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■女の子たちの精密検査(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-06-01
 
それでその日、千里はそのまま指定された病院に向かった。そういえば留実子も医学的に本当に女なのかと検査されたなんて言ってたな。まあ自分は内診台にはさすがに乗せられないだろうけど、と思う。
 
最初に尿と血を採られて、少し待ってから婦人科医の診察を受ける。
 
胸を見せてと言われたので、ブレザーの上を脱ぎ、キャミソールとブラも取って胸を見せる。お医者さんはサイズを測ったりしていた。
 
「ふーん。アンダーバスト72、トップバスト80、AAカップかな」
「そんなものだと思います」
 
「君痩せてるからバストの発達も遅いんだろうね。ちゃんと御飯たべてる?」
 
あれ?何か端っから誤解モードという気もするぞ。やはり女子制服を着て来たのがまずかったかな??
 
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「はい。でもみんなから少食だって言われます」
「やはりね。ちゃんと食べるものは食べないと。スポーツやるなら、尚更だよ。あ、服着ていいよ」
と言われるのでブラを着け、キャミを着てブレザーも着る。
 
「しかし君、髪が短いね」
「はい。ちょっと成り行きで短くしてしまいました」
 
千里は4月の入学式前に髪を五分刈りにし、その後6月に1度刈り、夏休みは放置していたものの、夏休み明けに1度、そして今月初めに再度、髪を刈っている。バリカンでまるで雑草でも刈るかのように髪を刈られていくのも4月には悲しくてしょうがなかったものの、だいぶ慣れた気はした。それでも本当はそんなことはしたくない気分であった。
 
「君、そんなに髪を短くしてるから性別を疑われたんでしょう。僕が診察して、ちゃんと女の子だという証明書を書いてあげるから心配しないでね。ちょっとあの付近を確認したいから少し恥ずかしいかも知れないけど、内診台に乗ってくれる?」
 
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「あのぉ・・・私、男なんですけど」
「はあ!?」
 
それで千里は自分は戸籍上男性なのに、女性ではないかと疑われているということを話し、ちゃんと自分が男であるという証明が欲しいのだと話す。
 
「だって君、それ女子制服だよね?」
「ええ。こちらの方が好きなので」
「それに君、おっぱいあるし」
「済みません。女性ホルモン飲んでます。何度か注射してもらったこともあります」
「それでか! 血液検査でも、女性ホルモン・男性ホルモンの数値が女性の標準値の中に入っているね。もう去勢してるの?」
「いえ、してません」
 
それで取り敢えず見せてと言われるので、スカートもショーツを脱いだ上で、結局内診台に乗せられてしまう! これを他人に見せるのは、中1の時に鞠古君の身代りをした時以来だけど、あの時もこんなにじっくり観察されたりはしていない。千里はもう羞恥心にふたをして金庫にしまって封印でもしたいような気分だった。
 
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「ああ。確かに男性器は付いてるね。でも、パンティ姿の時までは、やはり付いてないじゃんと思ったのに」
「私の、小さいから」
「確かに小さいね、これ。面倒だから取っちゃわない?それで女の子でしたという証明書いてあげてもいいけど」
 
「いいですね、それ。でも私、男子だという証明が欲しいんです」
 
「取り敢えずサイズ測ろう」
と言って、医師は千里を内診台に乗せたまま男性器のサイズを測った。
 
「長さが2.4cm, 外周が3.2cmかな。これ、君マイクロペニスじゃないかな。立っておしっこできないでしょ?」
「物心付いて以来、立っておしっこしたことはありません。いつも座ってしています」
「それはどうして? やはり短くてできないから?」
「自分は女だと思っていたので」
 
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「じゃ、君、意識としては女の子なんだね?」
「はい、そうです」
 
「だったら、女の子だという証明が欲しいんじゃないの?」
「でも、男性器が付いている以上、無理だから。ちなみにマイクロペニスではないと思います。めったに勃起しませんけど、勃起した時に測ったら9cmくらいありましたので」
 
ほんとうはもう4年くらい勃起したことはない。9cmというのは小学生の時に測ってみた数字だ。
 
「なるほど。それだけあれぱマイクロペニスではないね。しかしよくこれが9cmまで伸びるね」
「3〜4倍くらいかな」
「うん。そんなものだね。睾丸のサイズは。。。4mlかな。これは思春期が始まった頃の男の子のサイズ。君、精通がまだ来てないということは?」
 
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「精通は今年の春に1度ありました」
「1度だけ?」
「はい」
「その前は?」
「いえ、それが初めてでした」
 
「うーん。その後は?」
「まだありません」
「1回出たというのは自慰したの?」
 
「いいえ。夢精です。私、男の子方式の自慰はしません。たまに自慰することはありますが、女の子みたいに、その付近に指を当ててぐりぐりと回転運動を掛けます。到達感はありますが何も出てきません」
 
「なるほどね。でも握って往復じゃないんだ?」
「握れませんし」
「確かに、これは握れないね!」
 

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「しかし、精液を出してもらって精子の状態を検査しようかと思ったけど、自慰しても射精しないのでは、多分できないね?」
「そうですね」
 
「睾丸から直接採取してもいい?」
「どうやるんでしょうか? 睾丸を取り出して検査ですか?」
「ああ、いっそ摘出しちゃう?」
「摘出してくださるのでしたら歓迎です」
「まあ、そういう訳にもいかないだろうから、非破壊検査だな。注射針を入れて細胞を採取する」
「痛そうだけど、いいですよ」
 
それで医師は注射針を千里の睾丸に刺して生殖細胞を採取した。それでやっと内診台から解放された。医師は顕微鏡を見ている。
 
「生殖細胞は正常だし、精子もいるし、精原細胞も正常だし。ここだけ見れば正常な男性だね」
と医師は言う。
 
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千里はちょっとショックだった。睾丸の機能を低下させようと、ほんとに努力してきているのに、正常に活動しているなんて・・・・。
 
「君、まだ声変わりが来てないみたいだけど、これなら、そう遠くない時期に声変わりは来るかもね」
 
それもショックな話だ。この時期、千里はひょっとしたら自分は声変わりしなくて済むかも知れないというのを漠然と考えていたのである。
 
ふと医師が何かを考えるようにする。
「君クラインフェルター症候群ってことはないかな」
「性染色体がXXYであるものですか?」
「そうそう。よく知ってるね」
 
「自分がひょっとして半陰陽だったりしないだろうかとか妄想して、半陰陽のことも随分勉強したので」
 
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「なるほどね。ちょっと遺伝子検査していい?」
「はい、お願いします」
 

それで医師は検査部門に電話し、さきほど採取した千里の血液で性染色体が何かを確認して欲しいと連絡した。結果が出るのに少し時間が掛かるということだったので、その間、レントゲンやCTを撮られた上で、心理テストを受けさせられた。
 
「女性の服が着たいですか?」とか「男の子を好きになることがありますか?」
のような質問はまだ分かるが、「数学が好きですか?」とか「英語が好きですか?」
あるいは「計画的に行動する方ですか?行き当たりばったりですか?」といった質問は何なんだ!?と思いながら回答していった。もしかしてステレオタイプ的な女性像・男性像が想定されているのかなと思い少し不快な気分だった。一応正直に回答していくが多少(女性的と思ってもらえるように)恣意的に回答した部分もあった。
 
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その後心理療法士の女性と少しお話をした。小さい頃からの自分のことを訊かれて、それに答えていったが、いろいろ我慢していたことが噴出してきて、千里は泣きながら質問に答えた。そうだ。自分はそんなに辛いことを我慢していたんだよな、というのをあらためて思い起こしていた。
 
高校に入る時に髪を短くした経緯についても訊かれて、千里は泣きながら答えた。
「普通の女の子のように伸ばせるようになるといいね」
と言われたが
 
「でも高校に入る時の、教頭先生と父との約束だから、高3の夏くらいまではこれで我慢します。卒業間近になったらなしくずし的に長くしてもいいかなと思っているんです」
と千里は答えた。
 
「その方があなたの気持ちとして後ろめたくないのであればそれもいいかもね」
と言ってもらえた。
 
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心理療法士の人とのセッションが終わった所でまた医師の所に行く。
 
「遺伝子を確認してもらったけど、君の性染色体は普通にXXだね」
「XX!?」
「あ、違った。XYだ。ごめん、ごめん」
「びっくりしましたー! 一瞬、自分は本当に女だったんだろうかと思いました」
 
「期待させてごめんね。だから男性器が未発達なのは、やはり女性ホルモンを摂っているせいだろうね」
「だと思います」
 
「CTスキャンの画像を見たけど、卵巣や子宮の痕跡なども見当たらない」
「残念です」
 
「心理テストの結果は《普通の女性》。君、ある意味完璧すぎるんだよ、女として。ふつう、GIDの人って、もっと男性的な部分と女性的な部分が混じっているのに、混じりけが無いんだよね」
 
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「そうかも知れないですね。自分が男かも知れないなんて思ったことは1度もないから」
「それでも、自分が男だという証明が欲しいの?」
 
「だって私、医学的に男なのに、女として試合に出るのはアンフェアだと思うんです」
 
「そんなことはないと思うよ。君、ホルモン的に女性だし、お肉の付き方とかも女性的だし。肉体的にはむしろ完全に女だと思うな。男が女子の試合に出てはいけないというのは男性的な肉体を持っているからでしょ?君は女性的な肉体を持っているのだから、女子の試合に出てもいいし、むしろ男子の試合に出ていて、強い力で押されたりして怪我したりする方を僕は心配するよ」
と医師は言った。
 
「でも男性器が付いていますし」
 
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医師は溜息を付いた。
 
「じゃ取り敢えず、ホルモン的にも身体特徴的にも心理的にも女子だけど、染色体と外性器は男性という診断書を書くよ」
「はい、それでお願いします」
 

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