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(C)Eriko Kawaguchi 2016-08-13
■野暮な解説
(*1) 白雪姫のモデルはMargaretha von Waldeck (1533-1554.3.15)という説がある。当時の国際政治の事情で運命を翻弄された女性なのだが、物凄い美女であったというのが文書に残されていること。母親が早く亡くなり、継母とあまりうまく行っていなかったこと。 Siebengebirge(直訳すると7つの丘)という所に住んでいて、近くには銅山があり、多数の少年鉱夫が働いていたこと。そして最後は毒殺された疑いが濃厚であることなどが挙げられている。
白雪姫に出てくる“小人”が実際には“少年労働者”であったろうというのは多くの人が推察している所である。彼らの多くは10人程度の集団で生活していた。
もうひとり白雪姫のモデルかもと言われるのはMaria Sophia Margaretha Catherina von und zu Erthal(1725-?)という人で、この人も継母との関係がうまく行ってなかったのと、この人が住んでいた家に「しゃべる鏡(Sprechenden Spiegel)」と呼ばれる鏡があったことが白雪姫の物語に影響を与えたのではというもの。この鏡は現在、Lohr am Main の Spessart Museum に収蔵されている。この鏡の前で何かしゃべると、反響付きで響くように作られているらしい。
白雪姫のバリエーションの中には、国王が不在になった理由として十字軍に行ったためという理由をあげているものがある。十字軍は1096年に始まり、1272年に終わっている。
白雪姫の物語はグリムの1812年の童話集で出版されているが、類話はかなり古いものから多数ある模様。しかし雰囲気的には白雪姫の物語は宗教改革(1517以降)の時期かそれより少し前の時代、だいたい15世紀か16世紀初期頃に舞台設定がなされているのではないかと考え、今回の物語はだいたいその頃の時代を想定して書いている。
グリム版の物語は童話ゆえに、合理的に考えるとかなり無理のある部分が多数あり、それをできるだけ不自然ではないように物語を組み立てるのはかなり苦労している。
※白雪姫の物語のツッコミ所
・王妃が裁縫をするのか? そもそも冬のさなかに窓辺で、しかも窓を開けて裁縫をしているというのが信じられない。
・跡取りの姫君が侍女や護衛も連れずに猟師とふたりで外出するなんて考えられない。
・王妃がこんな酷いことをしている間に国王は何をしていたのか?
・白雪姫が不在になって、王宮では騒ぎが起きなかったのか?
・いくらお腹が空いたからといって、王女ともあろうものが他人の家のごはんを摘まみ食いするか?
・白雪姫は似たようなパターンで3回も殺されかけるって馬鹿か?
(*2)白雪姫に危害を加えるのが誰かというのは実は様々なパターンがある。主なものとして、実母、継母、姉妹などである。
グリム版では1810,1812,1815年版では実母だが1819年版以降は継母になっている。これは一般に実母がこんなに娘を虐待する物語は子供たちが読んだ時にショックだからトーンダウンしたのではと言われるが、単に別のバリエーションに変更しただけである可能性もある。
なお1810年版では、猟師は登場せず、母親が白雪姫を自分で連れ出して森の中に放置している。
(*3) Breechesというのはtrousers, socks, shoes などと同様いつも複数形である。英語でもドイツ語でもBreeches。これは2つの足に穿くので複数形であると説明される。フランス語のculottes(キュロット)に相当する膝丈のズボンで、昔は王侯貴族の象徴でもあり、フランス革命ではキュロットを穿かない人達(サンキュロット sans-culottes : without breeches)が革命を主導した。また、オペラなどで本来テノールの役をアルト歌手が男装して演じるのを breeches role (ズボン役)と言う。
(*4)岩波文庫版にも収録されている類話の中には“白雪姫が”飼っている「Spiegel」という名前の犬がお妃様の質問に答える話もある。
お芝居や映画では、鏡の役は王妃(女王様)役の人が兼任する場合も多いが、王様役が兼任する場合もある。鏡の意見は実は王様の意見で王様の興味が王妃から娘に移ったのが悲劇の始まりという解釈のようである。
今回の物語の舞台はエンジェルランドということにしているが、これは白雪姫の類話のひとつで王妃が
Wer ist die schoenste Frau in ganz Engelland?
(Who is the most beautiful woman in whole Engelland?)
と尋ねるものがあることから取った。
Engelは英語だとAngel.天使と思われるが、このEngellandの解釈は実はよく分からないようである。Englandのことではという説もあるが、ドイツを舞台とする話で「イギリスでいちばん美しいのは?」と訊くのは不自然である。なお通常版では王妃の問いかけは
Wer ist die schoenste, kluegste, beste hier im ganzen Land?
(ここ、この国全体で一番美しく賢く最高なのは誰?)
になっている。
(*5)クロスボウは、現代日本では「ボウガン(bow gun :弓銃)」という商品名の方が有名な、機械式の強力な弓である。ヨーロッパでは11世紀頃以降普及したが、あまりにも強力であるため「これでキリスト教徒を撃ってはいけない」という法律が作られたほどであった。(むろん異教徒との戦争ではじゃんじゃん使用された)
中国では「弩」と呼ばれ、原型はBC6世紀頃には存在していたらしい。
昔はこの強すぎる弓を引くのに手回しハンドルや滑車などの機械的なシステムを使用していた。靴に滑車の端をつないでおき、立ち上がると滑車が回るようにしておくのである。
クロスボウの最大の欠点はこのような機構を持っているため、一度発射してから次の弓を発射できるようになるまで、どんなに頑張っても20-30秒掛かるという問題である。百年戦争のクレシーの戦いではクロスボウを主力にしたフランス軍が、普通の弓矢を使用したイギリス軍に連射速度の差で敗退している。
(そもそもクロスボウを戦争で使う場合、長篠の戦いの三段撃ちのように交代で射撃するシステムが必要である)
なお、ヨーロッパで銃が一般に普及するのは16世紀半ば頃からであり、白雪姫の時代にどの程度行き渡っていたかは微妙である。日本の種子島に銃が伝えられたのは1543年だが、これは当時ヨーロッパでも最新鋭の生まれたばかりの新兵器であった。
どっちみち当時の銃はいわゆる火縄銃なので火を点けた火縄を常に持ち歩く必要があり、また外した場合再発射に20-30秒ほどの時間が掛かり、クロスボウと同様の欠点を持っていた。
(*6)中世のヨーロッパでは“計算貨幣”が発達していた。キャッシュレス社会である。商人同士の取引はお互いが正確に複式帳簿を付ける前提で、信用で取引され、定期的に主として相殺で精算され、補助的に信用度の高い大型銀貨が交換された。手形もかなり使用されている。
当時の貨幣システムはローマ帝国で確立したLSD (Librae, Solidi, Denarii) 方式で、Libraeは金貨、Solidiは大型銀貨、Denariiは小型銀貨が使用された。交換比率は1:20:240であった。このシステムはイギリスでは1971年まで維持されていた。もっとも当時は金(Gold)という金属そのものがあまり存在しないため金貨はあまり一般的ではなく、Libraeが必要な所でSolidiを12個束ねたもので代用したりしていた。現代で100万円の日本銀行帯封付き札束があたかも「100万円札」的に使われるのに似た感覚か。
金貨・銀貨の名称は地域や時代により様々である。13-16世紀にイタリアで製造されたフローリン金貨、14世紀ドイツのグロッシェン銀貨、16世紀以降それに代わったターレル銀貨などは比較的有名。
各々の金貨・銀貨の市場的価値も年代や地域によって様々であって、国際的な取引の計算は極めて複雑であった。基本的には含有される金や銀の量がその貨幣の価値とみなされる。初期の頃は貨幣は鋳造ではなく鍛造されていたこともあり、均質な銀含有率の貨幣を製造することが技術的に困難だった。そこで銀含有率の高い貨幣個体が恣意的に集められ、(水増しした)新たな銀貨に作り直される事態が起きている(悪貨は良貨を駆逐する)。
労働者の賃金はパンやワインなどの現物支給もかなりまかり通っていたようであるが、しばしばきちんと貨幣で支払うよう命令が出ている。日本や中国では銅製の低額補助貨幣が作られているが、中世ヨーロッパには銅貨というものがなく、小型銀貨(デナール)の価値は3000円程度と庶民には大きすぎるため、実際には小麦やパン・干し肉などによる物々交換もかなり行なわれていたのではないかと想像される。当時これらの基本的な生活物資の価格は厳しく統制されていたし、品質基準も厳しかった。
(*7)現代のビールは上面発酵の「エール(Ale)」と下面発酵の「ラガー(Lager)」に大別されるが、ラガービールが普及するのは19世紀になってからであり、昔はビールといえばエールであった。日本のビールは大半がラガーで冷やして飲むがイギリスなどは現在でもエールが主流で、エールは常温で飲む。それで日本人がイギリスに行くと「イギリスのビールはぬるいし不味い」などと言う。
中世のヨーロッパでは日本のように低ミネラルかつ衛生的な水が得られないことから、人々は子供であってもアルコール飲料を飲んでいた。古くはワインが飲まれていたが、ワインは中世になるとそれまでのほとんどブドウジュースに近いものから、次第に甘くなくアルコール度数も高いものへと変化していったため、代わりにビール(エール)の方が日常的には飲まれるようになっていく。
なおビールに大麦が使われてきたのは大麦麦芽には糖化酵素が豊かであるというのもあるが、小麦は食糧用だからである。小麦を使うビール(白ビール)は極めて贅沢な飲み物であった。
初期の段階ではビールにはグルートと呼ばれるミックス香料が付加されていた。このミックス方法が地域によって異なり、秘密にされて領主が厳しく管理していたが、11世紀頃にルプレヒトベルク女子修道院でホップ(西洋唐花草)を加える方法が、雑菌の繁殖を抑える効果も高く、発酵過程を安定させることが発見されると、15世紀頃までにはグルートに代わる添加物として使用されるようになっていく。白雪姫の時代はホップを使用したエールが広まっていきつつある時期であろう。
なお日本語で「エール」と書く単語にはスペルが異なる幾つかの単語がある。
Ale 上面発酵ビール
Aile 翼。天使の翼はエールダンジュ、補助翼はエールロン。
Yell 声援(いきものがかりの歌にもある)
Eire アイルランドの別名。Eire go Brach(エールガブラーフ)は「アイルランドは永遠なれ!」
Air 唱歌。クラシックではイタリア語でアリアと呼ばれるが厳密に言うとアリアとエール(エア)は音楽的な系統が異なる。
Air ↑と同じ綴りだが空。エールフランスはAir France
(*8)中世のヨーロッパでは、家畜を冬の間も飼い続ける方法が存在しなかったため、家畜は秋になると、繁殖用のごく少数を除いては全て屠殺されていた。屠殺した肉は北方では燻製にされ、南方では塩漬けにされて保存されていた。そのため少なくとも庶民は、お肉と言えば燻製肉か塩漬け肉であった。むろん、お肉を食べること自体が庶民にとってはかなりの贅沢であり、庶民の食事は9割が穀物であったという。13世紀頃の獣肉はだいたい1kg=1デナール、つまり100グラム300円くらいで取引されている。
もっともステファンは猟師なので、普通の農民よりは肉を得る機会があったものと思われる。
なお、家畜を冬の間も飼い続けることができるようになったのは、冬の間に成長してくれる蕪(かぶ)が普及した17-18世紀からである。それまで冬に育つ作物は存在しなかったのである。
(*9)「豚に真珠」は元々聖書の中の言葉である「豚の前に真珠を投げてはならない」マタイ伝7-6。英語なら Don't cast pearls before swine. ドイツ語なら Eure Perlen nicht vor die Saeue werfen.
なお、この解説群の先頭にも書いたが、白雪姫のモデルと言われる2人の女性の名前はいづれもマルガレータである。この物語ではそれを猟師の妹の名前に使わせてもらった。
(*10)眼鏡が発明されたのは13世紀末のイタリアである。従って白雪姫の時代には既に存在していたが、極めて高価なものだったと思われる。スノーホワイトは認識していないようだが、眼鏡を持っているということは鉱夫たちが実はかなり経済的に豊かであることを示唆する。
現代的に考えると鉱夫は低所得層のように思うかも知れないが、元々鉱夫と呼ばれた人達は、鉱山の採掘権を自分たちで所有して採掘していたので実は経済的にゆとりのある職人集団であった。採掘権の所有者と実際の労働者が分離してくるのは15世紀頃からである。
(*11)白雪姫を殺そうとする老婆は、お后自身が変装するパターンと、別の老婆が出てくるパターンとが存在する。
・王女が死んだという報せがあったのに森の中で生きているのを目撃した貧しい老婆がお后に密告し、そのまま刺客を命じられるパターン(魔法の靴下)。
・姫を亡き者にしようとする姉妹に仕える老魔女が刺客になるパターン(三人の姉妹)。
なおグリム版での白雪姫の襲われ方は、1回目:コルセットの紐をきつく締められ窒息死。
2回目:魔法の櫛を刺されて毒殺死。
3回目:りんごで毒殺死。
3度とも無警戒に老婆から物を受け取っており、全く学習能力が無いとしか思えない。
(*12)白雪姫の蘇生について、王子様の口付けでというパターンがよく知られているが、それはディズニーの映画(1937)が採用したパターンである。元々のグリムの物語では、白雪姫の棺を担いでいた王子の家来が躓き、棺を落としてしまって、その拍子に喉につまっていたりんごの芯が取れて、息を吹き返すことになっている。王子がどこに行くのにも棺を運ばせるので、疲れて怒った部下が棺を投げてしまい、そのショックでというパターンもある。
2012年の映画「Snow White and the Huntsman」では、王子の口付けでは目覚めなかった白雪姫が、猟師の口付けで目覚めてしまう。この物語の主役は白雪姫と猟師である。この物語では白雪姫は多くの民衆を前に激しいアジ演説を行い、彼らを引き連れて大量人数で城に攻め込む。
■タイムテーブル
0000.03.14 エレノアが窓辺で雪のような子が欲しいとつぶやく
0000.11.07 スノーホワイト生まれる(蠍座)
0002.12 ハモンド大公の3人の子と会う
0005.04 レオポルドからムーンストーンのペンダントをもらう
0005.11 5歳
0006.06 フォーレ建国宣言。ハンナを攻めて併合する。
____.11 ノガルド・アルカス連合軍がフォーレ軍を撃退する
0007.04 レザンナが拾われる。
____.08 レザンナがゲオルク王と結婚
0008.08 ゲオルク王死去。レザンナが女王即位宣言
____.09 レザンナがフォーレと同盟を結ぶ。アルカスがノガルドと断交
____.11 8歳
0009.04 ボウルで反乱蜂起の兆し。スノーホワイトが収める
____.11 スノーホワイト9歳。
0010.11 スノーホワイト10歳。
0011.11 スノーホワイト11歳。ブリーチング。
0012.11 スノーホワイト12歳。
0013.11 スノーホワイト13歳。
0014.02.10 鏡の答えが変わる→スノーホワイト殺害(未遂)
____.02.20 スノーホワイト性変
____.02.28 レザンナ倒れる。
____.03.01 レザンナの葬儀
____.03.02 スノーホワイト即位
____.03.14 スノーホワイトとレオポルドが結ばれる
____.11.07 スノーホワイト14歳
____.11.11 アグネスとスノーホワイトが出産
0015.06 スノーホワイトとレオポルドの結婚式
____.11 スノーホワイト15歳。
____.11 ゴールドとシルバーが1歳になる
0016.02 初潮
0 白雪が一番美しいと言われソリスに殺害を命じるが断られる。
1 ステファンに殺害を命じる。ステファン事情を話し、マルガレータの服を着せてマルガレータとふたりで東の国へ向かわせる。
2 白雪はマルガレータと一緒に森を歩いている。
ソリスがイレーネに影武者を命じる。
3 白雪たちは闇の森に入る。妖獣に襲われ別れ別れに。
マルガレータは兄と合流。白雪は七人の小屋に辿り着く。
ソリスが西の国フォーレへ。
アグネスが東の国アルカスを目指す。
4 マルガレータがアルカスに向かう。
5
6 女王が魔女を呼び出しスノーの殺害を命じる。
ソリスが西の国に到着するが騒ぎを収めるのに苦労する。
アグネスが東の国に到着。
レオポルド王子と精鋭5人の探索隊がノガルド領に入る。
7 クレーテが七人の小屋を見つける。
スノーホワイト一時死ぬが息を吹き返す。
レオポルドたちが小屋に辿り着く
8 レオポルドが父大公や兄たちと相談するためアルカスに帰還
9
10 レオポルドが30名の兵士を連れてノガルド領内に入る。
スノーホワイトが毒りんごで倒れる。
解毒剤を処方される。
11 性転換完了
17 スノーホワイトが回復。レザンナを倒すことを宣言。
18 早朝。スノーホワイトが王宮に侵入する
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■プリンス・スノーホワイト(13)