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一方この日、千里たちは明日の決戦にそなえて、練習は夕食前で切り上げ、夕食は縁起担ぎでカツオ(勝つぉ)のタタキを含むお刺身を載せたちらし寿司を食べた後、みんなで今日のP高校とF女子高との準決勝の試合をビデオで見た。
そしてその後、ベンチ枠の15人と薫は都内のエステに行き全身マッサージをしてもらった。ショッピングモールの中に入っているので順番待ちするのも安心である。単独店舗の場合はこの人数が待合室に入らない場合もある。お昼頃予約していたので、エステティッシャンを増員してくれていたようで一度に5−6人ずつ施術できるようであった。
「女性専科と書いてあるぞ。男は外に出てろよ」
「あんた男じゃないの?」
「あんたこそ、ちんちん本当に付いてないの?」
などとジャブの応酬があるのはいつもの風景だ。
「私、選手じゃないけどいいのかなあ」
と薫が言っていたら
「練習にたくさん付き合ってもらっているし」
と暢子が言う。
「ただ、本当に女の身体かどうかに疑惑があるが」
と言う。
「それはお目こぼしして〜」
「いや、実際に既に女の身体なんだろ?」
「え、えっとぉ・・・」
マッサージは気持ち良く、本当にここ数日の疲れが取れる気分であった。やはり足の筋肉はかなり凝っているのが、揉まれているとよく分かる。胸も揉まれたが、そんな所を揉まれていると、私おっぱい大きくして良かったなとあらためて思った。
千里はスターターの特権で最初に施術してもらい、その後他の子の施術が終るのをお店の近くにあるフードコートでお茶を飲みながら待っていたのだが、その待ち時間にトイレにでも行くような顔をしてひとりみんなの所から離れ、貴司に電話をしてみた。しかし電話はつながらなかった。忙しいのかなあと思いメールを送ったものの、そのメールの返事もその日は無かった。
みんなの所に戻ろうとしていたら、バッタリと佐藤玲央美と出会う。
「奇遇だね〜」
「食事?」
「うちはエステでマッサージしてもらった」
「あ、私たちは試合が終わった後すぐにしてもらったんだよ」
「じゃ同じ店使ったんだ!」
「宿舎が同じ市内だしね」
「確かにね〜」
「うちのチームは今日はここで回転寿司を思いっきり食べてきた」
「回転寿司もいいね〜」
何となく近くにあったベンチで会話する。
「まあ泣いても笑っても明日で最後。お互い全力投球だね」
「うん。もうこちらも隠し球は無いし、お互いの手の内もよく分かっているし、実力と実力の勝負だよ」
「私さ」
と千里はその心情を彼女の前で告白する。
「インターハイが目標だったし、あそこで負けた時に、自分の目標を見失ってしまってね。それでこの後何をすればいいんだろうと思っていた時、国体の本戦をやっている最中に、このウィンターカップをあらためて最後の目標にしようと思ったんだよ。明日の試合に私は自分のバスケ人生の全部を注ぎ込むつもり。だから、明日の試合が終わったら、私はもうバスケガールではなくて、ただの17歳の女の子かな」
と千里は言う。
「それはある意味、私も似た心情かも」
と玲央美は言う。
「1年生の時はあまり何も考えずにインターハイ、国体、ウィンターカップと行ってきた。でも2年のインターハイに行けなかった時、自分の中で何かが変わったんだ。それまでは自分は何となく高校でバスケして、大学なり実業団なりでバスケして、大学出たらプロになって、というのを漠然と考えていたんだけど、もっとひとつひとつの試合を大事にしなければいけないと思った。だからあの後、私はどんな所との試合にも全力投球するようになった。でも、毎回全力投球って、無茶苦茶エネルギー使うじゃん。それで自分なりにこういう戦い方をする期限を決めようと思った。それが私の場合、このウィンターカップだったんだよ。だからその先は今の所なーんにも考えていない。実は誰にも言ってないけど、ウィンターカップとその後のオールジャパンまで終わったら、私、バスケ辞めちゃうかも」
と玲央美は言った。
札幌P高校はインターハイ覇者なのでオールジャパン(皇后杯)にも出場する。
千里と玲央美はしばらく無言であった。
千里がコーヒーを飲む。玲央美もコーヒーを飲む。
「でもレオちゃんがバスケ辞めるなんて世間が許さないよ」
「千里こそ。フォワードは捨てるほどいるけど、シューターは稀少だもん」
そんなことを言ってから千里と玲央美は笑った。
「でもとにかく、明日の試合、お互い全開で頑張ろうよ」
「うん。全身全霊投入」
「手抜きとかするなよ」
「そんなことしたら罰として女装だな」
「女装って私たち女だよね?」
と千里が訊くと玲央美は「くっくっくっくっ」と凄くおかしそうに笑った。
「参考までに、これ去年のインターハイ道予選で負けた後の太平キャプテンの女装写真」
と言って玲央美は携帯を開いて見せてくれた。
「これは恥ずかしい!!!!」
「だけど去年の札幌P高校キャプテンの太平さんって、あまりゲームには出てなかったよね」
「そうそう。背番号は4を付けてるけど、めったにコートには出ないから大抵5番付けてる副将の片山さんがキャプテン代行をしていた」
「そういうキャプテンもあるんだね」
と言いながら千里は、うちも4番の揚羽の出番が少なく、5番の雪子がキャプテン代行していることが多いなと思っていた。しかし世話好きの揚羽に対して孤独を好む雪子という対照があるので、キャプテンとしては揚羽の方が適切なのである。揚羽は全校生徒15人などという僻地の小学校を出ているので他人と連帯感を持ちやすく、雪子は小さい頃いじめられていたことから他人との交流を拒否する傾向がある。雪子は5年生になってミニバスのチームに入って初めて友だちを得たのである。
「キャプテンのあり方も色々なんじゃない?」
と玲央美は言う。
「私はあまりリーダーシップ無いんだよね。ひたすら自分が努力するだけ。聖子がいるから私は気楽にしてられる。ほんとうは私は副将やって聖子に主将して欲しかったんだけど、U18,19日本代表をキャプテンにしない訳にはいかないとか言われて、やらされたんだよ。でも実はほとんどキャプテンとしての仕事はしてない」
玲央美は高校1年の時もU18日本代表に選ばれ、花園さんたちと一緒にU18アジア選手権を戦っている。高校2年の時はインターハイを欠場したおかげでスロバキアで開かれたU19世界選手権(2007.7.26-31 *1)に高校生トップクラス選手では唯一人参加した。
「確かにキャプテンが中心選手でなくてもいいのかもね」
と千里も言う。
「太平さんは、みんなをまとめるのが凄くうまかったよ。劣勢になった時もみんなの気持ちを鼓舞してくれたし」
「確かにそれがいちばん大事なのかもねー」
(*1)2007年U19女子世界選手権は8月5日までだが、日本は玲央美以外の高校生トップ選手が参加できなかったこともありグループC最下位で、決勝トーナメントに進出できなかったため、7月31日で試合日程が終了してしまった。玲央美は翌8月1日に単身帰国してインターハイの準決勝と決勝(8.2-3)を観戦した。
なお、今日の準決勝・F女子高−P高校戦で、スリーの本数で負けた伊香秋子は約束通り、金太郎の格好をした写真を撮り(撮影したのは江森月絵)、晴鹿に送ったほか、千里にも送ってきてくれた。本人の名誉のため、他の人には見せなかったが、千里は思わず「可愛いじゃん」とつぶやいた。
マッサージしてもらって宿舎に戻った後は、やはり外が寒かったのであらためてトイレに行ってくる子が多い。むろんみんな女子なので女子トイレに行く訳だが、ひとりだけ男子トイレに行ってきた留実子が
「座っておしっこすると女になってしまったみたいで変な気分だ」
などと言っていた。
「ああ、個室使ったのね?」
と千里が訊く。
「うん。ちんちんが無かったから」
と留実子。
「ああ、エステしてもらうのに外してたのね?」
「そうそう」
すると近くに居た絵津子が訊いた。
「こないだから1度聞いてみようと思ってたんですけど、サーヤ先輩、よく男子トイレ使ってるみたいですけど、いつも個室に入るんですか?」
「立ってするよ」
と留実子。
「それをどうやってしてるのかなと思って」
「見せてあげようか」
「いいんですか?」
それで興味津々の絵津子・ソフィア・不二子・紅鹿の4人が留実子や千里たちの部屋にやってくる。
「エステしてもらうのに付けてちゃまずいだろうと思って外してたんだよね」
と言って、留実子は《おちんちん》を彼女たちに見せていた。留実子は高校1年の頃から日常的におちんちんを取り付けていたようであるが、インターハイで注意されたことから、ウィンターカップでは、道予選でも本戦でも試合中は、取り外しているようである。
「きゃー、おちんちんだ!」
と紅鹿が悲鳴(?)をあげる。
「すごーい。たまたまも付いてるんですね」
「付いてなきゃ男湯パスできない」
「サーヤ先輩、男湯に入るんですか?」
「残念ながら胸があるから男湯には入れないんだよ」
「そっかー」
「でも紅鹿ちゃん、おちんちん似合いそう。1本お股に付けておかない?」
と留実子。
「悪くないな。それで男の子になっちゃおうかな」
「男の子になるのなら、昭ちゃんからまきあげた男子制服、紅鹿に譲ろうか」
「あ。一度貸して」
「OKOK」
「でも男の子のおちんちんって取り外し可能だったのね」
と絵津子が言うが
「いや、取り外せるってのは実は男の子ではなくて女の子の身体である気がする」
と不二子は常識的なことを言う。
「雪子さんから聞いたのでは、千里さんは、中学時代女湯に入っている所を見付かると、おちんちんは部屋に忘れてきたとか言ってたらしいですよ」
「要するにその時点で、もう本物は除去済みだったということだな」
と暢子が言う。
「千里は本当は小学3年生頃におちんちんもタマタマも取ってしまったんだと思う」
などと留実子が言う。うーむ。。。
「すごーい!」
「でもこれ、なんかリアル〜」
「リアルって、ソフィー、本物見たことあるの?」
「お父さんがよくお風呂入ったあとぶらぶらさせてたけど、さすがにじっとは観察したことない」
「私は弟を解剖してつぶさに観察した」
と絵津子。
「えっちゃんの弟はかなりセクハラされてるみたいだ」
「男の子のままだともっとセクハラされるというので女の子になりたくなったりして」
「弟が妹になっちゃったら、さすがに解剖はしないよね?」
「女の子を無理矢理裸にしたら犯罪だよ」
「男の子を無理矢理裸にするのも充分犯罪だと思う」
「あいつ何度かスカートも穿かせてみたけど、あまり可愛くなかったなあ」
「いろいろやらされているようだ」
「でも弟のは先がかぶっていたよ。大きくなると出てくるんだけど」
「伸び縮みするタイプもあるよ、僕は使ったことないけど」
「すごーい!」
留実子は恋人が男の子なので、大きくなったサイズは不要のはずである。絵津子たちに今見せているものもサイズは見た感じ6-7cmのようだ。
「で、実際にはこれ、このシリコン製のおちんちん本体と、このSTPという道具との組合せなんだよ」
と言って留実子は《トラベルメイト》をおちんちんから取り外してみせる。
「ああ、これでおしっこをもらさずに出せるわけか」
「口が広くなってるんですね」
「そうそう。これはプラスチック製で再利用可能だけどマジックコーンとか言って紙で出来ていて使い捨てのもある」
「でも取付位置がずれたりしませんか?」
「おちんちんのこの突起がちょうど、あそこに当たるようにすればいいんだよ」
「それが目印な訳か」
「あれ?でもそうしたら、おちんちんをいじったら、あそこも気持ち良くなるんですか?」
「そうそう。だから付けたまま男の子みたいにオナニーできるんだよ」
「きゃー」
「千里さんは小学生の内におちんちん取っちゃったのなら、やはりこういう感じので誤魔化してたんですか?」
突然話がこちらに飛んできて千里は焦る。
「私は立っておしっこしたことないから、FUDは使ってなかったよ」
と取り敢えず言っておく。
「なるほどー」
「確かに小学生の頃、男子のクラスメイトとかに訊くと、千里はいつも個室に入っていたらしいから」
「へー、その頃は男子トイレ使っていたんですか?」
「私、中学までは男子トイレ使っていたけど」
「それはさすがに嘘でしょう」
「だって千里さん、中学はセーラー服で通学していたんですよね?雪子さんから聞きましたよ」
うーん。雪子から聞いたのに、なぜそういう話になっているんだ?
「薫も既に本物は取ってしまって、親とかにはニセモノで誤魔化してるんだろ?」
と暢子。
「いや、逆にまだ付いているのを、あたかも付いてないようにして誤魔化してるんだよ、ここだけの話。玉は取っちゃったけどね」
と薫。
「付いているのなら、見せてごらんよ」
「さすがに女の子の前で見せるようなものではないし」
「みんなで薫を取り押さえて解剖しようか」
「勘弁して〜」
「でもそういう誤魔化しはお医者さんには通用しないはずだもん。薫、女子選手としての出場許可が出たんだから、既におちんちんも無いんだと思うんだけどなあ」
と千里にまで言われている。
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女の子たちのウィンターカップ・接戦と乱戦(12)