広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・ジョンブラウンのおじさん(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-03-13
 
ジョン・ブラウンのおじさんが女の子たちを呼びました。
 
1人、2人、3人の女の子が来て、4人、5人、6人の女の子が来て、7人、8人、9人の女の子が来て、
 
10人の女の子がそろいました。
 

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2014年10月15日。XANFUSの新しいシングル『DANCE HEAVEN』が発売されたが、私は聴いてみて顔をしかめた。XANFUSのシングルでなかったら、そのままゴミ箱に捨てたい気分だった。
 
その日私が午前中のKARIONの制作作業を終えて、ローズ+リリーの制作をしているスタジオの方に移動しようと新宿の街を歩いていた時、偶然Purple Catsのnoirと会ったので「まあ食事でも一緒に」と誘い、ちょっと隠れ家的なレストランに連れて行った。
 
「この店、ちょっと分かりにくい場所にありますね」
とnoir。
「そうそう。知る人ぞ知る店。しかも高いから、あまり人が来ない。密談には便利」
 
ここは小学生の頃から随分蔵田さんに連れてこられた店だ。オーナーも代替わりしてしまったものの、古株のシェフが頑張っているので味の品質が保たれている。こういう競争の激しい地区で10年以上営業を続けているのは凄い。しかし随分あの時期はいろんなコスプレさせられたなあと当時を懐かしく思う。看護婦・フライトアテンダント・セーラー服にバドガールに。樹梨菜さんが居ない時はけっこうヌードにもさせられたし。もっともアレは2度しか見せてないけどね!「もう取っちゃったんだっけ?」と言う蔵田さんの顔が凄くつまらなそうだった。
 
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「高いんですか?」
「あ、心配しないで下さい。私がおごりますから」
「すみませーん」
「私がnoirさんより後輩なのに、おごるのは失礼かもしれないけど」
「いや、先輩後輩なんて話より収入です!」
 
noirは元リュークガールズで私がローズ+リリーでデビューするより前から芸能界に居るし、年齢も彼女の方が2つ上である。
 
「まあ私も次のアルバムが売れなかったら、マンション売って逃げ出さないといけないかも知れないけど」
と私。
「いや売れるでしょう。昨年の『Flower Garden』も凄かったし」
とnoir。
 
「うん。あれが凄く売れたから、やはり次のアルバムも変なのは出せないと思って頑張っているんですよ。でも時間を掛けたからといって良いのができるとは限らないですけどね」
「うん。それはあるけど、その逆に時間を惜しんで短時間で作ったアルバムはやはり大したことないのが多いですよ」
 
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「稀に名作もありますけどね」
「うん。あくまで稀にですよね」
 
「だからXANFUSの今日発売のシングル聴いて、私、怒り心頭に発しましたよ」
と言ってnoirは例のCDを取り出す。
 
「もう割っちゃおうかと思ったんですけどね」
とnoir。
「私はゴミ箱に捨てちゃおうかと思った」
と言って、私もそのCDを鞄から取り出す。
 
私とnoirは見つめ合った。
「捨てちゃおうか?」
「割っちゃおうか?」
 
よし!というので私たちはその2枚のCDをその場で2つに割り、レストランのゴミ箱に捨ててしまった。
 
「ああ、すっきりした」
「私も!」
 

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「丸山アイちゃんの制作の方はどうですか?」
「初々しくて教え甲斐がありますよ。彼女素直だし」
「へー。上手い?」
「上手い。そして声域が広い」
「それは楽しみですね」
 
「ある意味、ケイ2世」
と言ってnoirは悪戯っぽく微笑む。
 
「へー」
「彼女ね、女の声も男の声も出るんですよ」
「嘘!?」
「だからひとりで男女デュエットした音源も作ろうと思えば作れる。ケイさんがローズクォーツの初期のシングルでやってみせたように」
「あれは黒歴史にして。でも両声類なんだ?」
 
「そして彼女の性別がよく分からない」
「え?女の子じゃないの?」
 
「一応、事務所・レコード会社との契約では女性歌手ということになっているんだけど。だから基本的に女性の格好で出歩く契約になっているらしいんだけど」
 
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「まさか男の娘?」
 
「それが分からないんですよ。男の娘なのか、逆に女の息子さんなのか。私たちには、他の人には内緒でと言って、高校の女子制服を着ている写真とガクランを着ている写真の両方を見せてくれましたよ。片方はコスプレですと言ってたけど、どちらも凄く自然で、どちらがコスプレなのか分からなかった」
 
それってRainbow Flute Bandsのフェイに似たタイプかな?と私は思った。但しフェイは男声は出ないという話ではある。
 
「本人と会ってみたーい」
「お時間が取れたらいつでも来てみてください」
「アイちゃんの担当は誰だっけ?」
「まだ決まってないみたいですけど、取り敢えず菱沼さんが色々指導してくださっているんですよ」
「ああ。ゴールデンシックスの担当の傍らかな。ゴールデンシックスはあまり手が掛からないから」
「ですよねー。ふたりとも大人だもん。音源製作もベテランで、若い技師さんの方が色々教えてもらってるみたいだし」
 
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2014年の秋は、XANFUSの音羽が「音楽の勉強のため」卒業したという衝撃のニュースが伝わってくる中でローズ+リリー、KARIONのアルバムの制作は進められていた。この問題について事務所からは何もそれ以上の説明もなく、また光帆のツイートも停まったままであった。ファンの間では、光帆のツイッターのアカウントは事務所が事実上凍結しているのではと噂されていた。
 
その騒ぎの中、10月27日、AYAのゆみがふらりと私たちのマンションにやってきた。
 
「ゆみちゃん、最近どうしてたの?」
「うーん。ちょっと怠けてるだけ」
とゆみは言う。
 
取り敢えずおやつを出して来て、お茶でも飲みながらおしゃべりをしたが、ゆみは自分の音楽活動のことについては何も話さなかった。そしてゆみは1枚の楽譜と、MIDIデータを記録したUSBメモリを渡し、ローズ+リリーで歌って欲しいと言った。水森優美香作詞・戸奈甲斐作曲とクレジットされている。水森優美香というのは、ゆみの本名だ。
 
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「これ凄くいい曲。この作曲者さんは知り合い?」
「うん。古い知り合いなんだよ」
「これの楽曲録音する時、ゆみちゃん参加しない?」
「そうだなあ。コーラスくらい入れてもいいよ」
「ついでもPVにも出演。前橋社長の許可は私が取るからさ」
「うん。そのくらいいいよ」
 

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ゆみは来てから30分ほどで帰ろうとしていたのだが、そこに千里がやってくる。
 
「ゆみちゃん、おっひさー」
と千里が声を掛けると
「わっ、醍醐先生、おはようございます」
などと、ゆみは言う。
 
「おはようございます」
と千里も挨拶を交わしてから
「同い年だから、先生はやめてよ」
と千里は笑って言う。
 
「前から知り合いだったっけ?」
と私は訊いた。
 
「某所でね」
と千里。
 
「醍醐先生、占いが凄かったですよね。私のこと占ってみてもらえませんか?」
「いいよ」
 
と言って千里はいつも持ち歩いているバッグから筮竹を取り出す。筮竹を千里はスパゲティ保存用のプラスチックケースに入れている。細くて長いものを入れるには確かに便利な容器だ。
 
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「いつも思うけど、そのかばんからは何でも出てくるね」
と政子が言う。
 
「雨宮先生に言われて、いつでもDAWできるように、Cubase入りのパソコンを持ち歩いている。あとはついでみたいなもの」
と千里は言ってから、筮竹を華麗にさばき、左右に分けては左手に残った筮竹の数を数えるというのを3回繰り返した。
 
「火雷噬ロ盍(からい・ぜいごう)の上爻変。之卦は震為雷(しんいらい)」
と千里。
 
「上爻変(じょうこうへん)って、時が来たれりってやつですよね?」
とゆみ。
 
「うん。初爻から始まって二爻・三爻と登って行く内に目標が近づいてくる。一番上の上爻はゴールは目前。そろそろ目を覚ます時間ですよ、Sleeping Beautyさん」
 
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「そっかー」
「火の卦の形は |:| で周囲を囲まれている。でも雷は ::| で出口が出来るんだよ。雷は音だから、自分を鳴り響かせる時が来ているということ」
 
ゆみは大きく頷いていた。
 
「開運の方角を教えてください」
 
千里は筮竹を1回だけ分けた。
 
「坎(かん)。北だね」
と千里。
「北かあ。北海道にでも行ってこようかな」
とゆみ。
「ああ、旅に出るのはいいことだと思う」
と私も言う。
 
「そうだ。北海道に行ったら、札幌に寄ってここを訪ねてくれない?ごはんくらいは食べさせてくれると思うから」
 
と言って千里は住所を書いた紙を渡す。
 
「村山玲羅?妹さんか誰か?」
「うん。2つ下。ついでにそこにXANFUSの音羽ちゃんが今滞在しているから」
「うっそー!」
 
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そういうことで、ゆみはこの春に買った自分のポルシェ・カイエンに乗って、一週間(程度の予定)の北海道旅行に出かけた。(大洗からフェリーで苫小牧に渡った)。念のためブリジストンのブリザックを履かせ、クーラントやウォッシャー液も寒冷地用に交換させたのだが、千里はそれでも、くれぐれも雪の積もっている峠の道はできるだけ避けるように注意した。
 
「ゆみちゃん、まだ天国には行きたくないよね?」
「うん。自重する」
「どうしても走る時は時速15kmか20kmで」
「そんなに遅く?」
「雪国の人でも30km/hで走るよ」
「そうなのか」
 

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「あの車はいくらくらい?」
と政子がゆみを見送って訊いた。
「あのカイエンは1200万円くらいだと思うよ」
 
「あの車も格好良いなあ」
「マイバッハより実用性は高いと思う。マイバッハ57みたいな巨大な車は日本では駐車場に困るよ。カイエンならエスティマなんかと似たようなサイズだから普通に駐められる」
 
「私、カイエンにしようかなあ」
「いいんじゃない。でも路上に出た感想は?」
 
政子は一昨日やっと第2段階に進んだのである。仮免試験を4回目でやっと合格した。
 
「なんか、凄い興奮する。でも最初の路上教習で隣にトラックが来た時はちょっと怖かった」
「まあ。あれは怖いよね、最初は」
と私。
「慣れたら平気になるよ」
と千里も微笑んで言った。
 
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私が丸山アイの制作現場を訪れたのは10月30日であった。
 
政子が寝ている内にマンションを出てから青山の★★スタジオに行く。私が入っていくと、コントロールルームにPurple Catsの4人と∞∞プロの谷津さん・菱沼さんが居た。フロアで歌っていた丸山アイは驚いたような顔をして私の方を見た。
 
「こないだ見た時は目立たない子だと思ったけど、歌っていると生き生きしてますね」
と私は小声で谷津さんに言った。
 
「うん。彼女はオン/オフが凄い。ふだんは空気のように存在感が無いけど、活動する時は強いオーラが輝くんだ。その点もケイちゃんと似てるね」
 
その件はスルーして私は言う。
 
「歌うまいですね」
「音程が安定しているし、声量もある」
「彼女、両声類さんだそうですね」
「うん。実はね。男声も凄く魅力がある。それで実は丸山アイは女声で通すけど、男声でも高倉竜名義で歌わせようという案が出ている。丸山アイの曲は自作曲を使っているんだけど、高倉竜名義の歌は八雲春朗作詞・海野博晃作曲で」
 
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「へー!」
「むろん高倉竜の正体は非公開」
「面白い売り方ですね」
 
と言ってから私は小さい声で訊く。
「で、彼女、男なんですか?女なんですか?」
 
その質問をした時、谷津さんの向こう側にいる菱沼さんが聞き耳を立てるような仕草をした。きっと彼女も興味を持っているのだろう。
 
「それ私も教えてもらってないんだよ!」
と谷津さんは言った。
 

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一息入れようということにして、丸山アイがコントロールルームの方に来る。菱沼さんがペットボトルのお茶を渡すと、ぺこりとお礼をした。
 
「おはようございます。ケイさん、色々してくださってありがとうございます」
と丸山アイは笑顔で挨拶した。きれいなソプラノボイスである。
 
「いや、こちらはたまたま空いてた人達を紹介しただけで」
「noirさんたちから、随分この業界のこと教えてもらいました」
 
ああ、なんか悪い教育されてないといいけど、と少し危惧する。元リュークガールズの彼女はこの世界のダークな部分もかなり見てきている。
 
「でもアイちゃん、ほんとに歌うまいね」
「ありがとうございます。でももっと頑張って練習します」
「うんうん。たくさん練習して歌姫と言われるほどになろう」
 
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「去年の夏に音楽雑誌が日本の歌姫ってので読者投票しててケイさん8位でしたけど、私はあそこに挙げられている人の中ではいちばん上手いと思いました」
 
「それあまり人前では言わない方がいいよ。上にランキングされてた人たちが怒るから」
と私は笑って流しておく。
「谷津さんも菱沼さんも聞かなかったことにしてね。特に4位の人に伝わったら私もやばいし」
と私はふたりの方を向いて言う。谷津さんが頷いている。菱沼さんは「あぁ」という感じの表情だ。
 
4位の人というのは∞∞プロのトップシンガーである芹菜リセだ。姉の保坂早穂以上に扱いの難しい人である。加藤課長でさえ苦手な様子だ。逆鱗が20-30個ある感じで、かなり気をつけて会話をする必要がある。
 
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「ごめんなさい。そのあたりの気の配り方が全然できなくて」
「まあ面倒くさい業界だよね」
 
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夏の日の想い出・ジョンブラウンのおじさん(1)

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