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■女の子たちの精密検査(10)

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それで医師は診断書を書いてくれた。
 
■性染色体
 XY。通常の男性の染色体であり、遺伝子異常は認められない。
 
■ホルモンの状態
 女性ホルモンが女性の標準値の範囲。男性ホルモンも女性の標準値の範囲でホルモン的には完全に女性である。
 
■身体的特徴
 乳房の発達を認める。乳頭・乳輪の発達を認める。髭や体毛が少ないと認める。喉仏を認めない。なで肩である。体脂肪の分布は女性型である。第二次性徴は女性型に発現しており、骨盤も女性型。身体的な特徴は完全に女性である。
 
■心理的な性
 心理的に女性的な傾向を持っている。受動的、比較的内向的で、感覚で判断したり行動することが多い。恋愛対象は男性である。男性との恋愛経験は数回あるが、女性との恋愛経験は無い。
 
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■社会的な性
 事実上、女生徒として高校生生活をしている。更衣室・トイレは女性用を使用している。男女で別れて授業を受ける場合は女子の方に参加している。友人はほとんど女性である。小学校では女子ソフトボール部に、中学校時代は女子バスケット部に所属していた。現在学校の制服は男子用・女子用の両方を所有している。下着や普段着は女性用しか所有していない。
 
■性器の状態
 陰茎・陰嚢・精巣・前立腺を認めるが発達未熟である。CTスキャンで卵巣・子宮の存在を認めない。膣・陰核・大陰唇・小陰唇を認めない。外見的に男性型の性器に近似している。
 

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診断書を見ていて「外見的に男性型の性器に近似」という所で、うーんと思う。これ、男性型の性器に近似してるんじゃなくて、正真正銘の男性性器のはずだけどなあ。
 
診断書は依頼された協会のほうに直接提出したいがそれでいいかと尋ねられたので、それを了承する。千里のサインも欲しいということだったのでサインした。
 
「それとこれ君は明らかに性同一性障害だと思うのだけど、そういう診断書も書こうか?」
「あ、書いて頂けるなら嬉しいです」
 
それで医師は性同一性障害の診断書を2枚書き、1枚は協会に性別診断書と一緒に提出するといい、もう1枚は千里に渡してくれた。
 
それで千里は病院を後にした。
 
医師は2枚の診断書を封筒に入れて封印し、宛名書きを書いた。そして婦人科の受付の所に行き、そこに座っていた事務職員に「これ切手を貼って投函しておいてくれる?」と頼んだ。
 
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「はい、分かりました」
と答えた事務職員は美鳳に似ていた。
 

学校に戻ってきたのはもうお昼である。教頭先生に病院に行って来たことを報告して教室に戻る。もうみんなお弁当を食べ終わり、女子たちはおしゃべりをしていたが、千里はひとりお弁当を出して自分の机の所で食べ始める。窓の近くでおしゃべりしていた、鮎奈・蓮菜・京子が近づいてくる。
 
「病院どうだった?」
「ふつうに検査受けただけだよ」
「やはり女子であることが確認されたんでしょう?」
「男子であることを確認してもらったよ」
「だって、もうおちんちんもタマタマも無いし、おっぱいもあるのに」
 
「おっぱいがあることは認めるけど、おちんちんとタマタマもあるよ」
「いや、それは千里本人は主張しているけど、実際には無いはず」
「病院の先生の目は誤魔化せないよね」
 
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「うーん。。。ボクって蓮菜たちに理解されすぎているような気もするなあ」
 

翌週の月曜日、蓮菜が
「CDできたよー」
と言って、Dawn River Kittens のメンツにCDを配っていた。プラケースに入っていて、ジャケ写もあれば、CD自体にもレーベルが印刷されている。JASRACシールまで貼られている。
 
「なんか猫のイラストが可愛い〜。これ蓮菜描いたの?」
「ううん。雅文だよ」
「お、すごい」
「意外な才能」
 
「でもすごいね。CDショップで売ってるCDみたい」
「売れたりしてね」
「売ってもいいの?」
「49枚までは著作権使用料は同じなんだよ。メンバー11人と雅文が持つ分、そして谷津さんに送る分で13枚、残り36枚は売ってもいい」
「すごーい」
「但しJASRACには定価を表示しないと届けてるから、代金は《お気持ち》で」
「なるほど」
 
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「そうそう。千里、これ谷津さんに送ってあげて」
と言って蓮菜が余分に1枚CDを渡すので
「OK。送っておく」
と千里は答えた。
 
「田代君にお疲れ様と言ってあげて」
「言っとく、言っとく。ついでにキスしとくから」
「それは余計だな」
 

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昼休みに教頭先生から呼ばれる。うーん。また何か問題が出て来てのかなと思ったら、教頭先生も一緒に居る宇田先生も妙に表情が明るい。
 
「村山君、誤解が解けたよ」
と言っている。
 
「えっと、私の性別がクリアになったのでしょうか?」
「ああ。その件についてはもう少し検討させてくれという話。それではなくてそもそも今回の濃厚ラブシーンの件だけど、問題の行為をしていたのは君たちではなかったことが明確になった」
「え!?」
 
「ラブシーンを見たという人の証言が微妙に曖昧だったのと、君たちが申告した内容と少し違うような気がするということになって、再確認したのだけど君たちが居たのは体育館のどちら側?」
 
と言って、体育館の図面を見せられる。
 
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「えっと、この付近、体育館と崖の間です」
と千里は指で指し示す。
 
「だよね。体育館の裏というと、そこを考える。玄関の反対側だから。ところが、見たという人の場所は体育館の横の駐車場側らしいんだよ」
「そんな人通りのあるかも知れない場所で変なことしません」
 
「まああまり変なこと自体して欲しくないけどね。それと見たというユニフォームがS高とN高のものだったと言ってたのだけど、結構似ているユニフォームもあるでしょ? サンプルを見せて再確認してみたら、**高と**高のものだったことが判明してね」
「ああ。確かに似てると思いました」
 
「それで当該高校に照会した所、その場所でセックスしていた人物が自主的に名乗り出て、厳重注意。各々学校に始末書を提出した。協会では6月の事件に続いて君たちがまたしていた場合、そもそも処分すべきではという意見もあったらしいけど、別人であったということで、君たちへの処分はもちろん無いし、誤認していたということで、協会会長から謝罪があった」
 
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セックスしてたのか!? なんて大胆な。
 
「謝罪までされると恐縮ですが」
「まあ、君たちは今回は《見つからなかった》ということだけみたいだから、以後、問題行動をしないように気をつけてね」
「はい。本当に気をつけます」
「うん」
 
「では私の性別問題は?」
「それはまだ討議中ということ。近い内に回答があると思う」
「分かりました」
 

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11月22日の水曜日、バスケ部の練習の後、今日は普段のQ神社ではなく、A神社に移動する。今日は雅楽の合奏の練習日である。演奏する曲の指使いなどを確認していたら、千里と一緒に龍笛を吹いている天津子が寄ってきて言った。
 
「千里さん、先週の週末、私例のオカマに会ってきたんですよ」
「ああ。ライバルと言ってた子?」
「あいつの住んでいる町まで行って、勝負しようと言ったんですよね」
「勝負って何するの?」
 
「こちらは魔法勝負したかったけど、龍笛の吹き比べにしようよと向こうが言うので、まあそれでもいいかと思ってやったんですけどね」
「ふーん。向こうの子も龍笛吹くんだ?」
 
「また負けた」
「あはは」
「ちょっと聴いてもらえます?」
 
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と言って天津子は彼女のライバルの子(青葉だが、この時期千里は青葉のことは知らない)の龍笛演奏を録音したものを聴かせてくれた。
 
近くに居た篳篥(ひちりき)担当の綾子と弥生も驚いたような顔でこちらを見ている。
 
「これはまた不思議な魅力だね」
「私、千里さんには全然龍笛かなわないと思ってるけど、世間的には上手い方だと思ってたんですよね」
「天津子ちゃんは上手いよ」
「でもこの子の龍笛には到達できない気がした」
 
「音だけではよく分からないけど、この子、多分、口で吹いているんじゃないんだよ。自分が存在している場の空気そのものを龍笛の音に変換している。類い稀な霊的才能を持っている。単に笛の練習するだけでは、この演奏にならないと思う」
と千里は言う。
 
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「ああ、やはりそんな感じか」
「霊的な訓練をつまないと、天津子ちゃん、この子を越えられない」
 
「さぼらずに毎日ちゃんとジョギングするか」
「うん。それがいいね」
 

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「虎ちゃんのこと何か言われた?」
「可愛くなってるじゃんと言われた」
「うん。そのくらいだと可愛いね」
「それでチビの訓練メニューって書いてくれた」
「へー」
 
「自動書記してる感じだった。多分本当に書いていたのは、あの子のお師匠さん」
「ほほお」
 
(注.青葉はこの年の7月に瞬嶽の弟子になった)
 
「あの子が書いたものじゃないなら、私チビにやらせてみることにした」
「うん。それがいい。眷属は甘やかしたらダメだよ」
「千里さんは眷属とか使わないんですか?」
「そんなもの居たらいいけどね」
「チビは飼い主を亡くして途方に暮れていたのを拾ったのよね。私は力が欲しかった。チビはこの世とのつながりが欲しかったみたいだけど、私に力を与えてくれると言った」
 
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「まあ眷属ってキブアンドテイクだよね」
「でも私も確かに眷属の育て方なんて知らないから、適当にしてしまったかも知れない」
「生兵法は怪我の元だよ」
「今度は間違わないように頑張るよ」
「うんうん」
 

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その日の夜は雪だった。路面はかなり厳しかったが、千里は根性で自転車でA神社から自宅までの道を走った。
 
翌朝。まだ雪が降っている。6時20分。朝御飯を終えた千里は「行ってきまーす」
と叔母に言うと自転車で学校へ出かけようとする。
 
が、雪は新雪だし、まだ吹雪いているし自転車は思うように進めない。何くそと思って自転車を進めようとするがまともに走れない。
 
うむむ。しかし負けるものか! と思ったものの吹雪は手強い。
 
「千里!待ちなさい」
という声が2階の窓から掛かった。
 
叔母が降りて来て言う。
「この雪で自転車はやはり無理だよ」
「でも私、学校行かなきゃ」
「今日は取り敢えず車で学校まで送って行くよ」
 
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ということで、千里の自転車通学もさすがに吹雪には勝てないことが判明したのである。
 
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