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■女子大生・夏は絹(6)

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5月中旬、千里(ロビン)は雅の東山区にある本店を訪れた。社長は来客中ということで次女で、雅本店店長でもある千絵さんがお店の中を案内してくれる。
 
「年商のわりにこぢんまりしたお店だと思っていたけど、そもそもここにはあまり多くは呉服を展示してないんですね」
「ええ。呉服は展示とかすれば傷むから、展示して売るというやり方は採らないというのが、うちの考え方なんですよ。浴衣とかは展示売りしますけどね」
「昔ながらの呉服屋さんの考え方だ」
「そうなんですよ。だから店の半分が畳敷きの商談スペースです」
「それでおもむろにタンスから生地を取り出して、これなどいかがですか、とやるわけですね」
「ええ。色無地とかは、そういうやり方ですね。振袖の場合は注文をお受けしてから生地自体を作るから、パソコンの画面で著ているところを見て頂きますけど」
「パソコンが使えるようになる以前は見本帳とかで見せてたのかな」
「そうです、そうです。模様の見本帳をお見せしていたそうです。パソコンで見せられるようになったのは90年代からですね」
「それ以前はパソコンがモノクロでしたからね」
 
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千里は店内を見ているうちにごく少数展示されている呉服の背景に多数の湯飲みが置かれていることに気づいた。
 
「そういえば湯飲みが多数置かれてますね」
「ええ。父の祖父のお友達が京焼きの窯をしていたので、その関係で京焼きを多数仕入れてたんですよ。でも父の父は母親が九州出身だったので佐賀県の有田焼が好きで有田の窯元と契約して有田焼を多数仕入れてたんです。だからここには京焼きと有田焼が半々くらいあるんですよ」
 
千里は少し考えた。
 
「あのぉ、もしかして、この湯飲みって商品だということは?」
「ああ、商品と思われないですよね。だいたい和服の背景だと思われるみたい」
「背景と思ってました!」
「実際誰も商品とは思わないから全く売れません」
「売り物であれば呉服とは分けて、陶磁器コーナーとかを作ったほうが」
「私もそう思うのですが、それでなくても店が狭いので」
 
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湯飲み以外にも、やはり和服の背景と思っていたもので、茶釜、三味線・胡弓に箏、碁盤なども実は商品だということだった。ただし全く売れてないらしい。
 

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そこに社長が来た。
「あ、村山さん。いらっしゃい。おい店を広げられるぞ。前島旅館の跡地を買うことになった」
「旅館はどうしたんですか?」
「三年坂のほうに新たな土地を買って鉄筋コンクリート5階建ての旅館を建てて、ここから移転するんですよ。それでその跡地をうちが買うことにしました」
「大きくなるところの跡地というのは縁起が良いですね」
「ほんとですね。だから、前島旅館の跡地に今のこの店の倍くらいの店を建てて引っ越そう。いやあこないだ村山さんが言った『すぐお店を広くできる』というのが当たりましたよ」
「そしたら、この店は?」
「そうだなあ。今背景と思われて全く売れてない湯飲みとかを売る店にでもするかなあ」
 
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千里は言った。
「提案です。旅館の跡とこの今の店の場所を両方使って今の3倍の店を建てましょう。湯飲みとかも売るなら、新しい店の2階にでも」
「賛成!」
と千絵さんが言った。
 
それで、奥に入り、本社ビルのほうにいた奧さん、工房のほうにいた長男の雅夫さんや長女の祥代さんも入り話しあった結果、やはりふたつの土地を合わせて今の3倍の広さの店を建てることになった。2階は、フォトスタジオと着付け室、12畳程度の和室、カフェ、それに湯飲みなどを売るコーナーなどを作る、着付け室は8個作ることにした。これは振袖の着付けには1時間ほどかかるが写真の撮影は15分程度、そして脱ぐのにも1時間ほど掛かるからである。
 
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「建築はうちの配下の工務店に任せてもらえませんか。一週間で建てさせますから」
「一週間で!?」
 
千里は青池を呼んで新店舗の詳細について打ち合わさせた。すると青池がいかにも“できる”雰囲気なので、小川夫妻はこちらを信用してくれて工事を任せてくれたのである。
 

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土地の登記移転が5月中に終わったので、本店の建て替えは6月頭におこなったが、大力工務店はこのように作業した。
 
(1) 現在の本店の中身を隣接する友禅工房や本社ビルの中に退避させる
 
(2) 1晩で旅館と現本店の建物を撤去する
 
(3) 基礎工事をしてコンクリートが固まるまで一週間待つ
 
(4) 待っている間に姫路の山中で新しい建物を構築する(軽量鉄骨)
 
(5) コンクリートが固まったところで建物を運んで来て基礎の上に置く
 
(6) 退避させていたものを新店舗に戻す。
 
ということで、本当に一週間で新しいお店ができたので、みんな驚いていた、
 
「こんな感じで、うちは毎月注文住宅を4−5軒建ててますから」
「建てられるわけだ!」
「基礎ができた翌日に建物が完成してたのに驚いた」
「アラジンのランプみたい」
「まあ似たようなものですね。別の場所で建てておいて、トレーラーで運んできて置いたんですよ」
「なるほどー」
「だからある程度の広さの道路があるところでしかできません」
「なるほど」
「神社の社務所を2週間で建てたこともありますよ」
「すごいですね」
 
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湯飲み、茶釜や茶筅など、三味線・胡弓や箏(お琴)に尺八、碁盤などは2階の5m四方ほどの部屋に収めた。
 
「ここには何か別の看板を付けよう」
と雅夫さん。
 
「湯飲みだけなら、小川陶磁器店とかでもいいんだけど」
「楽器があるし、碁盤・将棋盤があるし」
「扇に色紙(しきし)、筆に硯(すずり)に文鎮(ぶんちん)、万年筆に、櫛に・・・」
「とりとめがない」
「お道具店という感じかな」
「道具の具と書いて“そなえ”」
と千絵さんが提案した。
「うん。それがいい」
と雅夫さんも同意したので、ここのお店の名前は具(そなえ)ということになった。千里はここで翌年春以降、備前榧の碁盤・将棋盤なども売ることになる。また播磨窯の茶碗も扱ってもらった。それで播磨焼きは姫路の伊万里と、この具(そなえ)の2ヶ所で販売されることになる。他に那須竹笛製作所の龍笛、姫路篠笛製作所の篠笛も置いてもらった。
 
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千里は小川社長に紹介してもらい、碁盤・将棋盤を作っている“棋花”という工作所に北海道で伐採した江差ヒバや桂(かつら)を持ち込んで加工してもらった。それで具には夏以降、ヒバや桂の碁盤・将棋盤・チェスボードが売られるようになる。
 
棋花工作所では将棋の駒も作っているということだったので、千里は北海道で切り出した楓(かえで)と、四国で切り出した柘植(つげ)を持ち込み、将棋の駒も作ってもらった。これも具(そなえ)で売ることになる。碁石に関してはこの工作所のツテで、白田碁石というところの硬質ガラス製および重量プラスチック製の碁石を仕入れることにした。(これまでは雅では碁盤・将棋盤を売っているのに碁石・将棋の駒は扱っていなかった)他に桑の碁笥(ごけ:碁石の入れもの)も売った。また播磨窯に参加している浜名という子がほぼ趣味で作ったチェス駒も置いた。これは2009年内に3組も売れて喜んでいた。利用者の多いスタントン・スタイルで白い駒と青い駒のセットである。
 
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良質の碁盤・将棋盤などがあるというクチコミで結構お客さんが来て、そこから湯飲みも売れるようになった。篠笛や三味線もぼちぼちと売れた。箏(生田流)も2009年は2個だけ売れた。龍笛も少し売れた。
 
「でもこの三味線って猫の皮使ってるんですよね」
と千絵さんは言った。
「三味線の原形になった中国渡来の楽器はニシキヘビの皮を使っていた。でも日本にはニシキヘビが居ないから、手近に入手できる猫の皮を使ってみたら結構いい音がする、というので三味線が生まれたんですよね」
「野良猫とか捕まえて皮を取ってるの?」
「昭和40年代頃は“猫取り”さんとか居たけど、今はもう居なくなって現在は全部中国からの輸入ですね」
「へー」
「食用猫の皮らしいですよ」
「食用猫なんてのがいるのか!」
「中国人は足のあるものなら机以外何でも食べると言いますし」
「すごいね」
 
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6月上旬、雅本店の建て替えをしたのだが、新しい店舗には旧店舗にあった呉服は戻さず、大量の浴衣(ゆかた)・甚平(じんべい)を入れて展示した。
 
雅で販売している浴衣(ゆかた)はポルタ店・イオン店など・およびエレガント付属店舗で売っているのは5000円から15,000円程度の廉価価格帯のものが多い。また四条店や本店で受け付けているオーダーメイド浴衣は2〜5万円程度である。既製品浴衣は6〜8月に店頭に出している。生地は、綿100%, 麻(リネン)100%, 綿麻(めんあさ:綿と亜麻の混紡)、の3種類、染色方法は1万円以下はプリンタ、2万円以上は“注染”と呼ばれる、型を使った手染めである。
 
生地自体は岡山県の親族企業から仕入れている。それを大半はプリンタで染めて2〜5月頃に(京都府)亀岡市の工場で浴衣・甚平に仕立てていた。ただし高額商品は東山の工房で製作していた。注染は1〜4月に東山工房で実施していた。これが実は結構型押し友禅の製作と似た部分があるのである。それで新人さんは先に浴衣生地の注染をしてもらって、その後で友禅の製作工程に投入した。
 
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浴衣の仕立てはだいたいのところをミシンで縫って、仕上げは手縫いである。
 

今年はこの亀岡工場の縫い子さんで、特に上手い人10人ほどを山崎工房、それに準じる人20人ほどを姫路ネオラボに呼んで振袖や振袖21の縫製を担当してもらった。特に振袖21はミシンで縫う部分が多いので“浴衣班”が大いに戦力になった。
 
この亀岡の工場で働いていた縫子さんは20-40代の(ほぼ)女性50人ほどで、日中韓越泰比と国籍が入り乱れていた。基本的に日本人も外国人も時給は等しい。
 
募集は国籍もだが性別も不問にしているものの応募者はほとんど女性である。男の娘も4人いたが、この子たちは全員上手いので、山崎工房に入ってもらった。普通の女性より体力があって助かった。
 
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しかし浴衣の製作はだいたい4月頃までに終わっていたので6月にできた新本店には最初から大量の浴衣を入れることができたのである。
 
ただ今年は、友禅振袖製作のスタッフ採用の関係で5〜6月に注染で浴衣生地を染め、6〜7月に仕立てて7〜8月にお店に出した浴衣も結構あった。実はそれが振袖製作の予行練習にもなっていた。この遅く作った物はだいたい2〜3万円の品でほとんど本店に入れている。そしてその分、廉価品をポルタ店やイオン洛南店に移動した。
 
なお、雅では帯(おび)や下駄(げた)は作ってないので、これらは高級品では京都市内の帯屋さん・履物店、廉価品では中国上海(シャンハイ)の帯屋さん・履き物屋さんから輸入して浴衣と一緒に売る付属品セットにしている。浴衣の着方ガイドブック(100円)・DVD(300円)は10年ほど前に呉服店の組合で製作した共通のものを付けている。
 
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6月13-14日(土日).
 
学生剣道の近畿大会がおこなわれた。京教女子は2年生以下のメンバーで出場した。
 
先鋒:シルキ・クイッカ(橘花)
次鋒:島根双葉
中堅:木里清香
副将:村山千里
大将:平田芳恵(2年)
 
シルキーは初めての大会参加で張り切っていた。
 
「清香ちゃんを大将にした方がいい気がする」
と平田さん。
 
「それだとなかなか出番が来ないというのでご不満なんですよ」
「なるほどね」
 
1回戦、シルキーは勢いよく出て行き、面で1本、胴で1本取って勝っちゃった!向こうも初心者っぽかったが、女子は競技人口が少ないので下位の試合では結構こういう相手もいる。しかしシルキーは「勝った勝った」と凄く喜んでいた。あんまり喜びすぎて注意された。シルキーはすぐ
「ごめんなさい」
と謝ったが、小さな声で双葉に訊いた。
「なぜ注意されたの?」
「喜びを表現するのは相手に対して失礼であるとされるから」
「武道って難しいんだね」
「剣道とか相撲とか日本の伝統的な競技では礼儀を凄く重視する。大相撲でもガッツポーズした力士が注意されたことがある」
 
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試合はそのあと双葉と清香も勝って勝ち上がる。
 

2回戦。シルキーの相手は初段の人である。まあ勝てないだろうなと思ったのだが、向こうは体格があるシルキーを攻めあぐねていた。そのうち滑って転んでしまう。シルキーは困惑していたが千里が小さな声で「ロイ・ハンタ(彼女を打て)」と言うと、シルキーは「面!」と言って相手の面を打つ。1本が成立する。但し千里は声を掛けたことを注意された。
 
シルキーは強そうな相手から1本取れたことで自信を持ち、次は176cmの身長から振り下ろす面でもう1本きれいに取り、この相手に勝ってしまった。
 
「千里、フィンランド語できるの?」
「ちょっとだけね」
「偉い」
「千里は多分300ヶ国語くらいできる」
と清香。
「すごーい」
「300も言語が無い気がする」
 
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このあとは双葉と清香も勝って勝ち上がる。
 

3回戦、シルキーは負けたが、そのあと双葉・清香・千里と勝って勝ち上がる。
 
準々決勝以降はオーダーを組み替え、双葉・千里・清香・シルキーの順にしたので先頭の3人で勝って勝ち上がる。準決勝も同様であった。
 
決勝は関西大会と同様、同志社とである。双葉が敗れ、千里と清香は勝ったがシルキー・平田が敗れて同志社の優勝となった。
 
「私負けてごめんね」
「いや向こうはいつも優勝しているところだから仕方無い」
「そんなに強い所なのか」
 
それで表彰式では平田さんが準優勝の賞状をもらってきた。
 
なお男子は3回戦で敗れた。
 

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大会が終わった後は串カツ屋さんで打ち上げをした。男子たちはお酒を飲んでいたが女子はコーラにした。男子たちがお酒を飲んでいるのを見てシルキーが訊く。
「日本では未成年はお酒禁止なのでは」
「そうだよね。悪い子たちだね」
などと言いながら、女子はコーラを飲んでいた。
 

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