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■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-08-22
 
ウィンターカップ決勝戦、第3ピリオド、7分過ぎた所でこのピリオドのスコアは24-6になっていた。
 
ふつうならこういう一方的な展開になっている場合、こちらは精神的にも削られて行きがちなのだが、宇田先生が「攻めなくていい」などと言ったお陰で千里たちは随分精神的に楽であった。
 
残り3分を切った所で宇田先生は千里をいったん下げて久美子を出した。それを見てP高校はディフェンスをダイヤモンド1ではなく5人で構成するゾーンに変更した。
 
ところがここで久美子はいきなりスリーを撃った。
 
「3ポイントゴール、旭川N高校・町田久美子」
 
という場内コール。入れた久美子自身は「うっそー!」などと言って、はしゃいでいる。リリカや志緒に頭や背中を叩かれている。これで24-9.
 
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P高校が攻めて来る。佐藤に志緒が付くほか残りの4人でボックス1のゾーンを組む。左肩・久美子、右肩・永子、左底・リリカ、右底・紅鹿である。
 
佐藤は千里が下がってしまったのを「詰まらないな」という気持ちで見送っていた。それで2年生で、いわばベンチ枠ぎりぎりくらいの志緒が自分のマーカーになったのにため息をついていた。
 
しかし佐藤はわずか10秒で志緒に対する認識を変える羽目になる。
 
志緒は物凄い勢いで佐藤の周りを動き回った。とにかくボールマンと佐藤の間にひたすら入り続け、完璧に佐藤をディナイしてしまう。現在誰がボールを持っているかは久美子や紅鹿が確認して声を出しているので、それで志緒は佐藤の動きだけに注意を払ってパス筋を塞ぎ続ける。
 
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実は、志緒は千里が下がっている時に佐藤を任せるというのは半月ほど前から言われて、随分佐藤を研究していたのである。比較的似たタイプであるソフィアに「仮想佐藤」になってもらい「自称佐藤研究家」不二子に監修してもらって実践練習も重ねていた。それで、こちらが佐藤を抜いて進入したりは困難でも、相手の攻撃をできるだけ防ぐというのは3〜4分なら何とか可能という結論に達していた。
 
また佐藤としても、志緒1人だけの動きなら視線などのフェイントや軽快なフットワークで振り切る自信があるのだが、近くに居る久美子やリリカがボールの位置や、隣接する徳寺・渡辺の動きなどを常に声を出して志緒に伝えていた。それで結果的に佐藤は志緒1人ではなく1.8人くらいのプレイヤーを相手にしているような状況になっていた。
 
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更に志緒はこの3分間に今日の全エネルギーを使い切るつもりでプレイしており、一方の佐藤はここまで結構な疲労がたまっているということから、結果的にこの高校ナンバー1のフォワードが、旭川のボーダー組に完璧に封じられてしまったのであった。
 
通常のパス筋がふさがれているからというので徳寺は志緒のすぐ横でバウンドするようなバウンドパスでボールを送ろうとしてみた。ところが徳寺がパスを出した瞬間、久美子が「右床!」と声を出す。それで志緒はそのボールを停めてしまった。
 
久美子に送って、久美子がドリブルで速攻する。
 
徳寺が必死で追うが、久美子は結構足が速いので追いつけない。そして久美子はピタリとスリーポイント・ラインで立ち止まると、美しいフォームでシュートを撃った。
 
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きれいに入って24-12.
 
久美子はまた「やった!」と言って喜んでいる。リリカが久美子の頭を叩いている。久美子はそもそも出場機会が多くない。そして久美子がスリーを撃つ所なんて、P高校のメンツは練習試合でも見たことが無かった。
 
しかし実は元々久美子はシュート自体は上手いのである。マッチングなどは決してレベルは高くないもののフリーで撃てばかなり入れる。しかもこの日は朝練でスリーが3発連続で入ったことから、揚羽から「出場機会があったらスリーをひたすら打て」と言われていたのである。
 

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取り敢えず次のP高校の攻撃機会は苦しみながらも歌枕が点を取り26-12とする。それでまたN高校の攻撃。
 
久美子が立て続けにスリーを成功させたので、向こうはこの子はひょっとして、千里の後継シューターとして育成中の子か?と考えたようで、なんと渡辺が久美子の前に付いて、残りの徳寺・河口・佐藤・歌枕でダイヤモンド1のゾーンを組んでいる。
 
永子がその久美子にボールを送る。この時、久美子は浅い位置に居たので、ゴールまでは10m以上の距離があった。千里でもこの距離からはめったに撃つことが無い。それで渡辺はむしろ抜かれないようにやや距離を開けて対峙している。
 
しかし、久美子は「スリーをひたすら撃て」と言われているので、距離のことは考えずにそこから、きれいなフォームで角度40度くらいの低い軌道のシュートを撃った。
 
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驚いた渡辺は瞬間的に反応して高くジャンプする。
 
しかしそもそもシュートされるのが想定外だったので飛ぶのが遅れた。それで渡辺の手はボールの真下に当たってしまう。
 
渡辺の手で大きく跳ね上がったボールは、そこから彼女の斜め後方に山なりの軌道を描き・・・・
 
ゴールに飛び込んでしまった!
 

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一瞬、コート上の全員が凍り付く。
 
こういう場合、どういう扱いになるのか、久美子などは分からないようでリリカの顔を見ている。
 
しかし審判は「2ポイントゴール」成立のジェスチャーをしている。審判が念のため言葉で説明する。
 
「白の12番(渡辺)が弾いたボールがゴールに飛び込んだが、特に意図してボールを自陣ゴールに入れた訳ではないので、ゴールは成立する。但しスリーポイントゴールは適用しないので2ポイントになる。この場合、相手チームのコート上のキャプテン・青の14番(リリカ)の得点として記録される」
(競技規則16.2.2)
 
久美子とリリカが手を取り合って喜んでいる。渡辺は呆然としている。
 
「2ポイントゴール、旭川N高校・常磐リリカ」
と場内アナウンスが流れる。
 
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点数は26-14となる。
 
なお、バスケットのルールでは、自分のゴールに故意にボールを放り込んだ場合は自殺点ではなくバイオレーション扱いになる。今の場合は、故意では無いので得点は有効になるのである。ゴールそばでの乱戦の最中にブロックしたボールが誤ってゴールに飛び込んでしまうことは時々あるのだが、こういう遠距離からの誤ゴールは珍しい。他にもアウトオブバウンズになりそうなボールを戻したつもりがゴールに飛び込んでしまったような事故も過去には起きている。なお、渡辺はスリーポイント・ラインの外側にいたのだが、このケースでは3ポイントにはならない。
 

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徳寺や河口が渡辺にドンマイ、ドンマイと言っている。渡辺は悔しそうである。
 
しかしこの後、両者の戦いは膠着状態に陥った。
 
結局P高校の攻撃の時は志緒が必死で佐藤を封じているので、P高校も佐藤が使いにくい。そこで渡辺を使おうとすると、久美子やリリカがカットしにくる。それでP高校まで1度24秒バイオレーションをやってしまった。
 
逆にN高校の攻撃ではP高校の固いゾーンの守りに、とても中に進入してのシュートができない。また久美子が出てくるなり(実質)8点も取ったことで、P高校は彼女をN高校の隠し球だったのではと疑ったようで(実はただの偶然の積み重なりである)、渡辺が付いて最大限の警戒をしているので、久美子もこの後はさすがにシュートが撃てなかった。
 
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結局このピリオドは最後の2分間は両者激しく走り回るにもかかわらずどちらも全く点数が入れられず、26-14のまま終了した。
 
第3ピリオドまでの合計は71-57とP高校が14点のリードである。
 
会場のあちこちではこの14点差というスコアに「もう勝負あったね」と言っている人たちがたくさん居た。
 

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一方、第3ピリオド7分でベンチに下がった千里は椅子に座り、海音がうなじの所にアイスバッグを置いてくれて、薫がスコア付けを雪子に頼んで腕のマッサージをしてくれるのに身体を任せたまま、取り敢えず放心状態になっていた。チームがなかなか点を取れずに苦労している時に自分がずっと佐藤玲央美に封じられているのが悔しくてたまらない。
 
どうして玲央美に勝てないんだろあなぁと思いながら彼女とのプレイを脳内でプレイバックする。とにかくどちらから抜こうとしても千里が行く方向に彼女は腕を伸ばしてくる。そして抜いたと思っても、彼女は目の前に居る!
 
そういえば1月のJ学園迎撃戦の時に暢子が言っていたな、というのを千里は思い出した。
 
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「頭と身体の順序の問題だと思う」
とあの時、暢子は言った。
 
「佐藤さんは相手の気配に反応する。花園さんは相手の身体の兆候に反応する。千里はこちらに行こうと思ってから身体が動く。その気配で佐藤さんは千里を停める。花園さんは何にも考えてなくて反射神経レベルで身体が動く。このタイプには佐藤さんは弱いんだと思う」
 
そういえば佐藤さんって霊感強いよな。出羽に行った時も美鳳さんや佳穂さんを見て神様だというのに気づいていたし、こないだの伊香秋子の占いもカードを見ただけで、危険な兆候であることに気づいたみたいだし。
 
そんなことを考えていた時、千里は観客席の貴司と目が合った。
 
貴司の熱い視線を受けて、千里は頑張らなきゃと思った。
 
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が、ふと貴司の左肩の所に何か付いているのにきづく。ん〜ん?と思って目を細めてみると、どうも口紅のような気がする(こういう時、千里本人は気づいていないが、自分の意識の一部が相手のそばに移動して実際にすぐそばから観察している)。あいつ〜! 今度はちょっと怒りの思いが込み上げてくる。女連れで応援に来たの?何考えてんのよ!?
 
いや、貴司ってホントに何も考えてないんだろうな。女の子から言い寄られた時に自制しなければならないこと自体を思いつかない。誰とでも気軽に話してしまうし、お茶に付き合ってしまう。私、ほんとにこんな奴と結婚してもいいんだろうか。他に欲しい人がいたら熨斗付けて進呈してもいいかも。貴司と別れたら、元男の子だった女の子なんて結婚してくれる人いないかも知れないけど、私ずっと独身でもいいや。
 
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千里はすっくと立ち上がった。いきなり立ったので海音がアイスバッグを落としそうになって「わっ」と声を挙げる。
 
「あ、ごめん」
と千里は言ったが、宇田先生は千里を見ると言った。
 
「開眼した?」
「私は花園さんにならないといけないんです」
「そうだね。君は彼女を越えないといけない。年齢がひとつ違いで同じシューター。彼女を蹴落とすことができなかったら君は前に進めない」
「取り敢えず恋愛は封印かな」
「まあ封印はしなくてもいいけど、試合中は気持ちを集中しよう」
「はい」
 
「じゃ佐藤君に勝てるかな?」
「勝ちます」
「よし」
 

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千里はベンチの後ろ側にまわり、前を向いたまま、少し後ろの方の応援席に座っている蓮菜に声を掛ける。
 
「ねぇ、蓮菜」
「どうしたの?千里」
と蓮菜がいちばん前まで寄って尋ねる。
 
「向こうの観客席に貴司がいるんだけどね」
「へー。わざわざ見に来てくれたんだ?」
「女連れで応援に来るなんて最低。絶交と言ってたと伝えてくれない?」
「いいの〜?」
「ふふふ」
と千里は口を押さえて笑った。
 
そして何だか物凄く愉快な気分になった。
 

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千里が考えごとをしていた間に久美子の大活躍で旭川N高校は大差を付けられかけていたのを何とか持ちこたえる。14点差で第3ピリオドを終える。ブザーが鳴ってコートに出ていたメンバーが帰って来た。
 
「疲れた〜!」
と言って5人が椅子に座り込む。
 
「お疲れさん。でもこれで向こうの主力もクタクタになったはず」
「まあおあいこですね」
「でも次のピリオドまではスピード・バスケットできないですよ。向こうも最後はかなり足が遅くなってました」
「まあ頑張れるのは佐藤君や渡辺君くらいだろうね」
 
「じゃ最後のピリオドは追撃するよ」
と宇田先生は言った。
 

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