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■プリンス・スノーホワイト(3)

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ステファンはスノーホワイト王子の前に跪いて言いました。
 
「殿下、私はあなたの母君にあなた様を殺すよう命じられました」
 
「なぜです?私に何か落ち度がありましたでしょうか?それなら、私はきちんと母上に謝ります」
 
「いえ。恐らく母君はあなた様の存在自体が邪魔なのだと思います」
「そんな」
 
「私は確かに殿下を殺したと女王にご報告します。すぐバレるとは思いますが、時間稼ぎにはなります。ですから、その間に殿下はお逃げ下さい」
 
スノーホワイト王子はしばらく考えていましたが、やがて
 
「分かった。ここはいったん待避しよう。母君が落ち着いてから、あらためて使者など立てて、和解の道を探ろう」
 
とおっしゃいます。
 
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「それがよいかと。しかしどこに逃げましょう?」
「東のハモンド大公の所を頼ろうと思う」
 
「それは良い考えです。では不肖、私がお供つかまつります」
「そなたは、女王に私を殺したと報告しなければならないのではないか?」
「うっ・・・。そうでした」
 
と言ってからステファンは少し考えました。
 
「私に妹がおります。妹に付き添いさせましょう」
「娘で大丈夫だろうか?私は追手に狙われるかも知れない。そなたの妹殿にも危険が及ぶかも知れない」
 
「妹も猟師の娘ですから、ある程度弓や槍は使えます。足手まといにはならないと思います。それと、恐れ多いのですが、見つかりにくいように、平民の服を着るというのは如何でしょうか? 私の服でもよければ差し上げます」
 
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「それは名案だと思う。申し訳無いが、服を少し分けてくれ」
「分かりました。ただその場合、逆に心配なのは、殿下がハモンド大公様の所に辿り着いた時、スノーホワイト様と分かるかということなのですが」
 
「それは心配無い。私はいつもこれを身につけているから、それで自分の身元を証明できる」
と言って、左腕に付けていた革の腕輪の内側から薄い金属製のプレートを取り出しました。
 
「これだけ見ても金目の物には見えないだろう。ただこのプレートにはルーン文字で、私の身分が書かれている。更に私固有の合い言葉もルーン文字で書かれている。それを言うことができるかどうかで本人確認が出来る。ルーン文字が読めない限り、それは分からない」
 
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と王子は言います。
 
「へー。これがルーン文字というものですか。確かにこんなもの読めません。そもそもふつうの文字でも多くの平民には読めませんよ」
 
とステファンは言いました。
 
「ともかくも、粗末な所ですが、私の家にお越し下さい」
 
と言って、ステファンは王子を連れて森の中にある自分と妹が住んでいる小屋に向かいました。
 

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途中でステファンはふと気付いて言いました。
 
「殿下は金貨などはお持ちですか?」
「うん」
「金貨は大商人か王侯貴族しか持っておりません。盗賊か何かと誤解されてはいけないので、銀貨と交換させて頂いてもよろしいですか?」
「確かに金貨では、パン屋からパンを買うのにも驚かれるだろう。銀貨との交換頼む」
 
と言って王子は金貨の入った袋を出しますが・・・・
 
「申し訳ありません。この金貨があまりにたくさんあって、全部は両替できません」
とステファンは正直に言いました。
 
「それでは金貨はそちに預けておく。代わりに隣国に辿り着くまでに必要な程度の銀貨を貸してくれまいか?」
「ではそう致します。金貨はお預かりしておきますので、あとでそちらに持参致します」
「頼む。それとそのお金は私がそなたに預けたものという書き付けを書いておく。そうしないと、大金を持っているのを怪しまれてはいけない」
「御配慮、かたじけのうございます」
 
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それで王子は金貨の袋をステファンに預けて書き付けを書き、ステファンは大型銀貨や小型銀貨(*5)の入った袋を王子に預けました。
 
「おや?金貨以外にも何か入っていますね」
「それは私の大事なものなのだよ。母上の形見と、仲の良い友人からの贈り物なのだ。いつも肌身離さず持っていたのだが、それもそなたに預けておく。その方が安全だと思う」
 
「分かりました。しっかりお預かりします」
とステファンは言いました。
 

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そうして、ふたりが、もうステファンの住む家のかなり近くまで来た時のことでした。今度はスノーホワイト王子が少し思い詰めたように言いました。
 
「正体を隠すためなら、私はこの髪を切った方が良いだろうか?」
 
王子はかなり悩んでおられるようです。きっとこんなことを言っていても本当はその美しい黒髪を切りたくないのだろうなとステファンは思いました。
 
「それはひとつの手段ではありますが、王子の長い髪は国民たちにもとても評判が良いです。それを切ってしまうと国民が嘆きます」
 
「そうか。ただ、長い髪の男は目立つかなあと思ったから。いっそ女なら長い髪も目立たないのだが」
とスノーホワイト王子は言いました。
 
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するとステファンがピクッとします。
「殿下。いっそのこと、女の子の格好をしては如何でしょう?」
「え〜〜〜!?」
「追手が出たとしても、きっと“王子”を探します。娘が2人で歩いているのを見ても放置するでしょう」
とステファンは言いました。
 
「それは・・・いい手かも知れない」
とスノーホワイト王子も言います。
 
「でしたら、妹の服を借りましょう。そして女2人で東の国へ旅をすればいいのです」
 

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それでステファンはスノーホワイト王子を自分の住んでいる小さな小屋に連れて行きますと、王子を外で待たせたまま家の中に入り、妹のマルガレータに頼みました。
 
「妹よ、すまぬが、お前の子供の頃の服を少し恵んでくれないか?」
「お兄様、そのようなものを何になさるのです?」
 
「可哀相な女の子にあげるのだよ」
「分かりました。お兄様。そういうことでしたら、差し上げます」
 
と言って、マルガレータは自分が14-15歳頃の服がまだ取ってあったのをクローゼットの奥から取り出しますが、兄に言います。
 
「お兄様、その子は近くに居るのですか?」
「うん。外に待たせている」
「でしたら、私がその子に着せてあげます。女の子の着換えを男であるお兄様が見てはいけません」
 
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「そうだな」
 

それで、ステファンは外に出ると、スノーホワイト王子に服を脱ぐように言います。男の子の服のままでは、男とバレてしまいますし、そもそも王子の立派な服を見れば妹に王子の身分までバレてしまいます。それで全部脱いでしまった上にステファンのマントを羽織りました。
 
しかし、服を脱いでしまうと、困ったことにお股に女の子には無いものがあります。そこでステファンはそのお股のものは、足ではさんで隠しておくように王子に言いました。そしてステファンは裸にマントを羽織っただけの
スノーホワイト王子を家の中にお連れしますが、この時、王子は足であの付近のものを挟んでいるので、太ももをピタリとくっつけて、膝下だけで歩く形になりました。するとそれがかえって、おしとやかな女の子みたいな歩き方になりました。
 
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「あら、あなた裸なの!」
とマルガレータは驚く。
 
「この子、追い剥ぎに服を盗まれてしまったらしいんだよ」
とステファンが言う。
 
「だったらお兄様は後ろ向いてて」
「うん」
 
マルガレータはスノーホワイトに向き直ると
「たいへんだったね。こんな真冬に追い剥ぎされるなんて。怪我とかはしてない?」
と訊く。
「はい、大丈夫です」
 
「じゃ、まずこれを着て」
と言って女の下着を渡します。
 
王子は女の下着なんて着けたことがないので、大いに戸惑いますが、人目を誤魔化すためなら仕方ないと思い、何とかしてその女の下着を着けました。幸いにも王子が下着を着ける間は、マルガレータも後ろを向いていてくれました。
 
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ドレスはマルガレータが着せてくれました。この服は自分が10歳の時まで着ていたようなドレスとは違い、ボタンが背中に付いているので、自分で着脱することができません。王子はお付きの侍女たちがこのような服を着ているのを見て、あれはどうやって着たり脱いだりするのだろうと疑問に思っていたのですが、結局誰か他の人の手を借りないと、自分ではどうにもできないようです。
 

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マルガレータは
「あなたお腹空いてない?」
と言って食事を出してくれました。
 
ハーファーブロイ(オートミール)にエール(上面発酵ビール*7)、そして焼いた干し肉(*8)まで付けてくれています。お城の食事からすると随分質素なものですが、スノーホワイト王子は聡明なので、これは庶民にとっては多分かなりの“ごちそう”だと思いました。
 
「すごく美味しそうです!いただきます」
と笑顔で言って王子は食事を頂きました。
 
見ていると、ステファンはスノーホワイトと同じようなものを食べていますが、マルガレータはハーファーブロイだけです。
 
スノーホワイトは申し訳ないなあと思いましたが、ここはせっかく出してもらったものはちゃんと食べるべきだし、この後、自分はいつまともなごはんを食べられるか分からないしと思いましたので、しっかり頂きました。
 
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食事が終わると、ステファンは妹に頼みました。
 
「この子は身よりが無いのだよ。しかし東のアルカス国に遠い親戚がいるらしくて。悪いけど、お前、この子をアルカスの都まで連れて行ってあげてくれないか?私が付き添えたらいいのだが、私はあいにくすぐにも城へ行かねばならぬ」
 
「分かりました。お兄様。それに女の子には男のお兄様が付きそうより、女の私が付きそう方が良いですよ」
 
「確かにそうかも知れん」
 
「私も猟師の娘。獣が襲ってきても倒してこの子を守りますから」
「それは頼もしい」
 
そこで保存食と飲料用にエールを準備し、女装のスノーホワイト王子はマルガレータと一緒に旅だって行きました。
 

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王子を見送り、お城の方に戻ろうとしていた時、ステファンは大きなイノシシが居るのを見ました。彼に気付くとイノシシはこちらに向かって走って来ます。ステファンは反射的にイノシシにクロスボウを向けると、5mくらいの距離まで近づいた所で、矢を発射しました。
 
ステファンはすぐに身をかわします。イノシシがこちらに向かって走ってくる勢いを残したまま倒れて数メートル地面を滑り、ステファンがいた付近まで到達しました。
 
矢はイノシシの頭に命中していました。ステファンはこの時、このイノシシの心臓を、王子の心臓と称して持ち帰ることを思いつきました。そこでイノシシの首の後ろを槍で突いてトドメを刺しますと、ナイフで心臓をえぐり出しました。
 
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そしてそのまま完全にイノシシの血抜きをします。1時間ほど掛けて血を抜くとイノシシを抱えていったん小屋に持ち帰り、そばの雪の中に埋めます。そして自分は血の付いた服を着替えると、イノシシの心臓を入れた袋を持ってお城に登りました。
 

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「女王陛下、スノーホワイト王子を殺し、その心臓を持ち帰りました」
と言って、袋を差し出します。
 
「おお、ご苦労であった」
と女王様は喜びます。そしてステファンにたくさんの金貨・銀貨を授けました。
 
お妃様はその心臓を料理番に命じて料理させ、自分で食べてしまいました。世界一美しいスノーホワイトの心臓を食べることで、自分は更に美しくなるだろうということなのです。
 

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お妃様は鏡に向かって訊きました。
 
「鏡よ鏡、この地上で一番美しい女は誰?」
「レザンナ様、それはあなたです。あなたがこの地上の女の中で一番美しい」
 
それで満足するのですが、ふと思いついて訊き方を変えました。
 
「鏡よ鏡、この地上で一番美しい男は誰?」
「それはレオポルド王子です。ハモンド大公の次男で今年19歳になられました」
 
と言いました。
 
これで取り敢えずスノーホワイトは生きていないことが確認された、と女王は思いました。もしスノーホワイト王子が生きていたのなら、一番美しい男として鏡が言うはずです。
 
しかし、スノーホワイト亡き今、最も美しい男はハモンド大公の次男ね。。。と女王は考えます。
 
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ちょっと興味あるわね。私がハモンド大公とその長男を殺した上で次男と結婚すれば、アルカス国も私のものになるじゃない。女王はそのように考えたのです。
 

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