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■女子大生・夏は絹(12)

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「私はカジャと申します。こいつは」
と老人が言いかけると、九重が
「グーグーか?」
と言う。
「何それ?」
「カジャといえばグーグーだろ?」
「分かんなーい」
「カジャグーグー(*16)を知らないのか?」
「知らなーい」
と千里。
「私もカジャグーグーは好きですが」
と老人。
 
(*16) カジャグーグー(Kajagoogoo)はイギリスの音楽ユニット。1980年代に盛んに活動した。アール・ヌーヴォー(Art Nouveau) というバンドにボーカルのリマール(Limahl) が加わって成立した。“カジャグーグー”という名前は赤ん坊の泣き声を模写したもの。リマールは本名 Christopher Hamill で Limahl は Hamill のアナグラム。リマールは映画『Never Ending Story』(1985) の主題歌を歌ったことでも知られる。
 
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「この者はメイセーと申します。メイベー・メイセーという兄弟の弟のほうです。どうか首を切るのもお股の首を切るのも、この老人に免じて許してやってもらえませんか」
「こいつが私の友人を襲おうとしたから正当防衛だぞ」
「ご無礼は私が代わって謝りますから、どうかご勘弁を」
「まあよいか。今日のところは勘弁してやる」
「ありがとうございます」
「私は千里だ」
「チサト様ですね」
 
そこにヒグマが出た。千里は右手の小指1本で軽くヒグマを倒した。メイセーが「やはり」という感じで頷いている。
「徳部、こいつの血抜きをしろ」
「へいへい」
 
それで九重が熊の首の血管を切り、斜面に寝せる。
「まあ1時間くらいで血抜きできますよ」
と九重。
 
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「その熊、どうするんですか?」
とメイセーがフィンランド語で訊いた。
「熊は焼いて食うに決まってる」
と千里もフィンランド語で答える。
「お前も食うか?」
「へい。熊は大好物です」
「何なら仲間を呼んでもいいぞ」
 
それでメイセーが指笛を吹くと似たような連中が多数集まって来た。
 
「何か青っぽい奴と黄色っぽい奴がいるな」
「はい。種族の違いです」
とカジャが説明する。
「メイセーなど青系統はケンペ(魔人)族、黄色系統はヨルト(巨人)族です」
「ほほお」
「今日は来てませんが赤っぽい奴はドラゲ(ドラゴン)族です。私たち白はトロール(地の精)族」
「分かりやすくていいな」
 

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「美しい姫君が5人も」
と青系統のひとり(ロジャ)が言っている。こいつはメイセーと同じくらいの強さと見た。きっとグループの中心的存在のひとりなのだろう。
 
「5人の姫君(viisi prinsessaa ヴィージ・プリンセッサ)だ」
とロジャ。
 
「ヤパニから来た姫君たちだ」
とメイセー。
「私だけスオミ人」
とシルキー。
 
「見れば分かるな」
 
「この姫君たちは強いぞ。チサト姫、さっきのまたやってください」
とメイセー。
 
「うん」
 
それで千里は村正を抜くと一振りした。木が倒れる。
 

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「なんで手前の木ではなくて向こう側の木が切れるんです?」
「手前の白樺はスオミ(フィンランド)の国木だからな。それで向こう側の赤松を切った」
「自在に切れるのが凄い」
「この赤松のように首を切って欲しい奴、お股の首を切って欲しい奴がいたら、切ってやるぞ」
「どちらも遠慮します」
 
「私はお股に首は無いけど頭の下の首は切られたくない」
と言っている女子(リンゴ)がいる。集団はほとんどが男だが、数人の女も混じっているようだ、
 
「チサト姫は強いぞ。今もこの羆をちょちょいと倒した」
「おぉ」
「そのクマどうするんですか」
「今焼いて食おうと言っていたところだ。お前たちも食え」
「はい。いただきます」
 
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それで血抜きが終わったところで、枯木を燃やして熊を焼き、みんなで食べた。九重にお酒も取ってこさせる。
「まあ飲め」
「いただきます」
「この辺じゃ見ないお酒だ」
「日本の酒だ。これはこちらのサヤ姫の父君が作っているものだ」
「サヤ様、頂きます」
「うん」
 
それで熊肉パーティーとなったのである。千里達もお酒を1杯だけ飲んで、あとは熊肉を食べていた。
 

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熊を食べ尽くした頃
「もう少し入るな」
という声があがる。
「誰か何か獲ってこい」
「よっしゃ」
とロジャが言い、どこかに行くと5分ほどでトナカイを抱えて戻って来た。
「それ誰かが飼っていたトナカイでは?」
「山で遊んでましたよ」
 
フィンランドには野性のトナカイも多いが、半家畜化されていて管理者が居る場合も多いので注意が必要である。
 
「1〜2頭いなくなってても分かりませんよ」
「谷に落ちて死ぬのはよくあることです」
 
まあいいか。
 
「スオミの法律ではトナカイを怖がらせてはいけないんですよ」
「つまり苦しませずに殺せばいいんだな」
と言うと、千里はトナカイを瞬殺した。
「おお、さすが姫君だ」
 
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ということでこのトナカイも焼いて食べて、また小白にお酒を持ってこさせてパーティーは続いた。
「あれ?キツネがいる」
「キツネは私が眷属として使役しているから食わないでくれ」
「まあいいですよ」
「キツネ程度では腹の足しにならない」
「それより熊やトナカイだ」
 
双葉は
「昨日サンタクロース村でトナカイさんと遊んだのに今日トナカイの肉を食べることになるとは」
などと(日本語で)言っているが、清香は
「軟弱な。肉は肉だろ。命に感謝して食うんだよ」
と言ってもりもり食べていた。双葉も結局は
「トナカイさん、ありがとう」
と言ってたくさん食べていた。
 

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パーティーが落ち着いたところで千里は彼らに言った。
「ところでお前達こちらのシルキー姫に協力してくれんか」
「何ですか?今度はアザラシでも獲ってきましょうか」
「姫のお祖父さんが木を切る仕事をしていたのだが、年取ってもう木を切っても麓まで運ぶ体力がなくなったんだよ。お前達で木を麓まで運んでくれないか。木1本につきワイン1本とかでどうだ?」
「ああ。そのくらい、お安い御用」
「よし。だったら取り敢えず木を20本くらい切っておこう。今度また10月頃来るから、その時、運び出しを頼む」
「分かりました」
 
それで千里はスプルースを20本ほど村正で切った。彼らに協力させて、現地に横倒しにして、このまましばらく自然乾燥させる。フィンランドの冬は10月頃から始まるから、その頃、搬出すればいい。
 
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「ところで製材所に運び入れる時は木を抱えて行ったら驚かれるからトラックで運び込んで欲しいのだが、車を運転できる子いる?」
「俺ができますよ」
とロジャ。
「俺もできる」
とメイセー。
「じゃそのあたりで頼む。トラックは用意しとく」
「分かりました」
「分かった」
 

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「ところでお前達は私の雇い人ということにしようか。それとも私の眷属になるか」
「眷属にしてください」
「主人の居ない精霊は精霊狩りに遭うんですよ」
 
どこの国も事情は似ているようだ。コントロールされてない精霊はしばしば“悪さ”をするので、神様や委託された英雄に“退治”されることがある。
 
「だったら眷属にしよう。メイセー」
「へい」
「ロジャ」
「はい!」
「フィンチ」
「はい!」
「リンゴ」
「はい」
 
千里はその場に居る全員の名前ををひとりずつ呼んだ。
 
「お前達、私に従え。私は千里だ」
「はい!」
 
それで千里はこの30人ほどの集団を眷属にした。彼らの集団の名前は“スオミ・サッカレイカ”(フィンランドの勇敢なるものたち)と命名した。
 
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「でもどうして私たちの名前が分かったんですか」
とロジャが英語で訊くので九重が英語で説明した。
「千里は相手を見ただけで、そいつの名前と生まれた日が分かる」
「すげー」
 

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こうしてシルキーは日本の忍者は得られなかったものの、スオミの勇者たちを雇うことができたのである。
 
千里は後にノルウェーで森林事業を大きく展開するのだが、始まりはフィンランドだった。この事業を進めるため、千里はフィンランドに「viisi prinsessaa(5人の姫)」
という会社を設立した。これはロジャが「5人の姫様だ」と言った言葉が元になっている。この会社のマークは姫をあらわす上向き三角形が5つ並ぶ。
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△△△△
 
上に1個、下に4個の配置でこれはメイセーが提案したものである。上の1個が誰なのかについてはロジャによると3つの説があるらしい。
(1) メイセーを屈服させた千里
(2) スオミ人であるシルキー
(3) 男の子だと主張している公世
 
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ところでこの日の晩ご飯はトナカイ肉のボルシチ風だった。お母さんは
「昨日サンタクロース村でトナカイ見て美味しそうと思ったから」
と言っていた。千里はこのお母さんの性格好きだ〜と思った。もちろん双葉も含めてみんなもりもり食べた。
 
なおフィンランドではトナカイ肉は普通にスーパーで売られている。
 
 
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女子大生・夏は絹(12)

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