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■夏の日の想い出・ジョンブラウンのおじさん(2)

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「ね、ね、アイちゃんの男声って聞ける?」
「うーん。出してもいいですか?」
と谷津さんに確認する。
 
「いいよ。オフレコってことで」
 
と谷津さんが言うと、アイは少し目をつぶっている。そしてその時彼女のオーラが変化するのを感じた。1分ほどの後、そこに居たはずの白いワンピースの可愛い女の子は消えて、代わりに白いワンピースを無理矢理着せられたような女装男子が立っていた。立て掛けてあったヤマハのギターFGを取り、椅子に座って爪弾きながら、歌い出すが、その仕草は完璧に男だと思った。
 
「忘れな草の、風に揺れる丘で、君があの日落とした、想い出ひとつ」
 
と歌う声は豊かなバリトンボイスである。凄い! これは女性のハートを揺り動かす声だし歌い方だ。この子、男性歌手として売っても相当人気が出る、と私は思った。しかし女性歌手としてのデビューを選択したというのは、この子の基本的な心は女の子だということなのだろう。
 
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歌い終わるとみんな凄い拍手をする。アイは静かにその拍手に答えてお辞儀をする。そしてまた目をつぶっている。すると雰囲気が変化する。1分ほどの後、そこには可愛い笑顔の、まだ15-16でも通るような少女が居た。椅子から立ち上がってギターを立てかけるがその動作は女の子そのものだ。
 
「自分の心をシフトするんだね」
 
「どうしても切り替えに時間がかかるんです。だから私、ケイさんが2010年に公開なさった、男声と女声をリアルタイムで切り替えながら歌う『ふたりの愛ランド』聞いた時、衝撃を受けました。これ私にはできないよ!って思いました。練習してみたんですけど声の切り替えが間に合わないんです」
 
「まあ、あれは宴会芸だから覚える必要はないと思うよ。そうだ。アイちゃんの高校の制服姿って見せて」
 
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「いいですよ」
と言ってiPhoneを操作して見せてくれる。
 
「『アイフォン』だから私のための端末みたいで」
と彼女は言っている。
 
画面に最初に呼び出されたのはブレザーにチェックのスカートを穿いた可愛い少女だ。そして続けて見せてくれたのはガクランを着た格好良い男の子である。
 
「すごい。どちらも普通の女の子、普通の男の子だ」
「私の友だちに尋ねても、私は女の子だと言う友だちと男の子だという友だちの両方がいると思いますよ」
とアイは笑顔で言った。
 
「フェイちゃんなんかと似てる環境かな」
 
フェイの性別も結局よく分からない。彼女の中高生時代の友人たちに取材しても「男の子ですよ」という答えと「女の子ですよ」という答えが半々くらいに返ってくる。青葉は半陰陽なのではと言っていたが、フェイ本人はそれを訊かいてきた雑誌社の記者に対して半陰陽ではないと否定していた。
 
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「私、フェイちゃんが出てきたので、自分の生き方に自身が持てたんです。更に今年のローズクォーツの『性転換ノススメ』でも理解者が増えた感じ。誤解者も増えたけど、無理解者は減った気がする」
 
「あれは社会的な波紋が大きいね」
 
「一応事務所とは女性タレントとして契約したので男装では出歩かないでって言われてるんですけどね。実は持っている服も男女半々なんですよ。男物の服をこっそり着て、その上に女物のコート羽織ってコンビニに夜間行ったことはあるけど」
と本人が言うと、谷津さんが苦笑いしている。そのあたりはボーダーラインというところか。でもその手の経験はMTF/FTMともに多いだろうなと私は思う。
 
「真性のFTXって感じかな」
と言ってみたが
 
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「MTXかFTXかについてはケイさんにも秘密ということで」
と彼女は答えた。
 

谷津さんがハイライトセブンスターズの件で相談があると向こうの担当の羽藤さんから連絡があったので後を菱沼さんに任せて退出する。音源製作は続いていく。こちらは部外者なのであまり口出ししないようにはしていたのだが、菱沼さんやmikeたちも悩むような所には私も意見を出した。
 
「菱沼さんは知人に聞いたらLucky Blossomの最後のマネージャーさんだったんですね」
と私は言った。
 
「ええ。最後の1年くらいしか担当してないですけどね」
「マリンシスタにも関わっておられたんでしょう?」
「あの時は、副担当だったので、実質付き人みたいなものでしたね」
「最高にブラック企業的な仕事ですね」
「です、です。お部屋にサンドバッグが必需品です」
「あはは」
 
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「でもそもそもマリンシスタの担当はコロコロ変わったんですよね。誰と誰が関わったのか、辰巳さん(初代リーダー)や山之上さん(最後のリーダー)もよく覚えてないって言っておられました」
 
「いや売れてるアーティストはそうなりがち。スタッフどころかメンバーに誰がいたかさえも覚えてなかったりしますから」
「そうみたいです! 多分忙しすぎて記憶を司る脳神経が吹き飛んじゃうんですよ」
 
結局2時間近く居て、そろそろ私が引き上げようとしていた時、歌っていたアイが突然男声で調整室に話しかけてきた。
 
「すみませーん。女の子やってるの少し疲れたから、高倉竜のほうの練習少ししてもいいですか?」
 
アイはこの時は完璧に18-19歳の男の子になっている。
 
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「うん。いいよ。じゃその間Purple Catsはお昼御飯でも食べて休憩にしよう」
「アイちゃんはお昼は?」
「僕はダイエット中だからお昼は無しで」
と言うので
 
「ダイエットしなきゃいけないほど太ってるようには見えないけど」
と私が言ったら
 
「これでも体重53kgあるんですよ。デビューまでに49kgまで落とせと言われてるので」
 
「きびしー!」
「女の子アイドルって大変なんですね」
と本人は他人事のように言っている。
 
「全く全く。マリや美空に聞かせたいな」
 

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私が美来と連絡を取ることができたのは11月に入ってからであった。
 
「私も織絵と連絡取れずにいたから安心したよ。記者はずいぶん高岡の織絵の実家にも押し寄せたみたい」
と美来は言っていた。美来は盗聴を用心して、公衆電話から私の携帯に掛けてきたのであった。私は織絵の新しい携帯の番号を教えてあげた。
 
「突然クビを通告されたんだって?」
 
「まあそれ以前から、何かと私も織絵も悠木社長と衝突してたんだけどね。ちょっとさすがに人には言えないような酷いことも言われたんだよ。あの日は突然契約解除通告書を渡されて、最後のファンへのメッセージとしてといって『あの雲の向こう』という曲を渡されてさ。私も頭来たから、だったら私も辞めますと言ったら、勝手に契約解除するなら違約金として5億円請求すると社長は言うし、織絵がファンに対する責任があるから、ここは我慢してと私に言うからさ。私以上にショックだったと思うのに、織絵」
 
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「それでその曲を歌ってから別れたんだ?」
「そうそう。でさ、社長が5億円と言っているからさ、冬、5億円貸してくれない?」
 
私は少し考えた。
 
「貸してもいいけど、XANFUSはツアーがあるでしょ?」
「うん。アルバムを11月12日に発売して、そのあと7大ドームツアー」
「じゃそのツアーまでは務めなよ。それがファンに対する義務だと思う」
「うん。私もそれは考えていた」
「辞める時は加藤さんあたりに話を通しておいて、弁護士も使ってできるだけ揉めないように辞めよう。向こうが7億寄こせと言ったら7億貸してあげるからさ」
「分かった」
 

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「でもあのツアー、色々噂されてるけどチケットは実際どうなの?加藤さんもこちらには全然情報が流れてなくてと言ってた」
 
これまでXANFUSのツアーは&&エージェンシーと★★レコードの共催だったのだが、今回は&&エージェンシーの単独開催なのである。
 
「10月初めに発売されて、その時点では合計で5万枚売れている」
 
「七大ドームでしょ? 発行枚数はもっと多いよね?」
「23万枚。だから2割しか売れてない。実際XANFUSの動員力はそのあたりが限度だと思う。ドーム1つなら何とかなるかも知れないけど7つもやるのは無茶。でもその後、シングルの出来を見て売り上げは完全に停まった。逆に音羽の離脱でキャンセルする人がかなり出てる。たぶん、現時点では合計で2万枚程度に減ってるんじゃないかと思う」
 
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「かなりしつこくテレビスポット打ってるから、これは売れてないなと思ったんだよ」
「うん。かなり流してるし、ネットバナーもかなり入れてるね。でも売れてない。オークションにも全く出品が無いみたいね」
「定価で買えるからね」
「ダフ屋さんが処分品で安く売っているのが少しあるくらいだよ」
 

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この日の夕方、美来は『偶然』テレビ局で遭遇した音楽雑誌の記者のマイクに向かって言った。
 
「音羽がレベルアップのために離脱して、皆さんには本当に申し訳ないんですけど、私がふたり分頑張りますから、ライブには来てくださいね」
 
「光帆さん、音羽さんは今どちらにおられるんですか?」
「今、アメリカに行っているんですよ。向こうでたくさん本場のリズムを体験しているみたいです。凄くダンスうまくなって帰ってくるんじゃないかな」
 
「でしたら、お勉強が終わったら、XANFUSに復帰するんですか?」
「お勉強の時間がどのくらいになるか分からないので、いったん契約解除という形になったんですけど、私は彼女が戻ってきてくれることを信じています」
 
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「それは1年後くらい?」
「1年後かも知れないし、2年後かも知れないし、でもひょっとしたら来月かもね」
 
この短い応答はその日のニュースに特ダネ扱いで流され、それまで停まっていたXANFUSのチケットの売れ行きが動き出した。
 

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ゆみは苫小牧に上陸した後、R236,R336を走って襟裳岬まで行き、そこで撮った写真を、私と政子、和泉・美空・小風、それに千里にだけ公開するmixiの日記にアップした。
 
「襟裳岬の歌がふたつあるって知らなかった!」
などと書いていた。森進一版があまりにも有名になったため島倉千代子版を知る人は少ない。
 
そこからやはり海沿いにR336,R38,R44を走り釧路・根室と行って納沙布岬でまた写真をアップする。
「水晶島や色丹島が見える。こんなに近いんだねー」
などと書いていた。
 
その後、知床半島の知床五湖に行ったものの、カムイワッカの湯はこの時期には無理と聞いたということで諦め、網走に寄ったところでまたレポートを上げ、これから屈斜路湖・摩周湖・阿寒湖を回った後、層雲峡に抜けると言っていたが、石北峠が積雪しているということだったので千里が現地の友人に連絡して、網走−旭川間はその友人の運転で移動することになった。
 
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旭川から稚内まで往復した後札幌に行くということだったので、ゆみが音羽と会うのはどうも11月中旬くらいになりそうな雰囲気であった。
 

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私は千里の妹・玲羅さんに連絡して音羽の様子を聞いてみた。
 
「最初の数日はぼーっとして暮らしておられたんですけど、こないだ美来さんと連絡が取れた後は随分気力回復したみたいで、こないだからは、私御飯作るねと言って作ってくれたりしてるんですよ」
と玲羅は言った。
 
「外出してる?」
「してます。やはり家に閉じこもってゲームとかしてても精神的に滅入るみたいですし」
「だよねー」
「何度か一緒に買物とかにも出たんですけど、私、知り合いに会って、あ、ボーイフレンドできたんだ?って言われちゃって。私、そういう浮いた話がこれまで全然無かったから、あ、彼氏がいるのもいいかななんて思っちゃいました」
 
私は少し考えた。
 
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「もしかして織絵、男装してるんだっけ?」
「ええ。男の格好するとふつうに男の人に見えちゃうんですよ。凄いですね。家の中にいる時もずっと男の服を着ておられます。下着も男物のシャツとトランクスでノーブラだし。外出する時はナベシャツって言うらしいですね、バストが目立たないシャツ着て。おちんちんも付けて。トイレも男子トイレ使ってるし」
 
ほほぉ。でも男装の音羽って、報道などに流れたことはないから、正体がばれなくていいかもね。そのあたりの下着は事務所を解雇された時は持ち出す時間が無かったはずだから、美来と連絡が取れてから送ってもらったのだろう。
 
「でもあのおちんちんって凄く精巧にできてるんですよ。私も触らせてもらったけど、なんかリアルで。男の人の本物のおちんちんって私見たことないから、どのくらい本物っぽいのか分からないんですけど」
 
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そのおちんちんって、千里が持っていたのを打ち上げの時に織絵がお持ち帰りしたやつじゃないかなという気がした。
 
「実家でお父さんのとか見たことないんだっけ?」
 
「お父さんは船に乗っている時間が多かったからあまり家では見てないんですよね。私の小さい頃の記憶の中のお父さんって、ひたすら寝ている感じだった」
 
「一週間船に乗っていたら自宅に戻ったらひたすら寝てるかもね。千里ちゃんは?」
 
「お姉ちゃんの裸は何度も見てるけど、考えてみたんですけど、私、お姉ちゃんのおちんちんって一度も見たことないんです。小さい頃『お兄ちゃんって男の子だけど、おちんちんは無いんだ?』と思っていた記憶があるんですよね」
 
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へー!!
 
でもその問題で千里に突っ込むと、逆襲されそうな気がする。
 

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夏の日の想い出・ジョンブラウンのおじさん(2)

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