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■女の子たちのウィンターカップ・接戦と乱戦(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-08-15
 
暢子が倒れながら投げたボールは高い山なりの軌道を描く。
 
そしてバックボードにも当たらず、直接ネットに吸い込まれた!!
 
審判がゴールを認めるジェスチャーをしている。スコアボードの数字が73対74になった。そして残りは4.6秒!
 
L学園はここでタイムを取らず速攻に賭けた。
 
岡田さん・赤田さん・福田さんが全力疾走している。N高校も必死で戻る。赤山さんが長いボールをスローインする。
 
時計はこのボールが味方でも敵でも誰かに触れた所から動き出す。
 
激しいキャッチ争いの末、岡田さんがボールを確保した。彼女はしっかり狙いを定めてシュートしようとする。そこに留実子がジャンプしてブロックを試みる。しかし岡田さんはそれを見越してわざとタイミングをずらしてシュートを撃った。
 
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が、そこに走り込んできた千里がその真のタイミングに合わせて思いっきりジャンプする。千里の指はボールにほんのちょっと触れただけであったが、ボールに横回転を掛ける結果となった。
 
そしてその回転のためにボールは本来の軌道を外れ、バックボードには当たったものの、そのまま下に落ちてくる。紅鹿・不二子・福田・赤田が必死でそのボールに飛び付く。
 
最初赤田さんがボールを確保したが、彼女がシュートしようとボールを掲げたところで、不二子がきれいにスティールした。
 
もう時間が1秒も残っていなかったので、赤田さんも相手をかわして撃つ所まで考える余裕が無かった、その隙をついたのである。
 
そして不二子がボールをしっかり胸に抱いたままの状態で試合終了のブザーが鳴った。
 
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ボールを抱いたままの不二子に紅鹿が飛び付いて喜びを表す。千里と留実子も駆け寄る。暢子は実は滑って転んだ所からすぐには起き上がれずに居たのだが、何とか頑張って歩み寄り、不二子の頭を何度も叩いていた。
 
暢子は実は起き上がれずにいたことから副審が駆け寄って試合を停めるべきかどうか迷うように暢子に「君大丈夫?」と声を掛けたのだが、暢子は「大丈夫です。試合続けてください」と言ったので試合は続行されたのである。副審が笛を吹いていれば、L学園の速攻が成立していなかったので、N高校が有利になるところであったから、それで良かったのだろう。
 
主審が整列を促す。
 
両軍のメンバーが並ぶ。
 
「74対73で旭川N高校の勝ち」
「ありがとうございました!」
 
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両者握手したり、ハグしたりしてお互いの健闘を称えた。
 

「結果的には福田さんがフリースロー失敗した1点のロスが効いてきましたね」
と観戦していたP高校の伊香秋子は言った。
 
「うん。あれを2本とも決めていたら、暢子ちゃんのスッ転びシュートでも同点にしか追いつけなかった」
と佐藤玲央美。
 
「福田さん、自己嫌悪に陥るくらい悔しがるだろうなあ」
と渡辺純子。
 
「そしてその悔しさをバネにインハイには強くなって戻って来るよ」
と猪瀬美苑は言う。
 
「でも暢子ちゃんのスッ転びシュートだけど、あれって普通にシュートしようとしても完全にふさがれていたよね」
と宮野聖子が言う。
 
「うん。あそこは岡田さんを抜いたとしても、その向こう側に赤山さんがフォローに来ていた。ところが転びながらシュートしたことで、シュートが通る筋が生まれたんだよ」
と玲央美。
 
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「インターハイでは滑って負けたから、今度は滑って勝って。まあ神様も埋め合わせをしてくれたんですかね」
と純子。
 
「ただのうっかりさんだと思うけど」
「うん。暢子ちゃんって、凄そうで脇が甘い」
「あの子、走る時にしっかり膝をあげない癖があるんだよ。あれ直さないとまた転んだりすると思う」
 
「女子選手にはありがちなんだけどねー」
「うん。しっかり膝あげて歩くとスカート穿いてる時に転ぶから」
 
「たいていは中学生くらいで修正させられているんだけど」
「多分あの子が強すぎたから、変に修正せずにそのままのプレイスタイルを認めていたんだと思う。これまでの指導陣も」
 
「あの子、大学は関東か関西に出て行かないのかな。強い所で揉まれた方が伸びると思うんだけど」
と聖子は言うが
 
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「H教育大旭川校に入学が決まったらしい」
と玲央美。
 
「うーん。道内かぁ」
「こちらとしてはまた対戦できて嬉しいけど」
と徳寺翔子は言っている。彼女は札幌市内の大学に推薦で入学が決まっている。
 
「しかしこれで明日の準決勝の組合せが決まったね」
「うん。うちと岐阜F女子高、旭川N高校と東京T高校だ」
 

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千里は試合が終わってから、隣のコートで同時に行われていた愛知J学園と東京T高校の結果を見るのに、向こう側のスコアボードに目を遣った。
 
「嘘!?」
と千里が声を挙げると
 
「うん。T高校が勝ったんだよ」
と薫が言う。
 
「星乃ちゃんたち頑張ったんだ」
「まあ、分かる人はそう言うだろうね」
「ん?」
「多くの観客は、やはり今年のJ学園は弱いと言うだろうね」
「そんなこと無いのに」
「うん。私たちはJ学園が今年の陣容でも無茶苦茶強いことを知っている」
 
「だけど確かに結果だけ見れば、インターハイでも国体でも決勝戦に残ることができなかった。ウィンターカップはBEST8停まり。やはり弱いと言われてしまうよ」
と南野コーチは言う。
 
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「加藤絵理どうだった?」
と千里は薫に尋ねる。
 
「私もこちらの試合に集中していて、向こうの経過は時々チラっと見ていた程度だからよく分からない。でも彼女、この試合で16点取ってるよ」
「来年はもっと凄くなってるだろうね」
 
「J学園は今の3年生も去年の花園・日吉とかのメンツに比べると落ちるとか言われてはいるけど充分強い。1年生にも加藤さんがいる。しかし2年生に強烈に強いメンバーがいないんだよなあ」
と薫。
 
「去年のインターハイの時は凄く成長しそうな1年生がいたんだけどな。名前は何だったっけ?今出てこない。でも彼女、その後不調に陥ってしまったのか、去年のウィンターカップにも、今年のインハイ・ウィンターカップにも出てきてないんだよね」
と千里は言う。
 
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「まあ優秀な人ほどスランプに陥ると、脱出するのに時間が掛かるからね。更にあそこはベンチ枠争いが熾烈だから。しかしそういう選手もいるのなら来年のインターハイの頃には復活している可能性もあるよね」
 
「あると思う。だからやはりあそこは手強いんだよ」
 

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なお、この日のL学園との試合で千里は5本のスリーを入れて合計は28本である。一方岐阜F女子高の晴鹿は愛媛Q女子高との試合で3本のスリーを決めて合計25本となっている。そして札幌P高校の秋子は今日の福岡C学園との試合で昨日出られなかった鬱憤を晴らすかのように7本のスリーを入れて合計15本となっている。
 
試合の進行とは別にスリーポイント女王争いも静かに進んでいた。
 
その晴鹿と会場のロビーで遭遇した。
 
「晴鹿ちゃん、頑張ってるね」
と千里は声を掛ける。
 
「千里さん、準決勝進出おめでとうございます」
「そちらも、準決勝進出おめでとうございます。まあそちらは準決勝や決勝は常連だけど」
「そうでもないんですよー。昨年のインターハイは準優勝したけど、実はインターハイ・ウィンターカップでBEST4に残ったのは3年前が初めてだったんですよね」
「そうだったっけ?」
「うん。実はうちは新興勢力」
と傍に居る彰恵も言う。
 
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「愛知J学園とか福岡C学園とか東京T高校とかは昔から強かったんだけどね。札幌P高校にしても、うちにしても実はトップで活躍するようになったのは割と最近なんだよ」
と百合絵も言う。
 
「結構こういう勢力って入れ替わっているんだろうね」
「旭川N高校さんも上位で定着するといいね」
「取り敢えず私や暢子たちが抜けた後、来年が勝負かな。揚羽や絵津子がどこまで頑張ってくれるか次第」
 
「うん。卓越した選手が出てくると、その高校はかなり上まで行くけど、その後続くかという問題はあるんだよね」
「逆に、愛知J学園・福岡C学園とかは凄い。長く上位に定着してるって」
「ほんとほんと」
 
「愛媛とかも昔はG商業とか強かったんだけど、ここ10年くらいはQ女子高が代表を独占してるから」
「Q女子高の田里監督って以前どこかに居たんだっけ?」
「ううん。大学を出てすぐQ女子高の先生になったらしいよ」
「それで全国上位まで連れてきたって凄いね」
 
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「うちの八幡先生とかも、大学出てここの先生になって、最初はバスケ部が無かったからそれを創設して、やりたい生徒を集めてというところから始めているから」
「それでここまで来たのも凄いよ!」
 
「だけどうちの八幡先生は54歳。Q女子高の田里先生にしても、そちらの宇田先生にしてもまだ45-46歳くらい。一世代若いんだよね」
と彰恵が言う。
 
「N高校はインターハイに出られるか出られないかのボーダーラインを彷徨っていた時期が長いし」
「まあそういう高校が多いよね」
 

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そんな話をしつつ別れて千里たちN高校のメンバーはJRの駅方面に歩いて行く。晴鹿や彰恵たちF女子高のメンバーは会場前からバスに乗って宿舎に戻っていった。
 
「愛知J学園も福岡C学園もバス使っていたな」
と暢子が言う。
「うーん。予算の違いかな」
と千里。
「でも、うちとかは女子バスケ部員全部公費で連れてきているけど、県立高の**高校さんとか、**商業さんとかは、出場するメンバーのみで来ていたみたいだよ」
と薫が言う。
 
「まあ公立は予算が厳しいよな」
「有力校だと交通費は生徒会や同窓会から出ているみたいだけど、交通費さえ自費って学校もあるみたいです」
と揚羽。
 
「うん。メンバー15人とマネージャー・監督・コーチと18人連れてくるだけでも交通費が50-60万円は掛かるから、その予算も出ない学校は多いと思うよ」
 
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「常連校になるとお金を集める流れも確立しているけど、初出場の所とかは先生も寄付金集めが大変だろうなあ」
 
「まあインハイ・ウィンターカップのボーダーラインくらいだと同窓会もあまり盛り上がらないし」
「野球とかはメジャーだけどバスケはマイナーだし」
「特に女子は気にも留めてもらえないし」
「そうそう。男子バスケはまだマシなんだよね」
 
「うちだってインターハイに出たの自体がまだ7回目、ベスト8以上まで行ったのはわずか3回。ウィンターカップも2回目。充分ボーダーラインだけど、運良く大口の寄付者があるから何とかなっている」
 
「ボーダーラインかぁ・・・・」
と言って暢子が何か考えているよう。
 
「どうしたの?」
「いや、うちの3年生は色々ボーダーラインに乗ってる子が多いなと思って」
 
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「ああ、性別のボーダーラインに乗ってる人多いですね」
「確かに!」
 
「暢子だけだね。普通にストレートなのは」
と薫が言うと
「そうだなあ」
と言って暢子は遠くを見るような目をした。
 

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そんな話をしながら、千里たちは山手線方面まで出て、お昼御飯に牛丼を食べる。朝から予約して東京体育館を出る時にも再度電話を入れておいたお陰で、スタッフを増員した上に、少し早めに作り始めてくれていたようで、あまり待たずに食べることができた。それでも絵津子や不二子たちは何杯もお代わりしていた。
 
「そういえばこの牛肉はオスだろうか、メスだろうか」
などと言い出す子が居る。彼女の前には既に丼が3個積み上げられている。
 
「さあ、生きてる所を見てないから何とも言えないなあ」
「松阪牛はメスしか認定しないけど、他はオスメス入り乱れてると思う。但しブランド牛として認定されるのは基本的には、未経産メス牛か去勢オス牛」
 
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「松阪牛は雌だけなんだ?」
「メスの方がお肉が柔らかいから」
「あ、それは分かる気がする」
「だからオス牛はごつくならないように、速攻で去勢する」
「ああ、可哀想」
「可哀想も何もどうせ食べるんだし」
「確かにそうだ」
「お肉を柔らかくするのに女性ホルモンを投与している国もあるらしい。日本では禁止されてるけどね」
「それは世界的に禁止して欲しい気がする」
「某国産の牛肉にはかなり女性ホルモンが残留しているという話」
「それって、肉屋の娘は乳がでかいという話につながってたりして」
「よし。昭ちゃんにはそこの国の牛肉を食べさせよう」
「なるほどー」
 
「千里は牛肉食べておっぱい大きくしたの?」
「うちは貧乏だからお肉自体、そもそも食べてないよ」
「ああ・・・」
「でも豆腐の味噌汁とか、納豆とか好きだったよ」
「イソフラボンか!」
「男の娘さんには大豆製品、お勧め」
「ふむふむ」
 
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お店には30分ほど滞在したが、南野コーチが伝票を見たら58杯と書かれていた。人数はコーチを入れても17人しかいないのに!
 
「まあ2杯食べた子が多かったからな」
と暢子は言うが2倍しても34にしかならないんだけど!?
 

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女の子たちのウィンターカップ・接戦と乱戦(5)

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