広告:まりあ†ほりっく 第2巻 [DVD]
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■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(11)

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会場で控えている医師が出てくる。
 
診察しているが、医師は「取り敢えずそっと動かしてベンチの所に運ぼう」と言うので、担架に乗せて、できるだけ静かにベンチの所まで移動させた。ところがベンチの所まで来ると、絵津子はぱちりと目を開けた。
 
「良かった!気がついた!」
「大丈夫?」
 
後ろで《びゃくちゃん》がピースサインをしているので、どうも何かしてくれたようである。
 
「あ、大丈夫だと思います。すみませーん」
などと本人は明るく言っている。
「良かった!」
と言って、渡辺が絵津子に抱きついているので、絵津子の方がびっくりして
「ちょっと、ちょっと、どうしたの?」
などと訊いている。
 
医師が意識レベルを確認する。
 
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「君、自分の名前は?」
「湧見絵津子です」
「生年月日は?」
「1992年7月1日生です。性別は女、蟹座です」
医師が
「合ってる?」
と千里に訊く。
「生年月日合ってます。性別も多分女だと思います」
 
医師は脈拍、血圧なども測定したが、特に問題は無さそうということで、しばらく安静にしていることを条件にゲームに引き続き出ることを認めた。それで絵津子を下げて、代りにソフィアを入れる。
 
そして審判は
「アンスポーツマンライク・ファウル、白12番」
と宣告した。
 
普通なら倒したくらいはチャージングだが、倒された絵津子が一時的に失神したので、より重いファウルが宣告された。渡辺も手を挙げて「申し訳ありませんでした」と言っている。
 
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ここでP高校は渡辺をいったん下げて河口を入れた。この状態でオンコートさせていても集中できないだろうという判断である。(プレイヤーが負傷で交代した場合、相手チームも同じ人数のプレイヤーを交代させることができる:競技規則5.7)
 

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試合は5分ほど中断したが、再開される。
 
通常はファウルされた絵津子がフリースローをしなければならないのだが、負傷の場合は特例で、交代で入ったプレイヤーが撃つことになる。ソフィアがフリースロー・サークルに立つ。
 
ソフィアはきれいに2投とも入れる。
これで点数は7-9になる。
 
そしてアンスポーツマンライク・ファウルの場合は、更にN高校のスローインで再開である。ここで残り時間は54秒である。
 
暢子がスローインして不二子が攻め上がり、激しい戦いの末、リバウンド争いでヘルドボールになるが、この第8ピリオドはP高校のスローインで始まっており、ポゼッション・アローはN高校になっている。それでN高校がスローインするが、所有権が結局移動しなかったので、ショットクロックは継続である。残り5秒と厳しかったのだが、24秒ギリギリで暢子がシュートを決める。これで7-11となり、残りは30秒である。
 
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「これもうN高校の勝ちだよね?」
と百合絵が言う。
 
「え?どうしてですか?」
と志麻子が訊く。
 
「残りは30秒。もしP高校が例えば3秒で3点挙げれば、1点差・残り27秒でN高校の攻撃になるけど、3点挙げるのに6秒以上使って、例えば8秒で3点取った場合、1点差・残り22秒でN高校の攻撃になる。すると残り時間N高校は時間を潰していれば、そのまま勝利が転がり込んでくる」
と百合絵は説明する。
 
「つまり問題は6秒以内に点を取れるかですか?」
「3秒で点を取り、そのあと24秒間でN高校が無得点に終わった後で更に3秒で点を取れば逆転することができる」
「それは厳しすぎますね」
 
と志麻子は納得したようだが、彰恵は「うーん」と言ったまま何かを考えていた。
 
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果たしてP高校はスローインする猪瀬だけがバックコートに居て、残りの4人はフロントコートで待機する態勢でスタンバイする。
 
佐藤に千里、横川(伊香に代って入った)にソフィア、宮野に暢子、河口に揚羽がつく。
 
徳寺からロングボールが投げ入れられる。誰かが掴むと同時に時計は動き出す。徳寺のボールはほとんどゴールの近くまで飛んできた。
 
宮野・河口・暢子・揚羽が駆け寄るが、河口が確保する。河口はそのまま横川に送る。横川がソフィアとの一瞬の心理戦の後、バックステップしてスリーを撃つ。ソフィアがブロックはならなかったものの、指を当てて軌道を変える。ボールがバックボードに当たって返ってくる。佐藤が掴んだものの、千里が奪い取る。ところがそれを更に宮野が奪い取り横川にパス。横川は受け取ると即シュートした。
 
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「3ポイントゴール、札幌P高校・横川朝水」
の場内アナウンス。
点数は10-11となって、残り時間は22秒である。
 

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「これで勝負あったね」
と百合絵は言った。
 
「確かに。これで後はN高校は時間を潰していればいいですよね?」
と志麻子も言う。
 
しかし彰恵は美稔子が付けているスコアシートをチラッと見て「そのこと」を確認すると
「いや、まだ分からない」
と答えて、じっとコートを見つめていた。
 

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N高校のスローインである。
 
ショット・クロックはもう停まってしまう。N高校が時間稼ぎだけすれば勝てることはP高校も当然分かっているから、ボールを何とか奪い取るしかない。それで最初から強烈なプレスに行く。
 
そもそも不二子がスローインしようとするが、ソフィアにピタリと横川が付いている。千里には佐藤、暢子には宮野、揚羽には河口が付いている。審判がボールを渡す。不二子はこれを5秒以内に誰かに送らなければならない。
 
ソフィアの所がいちばんマシな気がする。横川はソフィアの右側にいるのでソフィアの左側へ速いパスを投げる。ソフィアがそれに飛び付くようにして取る。体勢が崩れていたが、そのまま不二子にパス・バックする。不二子が徳寺を振り切って何とかフロントコートにボールを進める。
 
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残りは16秒ほど。
 
N高校は攻める必要は無い。ただ時間を潰しておけばいいはずであった。
 
しかしずっとドリブルしたままという訳にもいかないので不二子が千里にパスする。すると佐藤はわざと千里から2歩ほど離れた。
 
「撃ちなよ」
と佐藤が言う。
 
「いや、ここは撃つ必要無いから」
と千里は答えるが
 
「いいの?撃たなくて。ここで撃てばN高校の勝利は確定するのに」
「わざわざ心配してくれてありがとう。でも撃って失敗したらやばいもん」
「千里が失敗するわけないじゃん」
 
とりあえず反対側のサイドに居るソフィアにパスする。するとソフィアの前に居た横川がパスカットしようと飛び出してソフィアにぶつかってしまう。
 
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笛が鳴る。
 
さきほど渡辺が絵津子と激突した時と似たような状況だが、ソフィアはぶつかられてボールはこぼしたものの、2〜3歩動いただけで倒れなくても済んだ。
 
「チャージング、白6番」
と宣告され、横川は
「すみません」
と言って手を挙げている。
 
それでソフィアもスローインしようとサイドラインに行きかけたのだが、審判は首を振ってフリースローを指示している。
 
「え?」
とソフィアが声を出し、
「あっ」
と千里が声を出した。
 
P高校のチームファウルが4になっていたのである。第4ピリオドに北見が不二子のドライブインを停めようとして1度、渡辺が絵津子とダブルファウルになったのが一度、第7ピリオドに伊香が久美子のスリーを停めようとして腕にぶつかり、そして先ほどの渡辺が絵津子に激突したので4つになっていた。この状況下ではディフェンスファウルは、シュート動作中でなくても、フリースロー2本が与えられるのである。
 
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「あのお、フリースロー要らないからスローインに変更できません?」
とソフィアが言ったが、審判は
「ダメです」
と答える。
 
古いバスケットのルールでは2本のフリースローの内の1本をスローインに変更することができたのだが(選択の権利:フリースローが苦手な選手のために設けられたルール)、現在それは認められないことになっている。そのルールがリードしている側の時間稼ぎに悪用されていたからである。つまり今のN高校のような立場だ!
 

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仕方ないのでソフィアはフリースロー・サークルに行く。どうせ撃たないといけないのなら、きちんと入れた方が良い。
 
左側にはゴール側から宮野・暢子・河口、右側には佐藤・揚羽と並ぶ。
 
審判がソフィアにボールを渡す。1投目。
撃つ。
入る。
10-12.
 
審判がソフィアにボールを渡す。2投目。
撃つ。
ボールはリングの左端で跳ね上がる。
 
むろん入れてしまうとP高校ボールになるので、ここのリバウンドに賭けたのである。左に当てたのは佐藤よりは宮野の方がマシという判断だ。
 
宮野と暢子が走り寄ってジャンプする。ふたりはほぼ同時にボールを掴んだ。そしてそのまま着地する。どちらもボールを離さない。
 
笛。
 
ヘルドボール。
 
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そして先ほどのヘルドボールでN高校のスローインになっていたので今回はP高校のボールとなる。残り時間はわずか7秒。
 

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N高校がタイムアウトを取る。
 
「申し訳無い。ボールを確保できなかった」
と暢子。
「済みません。自分がぶつかられてもボールを離さなければ」
とソフィアは言うが
 
「いや、あの場合はファウルを取った方が負けているP高校有利になるから、その場合は審判はアドバンテージは取らないんだよ」
と宇田先生は言う。
 
「え〜?じゃあの場面はファウルのされ損ですか?」
「そもそも時間稼ぎしているこちらが悪い」
「うーん・・・」
 
「いや、その前に佐藤さんから撃ったら?と言われた時に私が撃っていれば良かったです」
と千里。
 
「何か君たち色々おしゃべりしてるね?」
「済みませーん。話しかけてくるんですよ」
 
「まあ誰が悪いというのもない。横川君のはほんとにうっかりぶつかってしまったように見えたけど、あの場面はわざとファウルするのも、公的に認められている戦術なんだよ」
と宇田先生は言う。
 
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「やはりバスケットは格闘技だな」
と暢子が言っている。
 
「とにかく残り7秒、何としてでも相手のシュートを阻止しましょう」
と揚羽。
 
「よし、頑張るぞ」
「ファイト!」
 

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選手がコートに戻る。
 
N高校はソフィアに代えて留実子を入れ、P高校は徳寺に代えて工藤を入れる。工藤が出たことでP高校も全員出場になる。
 
その代わった工藤がスローインしてP高校が攻めて来る。佐藤−千里、宮野−暢子、河口−留実子、工藤−不二子、横川−揚羽とマッチングする。ここで一番警戒しなければならないのがスリーである。その可能性のある佐藤・横川に警戒するので横川の担当は揚羽にした。
 
工藤→宮野→河口と速いパス回しの末、横川にボールが来るが揚羽が激しくディフェンスしている。さすがの横川も撃てない。時間はどんどん無くなっていく。河口がヘルプに来るのでそちらにパス。すると河口はスリーポイント・ラインの外側からシュートを撃とうとした。
 
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それを留実子が停めようとして腕にぶつかる。河口がシュートしたのと同時に終了のブザーが鳴る。
 
そしてシュートされたボールはリングのすぐ近くのバックボードに当たって、そのまま落ちてきた。
 
笛が鳴る。
 

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「チャージング、青の18番」
と審判が宣告し、留実子は素直に手を挙げて
「済みません」
と謝る。
 
今のはボールの軌道を考えると、留実子がチャージングしていなかったら、あのままゴールに飛び込んでいたと千里は思った。河口は決して遠くからのシュートは上手くないのだが、偶然にも上手くいったのだろう。
 
フリースローだが、スリーポイント・ラインの外側なのでフリースローは3本である。残り時間はもう残っていない。このフリースローで勝負が決まる。
 
河口の左側に暢子・宮野・揚羽、右側に留実子・佐藤と並ぶ。
 
審判が河口にボールを渡す。1投目。
撃つ。
入る。
11-12.
 
審判が河口にボールを渡す。2投目。
撃つ。
入る。
12-12.
同点!
 
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札幌P高校の応援席が物凄い騒ぎだが、N高校の応援席もひたすらエールを送っている。
 
審判が河口にボールを渡す。3投目。
撃つ。
 
ボールは一瞬入ったかと思ったのだが、リングの内側で跳ね返り、外に飛び出してしまった。
 
再延長!!
 

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「これいつまで延長戦続くんだろうね」
と若葉が言ったが
「バスケットの試合に引き分けの規定は無いからたとえ50回・100回になっても続けられるはず」
と野村君は言う。
 
「きゃー」
「但しあまり長くなりすぎたら、大会運営側の判断で続きは明日なんてことになるかもね」
「そうしてあげたいよ!」
 
そんなことを言っていた時、入口の所で若葉たちに招待券を発行してくれた門前専務がやってきた。
 
「どうですか?」
「なんか凄い試合になってますね」
「決勝戦にふさわしい熱戦になってますよ。これ下馬評では札幌P高校が圧勝するだろうみたいな予想が多かったんですけどね。旭川N高校が凄く頑張ってますね」
「へー。P高校って私も名前聞いたことあるし、以前から強い所ですよね?」
「ええ。インターハイでもウィンターカップでもいつも上位に定着してますよ。今年夏のインターハイの優勝校なんです」
「すごーい!」
「旭川N高校はウィンターカップは12年ぶりの出場なんですよね」
「へー」
「インターハイには時々出ていたんですけどね。でもこれまではたいてい1−2回戦で負けていたのが、昨年・今年と2年連続3位だったんです」
 
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「それってなんか強い選手が出てきたんですか?」
「ええ。あの17番付けてる村山選手ってのがスリーの名手なんですよ」
「あの長い髪の選手ですね。入れた所見ました。なんかフォームがきれいだなあと思ったんです」
「教科書のビデオにしたいくらいですよ。昨年のインターハイ、今年1月のオールジャパン、今年のインターハイに、秋に行われたU18アジア選手権でもスリーポイント女王になってますから」
 
「凄い選手が出てきたんですね。ロンドンオリンピックが楽しみですね」
「ええ。今はU18代表ですけど、2012年頃はフル代表に選ばれる可能性あると思いますよ」
「凄いなあ」
 
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女の子たちのウィンターカップ・最後の日(11)

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