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■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(6)

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20分ほど前。
 
貴司は車から降りてややぼんやりとして歩いていたら、ここが東京体育館であることに気づいた。なんでここに居るの?と疑問を感じたものの、入口でチケットを求め2階観客席に入った。
 
ちょうど第2ピリオドが終わる所で、2点差の接戦である。ベンチに戻って来た選手たちを見ていたら千里と目が合った。千里がこちらを見て物凄く嬉しそうな顔をするのを見て、貴司は「頑張れ−!」と声を掛けた。
 
しかしハーフタイムが終わって第3ピリオドが始まると、物凄い速度で走り回るP高校の攻撃と、鉄壁のゾーンディフェンスにN高校はなすすべもなくどんどん点差を広げられていく。千里と相手15番・佐藤玲央美との対決は一方的に千里が負けている。
 
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「千里!負けるな!」
と声をあげるが、千里はどうしても佐藤に勝てない。まったくスリーも撃てない。そのうち千里は下がってしまった。代わって11番(久美子)が入り、9番の選手(志緒)が相手15番を千里に代わってマークしたが、この子が意外にも頑張って相手の動きをしっかりと封じる。おかげで旭川N高校は少しだけ点数を挽回することができた。
 

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やがて第4ピリオドが始まる。旭川N高校が必死の反撃をする。それを手に汗を握って観戦していたのだが・・・・
 
トントンと肩を叩かれる。
 
「こんにちは、細川さん」
「こんにちは、琴尾さんでしたね」
 
千里の小学校以来の友人で、バスケ部後輩の田代の彼女だった筈と思い起こす。
 
「千里から伝言です。女連れで応援に来るなんて最低。絶交と言ってました」
 
貴司は咳き込んだ。
 
「なんで女連れって分かるの〜?」
 
と貴司が言うと、蓮菜は貴司の左肩の所を指差す。へ?と思って貴司が見るとそこに口紅が付いている。これは実はアウディが「輸送」されてくる最中に風で揺れて芦耶の唇が肩に接触しただけのことなのだが、取り敢えず女が傍にいる証拠としては充分だ。
 
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「わ。でも誓って言うけど、あの子とはキスとかはまだしてないんだよ」
「浮気相手連れてここにきたんですか?」
 
「ごめん。実は僕もよく状況把握ができていないんだけど、その子とドライブしてたら、なぜか東京体育館に来てた」
 
「細川さん、千里と付き合い続けるなら、その彼女と別れるべきだし、その彼女を選ぶなら千里とはきちんと切れてください。どちらかだと思う」
 
と蓮菜は言った。
 
「うん。ありがとう」
「千里は絶交だなんて言ってますけど、あの子今でも自分は細川さんの妻であるという意識ですよ」
 
そういう蓮菜の言葉に貴司はジーンとした。
 
「考えてみる」
「あと、そもそも浮気のしすぎだと思います。他の女の子との関わりは自粛しましょう。細川さん、結構ファンができているみたいだもん。寄ってくる女の子は多いかも知れないけど、恋人がいるからデートはできないとハッキリ言うべきでしょう?」
 
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「うん。面目ない」
「じゃ、また」
 
と言って蓮菜は自分の席に戻るのにその場を離れたものの、自分自身は雅文との関係をどうしようかと悩んでいた。雅文とのセックス気持ちいいしなあ・・・。昇は優しいけどワガママでひとりよがりだし。
 

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その日若葉は暇だったようで、冬子の部屋で冬子のCDコレクションをヘッドホンで聴きながら、雑誌を読みながら、冬子とおしゃべりしていた。
 
「いや。ここのコレクション凄まじいからさ。一昨日までここでお留守番してた時もずっとこれ聴いてたんだよ。聴いても聴いてもキリが無い感じでさ」
「聴くのはいつでも来て、私が居ない時でも勝手に聴いてていいよ。お母ちゃんにも言っておくから」
 
冬子の方は昨日、仁恵が持って来てくれた冬休みの宿題をやっている。若葉は最初ずっとフルトヴェングラーのワーグナー作品を聴いていたようだが、クラシックに少し飽きたのか、その時はカルチャークラブを聴いていた。
 
「このボーイ・ジョージってお化粧したり女の子みたいな服着てるけど、女の子になりたい男の子なんだっけ?」
「うーん。彼の場合はただのゲイだと思うけど。普通の男という枠に囚われたくないから女物も着ていたんだろうけど、別に女になりたい訳ではないと思うよ」
 
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「実は私、そのあたりの境界線ってのが良く分からないのよね〜」
「それ、本人も自分の意識が不明確な人多いよ」
「そうか。自分でも分からないのか。冬はやはり物心ついた頃から女の子だという意識だったの?」
 
「ここだけの話、明確に女の子になりたいと意識するようになったのは小学1−2年生頃だと思う」
 
「ああ、そんなものなのかもねー」
「幼稚園の頃もスカート穿きたいなとは思ってた記憶があるよ」
「ふむふむ。あ、今月の占い、牡牛座さんのラッキーアイテムはバスケットボールだって」
「へー」
「確か今ウィンターカップやってたんじゃないかな。行って来ようかな」
「行ってらっしゃーい」
「冬はね、天秤座さんのラッキーアイテムはスカートだって」
「ふーん」
「じゃ冬に似合いそうな可愛いスカート買って来てあげる。それ着て一緒に今晩、うちのお母ちゃんと一緒にフランス料理でも食べに行かない?冬は、お父さん忙しいみたいだけど、お母さんやお姉さんの分もおごってあげるよ」
 
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「うーん。お父ちゃんとの約束で高校卒業するまでスカート外出禁止ってことになってるんだけど」
「既に毎日その約束、破ってるじゃん」
 
冬子は22-26日は若葉の女子制服を借りてKARIONの制作をしているスタジオに出かけたし、昨日も★★レコードとの契約をするのに出て行く時は父に言われて渋々ジーンズを穿いていったものの、行った店のドレスコードに引っかかり、政子が何故か持ってきていた冬子に合うサイズのワンピースドレスに着替えたのであった。
 
「それは言えてるなあ。あ、こちらに一度戻って来るんなら、何かお菓子でも買って来てよ」
と言って冬子はお金を渡した。
 

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第4ピリオド。
 
不二子/千里/ソフィア/絵津子/揚羽というメンツで出て行く。P高校は北見/伊香/猪瀬/歌枕/佐藤というオーダーである。
 
向こうもさすがに第3ピリオドで走り回ったメンバーは佐藤以外疲れ切っていて、少し休まなければ稼働できない状態。ポイントガードは徳寺は疲れているし、江森は第2ピリオドに出して不二子に完敗しているしで、スモールフォワードの3年生北見を起用したのだろう。
 
このピリオドではどちらもマンツーマンを選択した。自然な組合せとして不二子−北見、千里−佐藤、ソフィア−伊香、絵津子−猪瀬、揚羽−歌枕となる。
 
最初はN高校の攻撃で不二子がドリブルで攻め上がる。絵津子が千里に近づいてスクリーンを仕掛けるのと同時に不二子から千里へのパスが来る。千里は絵津子のスクリーンを使って佐藤との距離をあけ、いきなりスリーを撃つ。
 
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「3ポイントゴール、旭川N高校・村山千里」
のコール。
71-60.
 
追撃開始である。
 

P高校が攻めて来る。佐藤には千里が付いているのだが、パスは送れそうなのでパスする。この時、佐藤は千里がふだんと全く雰囲気が違うのに気づいた。
 
なんか普通の人みたい!?
 
フェイントを複雑に入れた後、右を抜く。
 
停められる!
 
むろんボールを奪われるような佐藤ではないのですぐ猪瀬にボールを送る。猪瀬も絵津子に厳しくガードされているのでいったん北見にボールを戻す。北見は即反対側に居る歌枕にボールを送る。歌枕が進入してシュートしようとするが、揚羽がきれいにブロックする。
 
そのこぼれ球をソフィアが確保してドリブルで走り出す。P高校が急いで戻る。
 
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ソフィアがドリブルで攻めあがったので本来の不二子とソフィアの位置が入れ替わった状態で対峙している(取り敢えずソフィアは不二子よりドリブルが上手い)。
 
絵津子が千里のそばに走り寄る。それと同時にソフィアは千里にボールを送る。ところが佐藤は絵津子と千里の間に身体を割り込ませるようにして絵津子がスクリーンするのを防いだ。むろんそれによって空いた右側へ千里が走り込めば、北見がフォローに来る態勢、いわゆるトラップだ。
 
ところが千里はそれを見ると、ソフィアからもらったボールをそのまま速攻でソフィアに戻す。
 
北見は佐藤のトラップに対応するつもりになっていたので、一瞬ソフィアへの注意がお留守になっていた。それでソフィアは実質フリーで、きれいなフォームでスリーを撃った。
 
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「3ポイントゴール、旭川N高校・水嶋ソフィア」
のコール。
71-63.
 

P高校の攻撃。
 
北見がドリブルで攻め上がる。猪瀬が佐藤のそばに走り込んで来る。P高校もスクリーンを掛けようとしている。同様の動きに対して先ほど佐藤はそのスクリーン自体を妨害した。ところが千里は逆にここで佐藤と北見の間に身体を割り込ませる。これでは北見はパスが出せない。
 
反対側に居る伊香にボールを送る。スリーを撃つ。きれいにソフィアのブロックが決まる。こぼれ球は暢子が取って、既に走り出している不二子に送る。不二子がドリブルで攻め上がる。P高校が必死に戻る。
 
不二子がボールを千里に送る。P高校はまだ迎撃態勢を整えていないが佐藤は千里のそばに付いている。一瞬の佐藤とのマッチアップ。この時、また佐藤は千里に違和感を感じた。なんか普段の千里と全然雰囲気が違う!
 
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一瞬の心理戦の後、千里は佐藤の右側を抜いて、そのままピタリと静止した。実は抜いてすぐの場所というのが、佐藤としては抜かれた後、いちばん前に回り込みにくい場所なのである。
 
佐藤が回り込む前に千里はスリーを撃つ。
 
「3ポイントゴール、旭川N高校・村山千里」
の場内アナウンス。
 
そしてスコアボードは71-66となる。
 

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N高校は千里とソフィアのスリー3発であっという間に5点差に詰め寄った。
 
観客席で見ていたF女子高の百合絵がつぶやく。
「P高校がさっきのピリオド、多大な体力の犠牲を払って14点差もつけたのに。あっという間に肉薄するなんて」
 
「うん。だからスリーは怖いんだよ」
と彰恵は言った。
 
「さすが千里さんですね」
と晴鹿が言う。
 
「第3ピリオドだって一時は69-49の20点差だったのに、町田(久美子)さんのスリー2発で14点差に詰めたもんね」
と美稔子。
 
「でもなんであんなに続けて勝てたんですかね?」
と志麻子は首をひねって言った。
 
それに対して彰恵は何も答えず、じっとふたりの駆け引きを見ていた。
 

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千里の考えはこうである。佐藤との対決でなぜ自分が勝てないか。それは自分が左右どちらに行くかを決めてから行動しているからだ。その決断した瞬間、身体や表情・視線などに現れる兆候を佐藤は彼女の持つ優秀な勘で感じ取り、それで防御する。だから佐藤は「なーんにも考えていない」花園さんには勝てない。それで千里も今日の佐藤との対決では花園さん同様、何も考えないことに決めたのである。そうすることで佐藤はいつもの方法では千里を停めることができなくなってしまった。
 
P高校のベンチは佐藤が2度続けて千里にやられたのは、やはり先ほどのピリオドの疲れが残っているからと思ったようである。P高校は北見が不二子のドライブインを阻止しようとしてファウルを取られたタイミングで佐藤を下げて横川を入れた。渡辺が出たそうな顔をしていたが、まだ渡辺も疲れが取れていないだろうという判断である。
 
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佐藤玲央美はベンチに座り、スポーツドリンクを飲んで束の間の休憩をする。1年生の工藤典歌がアイスバッグを首筋や肩に当ててくれる。
 
「でも今の黒木さん、ファウルされてボールを取りこぼしたみたいに見えたけど、実際にはファウルされる直前にボールをドリブルしそこなってましたね」
と近くで渡辺純子が言う。
 
「まあ不二子ちゃんのドリブルなんてそんなもの」
と玲央美も疲れた表情の中、笑いながら言った。
 

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しかし佐藤も渡辺も下がっていると、N高校がぐっと優勢になる。千里がどんどんスリーを撃つし、新鋭三人組のパワーは、猪瀬や伊香などではとても抑えきれない。第4ピリオド7分過ぎたところでとうとう83-84と逆転されてしまう。ここまでの第4ピリオドの点数は12-27とワンサイドゲーム気味である。
 
「純子、行くぞ」
と玲央美が言う。
「はい」
と純子も元気に答える。
 
P高校は逆転された所で流れを変える意味でもタイムを取って、佐藤・渡辺・宮野を投入する。猪瀬/伊香/渡辺/宮野/佐藤というオーダーになる。N高校も疲れが見える揚羽に代えて暢子を投入する。
 
渡辺−絵津子、佐藤−千里のマッチングが復活する。他の組合せは宮野−暢子、伊香−ソフィア、猪瀬−不二子となる。
 
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千里と佐藤玲央美の対決は、佐藤が交代する前は千里が連続で勝ったものの、本当は千里のやり方では半々程度しか勝率は無い。実際にはこの後、4:6くらいで佐藤優勢の状態で進んだ。一方渡辺と絵津子の対決は、このピリオドに限っていえば7:3くらいで絵津子が勝っていた。
 
他の3人の所もだいたい良い勝負なので、この後は両者互角の戦いとなる。残り1分ちょっとになったところでその絵津子がゴールを決めて点数は89-91とまたN高校2点リードの状態。応援の歓声が凄まじい。
 
P高校が必死の表情で攻め上がってくる。ボールを運んできた猪瀬から宮野・伊香に回されていったん猪瀬に戻す。佐藤に送るが千里・絵津子の2人に挟まれてしまい、また猪瀬に戻す。伊香に送るがソフィアが激しいディフェンスをしていてどうにもならず渡辺に送る。
 
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ボールを回していたので、もうショットクロックが17秒ほど消費されている。渡辺にボールが渡った時には絵津子が戻って渡辺の前に構えている。渡辺は強引に突破してシュートしようとした。ふたりの身体が接触する。笛が鳴る。
 
審判はダブルファウルのジェスチャーをしている。渡辺のチャージングと絵津子のブロッキングの双方が取られた。シュート動作中ではあったもののダブルファウルなのでフリースローではなく、P高校スローインからの再開。
 
そしてこの場合、結果的にボールの所有権は移動しなかったのでショットクロックも継続される(*1)。残りは5秒しかない。渡辺は審判からボールをもらうと伊香の所に矢のようなパスを送る。しかし伊香はソフィアに邪魔されて撃てない。佐藤に送る。佐藤が何とか千里との距離を開けてシュートを撃つ。撃った瞬間、24秒計が鳴る。
 
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「3ポイントゴール、札幌P高校・佐藤玲央美」
というアナウンス。これで92-91と再逆転!
 
(*1)当時は規定が無かったが2011年の改正で「ディフェンス」のファウルによりスローインになった場合はショットクロックは「14秒」にリセットされることになった(競技規則29.2.1.2)。それでもダブルファウルの場合はその規則は適用せず、計時は継続される(競技規則50.2)。
 

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女の子たちのウィンターカップ・最後の日(6)

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