広告:まりあ†ほりっく 第6巻 [DVD]
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■女の子たちの精密検査(2)

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そのあたりで「お疲れ様」と言って、スタッフ一同、メインフロアに入る。
 
「君たちの編成について、この美少女占い師さんに占ってもらって決めたから」
と雨宮が言う。
 
「占いで決めるんですか!?」
 
と戸惑うような声。千里はポーカーフェイスだが、サックスの女の子が凄く熱い目をしているのを感じ取っていた。
 
「鮎川君はやはりサックスで行く」と雨宮さん。
「その方がいいです」とリードギターの人。
「歌の上手い女の子はたくさんいるけど、サックスこれだけ吹ける人は男女問わずそうそう居ないから」
 
「それからベースは相馬君だけにする」
と雨宮さん。
「確かにベース2人というのはやりにくいですけど、そしたら貝田の方はどうしますか?」
とリードギターの人。
「悪いけどクビだな」
 
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一瞬みんなが沈黙する。
 
「待って下さい」とサックスの子が厳しい顔をする。
 
「冗談。貝田君にはフルートを吹いてもらう」
 
「良かったぁ」と本人が言うが
「雨宮先生。そういうことを冗談で言わないでください」
とサックスの子はマジ顔で言った。
 
雨宮三森といえば、数年前デビュー曲以来8連続ミリオンセラーというとんでもない実績を残した伝説のバンド・ワンティスの中心人物のひとりとして音楽業界の中でもある程度の影響力を持っているだろう。しかしその大人物に対して臆することなく、主張をするのは偉いと千里は思った。
 
「ごめん、ごめん」
 
「元々私たちは木管四重奏でしたからね」
「それがどんどんポップス方面に流れていったから」
「で、ギター・ベースを持って」
「一番リズム感の良いサキちゃんがドラムス打って」
 
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ああ、なるほどリズム感の問題だったのかと千里は女性がドラマーになった理由を理解した。
 
「貝田は木管ならフルート、クラリネット、オーボエ、サックスと何でも吹けるから」
「バグパイプも経験あると言ってたね」
「パンフルートも持ってたよね」
「ウィンド・カルテットではバスクラに回ってたけどね」
「曲によってはテナーサックスを吹いて、鮎川君とサックス二重奏にしてもいいと思う」
と谷津さんが言う。
 
「貝田君が吹けない木管といったら、篠笛とか龍笛とか尺八とか?」
「ああ、そのあたりはやったことない。ケーナも経験無い」
 
そんなことを言っていたら、谷津さんが
 
「この占い師の千里さんは龍笛の名手」
と言う。
 
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「へー」
「聴かせてよ」
 
と言われるので、千里は愛用の煤竹の龍笛を取り出した。
 
「それ、本格的な龍笛だね」
「30万か40万くらいしたでしょ?」
「38万円でした。出世払いということで買ったんですけど、実はまだ代金払ってません」
と千里は言った。
 
「いい声してる」
「澄んだ声だね」
という声がバンドメンバーからあがった。千里はここまでバンドメンバーの前で発言していなかったのである。
 
「女子高生?」
「あ、男子高校生です」
「お茶目なことを言う子だ」
「男子高校生が女装してここまで可愛くなったら、それはそれで凄いけど」
 
などという声が出る。雨宮さんなど
 
「君が男の子なのにこんなに可愛くなっているんだったら、僕は君に楽曲を提供してCDを出してあげたいくらいだよ」
などという。
 
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ほほお。
 
でも一応本当のことは言ったからね〜、と千里は思い、一礼して龍笛を構えると、目を瞑って、心の赴くままに吹いた。
 
4〜5分ほど演奏してやめるが、しばらくみんな無言だった。そしてパチパチと凄い拍手をされる。
 
「凄い」
「きれーい!」
「今の何て曲?」
「分かりません。単に心が赴くままに吹いただけです」
「楽譜書ける?」
「書けますよ。書きましょうか?」
 
と言って千里はバッグの中からレポート用紙を取りだし、今吹いた曲を譜面に書いていく。
 
が、
 
「何それ〜〜〜!?」
という声が上がる。
 
《トラタル》とか《トリヒイ》とかいった文字が並んでいる。左右に色々と記号が付加されている。
 
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「僕、読めるよ」
と鮎川さんが言うと、千里が書いた譜面を自分のサックスで吹いてみせた。
 
「凄い」
「確かに今の曲だ」
「何で読める?」
「譜面の読み方だけは習った。でも僕も龍笛は吹けない。篠笛なら音だけは出るけど、篠笛をフルートみたいに吹く感じになってしまう。和楽器は横笛も縦笛も本格的にはやったことないんだよね」
 
「ね、千里さんだっけ? この曲、僕らのデビューアルバムに入れてもいい?」
 
「ええ、構いません」
 
それでこの曲は『六合の飛行』のタイトルでLucky Blossomのファーストアルバムに《作曲:大裳》のクレジットで収録されることになる。
 

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「でも鮎川君は、その《僕》ってのやめてくれない?」
と吉田さん。
 
「すみませーん。一応《私》って言うつもりではいるんですけど、普段はどうしても《僕》が出ちゃうんですよね」

 
「別にいいじゃん、一人称なんて」
と雨宮さん。
 
その後、このメンツで雑談モードになった。その内、ピザが出て来て、カレーライスも出てくるし、最後はケンタッキーまで出てくる。結局明け方まで話していたが、千里はバンドメンバーが熱く音楽を語るのを心地良く聴いていた。
 
「そうだ。この千里ちゃんたちも同級生でバンド組んでるんですよ」
と谷津さんが言う。
 
「へー。音源ある?」
「あ、こないだ録音させてもらったの。待ってね」
 
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と言って谷津さんは荷物の中からUSBメモリーを取り出す。パソコンに刺して再生させる。
 
「おお、センスいいね」
「うん。演奏技術はまだまだだけど、センスがいいと思う」
 
「『浮舟』の龍笛は千里ちゃん?」
「はい、そうです。他の曲ではヴァイオリンを弾いています」
「なるほどー」
「龍笛は上手いけど、ヴァイオリンは下手ね」
「すみませーん」
 
「他にも何か楽器弾ける?」
「えっと、ピアノとフルートくらいです。笙も少し習いましたが、まだまだです。でも私、リコーダーとかハーモニカが吹けないんですよねー」
 
「フルートや龍笛が吹けて、リコーダーやハーモニカが吹けないというのは理解不能」
 
「縦笛がダメだとか? クラリネットは吹いたことある?」
「本格的に練習したことはないですけど、吹奏楽部の友だちに、やってみてごらんよと言われて借りて吹いてみたら、一応ドレミファソラシドは出ました」
 
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「それいきなり?」
「はい」
「普通は音が出るまで一週間かかる」
「えー!? そういうものなんですか?」
「君、ほんと不思議な子」
 
「フルートは龍笛のスキルから想像が付くけど、ピアノはどのくらい弾くの?ちょっとそこのピアノ弾いてみてよ」
と言って、スタジオ内に置かれているスタインウェイの巨大なグランドピアノを指し示される。
 
「えっと、何を弾きましょうか?」
「んーじゃ、これ」
 
と言って、キーボードを弾いていた人(真申さん)が譜面を渡す。
 
「はい。ではピアノお借りします」
と言って、千里は譜面立てに楽譜を置き、弾き始める。何だか躍動感のある曲だ。演奏は5分ほどで終わった。
 
「上手いね」
「というか、よく初めて見た譜面をいきなりそこまで弾けるね」
「というか、今譜読みせずに、いきなり弾いたよね?」
 
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「あ、それ友だちからも変だって言われます。普通は譜面を1回読んでから弾くって。でも私、読んでみたからと言って何かが変わる訳でもないんですよね〜」
 
「やはり君、変だ」
と雨宮さんやバンドメンバーみんなから言われた。
 

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最後は曲順や曲想の相談までされた。
 
「この曲とこの曲のどちらかを先頭に置こうと思うんだけど、どちらがいいと思う?」
と言って2曲音源を聴く。
 
「1曲目は雷山小過、2曲目は沢山咸。2曲目がいいですね」
 
「うんうん。その意見の方が強かった。曲としては美しいんだよね。でも2曲目はインパクトが弱いという説もあってさ」
 
「初爻変で之卦が沢火革。下克上。ドラムスとかベースとか、普段は裏方に徹している楽器が主役になってみるとか?」
 
「あ、その手は使えるかも知れん」
 
この曲は結局新たに鮎川さんが書いたベースソロで始まる曲に改造されることになる。
 
「鮎川君の衣装をね。ドレッシーな系統と、キュートな系統のと、どちらがいいかというのも意見が別れているんだけどね」
 
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「震為雷。雷という卦は少年を表すんです。むしろ少年っぽい服が鮎川さんには合うと思います。」
 
「僕、そういうのが好き!」
と鮎川さん本人。
 
「あまりスカートとか好きじゃないんだよねー」
 
「俺もそれに賛成です。女装の鮎って、見てて落ち着かないと思う」
とリズムギターの鈴木さん。
 
「女装になるんだっけ?」
「鮎は男っぽい服装で標準」
 
「ゆまって、トイレの場所訊くと、男子トイレにしばしば案内されちゃう子だからね〜」
とドラムスの咲子さんも言っていた。
 
レコード会社の人は悩んでいたが、雨宮さんが
 
「よし。ゆまには軍服を着せよう」
 
と言って、その路線で決着した感じであった。
 
結局、Lucky Blossom で鮎川さんは、しばしば将官風の服とか、パイロット風の服とか、「格好良い制服を着た男性」のような衣装が多く、それが彼女のトレードマークのようになっていた。もっともそういう服ではあっても必ずスカートかキュロットを穿かされていたが!
 
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千里たちの学校では9月下旬に音楽祭が行われた。
 
合唱部・吹奏楽部・軽音楽部のステージが行われる他、3学年18クラスが合唱または楽器で15分枠の演奏をする。多くのクラスでは誰かがピアノを弾いて、それに合わせてみんなで合唱するというスタイルで出るようである。若干、ギターやヴァイオリン、また管楽器などを入れるクラスもあるようであった。
 
千里たちの1年5組は孝子のピアノ伴奏で混声四部合唱をするということであっさり決まってしまった。布施君が指揮をする。曲目は音楽の教科書に載っている『帰れソレントへ』、ポルノグラフィティの『メリッサ』、松原珠妃の『硝子の迷宮』の3曲である。
 
「みんな自分のパートは分かるよね?」
 
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「ボクは何だろう?」
などと千里が言うものの
「千里はソプラノ」
「音楽の時間もそこに居るじゃん」
とあっさりみんなから言われ、そちらに引っ張って行かれる。
 
このクラスでは大半の生徒が芸術は音楽を選択している(*1)ので、みんなだいたいその時入っているパートに行くのだが、何人か美術を選択している子が音域不確かということで、キーボードの音に合わせて声を出してもらって確認していた。
 
(*1)進学・特進クラスで1年4組・5組は音楽、6組は美術・書道だが人数の都合で美術でもこちらに組み込まれている子がいる。
 
ステージ上では上手側からバス・テノール・アルト・ソプラノと並ぶので、千里たちソプラノはピアノにいちばん近い場所で歌うことになる。
 
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前の週のLHRの時間を使って1時間練習しただけで本番となる。
 

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