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■プリンス・スノーホワイト(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-08-13
 
「ただこの薬には副作用がある」
とアルツは言いました。
 
「副作用?」
「それでも良いか?」
「どういう副作用なのですか?」
とアグネスが訊きます。
 
「性別が変わってしまうのだよ」
「え!?」
 
「本来人間は男としても女としても生きられる力を持っている。普通その片方は裏に隠れている。この薬は死んでいる表の身体の代わりに、眠っている裏の身体を起動する。そうすることによって生き返らせることができる。いったん生き返れば裏側に行った身体も時間を掛けて蘇生していく。しかし表と裏が再度入れ替わることはない。この薬を処方すると、ツェンネリンを中和して無毒化するのと同時に、裏に隠れているもうひとつの命を表に引き出す。だから、この薬を打てば、生き返りはするものの、男は女になり、女は男になってしまう」
 
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とアルツは言いました。
 
「なんと・・・」
 
「ではスノーホワイト姫は、男になってしまうのか?」
とアレクサンドルが言います。
 
アグネスは呆然としています。
 
レオポルド王子もショックを受けたようですが、それでも言いました。
 
「構わない。今は性別より命が大事です。その薬を打って下さい」
 
「分かった。では打つぞ」
とアルツは言い、身体の数ヶ所にその薬を打ちました。そして心臓マッサージをします。
 

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「生き返る場合はだいたい5分程度以内に反応がある」
とアルツは心臓マッサージをしながら言いました。
 
みんな祈るように見ています。アグネスはもう目を瞑り両手を強く組み合わせて、祈っています。
 
1分、2分、経過します。
 
そして3分ほど経過した時、今まで青ざめていたスノーホワイトの顔色が少しだけ良くなります。
 
「おお、変化が現れた!」
 
アルツが心臓マッサージを中断します。アルツは脈を確認しようとしたのですが、それを待ちきれないようにアグネスがスノーホワイトの胸に耳を当てます。
 
「心臓が動いてます!」
 
口や鼻の付近にジャンヌが手をかざします。
 
「息をしておられる!」
 
「これはきっと生き返る!」
とロンメルが言いましたが、アルツはまだ厳しい顔で様子を見ています。
 
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しかし5分ほど経った時、スノーホワイトはぱちりと目を開きました。
 
「ここは?(Wo bin ich?)」
とスノーホワイトが声を出しました。
 
「スノーホワイト様!」
「みんな、スノーホワイト様の傍にいますよ」
「アグネス?」
 
「良かった。生き返った。良かった。本当に良かった(*12)」
アグネスはもう涙が止まらない様子でした。
 

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アルツはアグネス以外の全員に小屋の外に出るように言いました。
 
「姫は生き返った。しかしこれから副作用が出る。おそらく1日くらい、明日の朝くらいまでの内に、あの方の身体は変化して男になってしまうだろう」
とアルツはみんなに言いました。
 
「苦しむだろうか?」
「苦しみはあまり無いと思う。しかし身体の変化でかなり気分が悪くなると思う。必要なら途中で対処療法もする。ただ、この変化が起きている間は、飲み物も食べ物も口に出来ない」
 
みんな厳しい顔をしていますが、ステファンだけはむしろ首をひねっていました。
 
「ステファン殿、何か?」
とアレクサンドルが訊きます。
「あ、いや。今はいいです。後でちょっとアグネス殿と話します」
とステファンは言いました。
 
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「レオポルド殿下、残念ですが、スノーホワイト姫との結婚は難しくなるかも知れません」
とアレクサンドルが言います。
 
「それについては明日の朝までに少し考えさせてくれ。ともかくも今は姫が生き返っただけで私は嬉しい」
と王子は悲痛な表情で答えました。
 

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アレクサンドルはレオポルド王子に従ってやってきた“お迎え隊”のリーダーであるボルツ中尉と相談し、ノガルド領内に数人の斥候を出すことにしました。その能力の高い5名を指名し、首都アッシュ他、国内数ヶ所で相手の動きを調査することにします。
 
アレクサンドルがまず確認しておきたかったのは、レザンナ女王はスノーホワイト姫が死んだと思っているだろうが、それを公表するのか、それともしばらく伏せておくのかという点でした。また第2の都市・ボウルなど領内数ヶ所にいるはずの反女王勢力の様子も探らせたいと考えていました。これを調べる者にはアグネス直筆の手紙を持たせました。
 

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ステファンはアグネスと話して、2人だけで小屋の中に入り、他の者を全員外に出させました。
 
「スノーホワイト様。とにかくも回復なさって、私は本当に嬉しいです。私が代われるものだったら代わりたいと思いましたよ」
とアグネスは言う。
 
「アグネスにはこれまで何度も苦労を掛けたね」
とスノーホワイト王子も彼女をいたわるように言います。何とか生き返ったものの、まだ顔色はけっこう青白く、身体もきついようです。
 
「それでスノーホワイト様、実は辛いことを私は言わなければなりません」
 
とアグネスは言いました。このことを誰が告知するかは議論したのですが、アグネスが自分に言わせてくれと言ったのです。
 
「え?何?」
 
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「スノーホワイト様はレザンナ様に仕込まれた毒に倒れられました。しかしアルツ殿の調合した解毒剤で回復しました。ところがこの解毒剤には深刻な副作用があるのです。それが今から出始めると思います」
 
「え?僕どうなるの?」
とスノーホワイトは戸惑っている様子です。
 
「実は性別が変わってしまうのですよ」
「え〜〜〜!?」
「変化はだいたい1日くらいの内に起きるとアルツ殿からお伺いしました。ですから、多分明日の朝くらいまでには性別が変わってしまうと思います」
 
「ちょっと待って。性別が変わるって?」
 
「他の人たちはどうもスノーホワイト様を姫様と思っているようなのです。ですから、みんな女から男に変わってしまうと思っていますが、実際には現在スノーホワイト様は男の方なので、たぶん明日の朝までに女の人に変わってしまうのではないかと思います」
 
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と言ってアグネスはちょっとステファンを見ます。ステファンも頷いています。
 
「うっそー!?」
 
「でもスノーホワイト様、結構女の子になりたいとか、思ってませんでした?」
とアグネスが言うと
「えっと・・・」
などと言いよどんでおられるので、結構その気もあったようです。
 
「でも女の子になるって、僕の身体どうなるの?」
「私も良くは分かりませんが、たぶん、おちんちんとか、たまたまとかが無くなって、女の人のような形になるんだと思いますよ。おっぱいは膨らむかどうか微妙ですね。13歳では、まだおっぱいが膨らんでいない女の子もいますし」
 
「じゃ、僕のおちんちん無くなっちゃうの?」
「多分」
「どうしよう・・・」
 
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「まだそのおちんちんがある内に、使ってみます?」
「使うって?おしっこ?」
 
「おちんちんには他にも使い方があるんですよ」
「え?そうなの?」
「もうこんなこともできなくなってしまいますから、1度やってみましょう。ステファン殿、すみません。私の背中の紐を解いてもらえませんか?」
とアグネスは言いました。
 
ステファンは黙って彼女の服の紐を解いてあげました。そして後ろを向きました。本当は小屋の外に出たい所ですが、警護のためには離れられないのです。
 
「スノーホワイト様が女の身体になった後でも、役に立つことだと思いますよ」
と言いながら、アグネスは王子のベッドの中に入りました。
 

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翌朝までにスノーホワイト王子の身体は完全に変化してしまいました。
 
最初にたまたまが身体の中に入りこんでしまいました。そしてお昼過ぎくらいからおちんちんが縮み始め、夕方くらいにはほとんど真っ平らなお股になってしまいました。やがてそこに縦の筋(すじ)ができ、どんどん深くなって溝(みぞ)のようになります。溝の縁は二重になって、内側の縁はヒダ状になります。小さくなったおちんちんは溝の上部の所に収まりました。おしっこの出てくる所はおちんちんとは離れてしまい、それより少し下の付近に落ち着きました。そしてその縦の溝のいちばん下の部分に穴ができ始め、どんどん深くなっていきました。スノーホワイトがおそるおそる指を入れてみると、中指が全部入ってしまいました。
 
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スノーホワイトが本当は男であったことをアルツにだけまず打ち明けますと、びっくりしていました。
 
「私はこれまで女装している男も、男装している女も一目で見分けていたのに」
などとも言っていました。
 
しかしアルツは、女から男へではなく、男から女へと変化していくスノーホワイトの身体を診てくれました。
 
「苦しかったり痛かったりはしないか?」
「それはないですけど、凄く変な気分です」
「おそらく、それは女の素が身体の中に行き渡って行ってるからだ」
 
「女の素?」
 
「男を男らしくしているのは体内に男の素があるからだ。女を女らしくしているのは体内に女の素があるからだ。今そなたは体内の男の素が無くなって代わりに女の素が血液とともに身体中に浸透していきつつある。それでそなたの気持ちなども随分女らしいものに変わると思うよ」
 
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「わぁ・・・」
 
夜中の3時すぎくらいからは、おっぱいも膨らみ始めましたが、スノーホワイトはそれを見て「これすごーい」と何だかむしろ喜んでいるようにも見えて、ついアグネスも微笑んでしまいました。
 
結局朝までには完全に女の身体になってしまったのですが、スノーホワイトは特に苦しんだりすることもありませんでした。
 

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アグネスはレオポルド王子だけを中に入れました。
 
その場に居るのはスノーホワイトとアグネス、アルツ、ステファン、そしてレオポルド王子だけです。
 
「レオポルド王子殿下、私はこれまで嘘をついておりました」
とアグネスは言いました。
 
「そのことでお叱りを受けましたら、責任を取って自死してもよいと思っております」
 
「一体何の嘘をついていたのだ?」
とレオポルド王子はいぶかしげに言います。
 
「実は、皆様、誤解なさっていたようで、面倒になりそうだったので話を合わせていたのですが、スノーホワイト様は元々男の王子様だったのです」
 
「は?」
 
「とても美しいお顔の持ち主ですし、性格もとてもお優しい方で、なぜかドレス姿が似合ってしまうので、国民の間でも、よく王子様ではなく王女様と誤解する人たちが多かったようで」
とアグネスは言います。
 
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「何の冗談?」
 
「スノーホワイト様がまだ2歳の頃、スノーホワイト様と、レオポルド様、ポーラ様が一緒に遊んでおられるのを見て、ハモンド大公様と亡きゲオルク王がお話をされて『あの2人を結婚させよう』とおっしゃったのですが、その時、どうもハモンド大公様は、レオポルド王子様とスノーホワイト王女を結婚させようという意味に取られたようなのですが、ゲオルク王はスノーホワイト王子とポーラ王女を結婚させようという意味で言ったのです」
 
「え〜〜〜!?」
 
「ですから、スノーホワイト王子様は、レオポルド王子様に友情を感じておられて、レオポルド王子様から頂いたムーンストーンのペンダントも友情の証として、よくパーティーなどで着けておられました。でも男ですので、レオポルド王子様に恋愛的な感情を持たれたことはありません」
 
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「うーん・・・」
 
ここでスノーホワイト自身が言います。
 
「レオポルド王子殿下、そういう訳でせっかく私に思いを寄せて下さり、今回は私を救うために手を尽くして頂いて、本当に感謝しておりますが、私は殿下のお気持ちに沿うことはできない身なのです。本当に申し訳ありません。代わりに殿下がお申し付けになることでしたら、何でも私のできる範囲で応じたいと思っています」
 
それを聞いて、レオポルド王子は悩んで腕を組み、その場に座り込んでしまいました。
 

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