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やがて入学式に臨席するために母が来たが
「誰かと思った!」
と言われていた。
「千里はたいていあの長い髪で認識されていたから、髪を切ってしまうと本人と認識できないよね」
「ああ、顔認識のドアだときっと開かない」
現地で留実子と会った。
「サーヤが女子制服着てる」
「千里が髪を短くしてる」
(留実子は男名前が実弥(さねや)なので親しい友人からはサーヤと呼ばれる)
「門の所で何ふざけて女子制服着てる?と言われた」
「門の所で、君野球部か応援団に入るの?と言われた。それにしてもちゃんと女子制服着なさいと言われたし」
蓮菜や恵香からは
「丸刈りにしても女子にしか見えん」
と言われた。
教室に入って席に座ると前の席に座っていた女子が驚いたように振り返って言った。
「あなた何でそんな短い髪なの?」
彼女が前田鮎奈でその後、千里ととても仲良くなった。
結局千里はクラスのみんなにも担任にも“男の子になりたい女の子”と思われてしまった。千里が「私は男子ですー」と主張するが、担任がパソコンで学籍簿を確認すると「君は学籍簿上では女子になっているが」と言われる。
千里は「うっそー」と思ったが。同じクラスになった蓮菜は「当然だろうな」と思った。中学の書類は女子だったはずだから、高校でも当然女子生徒として登録されたはずである。
留実子が
「千里、学籍簿上、女だってよ。明日から女子制服を着て出て来なよ。この子ちゃんと女子の制服も持ってますから。この子、女の子になりたがってたんですけど、既に女の子なのではという疑いが濃厚です。ちんちんが無いことは女子のクラスメイトたちに確認されてますし」
などと言う。蓮菜が引き取って
「この子、ちんちんはもちろん無いし、おっぱいがあって生理もあるから間違い無く女です」
と言う。
「生理があるナら確実に女だ」
と多くの声。
そして
「本人も女がいいのなら、ちゃんと女子制服着なきゃ」
「うん。その方がいい」
とみんなから言われた。
千里が“男子制服を着てきたことについて”担任は千里と母を職員室に呼んで尋ねた。母はこの子は生まれた時は男の子だったが本人が女の子になりたいと望み、病院で治療してもらって女の子に変えてもらったと説明した、しかし元々が男だったから男子選手になる必要がありもそれなら男子生徒にならなければならないので男子制服を着て髪も短くしなければならないのではと考えたと説明した。しかし担任は、本人も女の子でありたいと願い、既に女性になる治療も終わっているのなら堂々と女子制服を着ればいいし、女子トイレ・女子更衣室の使用も認めると言った。
「ペニスはもう無いんだよね」
「ありません」
「だったらもう女子で問題無いよ」
その上で本人の気持ちがまだ混乱しているのであれば暫定的に男子制服の着用は認めると言って。千里が男子制服を着ることは認めてくれた。
“この”千里は休み時間にトイレに行く時、男子トイレに入ろうとしたが、
「お前何だよ」
「女は女子トイレに行け」
と言われて追い出されてしまう。
蓮菜が
「千里何やってんのよ。こっちおいで」
と言って女子トイレに連行した。
(留実子はノートラブルで男子トイレを使った)
)
それでしばらくの間、千里は丸刈りで男子制服着ているのに女子トイレを使うという状態になってしまった。また体育の時間の着替えでも、千里は女子更衣室に連行されて、そこで着替えた。
女子更衣室の中で短髪で男子制服を着ている千里については誰も注目しなかったが、留実子についてはザワッとする。蓮菜が
「この子、男に見えるけど女ですから」
と言って留実子に服を脱がせる。すると確かに女の形をしているので留実子は女子更衣室の使用をみんなに容認してもらった。
(留実子は学校では自粛してパディングをしてない。また女子用ショーツを穿いていた(千里が買ってあげた)。留実子によると『パンツに盛り上がりが無いとまるで去勢されたみたい』だそうだ)
(パディングとはパンツに入れる“詰め物”。FTMには“男らしい”トランクスを好む人が多いがパディングする場合、中身が落ちにくいし形が出やすいボクサーを使うことが多い。留実子も普段はそうしている。ショーツについては『女のパンツとか穿けるか。オカマじゃあるまいし』などと言っている。スカートも嫌だと言っていたが入学式だけは穿いた。翌日からは男子制服か、上を女子制服にしても下はズボンにした)
(留実子本人は「男子更衣室を使いたい」と言ったが、千里や鞠古君も含めた、中学時代の同級生で話しあい、やはり女子更衣室の方が問題は少ないということになった)
この日の体育の授業は男女別に行われたが、千里は当然女子のほうに連行され、そこで授業を受けた。千里の名前はちゃんと女子の方の名簿に入っていた。この日は性教育もあったが、これも千里は女子と一緒に受けた。性教育の後はそのまま身体測定があったが、千里はそのまま女子と一緒に身体測定を受けた。(留実子は男子と一緒に身体測定を受けたが胸が膨らんでいるので肝臓疾患を疑われる。田代君が「この子男に見えるけど女子です」と言って女子の身体測定のほうに転送された:転送はこの時だけで翌月からは普通に男子と一緒に測定された。留実子は胸の膨らみを男子に見られるのは平気。他の男子も気にしない。胸が大きくてもあいつは男と思っている。だってトイレでは小便器を使ってるし。また千里は女子と一緒である:千里Fにはむろんペニスなど無いしバストもある:千里Bは手術で男→女に変えられているので卵巣が無いがY1には卵巣があるので恐らくその影響でFにもバストが出現する。更にBは女性ホルモン剤を飲んでいた/お股の形状はBもYも女性型だからFも女性型になり、陰裂と膣が出現する。Bにペニスが無いからFにもペニスは無い(Yには本来小さなペニスがあつたが“面倒”だし本人も「要らなーい」と言っていたのでP大神により切除された。Yはペニスがあった時期も、おしっこは女子の位置から出ていた)。
旭川N高校時代の千里はFの状態の時とBの状態の時があったが、女子のバスケットの試合にはほぼ全てFが出ている(男子でもいいから出てと言われた試合を除く。そのほか多くの授業をY1が受けている)Bは内部的には男子なので、Bを女子の試合に出すのはアンフェアであるとGやRは考えた。練習には結構Bが出ている。千里の基本的な運営方針はGRV3人の話し合いで決められている。但し病院で性別検査を受けたのは全てB。FやYが受けたら“身代わり”を疑われるからである。それでも千里は骨格の状態(骨盤が完全に女子の形でしかも安産型)から、性成熟前に睾丸を除去したか元々睾丸が機能不全だったことが確実として女子選手として認定されている。(千里は小学4年生の時に睾丸を除去され(父に移植)、(母の)卵巣を移植されている。陰茎は小学1年生頃からほぼ常時取り外されていたので陰茎自慰も未経験。排尿も3歳頃からずっと女子型だった:千里は幼稚園でも小学校でも女子トイレしか使っていない。千里のお股の形状が女の子型なのは、多くの人により確認されていたので「あんた女の子じゃん。女の子トイレ使わなきゃ」と言われていた)
また音楽の時間にはソプラノに入れられ、ピアノ係の1人にも指名された。数人で回して担当することになる。
翌日には生徒手帳が配られたが、千里の生徒手帳の性別はちゃんと女になっていた。また写真は先日の説明会の時に撮影された写真なので、長い髪で女子制服を着て写っていた。
「うん。何も間違っていないね」
と蓮菜は言っていた。
自分が全てにわたって女子として扱われているので
「私、髪切らなくても良かったのでは」
と千里は大いに後悔した。
4月18日(火).
旭川。
敏美が先日切った千里(F)の髪をウィッグに加工して持って来てくれた。それを着けると、ロングヘアの千里が復活する。
「ああ、これが“正しい”千里の姿だ」
と美輪子は言っていた。
千里はこのあと、授業の時と部活の時以外はいつも“このウィッグを着けている”ようになる。更には7月にはショートボブのウィッグを鮎奈・蓮菜・杏子からプレゼントされ、授業中はそれを着けているようになった。
ちなみに千里は1年生の終わりの3月にウィッグは“伸びてくる”から時々毛先をカットしている、などと言っている。実際には伸びているのはBの髪である。丸刈りにしたのはW。(9年越しの伏線解決)。
2006年の春、(西の)千里は姫路の高校に進学したが、これを九重たち元々関西出身の龍たちが歓迎した。九重は言った。
「峠の丼屋を姫路にも作りましょう」
「留萌の田舎の丼の味が都会の姫路の人たちに受け入れられるとは思えん」
「時代はジブリですよ。きっと熊カレーは都会の人の興味も引きます」
きっとジビエのことね。
「熊肉はどうするつもり?」
「北海道から送ってもらいます」
「代わりにこちらからは北海道で捕れない猪を送ります」
「輸送手段は?」
千里は常識的な手段として冷蔵機能のある2t車を買ってフェリー(小樽−舞鶴)に乗せる方法を提案した。電気を切ってもある程度の時間は冷蔵を継続できる車もあるので、そういうのを使う。一応フェリーには冷凍車のための電源はあるが、それを使うには料金が高くなる。枠も少ない。
しかし九重たちはとんでもない案を出した。
「輸送船を買いましょう」
「はあ!?」
「魚を冷蔵できる船は多いから、そういう船を少し改造すれば、熊や猪を送れますよ」
「フェリーに比べて時間が掛かる気がする」
「多少時間が掛かっても問題ありません」
しかしそれで千里は小樽を本拠地とする太田海運という会社をまるごと買ったのである(茨城県の同名社とは無関係)買収後、北若運輸と改名した。
この俊千里は多数の会社を買収しているが、多分ここが最初である。そして元の経営陣に残ってもらうという手法もここが発端だった。
これで北海道で猟れたヒグマを毎月1頭姫路に送り、姫路からは養殖している猪を2頭(初期の頃はツキノワグマも)北海道に送るようになった。
スタッフは社長を含めて全員そのまま継続雇用したが、クルーたちは荷物がヒグマと知って仰天していた。でも熊カレーをあげたら「美味しい美味しい」と言って食べていた。ちなみに彼らによるとヒグマよりツキノワグマのほうが美味しく、猪がもっと美味しいらしい。(九重たちも同意見だった。ただそれでもヒグマのワイルドな味は忘れられないと九重たちは言っていた)
千里が九重たちに住まいとして提供した山に竹林があったので、九重たちは、そこで竹が好物の猪を飼い始めた。ここまでは千里も容認した。しかし彼らが猪の飼育エリアの内側に、コンクリートで仕切った飼育エリアを作り、そこでツキノワグマを飼いたいと言った時はさすがに反対した。
「危険すぎる。人が食われたらどうするの?」
「こんな山奥に入ってくる人間はいません」
「ツキノワグマはおとなしい動物です。人間を襲うことはめったにありません」
「でも万一遭遇したら」
「飼育エリアの出入口にしっかりした監視人を置けばいいんですよ」
「それを“私が”依頼できるような人いる?あんたたちではだめだよ。適当そうだもん」
それで九重たちが連れてきたのが“八龍”のひとりアクアリリー(青池)だったのである。彼女を初めて見た時、千里は“恐怖”の塊のように見えた。彼女はきーちゃんを見て言った。
「帰蝶ちゃんが従うような人になら私も従うよ」
「私と関係無く、ちゃんと千里に従うと誓いなさい」
「分かった。ちゃんと従う」
彼女が従うと誓うので千里は彼女を眷属にした。実際彼女はきーちゃんと同程度のすさまじい霊力を持っているようであった。従順度には多少?の疑問はあるが。信頼度は高いので、彼女に
・熊が飼育エリアから出ていかないように
・人間が猪エリアに入り込まないように
というのを監視してもらうことにした。
なお、熊の飼育エリアの外側に猪の飼育エリアがあるのは、緩衝領域にするためである。しかし2006年から現在に至るまで熊の脱出事故も人間の迷い込み事故も全く起きていないから、しっかり監視しているのだろう。(全てのゲートに監視カメラと赤外線センサーを付けて集中監視している(意外とハイテク)。ただし実際の監視作業は自分の眷属に下請けに出している模様:24時間誰かがモニター群を見ている)
なお猪ゲートの1km四方は鹿の放牧?エリアで実際には人間がここに迷い込んだ時点で青池(の眷属)はその人間を麓に転送している(裸に剥いて日本酒を頭から掛けておくと、だいたい警察が後は面倒を見てくれる:殆どが外国人のバックパッカー)。登山者などは入ってきたところから、エリアの反対側境界に飛ばす。
鹿狩りは年に数回していて八龍たちのレクリエーションになっている(関東組や北海道組も招待されることがある。槍だけで鹿を仕留める。飛び道具を使わないので誤射の危険が無い。見付けたらウサギ・アナグマ・タヌキ・イタチ(オスのみ)を狩っても良い。狐を狩るのは千里が禁止している。イタチのメス(オスよりずっと小さいので区別が付く)は一般に狩猟が禁止されている(イタチはネズミを食べてくれる益獣であるため)。
なお熊の餌のドングリを採るため、千里は広大な雑木林も買った。かなり安く買えて、お買い得だなと思った。ブナ・シイノキの類いは合板や製紙の原料にも活用した。シイノキは椎茸栽培にも使う。ミズナラはそのまま建材(壁板・床板・天井板)や家具材料としても利用できた。また木炭もだいぶ作らせた。これが“姫路木炭”としてホームセンターでかなり売れた。