言った。
「女性ホルモンの影響で筋肉が減ってるんだよ。また筋肉鍛えればいいよ」
「そうか。腕立て伏せとかスクワットとか頑張るか」
女性ホルモン結局飲んでるの?
「うん。頑張れ」
それで彼は姉と組んで腹筋とか柔軟体操とかもしたが
「以前より身体が柔らかくなってる」
と言われた。
「それはあるかもね」
しかし筋トレの効果で彼のスピードは5月下旬には戻ってきた。身体の柔軟性は柔らかくなったままだった。それで返し技がうまく決まるようになった。彼はこれまで、これが苦手だった。女性ホルモンの効果かな?と思った。
やはり女性ホルモン飲んでるんだ?
交野淳一は“喪中”の紙が張られた家に入ると「生前御主人に色々お世話になっていた者」と名乗り香典を渡して線香もあげさせてもらった。その上で奧さんに話があると言って切り出した。
「でも相続税払うのも大変ですよね」
「それ頭が痛いです」
「もしよかったらですね。御主人が持っておられた桜製菓の株式200株を1株10万円、総額2000万円くらいで売っていただけないでしょうか」