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■私の高校生活(11)

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(C)Eriko Kawaguchi 1998.12.21
 
その夜、私たちは裕子の親戚の叔母さんと一緒に銀座で食事をすることになっていました。
私は吸引パッドを付けて渡された服を着ています。胸がものすごく飛び出して見えて、何だか不思議な感じでした。劇の時に付けていた付け胸は如何にも詰め物をしている感じだったのですが、それはごく自然にそこに胸があるような感じでした。
 
他の三人もいったんシャワーを浴びてから思い思いのおしゃれな服を着ます。「学生でもこれくらいはいいでしょ」そう言って、裕子がみんなに軽く香水を振りました。いい香りがします。ちょっとドキドキする気分です。
 
私たちはJR有楽町駅で降りて、歩いて5分くらいのそのレストランに入りました。叔母さんはもう来ていました。ボーイに案内されて奥の方の小部屋に行きます。
 
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「失礼します。お連れ様がお見えです」
 
ボーイがノックしてドアを開け、私たちが「こんにちは」と入っていきますと、テーブルには上品そうな30前くらいの女の人が座っていました。「叔母さん」と聞いていたので、もう少し上の年齢の人を想像していたのですが、これなら「お姉さん」でもいい感じです。その叔母さんが、いきなり私の方を見てこんなことを言いました。
 
「ねえ、あなた女優にならない?」
 
裕子は「商売はヌキにして欲しいなぁ」と笑いながら言って、みんなを座らせ、私たちを紹介してくれました。
「こちらは鈴木絵里さん。一度前にも会ったことあるよね。おうちは病院で、絵里もお医者さんになって家をつぐつもりなの。まぁ普通はお婿さんを取るんだけど、彼女の場合はどちらかというとお嫁さんが必要かも知れない」と笑いながら言って、ちらっと私の方を見ます。
 
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「こちらは横田みどりさん。おうちは家具屋さんだけど、上にお兄さんがいるから、安心してお嫁に行くつもりでいるみたい。高校出たらカルチュアスクールにでも通いながら、お見合いの話を待つんだ、とか言ってる。そして、こちらが因幡直美さん。お父さんは大学の先生で、お母さんは踊りの先生。本人もすごく頭がいいし、ダンスなんかもうまいんだよ。」
 
「あら、お母さんが踊りの先生なら、あなたも習ってた?」
 
と叔母さんが聞きます。
 
「いえ、3歳頃少し習わせたようですが、この子は才能ないみたい、とかで諦めたらしいです。自分では全然覚えてないんですが」
 
ほんとうは女踊りを覚えさせようとしたのだが、男の子に教える必要ないじゃないか、と父親が言い出し、その後妹が生まれたので、やめさせたらしい。そのことは誰にも言っていない。
 
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「でも、すごく体が柔らかいしリズム感がいいもんね、直美は」と絵里が口を出します。
 
「そうそう。180度開脚できるし、足が楽々頭の上まで上がるの」とみどりが付け加える。
 
それは実は中学時代にいつも組んで柔軟体操をしていた人が体操をしている人で、とても体が柔らかかったせいなのである。柔軟体操というのは柔らかい人と組んでやっているとこちらも柔らかくなる。体を曲げるツボのようなものを直接教えてくれるからだ。
 
「うーん、ますます惚れたわ」
 
と叔母さんが言う。
 
「和子叔母さんはサクラテレビの制作部に勤めているのよ」と裕子が紹介した。
 
「私の母の一番下の妹。結婚して男の子が二人居るけど...」と言ったところで叔母の顔を見る。
 
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「今日は旦那と一緒に置いてきたわ。男の子なんて、こういう所に連れてきても面白くないからね。私も娘が欲しかった」
 
そういえば、私もそんなことを言われて留守番をさせられていた。子供の頃、母はいつも妹だけを連れて友だちに会いに行っていた。そんな妹を私はいつも羨ましく思っていた。
 
「今からでも作れるんじゃないんですか?」と絵里が言う。
 
「子供は二人もいたら十分。あちらももう1年くらいお預けさせてるかな」
 
「それじゃ、その内浮気されますよ」と裕子が言う。 「その根性はないと思うけどな。ただ家で食事して風呂入って寝て、会社と家を往復しているだけ。男なんて、そんなものよ。どうして結婚って男としなきゃいけないのかしらね。女同士でも子供作れたら楽なのに」
 
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「私、直美に結婚しようって言ってるんです」と絵里が言う。
 
「あ、いいわね、そんなの。私もこんな可愛い子が友だちにいたら結婚したかったな」
 
と言って、叔母さんはまた私を見ます。
 
「ここで、言わなくても」と私は真っ赤になって絵里に抗議しました。
 
でも、それを見て叔母さんは私たちが相思相愛だと思ったようです。
 
「ところで、今日はあなたたちがモデルになった写真が展示会に出たからなんだって?」
 
「ええ、そうなんです。私たちともう一人幸子って子と五人で写った写真が金賞取って」
 
「すごいわね」
 
「そして更に直美一人で写った写真がグランプリだったんです」
 
「おやぁ、それはおめでとう。やはりモデルがいいからね」叔母さんがほんとにニコニコして私を見ます。随分気に入られているようです。
 
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「それで、その写真を撮った南真一郎という写真家さんがグランプリ取った記念に写真集を出すんですが、それ用に私たち、特に直美をもう一度写したいんですって」
 
「うん。いいんじゃない?」
 
「それで冬休みに蔵王で撮影やるんですよ」
 
「冬の蔵王なんて、いい根性した写真家ねぇ。ミーハーな写真家なら沖縄かグァムで水着でしょう」
 
「女子高生を脱がす訳にもいかないから、なんて言ってました」
 
「じゃ、着衣なのね。水着もヌードも見せるのは構わないと思うけど、安売りはしない方がいいからね。でもそれなら表紙はやはり直美ちゃんよね」
 
「私もそうだと思います」と裕子。
 
「売れそうだわ。写真集いつ出るの?」
 
「2月中旬くらいの予定という話でした」
 
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「ふーん」叔母さんは何か考えているふうでした。私は嫌な予感がしました。
 
 
その後、話は叔母さんの仕事の裏話などで随分盛り上がりました。学校生活のことについても色々と話が出ました。裕子の両親は海外に出ていて、この叔母さんが監督係になっているらしいことを聞きました。そういえば裕子の家族の話というのも初めて聞きました。海外に行っているからこそ、娘を全寮制の学校に入れたのでしょうか。
学校生活のことを役目柄?叔母さんがいろいろ聞いていて、文化祭の劇のことに話が及びました。
 
「へえー、ロザリンドをやったの?難しい役なのに」
 
「直美は男の子の声も出せるんですよ。それで男装の時は男の声で演じたんです」と絵里。
 
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そうじゃなくて、女装の時女の声で演じたのだけど....と説明するには話が面倒くさすぎたので、そのまま私は訂正しませんでした。
 
「すごい! それなら声優もできるわね。歌は?」
 
「男声でも女声でも2オクターヴ半出るんです」と絵里が答える。
 
「うーん。ほんとに欲しくなっちゃった。ね、女優兼歌手でデビューする気ない?プロダクションはいいとこ紹介するから」
 
「でも、私胸小さいし」
 
「平気平気。そんなの手術しちゃえばいいわよ」
 
私は困ってしまい、なんとか話を別の方にそらそうと頑張りました。
 
レストランを出ると私たちは途中でおやつを仕入れてからホテルに戻りました。みんな汗をかいたので、また交替交替でシャワーを浴びます。
みどり、裕子、絵里、と来て最後が私の番でした。みんなシャワーを浴びた後は、思い思いにネグリジエやパジャマに着替えていました。私は絵里から「上がったらこれ着てね」と言われて白い服を渡されました。
 
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広げてみるとセクシーなベビードールです。
 
「えー、こんなの着るの? みんな普通のなのに」
 
「直美は特別だからね。着ないていうのなら、みんなで押さえつけて、アレ切っちゃうよ」と絵里。
 
私は「分かったよぉ」と言ってそれと下着の替えを持ってバスルームに入りました。
 
きれいに汗を流して、髪も洗い、ゆっくりと湯船に使ってからあがります。体を拭き、下着を付けましたが、吸着パッドは汗でべたべたしていたので、つけないまま、問題のベビードールを着てみました。
 
バスルームの鏡に映してみると、けっこう可愛い感じ。悪くない気がします。
 
 
「直美、上がったの?」
 
お湯の音が途絶えてしばらくたったからでしょう。絵里がいきなりドアを開けました。ロックし忘れていたようです。
 
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「きゃっ」
 
私は思わず悲鳴を上げました。
 
「こういう時の反応がすごく女っぽいな。さっきの薬が効いたかな?」
 
そういえば、薬を打たれたのでした。絵里はこれからも毎週打つと言っていました。
 
「これ、パッドの替えね。汗かいたでしょう?」
 
ちゃんと替えがあったようです。私は「ありがとう」と言って吸着パッドを付け、そのまま絵里と一緒にバスルームの外に出ました。
 
出ていくと、裕子も緑も待ちかまえていたようでした。
 
「さぁ、直美ちゃーん、メイクのお時間ですよ。ここに座って」と裕子が言って私を鏡の前に座らせます。そして裕子が私のメイクを始めました。
 
まず髪をブラッシングし、ドライヤーできれいに整えました。
 
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それから顔を化粧水でパッティング、乳液を付けて、ファンデを付けて、しっかりとマスカラを引かれます。他の二人は興味津々に私の顔が変身していくのを見ています。
 
アイシャドウを入れ、更にアイペンシルで調整。眉毛を少し切りそろえました。そして頬紅を差し、最後は口紅です。裕子は筆を使って慎重に輪郭を取り、なかをきれいに塗っていきました。
 
「はい、できあがり。美女一人前」
 
「わーい。今夜は私がもらっていい?」とみどり。
 
「だっていつも絵里ばかりなんだもん」
 
「ダメよ。直美は私のものなんだから。今夜は同じ布団に寝るの」と絵里。
 
「まぁ、取り合いはいいけど、感想はいかが?直美」と裕子
 
普段から時々お化粧をすることはありましたが、こんなに丁寧にされたのは初めてでした。正直私は鏡の中の自分にうっとりしていました。
 
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「きれいだな、って思う」
 
「素顔でも美人だと思うけど、お化粧すると、こりゃかなわない、って感じね。学園ミスコンに出ない?」と裕子。
 
「だって女の子の選考でしょ?」
 
「直美は女の子だから問題ないじゃん」とみどり。
 
「直美やっぱり性転換した方がいいよ」と裕子までそんなことを言い出しました。
 
私は笑ってごまかしながら、自分の行く末にまた不安を感じるのでした。
 
 
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