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■女子高校生・春は桜(4)

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そこで山藤さんは白川漁業の社長と交渉し、同社が第三者割り当てで新株を発行しそれを岡山新鮮産業が買うことで資金力を増して設備投資資金の返済問題を解決するとともに、ここの鰤で照り焼きを作り、関西一円のスーパーにもちこんで販路開拓をしていった。この契約は白川漁業と各スーパーの直接取引とした。それにより各スーパーは消費者に“生産者直送”をアピールできたのである(新鮮産業はバックマージンをもらう)。
 
また新鮮産業はこの機会に養殖用のペレットを生産する会社“おさかなヘブン”という会社を買収したので養殖のコストが抑えられるようになり、白川漁業のハマチ価格も天然物並みに抑えることができるようになった。
 
(鰤は一般に養殖物が天然物より高価だし味の評価も良い)
 
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千里(西の千里:千里R)は白石たちが鰊の餌用に捕獲した小魚の中で余った分をこの会社に売るようにした。それでペレットの味?も改善されたし、千里の北海道事業の採算も改善された。(ただし白石たちはカズノコが食べたいから鰊を育てているだけで採算は考えていない:彼らは給料ももらっていない:ごはんは、ヒグマやイノシシなどをもらって満足している。養殖とか木の切り出しとかはレクリエーションに近い。ヒグマを倒すのはゲームである。「ライオンとか虎は居ないんですか?」などと言っている)
 
『ヤア虎といふ獣が日本に出たためしなし』
「何かのお芝居のセリフですか」
「傾城反魂香というお芝居だよ」
「あっしはあれが好きです」
と赤石が言う。
「赤城の山も今夜を限り、生れ故郷の大沼や、縄張りを捨て国を捨て、可愛い子分の手めえ達とも、別れ別れになる門出だ」
彼は赤城山の大沼の生まれである。
「そんなことを言って赤城山を出てきてはや1年近く。留萌の山も好きになりましたよ。何せここにはヒグマがいるから」
「そうかそうか」
「ヒグマは、倒せるギリギリのパワーで倒すのがいいです」
「ほほお」
「活きのいいのが美味いよな」
 
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でもギリギリで倒すのは怖いぞ。絶命してなかったら超危険。
 
「こないだは死んだと思って焚き火で焼いてたら飛び掛かってこられてびっくりした」
「きちんとトドメを刺すように。相手を苦しませたらダメだよ」
「勾陳さんにも叱られました。確実に殺せって」
 
全くだよ。ほんと危ない。
 

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なお千里は“鰊養殖”をやっているグループの中から、赤石を牡蛎の養殖に、青石をハマチの養殖に参加させて勉強させた。
 

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しかしともかく白川漁業がもち直したことで横山さんのお父さんも失業せずに済み、彼女はインターハイ予選に出られることとなった。インターハイ予選のオーダーはこのようになった。
 
先鋒・横山恵美(3年・三段)
次鋒・武原玲花(2年・三段)
中堅・島根双葉(1年・二段)
副将・村山千里(1年・三段)
大将・木里清香(1年・三段)
 
実力がほとんど変わらない千里と清香について、清香を大将にした理由をキャプテンの横山さんはこう言った。
「村山さんは何とかなりそうに見えて実はとんでもなく強い。木里さんは凄そうに見えて、ほんとうに強い」
 
それで“実力順ではないのでは”という批判回避のためにはこれがいいらしい。つまり見た目問題である。
 
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もっとも清香は
「千里が先にいると私まで順番が回ってこない」
と文句を言っていた。彼女は春の大会では一度も試合をしなかった。但しインターハイは勝ち抜き方式ではないので多分対戦は発生する。
 

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留萌。
 
その日、留萌漁協の三泊支部では、総会の後で若い漁業者たちが会合を開いていた。その中で出て来たのが
「これからは育てる漁業だ」
という意見である。
 
天然資源を獲るだけでは、いづれ尽きてしまう。だから。魚を育てて獲ることを考えるべきだという意見である。
 
彼らは漁協から近隣のP神社に移動して話し合いを続けていた。彼らは“峠の丼屋さん”の熊カレーとか海鮮天麩羅丼とかを食べていた。
「海鮮天麩羅丼美味い」
「鰊もスケソウダラもサーモンも美味い」
「また鰊がいっぱい穫れないかなぁ」
「夢だね」
「ヒグマ・カレーってけっこう美味いな」
「実はエゾシカ・カレーも美味い」
「へー。ヒグマの養殖する?」
「無理〜。人間が食われる」

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「で、何を育てる?」
「桜鱒とか商品価値高いと思う」
「マスなの?」
「桜鱒は鮭の仲間。チェリー・サーモン」
「そうだったのか」
「養殖の先例もあるしできる気がする」
「まずはその先例を研究してみない?」
「やる価値ありそうだね」
 
それで留萌三泊若者組の“サクラマス養殖プロジェクト”は動き出したのである。
 
千里は出席者に
「お疲れさまです」
と言って、お茶とお菓子を配っていた。
 

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「村山さんもこの話、ひとくち乗らない?」
「私は女だから船も出せないし、荷物とかも持てないからあまりお役に立てないと思いますけど、資金なら少し出しましょうか」
「助かる助かる。これ多分軌道に乗せるまでたくさん資金が必要」
「幾らくらい出してくれる?」
 
千里は、きーちゃんを見てから言った。
「じゃ100万くらい」
「凄く助かる」
 
千里が提供した資金で中核メンバーが、桜鱒の養殖をしているところ、挑戦中のところに視察に行き、かなり勉強になったようである。特に生け簀の作り方などは、この視察無しでは絶対作れなかったと彼らは言っていた。千里は結局この年だけでも2000万円ほど資金提供している。それで彼らから“網元”の称号を与えられた。千里の最終的な投資額は5000万円を超える。他にも宴会のお酒や料理を提供したり、経済的なゆとりのない人にバイト(留萌新鮮産業の菌床の監視とか神社の雑用とか)を斡旋したりして、本当に網元的立場を務めた。なお千里自身はあまり留萌に居ないので善美を連絡係とした。彼女は“網元代理”と呼ばれた。
 
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それで千里(西の千里)はこのサクラマス養殖に関わることになったのである。千里はニシンの養殖にも岡山で鰤の養殖にも関わっている青石をこのプロジェクトの作業チームにも加えさせた。(千葉から来た漁業に興味ある青年という設定。更に筋力が凄いのは元野球部ということにした。また鰤の養殖経験があるのは大いに期待された)
 
それで青石はこのプロジェクトで聞いた話を鰊(にしん)養殖にフィードバックし、一方、鰊養殖での経験も桜鱒のほうに伝えた。それでこの2つの養殖プロジェクトはお互いに影響しながら進行することとなる。シケの時など関東組総出でニシン・サクラマスを守っている。また彼は鰤の養殖での経験もたくさん語った。赤潮対策もブリでの経験が役に立った。同じ北海道の大樹町のサクラマス養殖が成功するまで数年かかったのに、こちらが2年目に出荷に成功したのは青石の働きによるところが大きい。むろん鰊が1回目のトライで成功したのもである。
 
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(サクラマス・ニシン・ブリは全部西の千里の管轄。ホタテの養殖だけが東の千里の所管)
 
またサクラマス・プロジェクトでは新鮮産業(おさかなヘブン)のペレットを使った。プロジェクトの中核メンバーの一人・柳里君が自分で数種類のペレットを食ってみて!「ここのが美味い」と言ったからである。魚の餌を人間が食ってみるというのは凄い根性だ。しかしおかげで餌代も割りと安くすんだのである。千里はペレットを“社内価格”で売ってもらった。
 

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4月21日(金)。姫路。
 
数学の授業中。
 
千里は大きく伸びをして言った。
「ああ、よく寝た」
 
教室内で忍び笑いが多数聞こえる。先生は言った。
 
「そうか。よく眠れたか。よかったな。村山、前に出て、この方程式解いてみて」
「はい」
 
(千里は特進クラスで通常の授業を受けている。この教室にいるのは国公立大学狙いの子ばかり)
 
 
それで昨年7月以来266日ぶりに目覚めた千里Y2は、前に出て行き、二次方程式を解の公式も使わず数式変形だけで美しく解いたのである(こんなのRには絶対できない)。教室内の数ヶ所で「美しい」とか「エレガント〜」などという歓声まであがっていた。先生も
「きれいに解いたね」
と感心していた。
 
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Y2が目覚めるのと同時にVによって司令室に飛ばされたRは
「助かった。2人で分担すれば授業が楽になる」
と言った。V(ヴィクトリア)は
「あとの調整はロビン(R)、あんたが自分でやってね」
と言って、深川司令室に帰っていった。
 
そしてこのあと姫路ではRとY2が分担して授業を受けるようになるのである。(旭川ではBw/Bs/Y1が分担して授業を受けている:実際にはBが2人とも、よく寝ているのでほとんどY1である)
 
 
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