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■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-08-23
 
札幌P高校の応援席が物凄い騒ぎだ。
 
万歳をしている者がいる。「やった!」と叫んでいる者がいる。クラッカーを撃つ者もある。紙テープが舞う。花束や人形まで投げ込まれている。渡辺の名前を呼ぶ人もいる。
 
しかし、そのタップでボールを放り込んだ当人・渡辺は渋い顔をして大きく息をついていた。絵津子もハアハアと大きく息をしている。千里と佐藤も激しく息をして見つめ合っていた。
 
そして審判は胸の前で両手を交差してゴールが無効であることを示している。
 
観客が騒いでいるので、主審がマイクを持って説明する。
 
「白の15番(佐藤玲央美)のシュートは時間内に行われたので有効ですが、そのボールはリングに当たって大きく逸れて跳ね上がり、シュートは失敗しています。その後、白の12番(渡辺純子)がタップしましたが、これはもう終了のブザーが鳴った後でしたので、シュートは無効、よって得点は入りません。同点でダブル・オーバータイム、再度延長戦になります」
 
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渡辺と絵津子、佐藤と千里はお互い相手の背中をトントンと叩いてベンチに引き上げた。
 
P高校の応援席は「え〜!?」という声、対してN高校の応援席はお葬式のような雰囲気だったのが一転してお祭り騒ぎである。
 

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結局第5ピリオドの点数は15-15で、ここまでの合計は110-110である。
 
コート上に大量に紙テープや花束などが投げ込まれてしまったので、清掃するのにかなり時間を要してしまった。その後でやっとモップ係の子たちが走り回って床面をきれいにする。結果的に第6ピリオドが開始されるまで、5分以上のインターバルが開いてしまった。
 

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「さっきのピリオドの後半の千里の動きどう思う?」
と百合絵が彰恵に訊く。
 
「あれは右と思わせて左、左と思わせて右という方法」
と彰恵は言う。
 
「ほほお」
「いわば男の娘戦略」
「何それ?」
「男と思わせて女、女と思わせて男」
「うーん。ある意味千里らしい戦略だな」
 

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若葉がウィンターカップを見ようと電車で千駄ヶ谷駅まで行き、東京体育館の方に歩いて行っていたら、
 
「山吹さん?」
と声を掛ける男子が居る。
 
「あ、野村君、お久〜」
と若葉は笑顔で挨拶した。男嫌いの若葉がこんな笑顔で接することができる男子というのは数少ない。
 
「ウィンターカップ見に来たの?」
「野村君も?」
「うん。今日の準決勝に従弟が出るんだよ。それで見てこようかと思って」
「イトコって男の子?女の子?」
「多分男だと思うなあ。男子チームに入っているから」
「へー」
 
などと会話しながら歩いて行き、入口で入場券を買おうとしていたら、窓口の後ろの方で何か打ち合わせていた風の背広姿の男性が驚いたようにしてこちらを見る。
 
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「山吹さん、こんにちは」
と彼は若葉に声を掛けてきた。
 
「門前さん、こんにちは」
と若葉も挨拶を交わす。
 
「ウィンターカップ見に来たんですか?」
「はい」
「じゃ招待券を発行しますよ。そちらはお友達?」
「あ、はい。中学の時の部活仲間なんですが」
「山吹さん、バスケしてましたっけ?」
「いえ、陸上部兼テニス部だったんですけどね」
「へー。じゃアリーナ席2枚、出させますね」
 
と言って窓口の係の人に指示している。それで、若葉は野村君ともどもタダで入場することができた。
 

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「知り合いの人?」
と野村君が訊く。
 
「うちの伯母ちゃんの会社の取引先の人だよ。スポーツ用品関係の会社の専務さんなんだけど、接待で何度か会ったことあったんだよね」
「へー!」
「あそこ、この大会の協賛か何かしてたのかな」
 
などと言いながら、ふたりはアリーナ席に座った。
 
「あれ?まだ女子の試合やってるんだ? って女子だよね?これ」
「うん。凄い髪の長い子がいるから、きっと女子だと思う」
 
「あの濃紺のユニフォームの17番の子、凄い長い髪だね。珍しいね、あんなに長い子」
「でも同じチームの7番付けてる子は凄い短髪だね」
「あの子はむしろ男子に見える」
「男女混合って訳じゃないよね?」
 
野村君がもらったプログラムの選手名簿を見ている。
 
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「あの濃紺のは旭川N高校だと思う。7番の選手は湧見絵津子って書いてあるから、たぶん女子だよ。17番の子は村山千里って書いてあるけど、千里って名前は男女あり得るなあ」
 
「もし男に見える方が女で、女に見える方が男だったら面白いね」
「まあでも両方女なんだろうけどね」
 

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第6ピリオドに出てきたメンツはこうであった。
 
N高校 不二子/千里/ソフィア/揚羽/留実子
P高校 北見/横川/小平/宮野/佐藤
 
どちらも大きく選手を入れ替えているが、千里と佐藤はそのまま出ている。この2人はどちらもスタミナがハンパではない。
 
マッチングは自然に、北見−不二子、横川−ソフィア、小平−揚羽、宮野−留実子、そして佐藤−千里となる。
 
N高校のスローインから始まる。不二子がドリブルしながら戦況を見ている。佐藤が千里に話しかけてくる。
 
「見損なった」
「なんで〜?」
「千里、頑張っているふりだけしてる」
「だって普段通りにやったら玲央美、私を全部停めちゃうじゃん」
「じゃ、私はどちらに行くか宣言してから抜くからね」
「んー。じゃそれを私は停めてみせる」
「よし」
 
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不二子から千里にボールが来る。佐藤と一瞬の対峙。心理戦。一瞬のシュートフェイクから右を抜くかのように1歩踏み込み、次の瞬間、その右足で踏み切ってフェイドアウェイ気味にシュートを放つ。しかし佐藤は思いっきりジャンプしていた。
 
佐藤の指がわずかにボールに掛かって軌道が変わる。
 
しかしボールはダイレクトにゴールに飛び込んだ。
 
「3ポイントゴール、旭川N高校・村山千里」
のアナウンス。点数は0-3.
 
佐藤が考えるようなポーズをしていた。
 

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「今の、もしかして玲央美が指で当ててなかったら外れてた?」
と百合絵が訊く。
 
「そうそう。玲央美が指で当てるだろうというのを見越して、わざとゴールより向こうに落ちるようなシュートを撃ってる」
と彰恵。
 
「なんかあの2人、キツネとタヌキの化かし合いしてない?」
「まあバスケットってそういうもんだよ」
 

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P高校が攻め上がってくる。
 
北見から佐藤にパスが来る。千里とマッチアップ。すると佐藤は最初に右手でまっすぐ指さした。そのあと左に身体を揺らすが千里は身体は動かさない。そして小さいシュートフェイクを入れた上で、再度左に行くかのような動きをした上で実際に右(千里の左)に突っ込んできた。
 
千里は身体を少し「右に」寄せた(つまり佐藤が来たのと逆の方向)。
 
え?と佐藤が驚いたような表情をする。
 
しかし千里はそこから左手を伸ばして佐藤のドリブルしているボールをポーンと横にはじいた。
 
いわゆるバックファイヤーに近いプレイだが、実は雪子の得意技でもある。雪子にしても千里にしても動体視力がハンパ無いので相手プレイヤーと接触を起こさずにきれいにボールだけ弾くことができる。
 
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転がったボールを不二子が確保する。ドリブルで走り出すが、千里が先行するので千里にパスする。佐藤・北見が必死で戻る。他のメンバーも戻る。不二子から千里にパスする。
 
千里がシュート体勢に入る。しかし佐藤が彼女の軽いフットワークでそばまで寄ってくる。千里がシュートを撃つのとほぼ同時に佐藤がそのボールを横に弾いた。
 
弾かれたボールは北見の方に飛んで行ったのだが、その途中を不二子がカットしてしまう。まだ佐藤・北見の他は誰も戻ってきていない。
 
不二子はそのままレイアップシュートに行き、きれいに決める。
 
「2ポイントゴール、旭川N高校・黒木不二子」
のアナウンス。点数は0-5.
 
佐藤は腕を組んで考えるようにして千里を見ていた。
 
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再びP高校の攻撃。北見は立て続けに佐藤が千里に負けたので横川にパスし、横川はスリーを撃ったものの外れる。しかし宮野が中に飛び込んで行ってリバウンドを押さえ、自らシュートを入れた。これで2-5.
 
N高校の攻撃。
 
不二子が千里にパスをする。佐藤とマッチアップ。
 
「じゃ、レオちゃん、シュートするよ」
と千里は言った。佐藤が目をぱちくりさせている。
 
そしてシュートフェイク、右へ行くフェイクを入れた後で左に突進する。その時佐藤は千里の右手の方に手を伸ばして止めようとし、きれいに抜かれてしまった。「あっ」と声を出す佐藤。しかし次の瞬間、佐藤は千里の前に回り込むように半円形にバックステップする。
 
このバックステップを見慣れていないと「抜いたはずなのに、また前に居る」という分身の術に見えるのである。
 
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ところが千里は佐藤がバックステップを始めたのとほぼ同時に左側を抜こうとしていた足を1歩でバシッと止めて、千里もバックステップする。
 
結果的に2人の間は2m近く空いてしまった。佐藤が「うっ」と声を挙げる。
 
しかし次の瞬間には千里はもうスリーを撃っていた。
2-8.
 
千里のゴールを告げるアナウンスが流れる中、佐藤は言った。
 
「今のは千里を疑って申し訳無かった。ちゃんとシュートしたんだね?」
「したよ」
「よし。私も次もちゃんと行くから」
「はいはい」
 

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その後、佐藤は毎回抜く側、あるいはシュートするというのを千里に宣言してから実際にそちらを抜こうとしたり、あるいはシュートしようとした。また千里も、佐藤が恐らく読み取れるであろう心理的な「気配の向き」をわざわざ示唆した上で、そちらから抜いたりあるいはシュートを試みた。
 
このピリオドではその勝負は千里7:佐藤3くらいの比率で千里が勝った。そちらから来ると分かっていても、お互い複雑なフェイントを入れてから実行するので、タイミングを合わせきれないのである。加えてこのピリオドでは佐藤も本当に千里が予告通り来るのか、それとも「嘘をつく」のか若干の疑惑を感じていて、それが結果的に対応の遅れになっていた。
 
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「ねぇ、あの2人、何やってんのさ?」
と呆れたように百合絵が言う。
 
「どちらも余裕あるな」
と彰恵も呆れたように言った。
 
もっとも2人がこんな大事な試合で「力比べ」的なことをしているのに気づいたのは、この2人の他には、同じく観戦している東京T高校の竹宮・山岸、愛媛Q女子高の鞠原、福岡C学園の橋田、など会場全体で10人にも満たなかった。
 
「でも千里が優勢じゃん。あれだけいつも玲央美に負けてたのに」
「千里はなまじ勘が鋭いから、それに頼っている部分が大きかった。玲央美もそういう千里のプレイに慣れてた。でも今千里は勘に頼らずに玲央美の身体の動きだけに注目して身体を動かしてる。それで今の所は玲央美を停めているんだよ。でもあれ長くは持たない。身体的な能力だけなら玲央美の方がずっと上だから、5−6分もすれば玲央美が勝つようになる」
と彰恵は言う。
 
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「でも5−6分経った時には試合が終わっているのでは?」
「このピリオドで決着が付けばね」
「うむむ」
 
点数としては佐藤・千里の対決で千里がリードしていたものの、横川−ソフィアのところは横川が経験の差で競り勝ち、宮野−留実子の所はリバウンドでは留実子が圧倒的ではあってもマッチングでは宮野が圧倒的で、北見も佐藤の所が不利な分、宮野を使って得点していく。
 

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それでこのピリオド3分経過した所で8-10とN高校が2点リードの状態であった。ここでP高校はちょうどボールがアウトオブバウンズになってゲームが停まったタイミングで小平に代えて渡辺を送り込む。N高校も留実子に代えて絵津子を投入する。
 
マッチングの組合せが変化して
 
北見−不二子、横川−ソフィア、渡辺−絵津子、宮野−揚羽、佐藤−千里
 
となる。
 
ここで入って来たばかりの渡辺がパスカットをし、北見につないだ速攻で2点をあげて同点に追いつく
 
その後しばらく両軍とも点数が入らない状態が続く。
 
残り40秒でN高校が攻め上がる。不二子が千里にパスを送る。千里は左側を抜くことを示唆した上で、佐藤との複雑な心理戦の末、本当に左側を抜いて、千里が佐藤の裏側に回ることに成功する。しかし佐藤はバックステップで千里の前に出ようとする。
 
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そこに絵津子が駆け寄る。絵津子をスクリーンにして千里がエンドライン方向にドリブルで進む。そこに宮野がヘルプに来る。しかし千里は宮野との一瞬の心理戦を制し、タイミングを外してシュートを撃つ。
 
ところがいつの間にか千里の前方に回り込んできていた佐藤が、真横から飛んで千里のシュートを叩き落とした。
 
ボールが転がる。しかしそこにソフィアが走り込んできて、ボールを掴むと自らシュートに行った。
 
10-12.
 
残り26秒。
 

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ここでP高校は北見に代えて伊香を送り込む。ここでP高校はスリーを撃てる選手が、伊香・横川・佐藤と3人も入る状態になった。
 
P高校が宮野のドリブルで攻め上がってくる。このピリオド最後の時間のゲームメイクはポイントガードができる人がいないのでキャプテンの宮野が担当した。状況を見る。千里と佐藤の所は対峙しながら又何か話しをしてる!?何なんだあのふたり?伊香と不二子の所は、いかにも突破しやすそうに見えるが、不二子は不確定要素が大きいので怖い。渡辺と絵津子の所はマジで激しい位置取り争いをしている。横川とソフィアの所がいちばんマシに見える。
 
それで横川の所にパスする。
 
ところがそれをソフィアが素早く反応してカットする。ボールが転がる。
 
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そこに最初に走り寄ったのは反対側のサイドに居た、千里と佐藤であった。一瞬千里が先にボールを掴むものの、佐藤が強引に奪い取る。しかし体勢を建て直してシュートしようとしていたら、走り込んできた絵津子がボールを下から弾き飛ばした。
 
再びボールが転がる。
 
千里・ソフィア・渡辺・横川がほとんど同時に飛び付く。4人全員がボールを掴んだまま、誰も譲らない。
 

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女の子たちのウィンターカップ・最後の日(9)

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