広告:にょたいかっ。 1 (MFコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■女の子たちのウィンターカップ・最後の日(8)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

N高校の攻撃。
 
雪子がドリブルで攻め上がる。千里にボールが来る。千里は無心で佐藤に対峙する。佐藤がまるで誘うように左側に一瞬視線をやる。その瞬間千里は右に行くフェイントを入れてからシュートを撃つ。
 
佐藤はそのボールをきれいにブロックする。
 
駆け寄ってきた徳寺がボールを確保して速攻。
 
しかし俊足の雪子が全力で走って彼女の前に回り込む。それでファースト・ブレイクはならないものの、徳寺は追いかけて来た渡辺に、そちらを全く見ずにボールを送る。絵津子が必死に追いかけてきたものの停めることはできず、渡辺は華麗にレイアップシュートを決める。
 
「2ポイントゴール、札幌P高校・渡辺純子」
のアナウンス。
 
↓ ↑ Bottom Top

4-0.
 

この後、千里は佐藤と4度対峙するものの、佐藤の攻めを千里は全く停められず千里が攻撃の時は佐藤を全く抜けない。延長ピリオドになってから6連敗である。その間、絵津子と渡辺の所は半々の勝率で、延長ピリオド3分が経過した所で、N高校は絵津子が4点、暢子が2点取ったのに対して、P高校は佐藤がスリー1本を含めて7点、渡辺が4点、猪瀬が2点を挙げていた。
 
ここまで13-6.
 

↓ ↑ Bottom Top

「千里さん、どうしたんですかね」
と観客席で見ていたF女子高の晴鹿が言う。
 
「疲れちゃった?」
と鈴木志麻子が言う。
 
彰恵は腕を組んでじっと見ている。
 
百合絵が言う。
「なんかね。後半になってからの千里って、おかしいんだよ。ふだんの千里じゃないんだよなあ」
 
「暴走してるんですか?」
「逆。全くエンジンが掛かってないみたい。もしかしたら敢えてエンジンを停めたのかも知れないけどね」
と百合絵。
 
「なんで?」
「動き回っている防御壁は全ての銃撃を停められるかも知れないけど、全ての銃撃を通してしまうかも知れない。しかし停まっている防御壁は少なくともそこに飛んできた銃弾だけは停められるんだよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「なるほどー」
「前半の千里がいつもの千里。激しく動き回って玲央美の攻撃を停めようとしていたけど、玲央美って千里の癖を完璧に把握している感じなんだよね。だから全部抜いてしまう。それで敢えて動かない壁になったんじゃないかな」
 
百合絵はそう言ったが、彰恵はこう言う。
 
「でも壁が動かないと分かったら、攻撃側はそこを外して銃撃するんだよ。今はそういう状態」
「だから全部通ってしまうのか」
 
「千里もそろそろ自分のやり方が間違っていることに気づくべきだね」
と彰恵は言った。
 
「でも玲央美はほんとに凄い。私も2割くらいしか停めきれなかった」
と百合絵は言うが
 
「いや、玲央美の攻撃を2割も停められたら物凄く優秀。あれを全部停めてしまう花園亜津子が異常なだけ」
 
↓ ↑ Bottom Top

と彰恵は言った。
 
「でも今千里がやってるやり方って花園さんのやり方に似てない?」
と百合絵。
 
「花園さんはね。全面を壁にしちゃうんだよ。だから玲央美が停められる」
と彰恵。
 
「やはり異常な人なのか」
 
「回転している扇風機の羽根みたいなもの?」
「それは桜木花道のフンフン・ディフェンスだな」
「むむむ」
「むしろ、見えそうで見えないミニスカートみたいなもの」
「ほほぉ」
 

↓ ↑ Bottom Top

時計が残り2分を切った所で宇田先生がタイムを取った。ここまでの点数は13-6である。
 
「済みません。全部抜かれてしまうし、点数も入れきれなくて」
と千里はみんなに謝った。
 
「後半の千里は半々の確率で玲央美を停めていた。半々の確率なんだから、たまたまそれが連続しているだけなんじゃないのか?気にすることないと思う」
と暢子は言う。
 
「村山君、君はここまで物凄く頑張った」
と宇田先生は言う。
 
「はい」
と答えながら、ああ、交代かなと千里は思った。
 
「このまま負けたら、惜しかったね。頑張ったのに、とみんなは言うだろう」
と宇田先生。
 
「はい?」
「君、それでいい?」
 
「いやです」
と千里は答える。
 
↓ ↑ Bottom Top

「だったら、どうしようかな」
と宇田先生。
 
「玲央美を倒します」
「うん。君、花園さんに勝ちたいと言ってたよね」
「はい」
「それを考えすぎてるんじゃないかな。スポーツって誰かに勝とうと思って努力しても、なかなか自分の技は上がらないんだよ」
と宇田先生は言う。
 
「ただ自分を高めることを考えて黙々と努力する。その結果、誰かを越えることもある」
 
そんな宇田先生のことばを聞いた時、千里は唐突に一昨日、富士さんと宮原さんが来てくれた時、富士さんが言っていたことばを思い出した。
 
『自分の欠点とかはあまり考えなくていいよ。自分の長所をぶつけるような戦い方をするのがきっと勝利への道』
 
そうだ。自分は本来の自分のやり方を殺して、他人の猿まねをしていただけなんだ。だから玲央美も不満だと言った。やはり自分は自分のやり方でやるしかないんだ。自分は花園さんとは違うんだから。
 
↓ ↑ Bottom Top

「私はこの試合に勝ちます」
と千里は言った。
 
「うん。勝って来なさい」
「はい!」
 

それで誰も交代しないまま、雪子/千里/絵津子/暢子/紅鹿というメンツで出て行く。P高校も交代せずに出てきた。
 
そのコートに戻った千里の姿を見て、観客席の彰恵が
「おっ、普通の千里に戻ったね」
と言った。
 
「でもそうしたら結局全部レオちゃんにやられたりして」
「ふふふ。どうだろうね」
 
コートに出てきた千里の雰囲気を見て、その玲央美も頷いている。それでなくちゃという顔である。
 
試合が再開される。
 
試合はN高校のスローインで再開される。
 
雪子がドリブルして攻め上がり、センターラインを越えると即千里にパスする。千里は佐藤と向き合ったまま最初に「右に行く」と決めた。そしてそのあと左右のフェイクを複雑に入れる。そして数回目の右フェイクをした瞬間、
 
↓ ↑ Bottom Top

ほんとうに右を抜いた。
 
「あ」
と佐藤が声をあげる。
 
抜いたすぐ先にスリーポイント・ラインがある。速いモーションでスリーを撃つが、佐藤は彼女のその軽快なフットワークで千里が撃った時にはもう目の前に回り込んでいた。しかし千里のリリースがわずかに速く、佐藤のブロックは成らなかった。
 
「ああ」
という顔をして佐藤が天をあおぐが、嬉しそうである!!
 
「3ポイントゴール、旭川N高校・村山千里」
のアナウンス。
そして点数は13-9.
 

↓ ↑ Bottom Top

P高校が徳寺のドリブルで攻め上がる。
 
徳寺から佐藤にパスが来る。千里と対峙する。
 
佐藤は千里と目が合った次の瞬間、ジャンプしてスリーを撃った。ところが千里は佐藤が撃つのとほぼ同時にジャンプしていた。背丈の差があるので完全なブロックはできなかったものの、ボールの勢いを殺すことには成功。ボールはちょうど絵津子と渡辺の付近に落ちてくる。ふたりがジャンプしてボールを取ろうとするが、164cmの絵津子と178cmの渡辺では、当然渡辺が有利である。
 
このボールを渡辺が確保して着地する。
 
ところが着地の衝撃を弱めるのと次にシュートに行く反動を得るため渡辺が着地の際に膝を曲げたのを見て、その着地の瞬間、絵津子が渡辺の上から、ボールをきれいに奪い取った。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ええ!?」
と渡辺が声を挙げている。
 
ふたりは良きライバルではあるが背丈は渡辺の方がずっと高い。しばしば絵津子はその背丈の差、腕の長さの差にやられている。しかしこの時は完璧に絵津子が一矢報いたのであった。
 
そしてその時は既に千里が全力で向こうのゴール目指して走っている。絵津子はその千里の背中めがけて矢のようなボールを投げる。そのボールが千里の所に到達する瞬間、千里はジャンプして身体を回転させ、ボールを受け取る。
 
そして両足で着地した所はもうスリーポイント・ラインのすぐそばである。千里はゴールの方に向き直ると、美しいフォームでシュートを放つ。佐藤は千里のすぐそばまで来ていたものの、さすがに何もできなかった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「3ポイントゴール、旭川N高校・村山千里」
のアナウンス。
そして点数は13-12.
 

このあと両軍1度ずつ攻撃機会を失敗したあと、再びP高校の攻撃。今度は徳寺は佐藤の所に千里、渡辺の所に絵津子が居て、一筋縄ではいかないのを見て、紅鹿と対峙している伊香の所にパスする。
 
伊香はシュートしようとしたのだが、長身の紅鹿は大きく手を広げて細かく伊香の前を左右に動き回り、とてもシュートさせてくれない。そこで仕方なく隣の猪瀬の所にパスする。それと同時に伊香は猪瀬の所に走り寄ってスクリーンをセットする。
 
猪瀬が暢子との争いを制してボールをキャッチ。激しいぶつかり合いで暢子が倒れたものの審判は笛は吹かない。そして猪瀬は伊香のスクリーンを使用して回り込み、紅鹿のブロックのタイミングを巧みに外してシュート。
 
↓ ↑ Bottom Top

「2ポイントゴール、札幌P高校・猪瀬美苑」
のアナウンス。
そして点数は15-12.
 

N高校のスローインで試合を再開しようとしたのだが、暢子が起き上がれずにいる。審判が駆け寄って
 
「君、大丈夫?」
と声を掛ける。暢子は足首を押さえている。
 
「平気です。ちょっとひねっただけです」
と暢子は言ったものの、ベンチから飛び出してきた南野コーチは
「交代させます」
と言う。それで暢子が下がって、ソフィアが出てくる。
 
暢子は冷却スプレーを掛けてもらっている。薫が患部に手かざしのような感じのことをしている。ああ、気功だなと千里は思った。
 
ゲーム再開。
残りは38秒である。
 
その代わって入ったソフィアが雪子にスローインし、雪子がドリブルで攻めあがる。
 
↓ ↑ Bottom Top

千里の所が千里と佐藤で激しいポジション争いをしているのを見て、雪子はソフィアにパスをした。ソフィアの前には猪瀬がいるのだが、猪瀬はソフィアが進入してきてシュートを狙うのではないかと考えたようである。少し距離を置いて守っている。
 
しかしソフィアは雪子からパスをもらうと、いきなりスリーを撃った。
 
入る!!
 
「3ポイントゴール、旭川N高校・水嶋ソフィア」
のアナウンス。
そして点数は15-15.
 
同点!!!!
 
旭川N高校の観客席から凄まじい歓声が沸き上がった。
 
そして残りは26秒!
 

↓ ↑ Bottom Top

P高校はゆっくり攻め上がろうとしたのだがN高校はプレスに行った。徳寺が危うく雪子にボールを盗られそうになったのを何とか猪瀬に繋ぐ。しかし猪瀬はソフィアに激しいプレスを掛けられて前に進めない。
 
佐藤と渡辺が、千里・絵津子をくっつけたままま走り寄る。佐藤が猪瀬のすぐ後ろでボールをもらい。更に渡辺につなぐ。渡辺が何とかして8秒ギリギリでフロントコートにボールを運んだ。
 
と思ってホッとしたら、絵津子が斜め後ろの死角から足音を殺して近づき、スティールしてしまう。
 
「嘘!?」
と渡辺は叫んだが、そのまま絵津子が速攻しようとしたら、その前に居た佐藤がきれいに絵津子からボールを奪う。
 
佐藤が再度渡辺にパスするが、その間にN高校は紅鹿・雪子・ソフィアの3人がもう自コートに戻っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

速攻はできないのでオフェンス態勢が整うのを待つ。
 
ゲームの残り時間は10秒を切る。
 
徳寺にボールを渡して、ふたりの場所を入れ替える。徳寺が猪瀬にボールを送る。ソフィアと激しい争いの末、猪瀬は何とか中に進入してシュートを放つ。しかし外れる。リバウンドを紅鹿・伊香・絵津子・渡辺で争い、何とか渡辺が取る。自分でシュートするも紅鹿にブロックされる。こぼれ玉を伊香が取って佐藤にボールを送る。
 
佐藤と千里のマッチアップ。残り時間はもう3秒を切っている。短時間の、しかし複雑な心理戦を経て、佐藤は右を抜こうとした。しかし千里がきれいに反応して停める。すると佐藤はその時地面に付いていた右足だけで踏み切って斜め後ろにジャンプした。
 
↓ ↑ Bottom Top

そして空中でスリーを撃つ。
 
ところが千里もその佐藤の動きを見て思いっきりジャンプしていた。
 

千里の指先がボールにわずかに触れる。ボールはリングにはぶつかったものの跳ね返って大きく外れる。千里の指に触れたことでボールの軌道がわずかに変わったのである。
 
こちらサイドに居た絵津子と渡辺がジャンプする。ピリオド終了のブザーが鳴る。渡辺がボールをタップして、ボールはゴールに飛び込んだ。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
女の子たちのウィンターカップ・最後の日(8)

広告:不思議の国の少年アリス (2) (新書館ウィングス文庫)