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■私の高校生活(6)

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(C)Eriko Kawaguchi 1998.3.22
 
●1年生11月
もう本番は間近です。練習は進みます。
 
■第二幕第1場■
 
(幕が上がる)
 
森の中。オーランド(高橋克也)上手から登場。木に何か書き付けている。そのまま下手に退場。その後、上手から今度はロザリンド(因幡直美,男装)とシーリア(鈴木絵里)登場。
 
シーリア :あ、そこにも書いてあるわよ。
ロザリンド:またぁ? これでもう今日だけで見つけたの5つ目よ。
シーリア :(読む)「東の果てから西の果てまで、類稀なロザリンド。どんなに美しい絵姿も、光失うロザリンド。」熱烈ねぇ。あちこちの木にあなたの名前が刻まれているわ。
ロザリンド:いい加減にして欲しいわ。誰なの、こんなことしているのは。シーリア :あら、分からないの?
ロザリンド:シーリア、知ってるの?
シーリア :ええ。昨日書いている所を見たもの。でも分かるでしょう? あなたが以前つけていた金のネックレスを首にかけている人に決まっているじゃない。あら、どうしたの赤くなって?
ロザリンド:ねぇ、教えて。それ誰なの?
シーリア :ほんとに分からないの?
ロザリンド:もちろんよ。心からのお願い。教えて。
シーリア :驚いたわ。まだ分からないなんて。呆れちゃうわね。
ロザリンド:私ったら、ほんとに赤くなって。私が男の子の格好をしているからといって、心まで男になったと思っているの? こんな格好をしていても私は女なのよ。もう我慢できない。お願い誰なのか教えて。
シーリア :オーランド。あなたの愛しい人じゃない。
 
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ロザリンド、恥ずかしそうなそぶりをして木の株に座り込む。シーリアも寄っていく。
 
ロザリンド:あの人もこの森に来てるの? うそみたい。ああ、私どうしよう。ねぇ、シーリア。あの人は知ってるの? 私もこの森にいて、しかも男の子の格好をしていること。あの人の様子は? 元気そうだった?
シーリア :恋をしている人の質問に答えるよりは、地面の塵の数を数えた方が楽なような気がするわ。あ、あそこに来るのは!
ロザリンド:きゃっ。ねぇ隠れて、隠れて。
 
ロザリンドとシーリア、木の陰に隠れる。オーランド、下手から登場。また木の幹に何か書き付けている。そこにジェイキス(沢口利雄)が登場。
 
ジェイキス:おや、また木を傷つけているのかい? 木が君に何か悪いことでもしたかね?
オーランド:そんなことより、私は自分の恋心を押さえることができないのです。
ジェイキス:わがままなお人だ。ふーむ。ロザリンドというのが君の恋人の名前かね?
オーランド:そうです。愛しい美しい姫君です。
ジェイキス:何か気にいらない名前だな。
オーランド:別に彼女の名前がつけられる時に、あなたに気に入れられるようにと付けた訳ではありませんから。
ジェイキス:それもそうだろうね。ま、せいぜい叶わぬ思いを募らせたまえ。私は失礼する。
ジェイキス、下手に退場。オーランド、木に刻みつける文句を考えている様子。そこへロザリンド、シーリアの手を引いて出ていく。
 
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ロザリンド:(以下男声で)もし、ちょっとお尋ねしたいのだが。
オーランド:なんでしょう? お初にお目に掛かりますな。
ロザリンド:今何時か教えて頂ければと思いましてね。
オーランド:朝か昼か、おおよその所をお聞きください。森には時計はありませんから。
ロザリンド:すると、この森には恋に悩む者は一人もいないということになる。1分ごとにため息をつき、1時間ごとにうめいていれば、それで時の遅い歩みは十分正確に計れるはずだから。
オーランド:時の遅い歩み? 普通は時の早い歩みといいませんか?
ロザリンド:そんなことはない。時の歩みは人によって異なるもの。ある人には並足、ある人には遅足、ある人には駆け足、ある人には完全停止だ。オーランド:ほほぉ。遅足になるのはどういう人です?
ロザリンド:若い娘が婚約してから結婚式をあげるまでの日々。それがたとえわずか一週間後だとしても、ものすごく長い時間に感じる。
オーランド:並足は?
ロザリンド:漢字が読めない坊さん。お経の勉強のしようがないから、何もすることなくただ眠ってばかりいる。そういう人には時はゆっくりと並足を使う。
オーランド:早足は?
ロザリンド:死刑台に引かれていく囚人。どんなにゆっくり足を動かしても、本人にとってはたちまち絞首台が目の前に迫ってくる。
オーランド:完全停止は?
ロザリンド:休暇中の弁護士。裁判と裁判の間を寝てすごすから時のたつのを感じない。
オーランド:あなたはこの森に住んでいるのですか?
ロザリンド:そう。生まれた時からね。この妹と一緒に。
オーランド:それにしては訛りがない。
ロザリンド:よく言われるよ。都会育ちの叔父に育てられたからだろうね。色々なことを教えてくれた叔父だった。そういえばここのところ、森の中の木にやたらと「ロザリンド」という名前を刻みつけている阿呆がいるようだ。多分恋の熱に犯されているのだろうが、そういう奴の治療法も叔父はいつか言っていたよ。
オーランド:それは実は私です。その恋の病に取り付かれているのは。あなたの知っている治療法というのは何ですか?よかったら教えて下さい。私は苦しくてたまらないのです。
ロザリンド:おや、叔父から聞いてる恋の熱の症状が、あなたには見あたりませんな。恋の熱にかかった者はまず頬が痩せこける。あなたは元気そうだ。目も黒ずんであちらの方向を見ている。あなたにはそんな様子もない。それから口をほとんど利けなくなる。あなたはちゃんとしゃべっている。それからひげは伸び放題。これもあなたは違う。最後に服はボロボロでボタンは外れっぱなし。しかしあなたはきちんとした身なりをしている。どう考えてもあなたは恋の病ではないね。むしろ自分に恋しているのではないか?
 
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オーランド:あぁ、あなたには信じてもらいたい。私の思いを。
ロザリンド:私に信じろと? それよりもあなたの愛している人に信じてもらった方がよいでしょう。しかしあなただったのか。あの木にたくさんの恋の詩を刻み込んでいたのは。
オーランド:そうです。
ロザリンド:ほんとに恋いこがれているのですか?
オーランド:ええ。ロザリンドの白い手にかけて誓います。
ロザリンド:ではやはり少し治療が必要なようですな。前にも一度同様の症状の者を治したことがあります。
オーランド:どのようにして治療するのです?
ロザリンド:私をその恋の相手だと思ってその思いを打ち明けさせるのですよ。それに対して私は時には気まぐれな女を演じ、時には好きで好きでたまらない様子、時には高圧的に、時には不実に、涙も笑いも使い分けて、喜怒哀楽の情を見せます。そのようなシミュレーションによって、その男は心が落ち着き、恋心は消え去って、もうそのあと二度と恋で悩むことはなくなったのです。
 
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オーランド:私の思いはそんなことでは消えたりしませんよ。
ロザリンド:それでは試してみることにしましょう。まぁ、こんなところでは何ですから、取り敢えず私の小屋にご案内しましょう。そして毎日その治療をやることにしましょう。
オーランド:いいでしょう。そうそう、まだあなたのお名前を聞いておりませんでした。私はオーランドともうします。
ロザリンド:私はこれからあなたの恋人役を演じる訳ですからな。もう今からロザリンドと呼んでいただきましょう。
オーランド:いいでしょう。ではロザリンド。
3人、下手へ退場。
 
 
■第二幕第2場■
 
森の中の別の場所。フィービ(野口由美)が上手から走り出てくる。シルヴィアス(山本宏)がそれを追いかけてくる。
 
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シルヴィアス:待って。お願いだから。フィービ。僕を愛してくれないのならそれでもいい。でもせめて僕に冷たくしないでくれ。首切り役人だって罪人の首を斧で切り落とす時は必ず許しを乞うというじゃないか。
フィービ :私を首切り役人だとでもいうの? 私があなたを殺すとでも? 
そもそも私の態度であなたが傷つくなんてナンセンスだわ。私は私の勝手よ。私が何をしようとあなたには関係ないでしょう? それであなたが死にそうな思いがするなんて、ありえないわ。
シルヴィアス:ああ、愛しいフィービ。君だってどこかの美しい若者に出会って胸をときめかせたりしたら、こんな気持ちがきっと分かるだろうに。そうしたらきっと僕の気持ちが分かるんだ。
フィービ :じゃ、その時が来るまで私に近づかないで。
 
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そこへ下手から男装のロザリントが歩いてくる。
 
フィービ :まぁ、なんてりりしいお方。あのぉ、お名前を聞かせてください。
シルヴィアス:おい、フィービ。
ロザリンド:(男声で)私はガニメーデというものだが。
フィービ :(いきなりロザリンドに抱きついて)なんて素敵なお声でしょう。もっと聞かせてください。
ロザリンド:ちょっと待て。君たちは恋人同士なのでは?
シルヴィアス:はい、そうです。
フィービ :いいえ、ちがいます。
ロザリンド:ちょっと、とにかく離しなさい。
フィービ :ああ、素敵だわ。もっと叱って。
ロザリンド:とにかく迷惑だ。私は、仕事があるから。
 
 
ロザリンド、フィービの手をふりほどいて、逃げるようにして下手に退場。
 
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シルヴィアス:ねぇ、フィービ?
フィービ :世の中にはあんな素敵な殿方もいるのね。私初めて恋というものを知ったわ。
シルヴィアス:ねぇ、フィービ。僕をいっそ哀れと思ってくれたりはしない?
 
フィービ :そうね。少しは気の毒かも知れないわね。
シルヴィアス:だったら、同情ついでにぼくのことを好きになってくれない?
 
フィービ :もちろん、あなたのことは好きよ。シルヴィアス。お友達としてだけどね。でもその前にちょっと頼みがあるんだけど。聞いてくれる?シルヴィアス:もちろんいいよ。
フィービ :じゃ、ちょっとこっちに来て。
 
 
二人、上手に退場。
 
■第二幕第3場■
 
森の中。ロザリンドの小屋のそばの空き地。男装のロザリンドとシーリアが座っているところにオーランドがやってくる。
 
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オーランド:やぁ、済まない。ロザリンド! 少し遅れてしまって。でも1時間はたってないかな。
ロザリンド:(男声で)こんなに待たせるなら、カタツムリに口説かれた方がましかも知れないな。
オーランド:カタツムリに?
ロザリンド:あれも遅いけど、ちゃんと自分の家をのっけているからね。あなたが女に残してやれる財産よりいいかも知れないではないか。
オーランド:いや、ほんとに済まなかった。僕のロザリンド。
ロザリンド:(女声で)そう。私はあなたのロザリンド。(といって、オーランドの首に片腕を回す)
シーリア :ねぇ、この人は兄さんをロザリンドと呼んで喜んでいるけど、ほんとはもっと艶やかなロザリンドをご存じなのよ。
ロザリンド:そうね。それではこう行きましょう。さぁ、オーランド。私を口説いて。口説いて。私は今とても浮き浮きした気分なの。今口説かれたら、きっとノーとは言えないわ。どんなことを私に言って下さる?私がほんとにあなたのロザリンドだったら。
オーランド:何も言う前にキスしている。
ロザリンド:(男声で)だめです。最初は言葉で行かなければ。そして言葉を全て出し尽くした時、その沈黙を合図にはじめてキスをすることが許される。キスは恋人たちの最後のことば。しかしその前に全ての話の種が出なければならない。さぁ、話して話して。
オーランド:それでは、私を愛してくれ、ロザリンド。
ロザリンド:(女声で)ええ、もちろん。日曜から土曜まで。毎日でも。オーランド:妻として?
ロザリンド:ええ。一度に二十人でも。
オーランド:え?どういう意味?
ロザリンド:あなたは立派な人でしょう。
オーランド:まぁ、そのつもりだが。少なくとも君にとっては。
ロザリンド:だったら、立派なものはいくらあってもいいではありませんか。(立ち上がる)(男声で)さあ、妹よ。お前が司祭の役。二人を結婚させるのだ。さぁ、お手を。オーランド。
オーランド:お願いします。
シーリア :オーランド、汝はこれなるロザリンドを妻とするや?
オーランド:はい。私はあなたを妻として迎えます。
シーリア :ロザリンド、汝はこれなるオーランドを夫とするや?
ロザリンド:(女声で)はい。私はあなたを夫として迎えます。(男声で)ところで、オーランド。君はロザリンドを自分のものにできたら、いつまで離さずにおくつもりだい?
オーランド:永遠プラス1日。
ロザリンド:永遠は余計だ。単に1日とおっしゃい。だめだめ、オーランド。男というのは女を口説くときは春の4月だがひとたび口説き落としてしまったらたちまた冬12月になってしまう。女も娘のうちは緑美しい5月だが、人妻になれば秋10月になる。やきもちを焼いてガーガーとガチョウのように鳴き、浮気っぽく、そしてあなたが眠くて仕方ない時にハイエナのように笑ってやる。
オーランド:ぼくのロザリンドがそんなことするだろうか?
ロザリンド:誓ってもいい。彼女のすることは私と同じだ。
オーランド:僕のロザリンドは分別があると思うけどなぁ。。。ところで済まない。また2時間ほど席を外したいのだが。
ロザリンド:(女声で)まぁ、あなたなしで2時間も?
オーランド:実はモンド公爵の招きで食事をすることになっていて。2時間後には必ず戻るから。
ロザリンド:分かりました。でもまた約束をやぶって1分でも遅れていらしたら、あなたはおよそ不実な恋人、ロザリンドという娘には最もふさわしくない男。そう思うことにしましょう。
オーランド:大丈夫だよ。それではちょっと行って来る。
 
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オーランド手を振って下手に退場。退場する直前にロザリンドの方をチラッと見て少し考える振りをする。
 
※裕子:ここで考える振りをするのは何故か分かりますか?
※克也:実は分からなかったんですよ。何なんですか?
※裕子:直美は分かる?
※直美:分かる。
※裕子:絵里は?
※絵里:私も分かる。
※裕子:じゃ、直美言ってみて。
※直美:要するにあれよね。いくら男装していたって、自分の恋人のことが分からない訳ないじゃない。今の時代ならすぐに分かる所を、昔の人だから女装とか男装という発想があまりないから、一目で分かっていた訳ではないと思うのだけど、要するにこの辺りではもうオーランドはこれはロザリンド本人だってことにほとんど気付いているんでしょうね。気付いた上で、このゲームを楽しんでいる。
※絵里:ということを観客にアピールするための考える振りね。本当は必要ないけど、そのことを分かりやすくしようという演出なんでしょう。
※裕子:ま、そういうことね。親切すぎて犯人があからさまに提示される推理小説映画みたいで余計なお世話かとも思ったのだけどね。高橋君は、その辺を頭の隅においておいて下さい。さ、続き行こう。
 
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ロザリンド:ああ、シーリア。私はあの人の姿を見ずにとても2時間も過ごせないわ。むこうに行ってずっとためいきをついていることにする。
シーリア :じゃあ、私はそのそばでお昼寝させてもらうわ。
 
 
二人、上手に退場。
 
 
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■私の高校生活(6)

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