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■私の高校生活(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 1998.8.03 改12.21
 
お芝居の口上の最後のセリフに一部の客席から爆笑が起こりました。これはエリザベス朝の男性の俳優がロザリンドの役をやっていた時故に可能だったセリフで、現代の演劇では意味をなさなくなっていたものですが、私がロザリンドをやったおかげで、見事にこのジョークが生きた訳です。ただエリザベス朝の時のようにロザリンド役が男の子だということをみんなは知らなかったので、爆笑が起きた理由が分からない観客の方が多いようでした。
芝居が終わってみんなで大道具、小道具を持って教室に戻ります。そしてみんな舞台用のメークを落として衣装も着替え「じゃ、打ち上げは夕方」と言って一時解散、私は裕子・絵里といっしょに教室を出ました。その時
 
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「あの〜すみません」
といって声を掛けてきた中学生の女の子を見て私は肝をつぶしました。
 
「因幡啓一の妹ですけど、兄はまだ中ですか?....あれ?」
私は逃げようとしましたが、絵里がつかまえて離しません。
「もしかして、お兄ちゃん?」
もちろん私はいつもの通りの女子の制服です。
 
裕子がフォローします。
「因幡さんの妹さん?因幡さんにね、女の子役の練習で、こういう格好をさせてるのよ」
「ああ、そうだったんですか?」
「和美一人だけなの?」
とっさのことで男声が出ず、女声のままになってしまいました。
「へえ、女の子みたいな声も出せるんだ。さっきのどっちの声も一人でやってたのね。パパは大学の方忙しいみたいだし、ママは踊りのお稽古会で外せなくて、武徳はめんどくさがって来なかった」
「まぁ、立ち話もなんだからお茶でもどう?」
と裕子が提案して、私たちは模擬店の喫茶コーナーに行きました。
 
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「びっくりしたんですよ。全然知らなくて。男装で出てきた時にあれ?もしかしてお兄ちゃんかなと思って。でもどうみても女の人が演じてるようにしか見えないからひょっとして男役の部分の声だけやってるのかな?とか、でも本人がお兄ちゃんに見えないこともないし。でもやっぱり女の人のように見えるし。そうか。こういう練習してたんだ。あ、すみません。まだ自己紹介してなくて。私因幡の妹で和美といいます」
「よろしくね、私は相田裕子」
「私は鈴木絵里」
「そして、こちらは私たちは因幡直美ちゃんと呼んでるの」
「あ、いい名前ですね。直美か。じゃ、今日は私もお姉ちゃんと思うことにしよう」
「和美ちゃんも美人だね。直美もすごい美少女だから。さすが姉妹ね」
「うーん。姉妹かぁ...いいかも知れないな。お姉さんて欲しかったしな。いっそのこと、このまま女の子になっちゃう?」
「でしょ、でしょ。私たちもそうしなさいよと勧めてるの」
と絵里。
「また、そうやってそそのかすんだから」
と私は開き直って女声のまま話します。
「ちゃんとムダ毛も処理してるのね...下着は?」
「ちゃんと女の子用のをつけてるよ」
「へぇー。ちゃんと、か。...その胸は?」
「お芝居用に用意した付け胸だけど、あとで外そうと思ってまだそのまま。いつもはブラジャーだけなんだけどね」
「え?いつもこの格好なの?」
あ、しまったと思っていると横から絵里がどんどん説明します。
「9月にこのお芝居やることが決まってからずっとこの格好してもらってるのよ。授業もこのまま受けてもらってるし、寮も女子寮に移ってもらってるの」
 
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「すごーい。寮まで。でもばれないんですか?」
「この直美ちゃんを見て、男の子だと思う人がいると思う?」
「確かにいないでしょうね。声も、....いつからそんな声出せるようになったの?」
「お芝居用に特訓したんだよ。一時は男の子の声の出し方が分からなくなって苦労した」
「トイレは?」
「ちゃんと女子トイレ使ってるよ」
「お風呂もまさか...」
「女子寮のお風呂に入ってるよ。もちろんばれないようにして」
「すごい。体育とか家庭科も女子と一緒?」
「そうそう、直美は家庭科の先生に気に入られてんだよ。卒業まで3年間こちらにいらっしゃいよって家庭科の先生が言ってる」
「お兄ちゃん、じゃなかったお姉ちゃんは料理も裁縫も得意だったもんね...でもお芝居の練習のためだったら今日で終わりですか?」
「私はそのつもりだったんだけどね....」
「2学期に入ってからずっと女子の方の授業受けてるから、途中で変わられたら面倒だからということで少なくとも今学期いっぱいはこのまま、ということになったの」
「少なくとも、じゃないよぉ」
「もったいない。折角こんなに可愛い女の子になれたんだもん。卒業まで3年間みっちりと女の修行をするといいと思うな」
「ねぇ、ねぇ、直美そうしようよ。妹さんのお墨付きも出たことだし」
「なんで女の修行しないといけないわけ?」
「面白いじゃん。私応援しちゃうよ。そうだ、いっそ胸くらいは整形して大きくしちゃったら?」
「わーい、賛成・賛成」
「それじゃ男に戻れないじゃん」
「大丈夫。いざとなればバストに挿入したパックを取ってもらえば元のサイズに戻るのよ。フェイクバストって」
「やめて〜」
 
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と、和美はすっかり乗ってしまい、絵里ともども盛んに私を女の子への道にといざなうのでした。和美はこのことは弟や両親には内緒にしてるから、といって帰っていきました。
 
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