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■女の子たちの精密検査(12)

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公演は物凄く盛り上がった。レコード会社はかなり気をよくしたようで年明けにも全国ツアーを考えるなどと吉田さんが言っていた。
 
終わってからホテルに行く。ホテルはツインだが、組合せは鮎奈が決めた。実質男の子である留実子を個室にして、千里は蓮菜と同室になっていた。古くからの親友で、いちばん気兼ねのない相手である。千里は何度か(他の子とも一緒にだが)蓮菜の家にお泊まりさせてもらったこともある。
 
「でもここ良いホテルだね」
「ファンサービスだと思うよ」
「前回東京に来た時はどんなホテルに泊まったの?」
「ああ。ホテルには泊まってない」
「へ?」
 
「金曜日の夕方から行ったから羽田に到着したのが夜の22時で、都内に入ってLucky Blossomの人たちと会ったのが23時すぎで、それから演奏を聴かせてもらったり、いろいろお話してたら朝になっちゃって」
「徹夜で音楽論議か!」
 
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「まあ楽しかったよ。で、朝になったけど、ホテル行く?とか言われたんだけど、鮎川さんに捕まっちゃって」
「うん」
 
「鮎川さんとその日1日ずっとおしゃべりしていて、夕方そのまま羽田に行って旭川行き最終便に乗ったから、東京では寝てない」
 
「なんつーハードな」
「飛行機の中では熟睡してたけどね。おかげでその後、数日耳の調子がおかしかった」
「ああ。着陸で高度下げる時に寝ていると、気圧の自動調整がうまくいかないんだよね」
「そうそう」
 

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「でも蓮菜、田代君とは縒りを戻せたんだね」
と千里は言ったが
 
「私たちは恋人ではないということで合意している」
などと蓮菜は言う。
 
「なんで?」
「お互いにただの友だち。友だちだけど、デートくらいすることはあるというので、いいんじゃないかと」
「セックスはしないの?」
「そのくらいするよ」
 
「でも恋人じゃないんだ?」
「そのうち恋人になっちゃうかも知れない。でも今は友だちという関係の方が私と雅文にとっては快適だと思うんだよね。友だちだから、お互いに浮気も自由。もっとも私は浮気する気は無いけどね」
 
「素直じゃない気がするなあ」
 
「でも千里も細川君と恋人関係復活させたね」
「うん。中学時代より深いつながりになってる気がする」
 
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「何度したの?」
「今のところ4回」
「いいんじゃない。でもセックスすると、凄く安心感があるよね」
「うん。凄く幸せな気分」
 
私たちはお互いにそれぞれの、おのろけを話した気もする。
 
「でも何で雨宮さん、私たちに曲を書いてくれることになったの?」
 
「こないだ来た時にさ、女子高生?と訊かれて私が男子高校生です、と答えたらね、雨宮さん、私が男子高校生なのに、そんなに可愛くなっているのなら、自分が楽曲書いてCD出してあげるよ、なんて言ったのよね」
 
「ほほお」
「それで、私が男だというのを健康保険証見せて示したら、びっくりして、本当に書いてくださることになったのよ」
 
「保険証だけで信用した?」
「さわらせた」
「ふーん。やはりまだ付いてたんだ?」
「手術したいけど、お金が無いよ」
「まあ、そうだろうね」
 
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「蓮菜は私がまだ男の身体でも平気?」
「千里にもし男の子のものがあったとしてもSysRqキーみたいなもの」
「何それ?」
「千里、自分ではパソコン持ってないけど、小学校や中学校のパソコン部に顔出してたから SysRqキーは知ってるよね?」
「知ってる。使い方は知らないけど」
 
「WindowsではSystem Request という機能は存在しないから、無意味なキーだよ。機能も無いから誰も使っていない。千里に男の子のものが付いてたとしても機能は無いみたいだから、それを使うこともないでしょ?」
 
「うん、そうかも」
「使うことのないものは最初から無いのと変わらないよ」
 
「そうなのかもね」
 
「千里、自分では女の子を主張するくせに、本当はそれに自信が無いんだよね」
「うん、そういう面はある」
 
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「もっと自信を持った方がいいと思うよ」
「そうだねぇ」
 
千里はちょっと上の方に視線をやった。
 

その後、交替でお風呂に入っていたのだが、千里が湯船から上がって身体を拭いていたら、蓮菜がいきなり浴室のドアを開けた。
 
「わっ」
「ふーん」
「どうしたの?」
 
「やはり、おちんちん付いてるようには見えないなあ」
「隠してるんだよ」
「おっぱいもあるし」
「これ、例の偽乳だよ」
 
「それ付けない状態ではどのくらいあるの?」
「こないだの病院の検査では、アンダー72、トップ80、と言われた」
「春頃より少し大きくなった?」
「少しだけね」
 
「女性ホルモンの量、少し増やしたら?」
「そうしようかなあ」
 
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千里があらためてちゃんと服を着て出て行くと、蓮菜はホテルのレターペーパーに何か書いている。
 
「田代君へのお手紙?」
「ううん。詩を書いてた」
「へー!」
「やはり旅をすると詩が思い浮かぶんだよ」
「ああ、そうかもね」
 
「これに千里、曲を付けてくれない?」
「うん」
 
と言って千里はその詩を見る。
 
「きれいな詩だね」
「羽田から都心に入る電車の中でさ、唐突に思い浮かんだんだよ。さっきまで推敲していて、最終的なのをここに書いてみた」
 
「そんな所で思いついたとは思えない美しい詩だ」
 

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月曜日の昼休み、お弁当を食べてから鮎奈や京子・蓮菜たちとおしゃべりを,5KM5ていたら、教頭先生からの呼び出しがある。そろそろこないだの病院での検査結果を受けて、協会の方から男子チームに参加していいという確認が取れたのかな、と思い、千里は職員室に行った。
 
やはり教頭先生の所に宇田先生と保健室の山本先生が居て、面談室に行こうということになる。また例によって、防音面談室に入る。
 
「こないだは、わざわざ病院に行って検査を受けてくれてお疲れ様」
「いえ。何だかよけいなお手数を掛けているみたいで」
 
「で、結果を聞いたんだけど、君、やはり既に女の子の身体なんだね?」
「え!?」
 
「これ、君の診断書のコピー」
 
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と言って見せられたものの内容に千里は目を疑う。
 
ホルモン、身体特徴、心理、社会的な性まではいい。でも何これ!?
 
■性器の状態
 陰茎・陰嚢・精巣を認めない。CTスキャンで停留睾丸を認めない。大陰唇・小陰唇・陰核・膣を認める。尿道は通常の女性の位置に開口している。外見的に女性型の性器に近似している。
 ゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜゜ちと羅よけたqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqq12うっそー!? なんでこうなってんの!??
 
バスケット部の宇田先生が言う。
 
「考えてみたら、村山君、6月にアンチドーピング機関の検査官の前でおしっこしてみせてるんだもんね。その時、君の外性器が男性型だったら、いくら何でも検査官は気付くはずだからね。やはり女性型の陰部の形をしているから、何も不審に思わなかったんだろうからね」
 
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えっと・・・あれは、説明すると、ひじょうに複雑な話なんですけど。
 
保健室の山本先生が言う。
「あなた、もしかして御両親に内緒で性転換手術を受けたの? だからあくまで自分は男の身体ですと主張してたのね?」
 
「えっと、確かに父の手前、男子高校生をしているという面はありますが」
 
「今回この問題は北海道協会の一存では決められないということで全国のバスケを統括している組織まであげられて議論がおこなわれた」
 
ひゃー。そんな所まで行ったんだ!?
 
「それで協会側も、未成年ではあるし、このような協議が行われたこと自体を秘密にするということで関係者に箝口令を敷いている。協議に参加した人たちはみんな信頼できる人だから、これがマスコミに漏れたりすることはない。そもそも議論に参加した人はどこの地区の選手かまでは知らされていない」
 
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えっと・・・・。それって、まさか・・・。
 
「僕たちも君と御両親との関係に配慮して、このことをこちらから御両親に言ったりはしないから」
 
「本当は女子制服を着て通学してもらっていいけど、それも御両親との関係があるのであれば、今のように男子制服で授業を受けてもらってもいい」
 
「もっともあなた、結構校内外で女子制服にもなってるよね」
「ええ、まあそうですね」
 
「それで、協会側の結論だけど、君は紛う事なき女性の身体をしているので、今後は女子チームに参加してもらいたいという強い要望なんだよ」
 
千里は頭を抱え込んで苦笑した。いや、もうこれ笑うしかないよぉ。
 
「それで君自身の所属も、うちの男子バスケット部から女子バスケット部に移籍したいのだけど、いい?」
 
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「分かりました。よろしくお願いします」
 
何かもうどっちでもいいや!
 
「君としては染色体的に男性だというので、うしろめたさを感じているのかも知れないけど、君はホルモン的にも体格的にも完全な女性で、筋肉などもふつうの女子運動部員程度の筋肉だから、堂々と女子の試合に出ればいい」
 
「はい、割り切ることにします」
 
「会議では今後類似ケースが出た場合についてもかなり議論したらしい。それで国際大会や外国での例なども検討した結果、身体的特徴とホルモンの状態がいちばん重要ということになったらしい」
 
「ああ」
 
「意見が別れたのが睾丸や卵巣の有無らしいんだよ。陰茎があるかどうか、大陰唇・小陰唇があるかについては、この際、些細な事というので意見が一致した。膣や陰核・子宮・前立腺については最初からどうでもいいと全員の意見」
 
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そうだなあ。試合するのに、セックス能力・妊娠能力は無関係だし。
 
「睾丸が万一あったとしても、ホルモンと身体的な特徴が完全に女性なら女子選手として認めてもいいというのが多数意見だったけど、睾丸があるのであればその除去手術をした上でしか女子選手としては認められないというのが少数意見。君の場合はどっちみち既に睾丸は無いので全員一致で女子選手として認めることになった。逆に卵巣については最初は意見が分かれていたものの、最終的には、あってもかまわないということになった」
 
うーん。再検査とかされると、ややこしい話になりそう。でもなんでこの診断書こういうことになっちゃったの??
 
「でも、もし睾丸はまだあるけど完全に女性の身体的特徴であるという選手が出て来ても、今回の討議内容からすると、自動的に女子選手として認められると思う。討議に参加した性医学の専門家の意見で完全な女性の身体的特徴が出るというのは睾丸が最低でも1年以上存在しないか存在しても機能停止している状態でしか考えられないということだったらしいしね」
 
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うーん。そういう基準なら、やはり自分は女子として参加してもいいのかな、と千里は思った。自分の睾丸は少なくとも3年以上、ほとんど機能が一時停止状態にあるはずだ。機能完全喪失ではないけど。
 
「そうでしょうね」
 
「それで来年の夏は、君の頑張りで女子バスケ部をインターハイに連れて行ってよ」
 
こうなったら、もうやけくそだな。
 
「ええ。来年は佐賀でしたっけ? 私、九州って行ったことないから、久井奈さんや暢子・留実子たちと一緒に佐賀に行きます」
 
「うん、よろしく」
 
そうやって面談はなごやかに(!?)終了したのであった。
 
 
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女の子たちの精密検査(12)

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