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■女の子たちの精密検査(11)

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「いったん雪が固まっちゃったら、その上の路面を走る自信あるんだけどなあ」
と千里は悔しそうに叔母の車の後部座席で言う。
 
「まあ降ってすぐとか、吹雪中とか、シャーベットは無理だと思うよ。早朝はブラックバーンになる場所もある。今日は帰りも連絡しなさい。迎えに行ってあげるから」
 
「冬の間の通学どうしよう・・・」
 
「早朝のバスの連絡悪いしね。今日は特別としても本来は自動車通学は禁止だし。朝旭川駅まで送っていくから、その後JRで行ったら? バイトに行く時も旭川駅までJRで来てからバスで移動」
 
「うーん。それだとお金がかかるし、叔母さんにも負担掛ける。ガソリン代もかかるし」
「私は大丈夫だよ。ガソリン代はあんたが作ってくれてるお弁当の分と相殺ということで。定期代は、あんた神社のバイトしてんだから、そのくらい何とかなるでしょ。というか、神社から交通費は出してもらったら?」
 
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「あ、そうか。ちょっと斎藤さんに話してみます」
 

それでその日千里が電話で斎藤さんに電話してみると、旭川駅からの定期代分の支給を快諾してもらった。
 
「だったら夏の間もずっと出そうか?」
「いえ。夏は自転車で頑張りますから4月まで済みませんがお願いします」
「OKOK」
 

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11月25-26日の週末。千里たちDawn River Kittensのメンバーは朝から旭川空港に集まり、羽田行きの飛行機に搭乗した。
 
千里の占いが元でデビューすることになった Lucky Blossom の「デビュー前先行ライブ」がその日都内のホールで行われるので、それに谷津さんが千里たちを交通費宿泊費込みで招待してくれたのである。
 
Lucky Blossom は谷津さんが千里の占いに基づき8月に高崎で見出した2つのバンド Lucky Tripper と Red Blossom を合体したもので12月中旬にデビューCDの発売が決定している。このライブはそれに先行して、主として東京近辺のFM局で観覧希望者を募って開くものであった。11月初旬からテレビやFMでスポットが流されていたこともあり、入場券(無料)がヤフオクで2000円ほどで取引されていた
という。
 
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お昼過ぎに都内に入ったのだが、公演のあるホールに行き、予め送ってもらっていたバックステージパスで中に入っていくと、楽器の音を確認していたふうのバンドメンバーが千里を見て手を振ってくれる。
 
「いらっしゃーい、美少女占い師さん」
などと鮎川さんが言って、千里と少し話をしていると
 
「ほんとに女の人だったんですね!?」
などと言う子がいる。
 
「まあ、女だろうね。スカート穿いてるし」
「いや、テレビで流れていたスポットでもスカートは穿いてるけど最近は男の子でもスカート穿く人いるしと思って見てた」
「ああ、IZAMとかね」
 
「でも僕は本当はスカート嫌いなんだけどね。レコード会社が穿けと言うから」
 
「わっ。僕少女だ!」
「FTMなんですか?」
などという質問まで出るが
 
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「うち兄貴2人いるし、お母ちゃんは僕が小さい頃死んじゃって、男家庭で育ったからこうなっちゃっただけだよ。一応恋愛対象は男の人だけど、自分が男になっちゃっても生きて行く自信はあるよ」
「なるほどー」
 
「いや、鮎川さん、男で行けると思います」
「鮎川さん男になったら、私をお嫁さんにしてください」
「じゃ、その時は考慮するということで」
 

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その後、Lucky Blossom がリハーサルをするのを見学させてもらった。ノリが良いので、みんな手拍子を打ちながら笑顔で聴いている。千里たちが手拍子をするので、バンドメンバーたちも調子が上がる感じであった。
 
リハーサルが終わった頃に雨宮さんが来訪した。
 
「ハロー、仕上がってる〜?」
「絶好調です」
「よしよし」
 
などとメンバーと言葉を交わした後で、千里たちに気付く。
 
「お、また会ったね。自称男子高校生の変な美少女占い師さん」
「こんにちはー」
 
蓮菜たちが顔を見合わせている。
 
「あのぉ、もしかして、元ワンティスの雨宮三森さんですか?」
と梨乃が訊いたが
 
「今《元ワンティス》と言った子、会場の周り5周走ってきなさい」
と雨宮さんから言われる。
 
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「えー!?」
 
「ワンティスは解散してないから《元ワンティス》じゃなくて《ワンティス》と言わないとだめ」
とそのあたりの事情に詳しい蓮菜が言う。
 
「ごめんなさい。走ってきます」
と言って梨乃はほんとに会場の外に走りに行った。
 
「おお、素直な子だね。いいね、こういうの。あの子にあとでご苦労さん代で私のサインと、ホテルへの招待券をあげよう」
などと雨宮さんが言うと
 
「先生、女子高生に手を出したら淫行でつかまりますよ」
と鮎川さんが言う。
 

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休憩時間に谷津さんが先日Dawn River Kittensで作ったCDを掛けたら
 
「こないのだより随分上手になってる」
と言われた。
 
「でもコピー曲ばかり?」
「君たちのオリジナル曲は無いの?」
などとも言われる。
 
「誰か作曲できる人?」
「うーん。編曲ならエレクトーン教室でいつもエレクトーン編曲をしてるからその応用でバンドスコアも書けるんだけど」
と智代が言う。
 
「このCDのアレンジも君がしたの?」
「はい。だいたい私が書いてあとは実際に各自に任せちゃった部分も大きいです」
「まあバンドのアレンジって結構それがあるね」
 
「Lucky Blossomのアレンジは誰がしてるんですか?」
「一応 編曲:Lucky Blossom とクレジットしてるんだけどね」
「事実上鮎ちゃんがひとりでやってるね」
「へー」
「その後、各自適当に調整」
 
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「あれ? 今気付いたけど、女性メンバーでも咲子さんは名前でサキって呼ばれているのに、鮎川さんは苗字のほうでアユさんなんですね」
 
「まあ鮎は男扱いだから」
「ああ、鮎を女と思っているメンバーは居ないね」
「そうだったのか」
「一応キャンペーンでどこかに行った時、ホテルの部屋はサキとアユを同室にしている」
「アユには、サキを襲うなよと言っておく」
「あぁぁ」
 

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話は盛り上がっていたが、千里はちょっと失礼して席を外しトイレに行く。個室で用を達して出た所で、バッタリと雨宮さんと遭遇する。
 
「ん?どうしたの?」
「雨宮さん、女子トイレを使うんですね」
「まあ、この格好で男トイレに入ったら混乱の元だね」
「じゃ、私と同じか」
「へ?」
 
「そうだ。こないだお会いした時に、雨宮さん、もし私が男の子でこんなに可愛くなっているのなら、私に楽曲書いてやるよ、なんておっしゃってましたね」
「ああ、言ったね」
 
「じゃ、これを見ていただけます?」
 
と言って千里はバッグの中から健康保険証(遠隔地被保険者証)を出す。
 
「ん・・・んーーー!?」
 
そこには「村山千里・長男・平成3年3月3日生」と書かれてあった。
 
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「あんた、ほんとに男なの〜〜〜〜!?」
「ちょっと、そんなに大きな声で言わないでください」
 
「うっそー。触らせなさいよ」
「いいですよ」
 
「どれどれ・・・・ほんとに付いてる!」
「すみませーん」
「信じられん! 私、女装者はたいていリードする自信あったのに」
 
「じゃ、曲を書いていただけますか?」
「ふふふ。いいよ。1曲30万円でどう?」
「お支払いします」
 
2曲書いてもらったとしても60万円。定期を解約すれば払える金額だ。
 
「いいお返事するね。もしホテルに付き合ってくれたらタダにしてもいいけど」
「私、恋人いるから応じられません」
「恋人って女の子?男の子?」
「男の子です」
 
「ふーん。でも気に入った。ホテルはいいから、タダで書いてあげるよ。印税・著作権使用料だけでいいや」
「ありがとうございます」
 
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トイレから戻った所で雨宮さんが Dawn River Kittens に曲を書いてあげることにした、と言うとみんなびっくりしていた。
 
「先生、だったらLucky Blossomにも1曲書いてくださいよ」
と鮎川さん。
 
「うん。いいよ。ついでだ。千里ちゃんに感謝しな」
 
「千里、まさか雨宮さんに貞操を捧げて楽曲提供してもらうことにしたとか?」
「まさか。私、彼氏がいるから、そんなことはしないよ」
 
「千里ちゃんがちょっと面白すぎるから、提供することにしたのよ」
と雨宮さんは言う。千里の性別のことは、この場では言及しないようである。
 
「Lucky Blossomに1曲、Dawn River Kittens に1曲書くけど、どちらもタイトル曲にはしないで。Lucky Blossom のタイトル曲は、予定通り、ゆまが書いたのを使いなさい。それから Dawn River Kittens のCDのタイトル曲は千里、あんたが書きなさい。書けるはずだよ」
 
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「分かりました。書きます」
 
「だってLucky BlossomのCDにも千里が書いた曲が1曲収録されるからね」
と雨宮さんが言うと
 
「うっそー!?」
と蓮菜たちが驚いていた。
 
「そういえば千里、こないだ現代のメンデルスゾーンだとか自称してたね」
という声があがる。
 
「ほほぉ。メンデルスゾーンね。むしろラーメン食べるぞーんって感じだけど」
と雨宮さんが言うと
 
「それ、ヨナリンに同じこと言われました」
と蓮菜。
「う・・・・あいつと同じ発想してしまったのは不覚」
と雨宮さんは悔しそうに言った。
 

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女の子たちの精密検査(11)

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