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■女の子たちのウィンターカップ・接戦と乱戦(8)

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自分たちの試合を待ちながら観戦していたP高校の徳寺さんが言う。
 
「ああ、やはりあれは修正してきたね」
「多分昨日の試合中に本人も気づいていたと思う。でも昨日は敢えて放置していたんだよ」
と宮野聖子は言う。
 
「どうしてですか?」
と渡辺淳子が訊く。
 
「前原さんの運動能力なら、村山さんは強引に突破できる。だから敢えてあの形は放置していたんだな。今日、竹宮さんを引っかけるために」
「今日の試合のための布石でプレイしていたのか・・・」
 
「竹宮さんは直前に怪我さえしてなければU18日本代表になっていたはずの選手だもん。瞬発力や筋力に限って言えば村山さんを大きく上回る。そういう相手に少しでも有利になるようにする心理戦。むろん竹宮さんの方も村山さんが敢えて放置した可能性は考えていたろうけどね。だから前原式の防御法にこだわらず、すぐ自分のやり方に戻した。戦いはもう試合の前日には既に始まっていたんだよ」
 
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と聖子は解説する。
 
「でもバスケって難しいですね。最良のプレイをしようと究めていくと、結果的にプレイの型が固定化してしまい、それで相手は防御しやすくなる」
 
「プレイの方法に最大の良いプレイというのは無いんだ。極大はあるけどね。そして多数の極大を使い分けることができないと、相手の優位には立てない」
 
「しかしN高校はみごとにT高校のゾーンを破ったね」
と河口真守が言う。
 
「N高校らしい破り方だよね。うちだと少し違う破り方になる」
と聖子。彼女たちもT高校のゾーン対策は考えていたようである。
 
「まあ、こういうハイレベルな所同士の戦いでは、単純な攻撃も単純な防御も通用しないけどね」
「でもJ学園はあのゾーン破れなかった」
「シューターが居ないからだよ。J学園のシューター桑名さんは村山さんやうちの秋子ほどの精度を持っていない。ゾーンは、シューターがいるかどうかで全くその防御力が変わる」
 
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「最初の陣形を見ると純粋なゾーンというよりはマッチアップゾーンに近い戦略で村山さんのスリーに対抗しようとした雰囲気もあったけど、それ以前にあのオーバーシフトにやられてしまったね」
 
「それにJ学園は攻めの駒不足もあったよね」
「まあそれは仕方ない。J学園の大秋・道下・佐古・篠原・加藤・夢原といった所はみんな普通のチームにいれば絶対的なエースになる人材だけど、昨年の日吉みたいな超絶な破壊力までは持っていないから。今のN高校は村山・若生・湧見という超絶点取り屋が3人揃っている」
 
「加藤絵理は来年は怖いですよね」
と渡辺純子が言う。
「まあ、純ちゃんが絵理ちゃんより大きく成長すれば問題は無いけどね」
と聖子が言うと、純子も顔を引き締める。
 
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「絵津子ちゃんには負けないよね?」
「頭を丸刈りするだけじゃなく、女を辞めたくなるくらい叩きのめしますよ。実は決勝で当たった場合に負けた方は丸刈りにする約束したんですけどね」
「あんたたちよくやるね!」
 
「いっそ女を辞めて男になっちゃったりして」
「その時は私も男になって叩きに行きます」
「純子が男になったら、男子チームが喜ぶだろうなあ」
「十勝先生はショックだろうけどね」
 
「でも男になるのってどうするんだっけ?」
「おっぱい取って、おちんちん付けるのでは?」
「取るのは分かるけど、おちんちんはどうやって調達する訳?」
「さあ。おちんちん取りたがってる男の子って結構いるから、そういう人からもらうとか?」
「ああ、どうせ要らないものならもらえばいいかもね」
 
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そんな会話をしていたら近くにいる男子マネージャー稲辺君が嫌そうな顔をしている。どうも男の子たちはちんちんを取るなんて話は苦手な様子である。
 
「男から女になりたい人は、女から男になりたい人の5倍くらい居るらしいから、供給としては足りるかも」
「ほほお」
 
なお佐藤玲央美は彼女たちのおしゃべりには加わらず、ずっと控室で精神集中をしていた。
 

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結局この第1ピリオドは16-22とN高校が大きくリードした状態で終了した。
 
第2ピリオド、T高校はPG.青池/SG.千道/SF.甲斐/PF.大島/C.吉住、と陣容をガラリと変えてきた。大島以外の4人交代で3年生の中核メンバーを下げてしまった。N高校は雪子/ソフィア/志緒/揚羽/リリカというメンツで行く。こちらも大きくメンバーを変えている。
 
どうも向こうとしてはN高校がT高校のメンバーの各々の癖をかなりよく分析しているので、あまり分析されていなさそうなメンバーを使ってみたようであった。
 
しかし雪子、ソフィアといったあたりは相手が初顔であっても全然問題にしない。ふたりの共同ゲームメイクでN高校は変幻自在の攻めで得点を重ねていく。それでこのピリオドは14-18と4点差を付け、これで前半は30-40と大差が付いてしまった。
 
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バスケットの試合は10分ずつ4つのピリオドから成り、各ピリオドの間には休憩時間がある。この内、第1ピリオドと第2ピリオドの間、第3ピリオドと第4ピリオドの間はインターバルと言って時間は2分間であるのに対して、第2ピリオドと第3ピリオドの間はハーフタイムと言ってウィンターカップ本戦では10分間ある(FIBAルールでは15分)。チアチームなどによるハーフタイムショーが行われる場合もある(地区大会などでは次の試合のチームの練習時間になっている場合もある)。
 
これは元々バスケットの試合は20分ハーフ制だったのが10分クォーター制に変更された名残である。NBAで放送の間にCMを入れる都合からこのような改訂が行われたのが実際の主たる改訂理由ではあるが、バスケの試合は激しい運動なので、20分間も走り続けるのは体力的に辛かったというのもあった。疲れ切ってクタクタの状態ではなく、より良いコンディションで戦って、より高いレベルの試合をしようという精神もある。
 
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さてインターバルの場合は時間が短いので、ずっとベンチの所にいるのだが、本戦のハーフタイムの場合は時間があるので、いったん控室に戻り軽いミーティングをする場合が多い。汗を掻いた下着を交換する選手などもいる。
 
千里たちはこの日はリードしていたこともあり、控室での監督やコーチの指示も簡単なもので、後はスポーツドリンクを飲んだりストレッチをしたり、アンメルツを塗ったり、薫が数人の選手に指圧やマッサージをしてあげたりしていたのだが、そろそろ後半が始まるというのでフロアに出て行く。
 
コート上ではこの日は対戦しているT高校とN高校の各チアチームによるアクションのパフォーマンスが4分間ずつ行われていた。T高校が先にやっていたので千里たちはN高校チアチームの演技の最後の方を見ることになる。2年生いっぱいでバスケ部を辞めたものの、その後チア部に非公式参加していた明菜の姿を認める。彼女たちにもこれは晴れ舞台だ。
 
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やがて彼女たちがパフォーマンスを終えて退場し応援席に戻った後、掃除係の子たちがモップを持って並び、号令を掛けて走って床掃除をする。これもとても美しいパフォーマンスで思わず会場から拍手が起きていた。
 
掃除係の子たちの作業が終わると、もうすぐ後半開始である。それで第3ピリオドに出て行く選手に南野コーチが指示を与えていた時のことであった。
 
「あれ?T高校さん、どうしたのかな?」
と暢子が声を出した。
 
何か様子がおかしいのである。監督・コーチが焦ったような顔で何か言っていて、まだ今日の試合に出ていない1年生の17,18を付けた選手が急いでフロアの外に走り出して行く。
 
「もしかして誰か居ないとか?」
「あ、萩尾さんが居ない」
 
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確かに向こうのベンチに正シューティングガードの萩尾の姿が見当たらないのである。こちらは南野コーチの指示を聞きながら、向こうの様子も目の端で見ていたのだが、とうとう向こうのコーチ自身がフロア外に走り出していった。
 
「トイレに行ったまま迷子になっているとか」
「方向音痴の子なら、あり得るな」
「森下さんなら、女子トイレで痴漢と間違えられて捕まっているという可能性もあるのだが」
「それ、サーヤも気をつけてね!」
 
留実子はこの大会の会場ではトラブル回避のため、控室内のトイレか男女共用の多目的トイレを使っている。
 

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試合再開の時刻である。こちらは不二子/千里/絵津子/暢子/紅鹿というメンツで出て行く。向こうは何だか揉めていたが、結局控えシューター1年生千道が入って山岸/千道/竹宮/大島/森下 というメンツで出てきた。
 
それで試合が再開されるが、萩尾が居ないので暢子のマークに大島が付くかとも思ったのだが、大島はそのまま絵津子のマークをして、千道が暢子のマークに入る。不二子−山岸、千里−竹宮、絵津子−大島、暢子−千道、紅鹿−森下という組合せになる。何だか向こうは暢子より絵津子の方を脅威に感じているようなマッチングだ。
 
試合はT高校のスローインから始まるが、これで暢子が発憤してピリオド開始早々相手のパスカットからの速攻と、紅鹿とのコンビネーションプレイからのゴールで、2連続得点を挙げる。更に不二子も1ゴール挙げて、2-6と点差が更に広がり掛けた時。
 
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やっと萩尾月香がフロアに戻ってきた。コーチと一緒である。それを見て監督が選手交代の要求を出す。
 
ところがなかなかゲームが停まらない。両軍得点はするのだが、ボールがアウトオブバウンズになったりしないので交代のタイミングが来ないのである。T高校の監督がイライラしている。点差は千里のスリーが入って6-11まで広がっている。
 
それで不二子がドライブインしてきた所を山岸が後ろから捕まえるようにして停めた。
 
笛が鳴る。山岸がファウルを認めて手を挙げる。N高校のスローインからの再開になるが、ここで選手交代。千道が下がって萩尾がコートインする。その時千里は萩尾の目が異様に輝いているのを見てギクッとした。
 
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不二子がスローインしたボールを暢子が受け取ると即ミドルシュートして2点獲得し、6-13.
 
向こうは大島がスローインして山岸がドリブルで攻め上がる。千里は竹宮に付いている。千里のマークがきついのを見て山岸は今コートインしたばかりの萩尾にパスする。暢子がガードするが萩尾は素早くサイドステップすると暢子が追いつく前に速いモーションでシュートを撃った。
 
きれいに入って3点。9-13.
 
この時、暢子が何か首をかしげていた。
 
N高校がスローインして攻め上がる。ところが萩尾がボールを運んでいる不二子の前に行くと、あっという間にボールを不二子から奪ってしまう。え〜!?と思っている間にひとりでドリブルして攻め上がり速攻。そのままスリーポイントラインの所から、またクイックモーションでシュートを撃つ。
12-13.
 
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再びN高校のスローイン。また萩尾が不二子の前に行く。さっきスティールされたので不二子としても慎重だ。萩尾が激しいプレスを掛ける。それで不二子はフォローに来た暢子にボールを送る。ところが物凄い反射神経で飛び出して萩尾はそのパスを途中カットしてしまった。
 
弾いたボールをそのままドリブルに変えて速攻。またもやスリーポイントラインの所で超停止すると、暢子が回り込んでブロックを試みる前にシュートを放つ。入って3点。15-13。合計では45-53.
 
宇田監督がタイムを要求した。
 
ベンチの所に集まって話し合う。
 
「あれ、どうしたの?」
「なんか普通じゃないです」
「薬でもやってんじゃないよね?」
「とにかくちょっとこちらも気合いを入れ直そう」
「うん、頑張ろう」
 
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ボール運びを不二子だけでなく千里がそばに付いてふたりで攻め上がろうと話し合う。また萩尾が尋常な状態ではないようなので、彼女が攻めてきた時も絵津子と暢子のふたりで付こうということにする。大島は紅鹿と千里で分担してフォローすることにする。
 

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試合再開である。
 
第3ピリオドの残りは4分だ。
 
しかしそこからの4分間はN高校にとって悪夢とも言える4分間であった。
 
萩尾が戻ってきた直後は萩尾ひとりだけのスタンドプレイだったが、このタイムアウトで向こうも話し合ったようで、全員でゾーンプレスを掛けてきた。
 
これは実はあり得る戦術である。大きく負けている場合、それを挽回するため体力を激しく消耗することは覚悟でこの戦術を使うことはある。
 
そしてこの試みは「スーパー萩尾」の存在のおかげで成功した。T高校はN高校がボールをフロントコートに運ぶ前に激しいプレスを掛けてボールをどんどん奪ってしまう。そして萩尾はどんどんスリーを撃ち込み全て入れてしまう。千里はこんなに1発も外さずにスリーを撃ち込むのを見たのは昨年インターハイでの花園さんとの対決以来だと思った。
 
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そして第3ピリオドが終わった時、スコアボードには63-53という信じがたい点数が灯っていたのである。
 
このピリオドだけの点数では33-13である。第2ピリオドまでに10点差を付けていたのに、逆転され反対に10点差を付けられてしまった。結局、萩尾が戻ってきた後、N高校は1点も点数を挙げることができなかったどころか、そもそもフロントコートにボールを運ぶことさえできなかったのである。そしてその間に萩尾は9本連続スリーを決めていた。
 
 
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女の子たちのウィンターカップ・接戦と乱戦(8)

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