広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(12)

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「なんかもうここまで来たら両方優勝させてあげたいくらいですね」
と野村君が言う。
「全くです。でもそれでは彼らは満足しないでしょうね。雌雄を決しないとスッキリしないと思います」
と門前さん。
 
「雌雄を決するって女子の場合、勝った方は♀なんでしょうか?♂なんでしょうか?」
「あはは、それは難しい問題ですね」
 
「でもこれ最終的に負けた方にも特別賞か何か出してあげたいですね」
「山吹さんもそう思います? いや、今運営委員内部でも、そんな意見を言う人が出てきているんですよ」
と門前さんは言った。
 

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結局第8ピリオドの得点は12-12で合計では139-139になる。
 
しかし河口のボールが一瞬ゴールに飛び込んだかのように見えた時、気の早いP高校の応援席から大量の紙テープや花束がコートに投げ込まれてしまった。それを片付けるのに時間が掛かり、5分ほどのインターバルを置いて次のピリオドとなる。今度はクイントゥプル・オーバータイムである。
 
P高校 北見/横川/猪瀬/宮野/佐藤
N高校 雪子/千里/不二子/暢子/揚羽
 
というメンツで出てくる。もうみんな体力の限界をとっくに超えているがここまで来たら、気力だけの勝負である。
 
千里はもう疲れ果てて頭の中が空っぽになっていた。ところがこの精神状態で千里は何度も佐藤を停めた。逆に千里が攻撃の時は2度もシュートに成功する。暢子も頑張ってゴールを決める。
 
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しかし向こうも佐藤が千里に押さえられている分、宮野と猪瀬が頑張り、残り46秒となった所で8-8の同点である。
 
N高校が攻めて行く。激しい攻防の末、ショットクロックの残りが少なくなる。雪子がパス相手を探して、不二子に送ろうとしたのだが、手元がくるってしまい、そのボールを猪瀬がダイレクトキャッチした。雪子が「あっ」という声を出す。正確無比なプレイをする雪子もさすがに体力限界を越えているので、回路がおかしくなったのだろう。
 
猪瀬が北見にパスし、北見が攻め上がろうとする。しかしその前に全力で周り込んだ千里がその北見のドリブルの途中をきれいにカットする。
 
「うっそー!」
と北見が声を出している。普段の北見ならそう簡単に盗られないのだろうが、北見ももう限界を超えている。
 
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千里が暢子に速いパス。暢子がシュートに行くのを宮野が明らかにファウルして停めようとしたが、ここで審判は笛を吹かなかった。
 
暢子のシュートが華麗に決まって8-10.
 

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残りは11秒である。
 
北見と交代で徳寺が入ってくる。徳寺も全然体力が回復していないだろうが、もう最後の頑張り所だ。こちらも雪子に代えてソフィアを入れる。P高校が速いパスでつないでボールをフロントコートに進める。
 
宮野を使って攻めようとするが、暢子が激しいディフェンスをしている。宮野はそれでも暢子を抜こうとしたものの、うまく停められる。ボールを盗られそうになるところを何とか佐藤の方に投げる。
 
佐藤がのけぞるようにしてボールをキャッチする。目の前に千里が居る。佐藤は複雑な心理戦の末、右を抜こうとして千里に停められる。しかしそこからステップバッグすると、素早いモーションでシュートを撃った。その瞬間、試合終了のブザーが鳴る。
 
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千里もジャンプしたのだが、手はボールに届かなかった。
 
そしてここはスリーポイント・ラインの外側である。
 

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千里はブロックにジャンプしたのが届かなかった後、着地すると、そのまま崩れるように座り込んだ。
 
佐藤が「入れた」という確信があった。
 
実際、佐藤のシュートはバックボードの向こう側に当たったものの、そこからバックスピンでゴールに飛び込んでしまった。
 
審判がスリーポイント成功のジェスチャーをしている。
 
「3ポイントゴール、札幌P高校・佐藤玲央美」
という場内アナウンス。
 
札幌P高校の応援席が物凄い騒ぎである。しかし紙テープやクラッカーは無い。2度も空振りして、使い切ってしまったのである。
 

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審判が整列を促したが、N高校のメンバーはもとより、P高校のメンバーもみんな座り込んでしまって動けない。
 
「君たち、一応整列して」
と再度審判が促す。それでみんな何とか頑張って並ぶ。
 
「150対149で札幌P高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
宮野と揚羽が握手する。そのままハグし合う。佐藤と千里も抱き合って、ふたりとも泣き出す。暢子も猪瀬と抱き合って泣いている。宮野と揚羽もつられて泣き出す。不二子とソフィアは呆然としていて、徳寺と横川は疲れ切ったように座り込んでいた。
 
もうそこには勝者と敗者というものを超越した何かがあった。
 
ゲーム時間だけでも65分、総時間は2時間を越えていた。12:00に始まった試合なのに既に14:09である。ウィンターカップ史に残る死闘であった。
 
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この試合のスコア
 
P 26 19 26 24 15 12 5 12 11 | 150
N 20 23 14 38 15 12 5 12 10 | 149
 
個人別得点
(4)宮野 24 (6)横川 12 (7)河口 14 (8)猪瀬 16 (9)歌枕 6 (11)伊香 8 (12)渡辺 25 (14)北見 8 (15)佐藤 35 (16)赤坂 2
(4)揚羽 14 (6)ソフィア 16 (7)絵津子 26 (8)不二子 12 (9)志緒 2 (10)紅鹿 4 (11)久美子 9 (14)リリカ 4 (16)暢子 18 (17)千里 42 (18)留実子 2
 

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ベンチからP高校の河口、N高校はマネージャーの薫が出てきて
 
「みんな挨拶に行こう」
と促す。それで両チームとも並んで、まずは相手チームのベンチに挨拶に行き、それから応援席の前で応援してくれた人たちに一礼する。応援団からもう勝敗を超越したエールが送られた。
 
しかし千里たちはその後、勝者と敗者の差をハッキリ見せつけられることになる。
 
P高校のメンバーがベンチ前で十勝広重監督を胴上げする。更に狩屋茂夫コーチ、佐藤玲央美、宮野聖子と胴上げは続いた。P高校のメンバーがやっと笑顔になる。彼女たちは今、優勝したうれしさが込み上げてきているだろう。
 
そしてこちらは最初、揚羽が泣きだして、その後それが伝染するかのようにみんな泣いた。南野コーチまで暢子と抱き合って泣いている。薫も留実子と抱き合って泣いている。その中で泣かずにじっと立っていたのは、千里、宇田監督、雪子、絵津子の4人だけだった。
 
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「宇田先生。来年もまたここに来てください。そして今度こそ、優勝してください」
と千里は言った。
 
「それは森田(雪子)君や湧見(絵津子)君に言いなさい」
と宇田先生は優しい顔になって言った。
 

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試合が終わって、貴司は時計を見た。表彰式まで見たいのはやまやまだ。しかし自分は今日の練習に遅れるかも知れないが顔を出すと約束した。帰らなければならない。
 
貴司は後ろ髪を引かれる思いで席を立ち、出口の方に向かう。そして玄関の所で蓮菜と遭遇する。
 
「残念だったね」
と蓮菜が言う。
「あと少しだったけどね」
と貴司。
 
「これ、千里から、細川さんに返してって」
と蓮菜がバッシュを渡す。
「え!?」
 
「千里、この試合で燃え尽きてしまったって。だからもうバスケ辞めちゃうだろうから、これもう要らないからって」
と蓮菜が言う。
 
貴司は少し考えていた。
 
「千里に伝えて欲しい。今は燃え尽きたかも知れないけど、君は絶対またバスケがやりたくなるって。でも取り敢えずバッシュは預かるよ」
 
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蓮菜は頷いた。
 
貴司はそのバッシュを手に持ち、駐車場の方に向かった。
 
それを見送って《蓮菜》の姿はふっと消えた。
 
このバッシュは半年後に千里の所に戻って来ることになる。
 

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本来は14時から女子の表彰式が行われる予定だったのだが、試合時間が大幅に伸びたため、時刻の調整が行われることが発表された。時間を30分遅らせて、14:30から女子の表彰式、そして今日15:00, 17:00から行われる予定だった男子の準決勝2試合は、15:30, 17:30 からに繰り下げられた。
 
千里たちは下着を交換し、フロア入口で待機する。札幌P高校・旭川N高校・岐阜F女子高、東京T高校という名前のプラカードを持った制服姿の女子高生に先導されて、今大会のテーマ曲『君のハートにドリブル』の音楽に合わせて、その順番にフロアの中に行進して入って行った。
 
会場の前面に札幌P高校と旭川N高校・その後ろに岐阜F女子高と東京T高校のベンチメンバー(マネージャーを含む)が並ぶ。
 
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「君が代」の演奏とともに国旗が掲揚される。フロアにいる選手のほとんどがその歌詞を歌う。続いて優勝校・札幌P高校の校歌が演奏され、校旗も掲揚される。P高校のメンバーが一所懸命校歌を歌っているのが聞こえてくる。千里はそれを頭が空白の状態で聞いていた。
 
まず優勝校の表彰が行われる。P高校のメンバーが前に12人出る。
 
バスケット協会からの表彰状と優勝カップを宮野と徳寺が受け取る。
高体連からの表彰状と優勝カップ、ウィニングボールを横川・河口・北見が受け取る。
 
そして美しい雪の結晶のようなウィンターカップを佐藤玲央美が受け取る。
 
千里はそれを見て純粋に「いいなあ」という気持ちになっていた。
 
JX杯・朝日新聞社杯・日刊スポーツ杯を猪瀬・歌枕・赤坂が受け取る。ナイキのジャケットを渡辺純子が着せてもらい、シューズの看板(?)を伊香秋子が受け取る。そして最後に副賞の目録を赤坂が受け取った。
 
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チャンピオンフラグを地元の女子高生数人で運んできて、会場全体に披露される。そして拍手とともに元いた場所に戻る。
 

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「準優勝・旭川N高校。4名、前に出て下さい」
と言われたので、揚羽・雪子・暢子・千里の4人で出て行った。
 
バスケット協会からの準優勝の賞状と楯を暢子と千里が受け取る。高体連からの準優勝の賞状を揚羽が受け取る。そして副賞カタログを雪子が受けとった。
 
続けて3位岐阜F女子高、4位東京T高校にも同様の賞状・楯・記念品が授与される。
 

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そのあと、1〜3位のチームのメンバーにメダルが授与される。優勝のP高校にはバスケ協会の副会長さん、準優勝のN高校にはバスケ協会の部長さん、そして3位のF女子高にはJXの部長さんがひとりずつメダルを掛けてくれた。千里は銀色のメダルを掛けてもらい、笑顔で部長さんと握手をした。
 
まあ欲を言えば金色のが欲しかったけど、これも凄く嬉しいよ。
 
千里はそう思っていた。
 
その後、各チームのコーチにトロフィーが授与される。P高校の十勝監督、N高校の宇田監督、F女子高の八幡監督、T高校の槇村監督が出てきて受け取っていた。
 

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「優秀選手を発表します」
と言ってベスト5が発表される。
 
「札幌P高校・佐藤玲央美、旭川N高校・村山千里、札幌P高校・渡辺純子、旭川N高校・湧見絵津子、岐阜F女子高・前田彰恵。以上5名は前に出てください」
 
千里は「選ばれるかもね〜」くらいには思っていたのだが、純子も絵津子も全く考えていなかったようで「うっそー!」などと言い、純子は着ていたナイキのジャケットを江森月絵に預けて前に出てきた。
 
ひとりずつ賞状とトロフィー、副賞カタログが渡された。千里は玲央美に続いて笑顔で受け取った。
 
「最優秀選手、佐藤玲央美」
と更に呼ばれるので、玲央美が自分の優秀選手賞の賞状・トロフィー・副賞カタログを渡辺に預けて前に出て行き、MVPの賞状を受け取った。
 
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「成績別トップを発表します」
とアナウンスされる。
 
「得点女王・旭川N高校・村山千里、スリーポイント女王・旭川N高校・村山千里、リバウンド女王・東京T高校・森下誠美、アシスト女王・札幌P高校・佐藤玲央美。なお、得点女王争いでは1位村山千里と2位佐藤玲央美の差はわずかに10点であったことを申し添えておきます」
 
ああ、やはりその程度の差なのかもね〜。P高校とF女子高の準決勝が極端なロースコアじゃなかったら私が負けてたかもね、と千里は思った。
 

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最後に大会長の挨拶があってから、再び「君のハートにドリブル」の曲に合わせて全員退場した。
 
ロビーに出た所で、学校の壁を越えて入り乱れ、お互いにこの6日間の健闘を称えた。
 
 
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女の子たちのウィンターカップ・最後の日(12)

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