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■プリンス・スノーホワイト(2)

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そんな中、スノーホワイト王子は不安な日々を送っていました。
 
表面的にはレザンナはスノーホワイト王子の良き母として振る舞い、優しく接してくれていました。レザンナは楽器もうまく、それをスノーホワイト王子に直接手ほどきをしていました。それでスノーホワイト王子はリュートや笛に、当時はかなり珍しかったチェンバロなどもレザンナの指導で覚えていきました。更にスノーホワイトは元々美しい声を持っていたのですが、レザンナの指導で随分歌がうまくなりました。
 
レザンナがスノーホワイトにした教育はそのような管弦や歌だけではありません。ラテン語や古典文学などの勉強もさせましたし、アラブから博士を呼んで天文学や数学も勉強させます。将来の国王たるもの身体も丈夫で、武術にも優れていなくてはいけないと言い、ソリスやその部下のマルスに命じて、身体を鍛えさせました。
 
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毎日5マイルのジョギングをさせ、お城の池で水泳をさせます。また腕立伏せや腹筋もさせ、剣や槍の使い方も教えました。
 
そのような様子を見て、お城の中では、レザンナ様は将来スノーホワイト王子に王位を譲り、自らはその母かつ先王として、院政をするつもりではと噂する人達もいました。
 

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しかし・・・実はレザンナはスノーホワイト王子といづれ結婚しようと思っていたのです。スノーホワイト王子と結婚して、自分との間に子供を作り、その子に将来的には譲位して院政を敷くつもりでした。
 
つまりレザンナがスノーホワイトをしっかり教育していたのは、自分の夫になる人を育てていたのです。
 

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スノーホワイトが8歳の春。ノガルド第2の都市ボウルで不穏な動きが伝えられました。大規模な集会が開かれ「我々はレザンナを女王と認めない」という宣言をしようとしているという情報が伝わります。武器が多数売買されているようだという情報まで入ります。
 
レザンナ女王はソリスにその集会を阻止するために軍隊を派遣するよう命じました。ところがそこに8歳のスノーホワイトが入って来て
 
「待って下さい」
と言ったのです。
 
「陛下、軍隊を派遣するのはお待ち下さい。軍隊というのは外国からの侵略に備えるためのものです。国民に剣や弓を向けてはいけません」
とスノーホワイト王子は言います。
 
「誰に言われて、ここに来た?」
とレザンナ女王は不快そうに言います。
 
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「誰にも言われていません。私はただ悲しいのです。国民同士で血を流してはいけません。私が行って彼らを説得して来ます」
とスノーホワイト王子は言います。
 
女王は少し考えてから言いました。
「ではお前がまず行ってくるがよい」
「はい」
 

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それでスノーホワイト王子は、侍女のアグネスとローラ、警護の兵士のフェルト少佐、フロム中尉、フランツ軍曹と一緒に馬3頭で早駆けでボウルに向かいました。ボウルでは既に広場に多くの市民が集まりつつありましたが、そこに僅かな供を連れたドレス姿の8歳のスノーホワイト王子が現れたので場は騒然とします。
 
「私に一言、話させて下さい」
と美しい黒髪を垂らしたスノーホワイト王子は言いました。
 
「はい、お願いします」
とリーダー格の鍛冶職人リュッソーが言います。
 
スノーホワイト王子は既に150-160人は集まっている民衆の前でこう言いました。
 
「皆さんの不安は分かります。突然現れた人が女王になって戸惑っておられるかも知れません。しかし私が居ることを忘れないで下さい。そして私は平和を望みます。国民同士が血を流しあって争うのはよくないです。色々お金のこととか、お仕事が無いとかで、不満がある方は、ぜひ私宛にお手紙を下さい。私はまだ幼くて、難しい話は分かりませんけど、私が信頼する者に託して必ず善処させます。ですから、どうかここは事をあらげ・・・あらたげ・・・・何だったっけ?」
 
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と言って、傍にいるアグネスに訊きました。
 
「事を荒立てるですか?」
「そうそうそれ」
と王子が言った所で、思わず市民たちの間から笑い声が起きました。
 
「それでどうか事を荒立てるのはやめてください。みんなでできるだけ仲良くこの国を盛り立て、豊かにしていきましょう」
 
まだ幼い王子が、精一杯知恵を絞って考えた感じのメッセージに市民たちから大きな拍手が送られました。そしてこの日市民たちは集会を中止し、内戦の危機は回避されたのです。
 

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「スノーホワイト様って何歳だっけ?」
「確か8歳だったはず」
「8歳であれだけしっかりしておられるって凄いな」
 
「スノーホワイト様、美しかったぁ」
「凄い美人だよなあ」
「きっと素敵な王女様に成長なさるんだろうなあ。あの方がその内ノガルドの女王様になるのであれば、俺はそれを期待するよ」
 
「ちょっと待て、スノーホワイト様は王子様だろ?」
「そんな馬鹿な。あんな美しい王子がいる訳無い。王女様だろ?」
「でもスノーホワイト王子と聞いた気がする」
「あ、分かった!男の兄弟が居ないから、王女様だけど王子様も兼ねるのでは?」
「ああ、そういうことか」
 
という訳で、どうも市民の間では、スノーホワイトを王女様と誤解してしまった者たちが多数いるようでした。
 
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昔はインターネットもテレビや新聞もありませんから、この手の情報は必ずしも正しく伝わりませんでしたし、正しい情報を得るのも逆に難しいことでした。
 

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反乱の勃発を防いで嬉しそうな顔で戻って来たスノーホワイト王子を見て、レザンナ女王は腕を組んで悩むような顔をしていました。
 
なお、アグネスの進言で、スノーホワイトは女王に「あの人たちが絶対に処罰されないようにするため、フェルト少佐をボウルの市長か軍区長に任命して欲しいと要請。女王も少し考えた末にそれを受け入れ、少佐をボウル市長に任命しました。
 
市民たちの中には、集会に参加しようとしていた者が逮捕されたりしないかという不安の声もあったのですが、この人事に人々はホッとします。それで実際、この後、ボウルで反女王派の逮捕のようなものは起きなかったのです。
 
ただ、集会のリーダー格のリュッソー他数名については、女王系の者から狙われる可能性があるとアグネスやフェルト少佐は心配し、少佐の個人的なツテを頼って身を隠せるように手配してあげました。
 
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スノーホワイト王子は戦争やフォーレとの同盟などの国政の大事が続いていたこと、またゲオルク国王の死の後、喪に服していたりしたこともあり、本来は7-8歳ですべきブリーチングをまだおこなっていませんでした。
 
しかしソリスの進言もあり、11歳の誕生日にブリーチングを行うことになり、王子はやっとドレスを卒業して、ズボンを穿きました。こんなに遅くなった原因のひとつは、周囲が「ドレス姿のスノーホワイト」があまりに可愛いのでこのまま女の子みたいな格好をさせておきたいという意図が働いたのも実はありました。
 
「スノーホワイトよ、髪はどうする?男らしく短く切るか?」
とレザンナ女王は訊きましたが、
 
「ずっとこの長い髪に慣れてたから、もうしばらくこのままで」
と王子は答えました。
 
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「うむ。それもよいであろう。元服の時に短くすればよいな」
 
と女王が言うので、王子はちょっと寂しいなとも思いました。元服は多分16歳になったらすることになります。
 
この日は王子が「男の子になった」お祝いということで、お城では盛大なパーティーが開かれました。
 

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ズボンを穿くようになったスノーホワイト王子は、しばしば女王と一緒に国中を歩いて回り、そのりりしい姿を人々に見せていました。
 
もっとも・・・スノーホワイトは元々優しい顔立ちですし、長い黒髪をいつも垂らしたり、時にはポニーテイルにしたりしているので、ズボンを穿いていてもスノーホワイトのことを王女と誤解する国民は後を絶ちませんでした。
 
そういう訳で“スノーホワイト王女”の国民間での人気は高まり、それをいつも優しくサポートしている女王としてレザンナの評価も高まっていきました。それは結果的に国の平穏を保つことになったのです。女王に反感を持つ人たちも多かったですが、皆、スノーホワイト王女がいるならと表だった行動は起こしたりしませんでした。
 
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そして2年ほど経ったある夜のことでした。
 
レザンナ女王はいつものように鏡に尋ねました。
 
「鏡よ鏡、この地上で一番美しい者は誰?」
 
すると鏡はこう答えました。
 
「スノーホワイト様です。スノーホワイト様がこの地上の者の中で一番美しい」
 
女王は驚き、ガタッと音を立てて立ち上がります。
 
「なぜだ?昨日までお前は私がこの地上で一番美しいと言っていたではないか?」
 
すると鏡はこのように言いました。
 
「この地上で一番美しい“女”であれば、それはレザンナ様です。しかしスノーホワイト様は男ではあっても、レザンナ様の千倍美しい」
 
その言葉を聞き、レザンナはわなわなと震え、顔色も青ざめてしまったのです。
 
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レザンナはソリスを呼び出しました。
 
「今すぐスノーホワイトを殺してこい」
 
ソリスはびっくりします。
 
「なぜ、そのようなことを。レザンナ様は、スノーホワイト王子と結婚するおつもりではなかったのですか?」
 
「鏡によれば、スノーホワイト王子は私より1000倍美しいらしい。そのような者を生かしておく訳にはいかない」
 
「落ち着いてください。今レザンナ様はスノーホワイト王子と仲良くしておられるからこそ、国民に支持されています。ここで万が一王子が死ぬことがあればみんな、あなたが殺したと思います。国民は反乱を起こしますよ」
 
「反乱など抑えこめばいい」
 
「ここはどうか我慢して下さい。冷静になってください。偉大なるレザンナ様、フォーレ皇帝ケーンズ様であれば、ここでどうすべきか、お分かりになるでしょう?」
 
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ソリスは必死で女王を説得したのですが、女王は納得しません。そしてソリスに「下がれ。2度と我が前に顔を見せるな」と言って下がらせると、少し考えてから、猟師のステファンに玉座に来るよう言いました。実は女王はスノーホワイト王子と一緒に近い内に鹿狩りに行く予定で、そのために猟師を召していたのです。ステファンは女王直々のお召しとあって緊張しています。
 
「鹿狩りだが、せっかく呼び出したのに申し訳ないが、私の公務が忙しくて中止することにした」
 
「それは残念でしたね。またの機会にはぜひお手伝いさせてください」
「うん。それで私は良いのだが、スノーホワイトは凄く楽しみにしていたので中止は可哀相に思ってな。それでそなた、こっそりとスノーホワイトだけ連れ出して、そなたとふたりで鹿狩りをさせてやってはくれまいか?」
 
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「はい、それは構いません。殿下のお付きの方と一緒ですね?」
「いや。侍女や護衛はつけないから、そなたとふたりだけで」
「それはなぜ?万一山賊などが出た場合、私ひとりでは守り切れない場合もありますから、殿下の安全のためには、せめて護衛の方を2〜3人付けて頂けませんか?」
 
「それはだな」
 
と言って、女王は自分の近くまで寄るよう命じます。ステファンが緊張した様子でそばに寄ります。
 
「そなたに命じる。その狩りの最中にスノーホワイト王子を殺害せよ。そして確かに殺したという証拠に、王子の心臓を持ち帰れ」
 
「なぜそのようなことを・・・」
とステファンは驚いて訊きます。
 
「お前は言われた通りにすればよい。従えば金銀財宝を授けるし、拒否したりこのことを他人に言ったりしたら、お前もお前の家族もみな磔(はりつけ)にする」
 
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「そんな・・・」
 

それで女王はスノーホワイト王子を別途、内密の用事があると言って呼び出しますと、鹿狩りを中止にすることにしたことを言い、それでは寂しいだろうから、猟師とふたりだけで森にやるので、ふたりだけで鹿狩りを楽しんでくれるよう言います。
 
「陛下がお忙しいのでしたら、私でもできることがありましたら、お申しつけください。そのような時には遊んでいたりせず、少しでも陛下のご負担を軽くしたいと思います」
などとスノーホワイトは言います。
 
全く、この子は何てしっかりしているんだ、と女王は思いました。まだ13歳なのにこんなにしっかりしているのであれば、美しさの問題だけでなく、この子を生かしておくこと自体が、自分にとって脅威だという気がしてきました。
 
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「心配してくれるのはありがたいが、人は時には遊んだ方が良いこともあるのだよ。しっかりした猟師を付けるから、息抜きしておいで」
 
と女王は笑顔でスノーホワイト王子に言いました。
 

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それで王子はステファンと一緒にお城を出ます。王子付きの侍女は、今日は侍女長のアグネスが月の物で下がっており、副侍女長のローラほか数名が王子には付いていましたが、女王は秘密の用件で数日城を留守にさせるが、腕の立つ護衛を数名付けたので大丈夫だと言いくるめておきました。
 
それでステファンは王子とふたりだけで城を出ます。そして森の中に行って少し歩いた所で、王子をクロスボウ(*5)で撃とうとしました。
 
しかしスノーホワイトが、あまりにあどけない顔をしているので、どうしても殺すことができませんでした。
 

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