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■プリンス・スノーホワイト(8)

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ジャンヌとともに、他の捜索隊のメンバーが小屋にやってきました。ここで善後策を話し合うため、レオポルド王子はいったん国に戻ることにします。捜索に参加してくれた国境警備兵の内4人が王子に付き添って国に戻り、残った警備兵ヤコブ、精鋭5人とステファン・マルガレータ・アグネスの合計9人が3人ずつ3交代でスノーホワイトの護衛をすることにしました。
 
“女性の”スノーホワイト姫の警護なら女性が常に1人入った方がいいということで、アグネス、ジャンヌ、マルガレータの3人が各組に分散して入ることにしました。
 
それでレオポルド王子は翌朝、アルカスに向けて出発しました。ここから国境までは森の中を歩いて半日くらいです。
 
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「ねえ、トイレに行きたい時、どうすればいいの?」
と小さな声でスノーホワイトはアグネスに訊きました。
 
「私が付き添いますよ」
と言って、アグネスが助けて身体を起こさせ、一緒に小屋の外に出ます。念のためヤコブが少し遠くから見ています。スノーホワイトとアグネスで一緒に小屋の裏のトイレにしている場所まで行き、そこでトイレをさせます。
 
「僕、女の子みたいにしゃがんでしないといけないの〜?」
「アルカスの兵も見ていますから、そうしてください」
 
スノーホワイトは2年ほど前にブリーチングをするまではドレスを着ていましたが、男の子なので、おしっこだけの時はドレスの裾をめくって立ってしていました。でも、今はみんなに姫君と思われているので、そういうことができません。
 
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なお、服はレオポルド王子が用意してくれた新しいドレス(但し華美でない物)と女の子用下着に着替えています。着替えはアグネスだけが付いて背中の紐を締めたりするのをしてあげました。
 
「私はまだいいですが、ジャンヌやマルガレータには殿下が男の子であることを悟られないでくださいね。レオポルド殿下も、あなた様を自分のフィアンセの姫君と思っているので、こんなに協力してくれているのですし」
 
「まさか、僕このままレオポルドのお嫁さんにならないといけないなんてことはないよね?」
「それはさすがに無理ですから、後で説明してよくよく謝りましょう」
「でもレオポルドに手の甲にキスされちゃったよ」
「そのくらいは我慢してください」
 
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アルカスでは、帰還したレオポルド王子と、父ハモンド大公、兄のロベルト王子、および大臣・軍の司令官も入って話し合いをしました。
 
レオポルドが、アルカスの軍を率いて危険なレザンナ女王を排除したいと主張しますが、司令官のローレンツは反対します。
 
「現在、ノガルドは、フォーレ、ハンナと三国同盟を結んでおり、極めて強力な軍事力を持っています。アルカスだけの軍事力ではとてもかないません。万一激突すればこちらの敗戦は必至です。わが国もフォーレ帝国連合に組み込まれてしまい、大公陛下もご家族も全て亡き者にされてしまうでしょう」
とローレンツは言います。
 
「ではこのまま私の許嫁を見殺しにするのか?」
とレオポルドが言います。
 
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議論はかなり白熱したのですが、やがてレオポルドの兄のロベルト王子がこのようなことを言いました。
 
「スノーホワイト王女はレオポルドの許嫁です。親族を保護するのは国際法上も認められる行為です。ですから、レオポルドに兵を30人ほど預けましょう。その30人の兵で、王女を“お迎え”に行くのです」
 
全員がロベルト王子の言葉の“深い意味”に腕を組んで考えました。
 
大公がレオポルドに意味ありげに視線を向けます。レオポルド王子は決意を秘めた表情で頷きました。
 
「分かった。ローレンツ、兵の中から志願者を募れ。レオポルドに命を預けても良い者たちを」
と大公は言いました。
 
「ありがとうございます、父上、兄上」
「ではお前は、姫をお迎えするための準備をするように。1〜2日中にもお迎えの一団は出発する」
「分かりました」
 
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クレーテに襲われて倒れてから3日も経ちますと、やっとスノーホワイトも小屋の周囲程度を散歩できるくらいの体力が出てきます。
 
「あの老婆はやはり母君が放った刺客だったのだろうか?」
とスノーホワイトはアグネスに相談します。
 
「間違いなくそうだと思いますよ」
とアグネスは言います。
 
「僕はこの後、どうすべきだろう?」
「それは殿下がご自身で決めなければなりません」
 
アグネスはわずか13歳の王子に難しい決断をさせるのは辛いとは思ったのですが、周囲の人間が何か進言してよいことではありません。
 
「ねぇ、今のままだとどうなると思う?」
「うーん。。。。レオポルド殿下がお戻りになると、そのままアルカスに迎えられて、レオポルド殿下の妃(きさき)になることになるのではないかと」
 
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「そんなの、僕は嫌だ!」
とスノーホワイトが言うので、アグネスはうっかり吹き出しそうになりました。
 

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翌日の日の夜、ちょうど夜中の12時で、夕方〜夜の組のマルガレータ・ユリウス・アレクサンドルの3人と、夜〜朝の組のジャンヌ・ステファン・ロンメルの3人が交代するので引き継ぎをしている時でした。
 
夜中なので鉱夫の7人は寝ています。
 
その交代をスノーホワイトはだいぶ体調が戻ってきたこともあり、小屋の外に出て眺めていました。
 
その時
「スノーホワイト」
と声を掛ける者があります。え?と思って振り返ると、そこには数日前いったんアルカス領に引き上げたレオポルド王子の姿がありました。
 

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引き継ぎをしている6人は“姫”のそばに誰か現れたので緊張した面持ちをしたものの、レオポルド王子と気付き、“許嫁同士”だから、そっとしておいてあげようと考え、その場に留まって、遠くから見ていました。
 
「スノーホワイト殿、私はあなたがまだ幼かった頃から、何度もあなたを見てずっとお慕いしておりました。幸いにも私はアルカスの世継ではありません。結婚して一緒にノガルドを治めませんか?」
 
スノーホワイトは「その話はやめて〜」と思ったものの、アグネスから釘を刺されています。今は話を合わせてレオポルド王子に協力してもらわないと、自分はレザンナに殺されるのを待つだけになってしまうでしょう。そこで必死に考えてこう答えました。
 
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「レオポルド様。今回は私のために本当に手を尽くしてくださって、とても感謝しております。でも今はまだそのような将来のことまでとても考えられないのです。どうかしばらくお返事は待って頂けないでしょうか?」
 
するとレオポルドは微笑んで言いました。
 
「いいですよ。僕は11年待ったから、まだ2年やそこら待つのは構いません」
「ありがとうございます」
「ここであなたの唇にキスしたい所だけど、それはお返事をもらうまで我慢することにして、代わりにこれを」
 
と言って、レオポルド王子はりんごを1個取り出しました。スノーホワイトはびっくりしますが、微笑んで受け取りました。
 
「どうぞ、私のキス代わりに一口かじって下さい」
とレオポルドが微笑んで言います。
 
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それでスノーホワイトも、まありんごくらいはいいかと思い、一口りんごをかじりました。
 
その途端、スノーホワイトは突然息がつまり立っていられなくなりました。その場に崩れるように倒れてしまいます。
 
驚いたのは遠くで見ていたステファンたち6人です。急いで駆け寄りますが、レオポルドは倒れたスノーホワイトを介抱するどころか、笑みを浮かべて立っています。
 
「誰だ貴様?」
とロンメルが言いました。
 
「ふん。名乗るほどのものではない。じゃあな」
と言うと、“レオポルド”の姿は、霧のように消えてしまいました。
 
「今のは?」
「多分レザンナだ!レオポルド様に化けていたんだ」
 
ジャンヌがスノーホワイトを抱くようにして起こしますが、スノーホワイトは全身の力が抜けてしまっているようです。
 
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「息はあるか?」
「ありません」
「脈は?」
「ありません!」
 
「おお!何ということだ!」
「我らは役立たずだ。おそばに付いていたのに!」
 
「そのりんごをかじった途端倒れたぞ」
「おそらくこのりんごに毒を染み込ませていたんだ」
 
「鉱夫たちの中に薬物に詳しい者がいたな」
「見せてみよう」
 

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それでジャンヌが抱き上げたまま、小屋に入ります。そしてスノーホワイトのベッドに寝せますが、騒がしい様子に仮眠していた昼組のアグネス・ヤコブ・ジークフリート、そして鉱夫たちも目を覚ました。
 
「スノーホワイト様!スノーホワイト様!」
とアグネスは必死で呼びかけますが、反応はありません。
 
「アルツ殿、何の毒にやられたか分からないか?」
とロンメルが薬物に詳しい鉱夫のアルツに訊きます。
 
「そのりんごに毒が仕込まれていたのか?」
「どうもそのようです」
 
「貸して」
と言って、アルツはりんごを取ると、少しナイフで切り取り、すりつぶしてからフラスコのようなものに入れてなにやら調べているようです。
 
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「これはツェンネリンだ」
とアルツは言いました。
 
「どういう毒なのだ?」
「ツェンニンという鳥の羽を100年以上経った枷酒に10年以上浸して作る。無味無臭無色だが、強い毒性を持つ。僅かでも飲めば絶命する」
 

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「スノーホワイト様を、スノーホワイト様をお助けする方法は無いのですか?。私が身代わりになって助かるなら、私の命を捧げます」
と悲痛な顔でアグネスが言います。
 
「解毒剤は存在する」
とアルツは言いました。
 
「但し副作用が出るがいいか?」
「今はそれをためらう時ではない。ぜひ処方してくれ」
 
「今は私も持ってない。材料を取ってくる必要がある」
「どこにあるのです?」
「ちょっと危険だが、行きますか?」
 
「私が行く」
とステファンが言います。
「私も行く」
とロンメルが言います。
 
「そなたたち2人が一番頑強そうだな。一緒に取りに行くか?」
「頼む」
 
「その解毒剤はどのくらいの内に飲ませなければならないのです?」
とアレクサンドルが訊く。
 
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「6時間が限界だ。それ以上経つともう生き返らない。それも解毒薬を注射するまでの間、“死を進行させない”薬を30分に一度、注射する必要がある。誰か注射の心得のある者は?」
 
「私はスノーホワイト様に何度もお注射をしました」
とアグネスが言います。
 
「だったらそなたに頼む。きちんと時間を守ってくれ。打ち過ぎてもダメだ」
と言って、アルツはアグネスにその薬と打つ場所、そして一度に打つ量を指示しました。
 
それでアルツはロンメル・ステファンと一緒に薬の材料を取りに出かけて行ったのです。
 

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さて、レザンナは霧のように消えたように見えましたが、実はネズミに変身してその場を逃れていました。先日は見張りのカラスが投げナイフにやられていたので、地を這うネズミの方が、ばれないだろうと考えたのです。そしてある程度その場を離れてから、コウモリに変身し、お城に飛んで帰りました。
 
女王の姿に戻ります。そして鏡に尋ねました。
 
「鏡よ鏡、この世で一番美しい者は誰?」
「レザンナ様、それはあなたです。あなたがこの世の者の中で一番美しい」
 
その答えを聞いて、レザンナは笑いをこらえることができませんでした。
 
「やったぞ!やっと私が一番美しくなったぞ」
 
それで女王はひとりでシャンパンを開けて乾杯しました。
 
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レオポルド王子の一行は朝5時頃、小屋に到着しますが、スノーホワイト“姫”が、レオポルド王子に化けた(恐らく)レザンナに毒のりんごを食べさせられて死んだという話を聞き、絶句します。
 
「現在、鉱夫で薬に詳しいアルツ殿と、ロンメル、ステファンが解毒剤の材料を取りに行っています。それを処方すれば助かる可能性があるということです」
とアレクサンドルは説明しました。
 
「私に化けたというのであれば君達に落ち度は無い。君達はよくやってくれている」
とレオポルド王子は最初に言いました。
 
「ありがとうございます。私の責任は後できちんとしますが、今は姫様が助かることをお祈りしていていいですか?」
とアレクサンドルが言いますので
 
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「うん。みんなで姫の回復を祈ろう」
と王子は言い、兵たちには少し休むように言った上で、自分もアレクサンドルたちと一緒にお祈りをしました。
 

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アルツたちはレオポルド王子が来てから20分ほどで小屋に戻ってきました。
 
「ステファン殿、お怪我を」
「このくらいは平気平気」
 
「そなたの治療もしたいが、先にこの姫の治療を優先する」
と言ってアルツは薬を調合していました。調合は10分ほど掛かりました。その薬を新しい注射器に取ります。
 
「さて」
とアルツは言いました。
 
「この薬を注射すれば今の患者の状態を見る感じではだいたい3割くらいの確率で蘇生すると思う」
「3割か・・・」
 
「普通は死んだ人は生き返らないのだよ」
とアルツは言います。
 
「それは構わない。試して欲しい」
とレオポルド王子が言いました。
 
 
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■プリンス・スノーホワイト(8)

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