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■女の子たちの精密検査(3)

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「当日はみなさん、冬服を着て下さい」
という伝達がある。
 
この時期の北海道は結構涼しいのだが日によっては暖かい日もあるので夏服と冬服が入り乱れている時期である。この学校では一応10月初旬の連休までが移行期間ということになっている。
 
「合唱だから、みんな服が揃っていた方がいいよね」
 
「千里は女子制服を着てよね」
「えー?なんで−?」
「だってソプラノの列にひとりだけ男子制服が混じっていたら変」
「ボク、テノールに行こうかなあ・・・」
「千里の声は音域的にメゾソプラノなんだよね。テノールに混じられたらオクターブ高いからハーモニーが乱れる」
「だいたい声変わりしたくないから小学4年生の時に睾丸取ったんでしょ?」
 
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なんかまた勝手な噂が生産されているようだ。
 
「ま、いっか。じゃ女子制服着てくるよ」
 

それで当日千里が自宅で朝から女子制服の冬服を着ていると、叔母から
「あれ?今日はその服で行くの?」
と訊かれる。千里はここしばらく男子制服の夏服を着て学校に行っていた。
 
「うん。そろそろ衣替えだし」
「なるほど。衣替えね〜」
と言って美輪子は微笑んでいる。
 
「でも今日は音楽祭で、クラスで合唱するから冬服で揃えてくださいと言われたんだよ。私、ソプラノだし」
と千里は言う。
 
「ああ。ソプラノの子はだいたい女子制服着てるだろうね」
と美輪子。
 
「うん」
と言って千里も微笑む。
 
「毎日音楽祭があったら、千里、毎日その服で出て行くことになるね」
「えへへ」
 
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音楽祭は最初に合唱部の演奏(夏のコンクールに出た曲目+襟裳岬:森進一版)があった後、吹奏楽部の演奏(こちらもコンクールに出た曲目+ソーラン節)があり、その後、各クラスごとの演奏になる。演奏順はシャッフルされていて1年5組はお昼前の順序であった。
 
「襟裳岬というと今はたいてい森進一が歌った歌を連想するけど、それ以前は島倉千代子が歌った別のメロディーの歌があったんだよね」
と蓮菜が言う。
 
「へー、それ知らないや」
「実際の襟裳岬に行くと両方の歌碑が立っているよね」
 
「ソーラン節はだいぶ踊らされたなあ」
「ああ。小学校の運動会とかでも踊ったね」
 

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やがて1年5組の出番が来る。前のクラスの演奏が終わってステージを降り、代わって千里たちが舞台袖からステージに進む。段が2段作られていて3列になって並ぶ。孝子がピアノの前に座る。布施君が左手を振り、それを見て孝子が前奏を始める。Cm(シーマイナー)の分散和音を三拍子で2回繰り返した後、布施君は右手も動かし、みんなで歌い出す。
 
『帰れソレントへ』はイタリアの古い歌謡曲である。原曲はEmなのだがそれだと上のソまで使うので結構苦しい。ミかファまでしか出ないという子は多い。Cmだとミ♭までで済むので随分歌いやすくなる(実は伴奏も変化記号が少なくて楽になる)。
 
次のポルノグラフィティの『メリッサ』はAmの曲でラからラまで1オクターブ使う曲であるが、これもCmに移調してドからドで済むようにした。またこの曲は実は混声4部のスコアが入手できなくてソプラノ・アルト・男声という混声3部で歌っている。
 
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最後に歌った松原珠妃の『硝子の迷宮』は、メロディ自体が4オクターブ近い音域を使うというとんでもない曲である。松原珠妃はその4オクターブをマジで1人で歌っているのだが、蓮菜が入手してきた(どうも田代君経由っぽい)スコアはこれをバス・テノール・アルト・ソプラノの4パートが分担して歌う形にしていた。裏方になることの多いバス・アルトの子にはちょっと楽しい曲だ。それでも下の方、上の方は出る子が少ない。結局サビ2にある超高音部分は、孝子のピアノで代替することにした。
 

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演奏が終わってステージから降りたら
「そのままこちらに来て」
と言われて、体育館ロビーの校旗が壁に貼られている所に誘導される。ここにもステージと同じように段が作られている。
 
「さっき歌った時と同じように並んで」
と言われて3列に並ぶ。
 
「では記念写真撮ります」
と言われて撮影される。えっと。。。。
 
「これも卒業アルバムのDVDに収録しますし、明日から学期末までの間、学校サイトの1年5組専用エリアからもダウンロードできるようにしますので」
と言われた。
 
私、女子制服のままだけど、いいのかなあ、などと千里は思った。
 

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千里たちの学校は2学期制なので、1学期の期末テストが9月中旬に行われ、10月頭の連休前10月6日に終業式が行われる。そして連休明けの10日が2学期の始業式である。
 
この2学期から一部の生徒のクラス移動が行われた。
 
1学期終了直前に行われた振り分け試験が優秀な生徒で本人が希望する場合、ビジネスコース・情報コースから進学コースへ、また進学コースから特進コースへの移動が行われ、また進学・特進に居たものの振り分け試験も期末テストも成績が良くなかった者は特進・進学からビジネスか情報へ移動されている。特進から進学へのランクダウンもある。
 
これに伴って、1〜3組で進学コースに移動した生徒が4〜6組に移動になり、4〜6組でビジネス・情報に移動したものが1〜3組に移動になった。
 
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千里のクラスメイトの中にも数人、1〜3組行きになった子がいる。
 
「えーん。寂しいよぉ」
「勉強頑張ってね。また2年生で同じクラスになれたらいいね」
「うん。頑張る」
 
「ああ、2組行きか。どうせなら俺1組に行きたかったな」
などと言っている男子もいる。
「1組は女子クラスだから、性転換しないと行けないだろうね」
「あんた、性転換手術受ける?」
「興味ないこともないなあ。村山、お前性転換したんだろ?病院紹介してくれよ」
 
「取り敢えず女子制服を作ったら?」
と千里は言うが
 
「千里こそ、ちゃんと女子制服着て授業に出るべきだよな」
という声も掛かる。
 

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千里の友人たちの中では同じ中学出身であった恵香が情報処理コースから進学コースに移動になり、3組から4組に移動して来た。
 
「恵香頑張ったね」
「うん。自分でも頑張ったと思う。来期は特進目指す」
「おお、頑張れ」
「今期も可能な限り特進向けの授業に出席するから」
「凄い凄い」
 
進学コースの生徒でも本人が希望すれば(座席に空きがある場合)特進向けに行われている0時間目の授業や土曜日の授業を受けることは可能である。今学期恵香と同じクラスになる4組の花野子などが1学期からそうやっていた。花野子は2学期では特進に移動したかったようであるが、残念ながら試験の成績が足りなかったようであった。
 
なお自分では進学コースにギリギリで入ったし来期はやばいかもと言っていた留実子は特に落とされることもなく、進学コースのままで、クラスも千里たちと同じ5組のままであった。前期に受けていた奨学金も継続である。留実子は試験でよく勘が働くので実力以上の点数を取る傾向がある。
 
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スポーツ特待生にとっても振り分け試験は重要である。授業料全免のためにはこの試験で20位以内、半免には50位以内に入っていなければならない。野球で入った特待生の子で千里と同級生の子が「60位だった!母ちゃんに叱られる!」
などと言っていた。
 
バスケ部では千里は17位で全免を維持した。暢子も42位で半免を維持し、特待生ではないものの奨学金を受けていた寿絵もその資格を維持した。しかし男子で北岡君は40位で半免維持したものの、氷山君は71位で授業料免除の特典が一時停止になった。
 
「氷山君、学校、辞めたりはしないよね?」
「うん。父ちゃんから叱られたけど、取り敢えず授業料は出してくれるって。でも勉強も頑張らないといけないなあ」
 
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来期50位以内に復帰できないと、特待生の資格自体を失うことになる。
 
なお、成績特待生の蓮菜は振り分け試験3位の成績で、余裕で特待生資格を更新した。この試験の1位は6組の浜中君、2位になったのが鮎奈であった。3人とも東大理3を志望校にしている。しかし成績特待生で入ったものの授業料全免に必要な成績10位以内に入れなかった子もいた。
 
結局、スポーツ特待生・音楽特待生・成績特待生として入学した合計20人の内、この最初の振り分け試験で早速8人が授業料免除の恩恵を失い、4人が全免から半免に変更になった。
 
「特待生12人の内女子が8名、男子4名だって」
「やはりこの学校は女子が強い」
「ところでその中で千里はどちらに分類されてるんだっけ?」
「当然女子のはず」
「やはりねー」
 
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結局千里の学籍簿上の性別は女子のままになっているようである。
 
逆に特待生で半免から全免になった子もいるし(音楽コースの麻里愛がこのケース)、特待生ではないものの、成績10位以内に入って自動的に奨学金を支給(返済不要)されることになった子もいた。千里と同じクラスの孝子などがこのケースである。
 

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女の子たちの精密検査(3)

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