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■夏の日の想い出・ジョンブラウンのおじさん(12)

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一斗樽では量が多すぎるので一升サイズのミニ樽で鏡開きをする。杵は斉藤社長と加藤課長が持った。
 
「八雲君、杵持たなくて良かったの?」
と菱沼さんが八雲さんに言っていたが
「課長は僕の腕力を知っているから」
と八雲さんが応じていた。
 
そういえば昨日福本さんも言っていたが、確かに八雲さんは随分細い体つきだし、腕も細いよなと私は思った。それから私はそのやりとりを見ていて、菱沼さんと八雲さんが凄く親しそうな感じであるのにも気付いた。そういえばこのふたりは丸山アイの制作をやっていたんだなというのに思い至る。
 
取り敢えず鈴木さんが音頭を取って乾杯した。(飲める人は日本酒、運転しないといけない人や勤務中の人はサイダー)
 
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なお、@@エンタテーメントは鈴木さんが会長、斉藤さんが社長である。もうひとりの取締役は∞∞プロの財務担当役員が事実上名前だけ貸している。
 
その後「餅撒き」と称して実際には手渡しで出席者全員に「お餅」が配られた。
 
「あれ〜。ひとり1個?」
などと政子が言っていたら、noirが
 
「マリちゃん、『餅だけ』ならあげるよ」
と言って、中に入っている現金を抜いて政子に渡してくれる。
 
「わっ、お金が入っていたのか!」
などと政子は驚いている。
 
「あ、私も『中身だけ』ならあげるね」
と言って近藤うさぎがやはり現金を抜いた残りを政子に渡す。
 
それに気付いた菱沼さんが
「餅だけならお持ちします」
と言って、たくさん持って来てくれたので、政子は「豊作豊作」と言って喜んでいた。
 
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その後、私たちが「クリスマスケーキ」と言ってケーキの箱を出し、加藤課長も松前社長からと言ってケンタッキーのチキンのバレルを出し、どちらも歓声があがる。菱沼さん・五田さんの他、福本さん・八雲さんに美来やテルミたちも加わってみんなに配っていた。菱沼さんもよく分かっているのでマリの前にはチキンを3本置いていた。
 
レコード会社や放送局の人が祝辞を言う。ついでに私もひとこと求められたので
 
「今回のようなトラブルはしばしば何年もかけて揉めて、その間まともに制作ができず貴重な若い時間が失われたりすることもあるので、今回短期間で解決したのはほんとうに運が良かったです。この事務所の将来が明るいものでありますように」
とコメントした。
 
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乾杯の後、近隣のレストラン(貸し切り)に移動して食事会をした。ほとんど野次馬的に来ていた私たちまで一緒に頂いた。政子が「お代わりしてもいいですか?」などと言うので、斉藤さんが笑顔で「どうぞ、どうぞ、あまり高いものでなければ」などと言っていた。さっき(餅は堅いので持ち帰りだが)ショートケーキを3個、チキンを(私があげたので)4本食べているのに!
 

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「でもこれって10人のインディアンみたい」
とひとりが言い出す。
「まあ10人の女子だよね」
 
「最初10人の女子が居て、9人、8人、7人と減って、6人、5人、4人と減って、3人、2人、1人と減って、最後は『そして誰も居なくなった』」
 
「それでジョン・ブラウンのおじさんが呼びかけて1人、2人、3人来て、4人、5人、6人来て、7人、8人、9人来て、10人の女子がそろいましたって所」
 
「10人居るんだっけ?」
 
「音羽、光帆、神崎、浜名、mike, kiji, noir, yuki, それに白浜さんで9人」
 
「私も女子に分類してもらえたら」
と白浜さん。
 
「そうだ。斉藤社長も入れて10人」
「僕は女子じゃないけど」
「この際、性転換しちゃいましょう」
「勘弁して。あれ無くなると困るから」
「本人より奥さんが困ったりして」
 
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「ジョン・ブラウンのおじさんは誰だろう?」
「鈴木会長?」
「色々動いてくれていた感じのケイだったりして」
「私、女だけど」
「この際、性転換しちゃいましょう」
「勘弁して。あれもう二度とつけたくないから」
「本人よりマリちゃんが嫌がったりして」
 
「女ならジョーン・ブラウンのおばさんだったりして」
「ジョーンって女名前?」
「Johnは男、Joanは女」
「フランス人のジョンならJeanと書いて英語読みするとジーンで女名前に見える」
 
「日本人でAkikoとかYoshikoという名前は最後が o で終わってるから、イタリア人から見ると男名前に見えるらしい」
 

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事務所開きが終わった後、家に戻るのだが、美来と織絵もくっついてきた。氷川さんは会社に戻るということだったので、今度は千里のインプの助手席に私が乗り、後部座席に政子・織絵・美来と座る。
 
勝手知ったる家なので千里がポットのお湯を再沸騰させてコーヒーを入れる。私がお菓子をひとつ出してくる。織絵も勝手にお酒の置いてある棚を物色し「今日はこれにしよう」などと言ってフォアローゼスを出してくる。美来がカップやグラス、お菓子の取り皿などを配る。
 
(そもそもうちに置いてあるお酒は織絵・美来やスイート・ヴァニラズの人たちでほとんどを飲んでいる。他は琴絵や仁恵が少し持って行ったり、佐野君と麻央が来て飲んでいく程度である)。
 
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それで少しおしゃべりしていたら、和泉・小風・美空がマネージャーの花恋と一緒にマンションにやってきた。和泉・小風・花恋は昨日昼間の横浜でのKARIONライブの後、和泉の神田のマンションに一緒に行って、クリスマスパーティーをしていたらしい。うっかり料理を作りすぎたが、12時頃美空が河口湖から戻ってきて全部食べてくれたという話だった。
 
「08年組がそろい踏みしてるね」
「よし、ローズ+リリーの2人、Φωνοτονの2人、KARIONの4人で並んで写真を撮ろう」
 
「それ無茶だって」
と私が言う。
 
「千里、冬のボディダブルやってよ。たしか冬の顔をシリコンで取ったマスクがあったはず」
と言って政子はどこかから取り出してきた。整理のなってない政子だが、なぜかこの手のものはすぐ見付ける。
 
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「私が写真撮りますね」
と花恋が言って8人で整列する。この写真は権利関係を確認の上、その日の夜にブログにアップした。
 

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「だけど例の美来が居た池袋のマンションの件はびっくりしたよね」
「うん。早く出ててよかったよ」
 
先月まで美来が住んでいたマンション(この春にふたりが買ったものであるが、10月に事務所が買い上げて、その後美来は家賃を事務所に払って住んでいたが、12月頭に退去した)で数日前にガス爆発事故があったのである。
 
「マンション本体があの階で折れ曲がって傾いたんだって。それで崩壊の危険があるということで、全員すみやかに退去してくださいという話になってるらしい。倒れて隣のマンションに当たったら大変だから正月返上で取り壊すらしい」
と美来。
 
「こわーい」
「それ隣のマンションの住人さんもこわいね」
「いやその隣のマンションでも爆発のあった部屋の向いにあった部屋は窓ガラスが全部割れてそのガラスが家具や畳にも刺さって大変なことになったらしい。昼間だったおかげで、幸いにもそちらは怪我人が出なかったんだけど」
と音羽。
 
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「私も聞いたけど、今、不動産屋さんが必死に引っ越し先の確保に走り回っているみたい。同意できた住人には、等価交換で同等程度の別のマンションを引き渡したりもしているって。仮住まいに移った後で再度転居するのは大変すぎるから結構応じている人もいるらしい」
と和泉。
 
「そうそう。それで&&エージェンシーも十条にあるマンションをもらうことにしたんだって」
と美来。
 
「へー」
「たぶんそこを&&エージェンシーのタレントさん誰かに貸すんじゃない?」
と音羽。
 
「震来ちゃんと離花ちゃんが入居したりして」
と美空。
 
「そして妖しい関係に」
と政子。
 
「君たちって、ほんとにそういう話が好きだねぇ」
と私は呆れて言う。
 
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「でも冬にたくさん借金しちゃったし、来年は頑張らないと」
と美来が言う。
 
「今年は秋以降何もできなかったから」
と音羽も言う。
 
結果的には&&エージェンシーに払った3億円とマンション購入代金の5000万円を貸したことになっている。さすがに借用証書を書いてもらっているが証書に返却期限は書いていない。
 
「まずはCD制作でしょ?」
「そうそう。日登美(神崎美恩)と鏡子(浜名麻梨奈)も随分曲がたまっているみたいだから、それをリリースしていくよ」
 
「頑張ってね」
 
「なんか激励とか言って何人か曲をくれた人もあったし。最初のアルバムにはそれを入れようと思ってる」
 
「へー」
「ティリーさんからも1曲もらったし」
「そうか。もしかしたらさっき言ってた10人の女の子ってのの10人目はティリーさんだったりしてね」
「ここ2年くらいティリーさんXANFUSに大きく関わってるもんね」
 
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「マリ&ケイからも1曲もらったし」
と美来が言うので
「え?」
と私が言ったら、政子がニヤニヤしている。いつの間に!
 
「醍醐さんからも1曲もらったし」
「たまたまXANFUS向きのができたから」
と千里は言っている。
 
「でもあの曲、まるで浜名が書いたみたい」
と美来が言うと千里は
「ふふふ」
と笑っている。
 
そういえば千里はゴーストライターの達人だとか雨宮先生が言っていたなというのを思い出した。恐らく誰か風に作っちゃうのが上手いのだろう。
 
「放送局で偶然会った百道大輔さんからも『これやる』と言って譜面もらっちゃったし」
「ほほお」
 
「更に★★スタジオで出会った丸山アイ君からも、良かったら僕の曲を歌ってもらえませんかと言われて、見せてもらったら凄くいい曲だから、もらうことにしたよ。Purple Catsがあの子の制作に協力していたから、こちらも何かできないかなと思っていたんだって」
と美来が言う。
 
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「ああ、丸山アイちゃん、しっかりした曲を書くよね」
と言ってから、私は今の美来の言葉に何か引っかかりを感じたので少し考えてみた。
 
「今、アイ君っ言った?」
「うん。格好いい男の子だね。アイ君って私、てっきり女の子かと思ってた」
と美来が言ったら音羽が睨んでいる。
 
「大丈夫だよ。私はオリーひとすじだから」
と美来。
 
「アイちゃん、男の子の格好してたんだ?」
と私は訊く。
 
「へ? 男の子じゃないの?」
と美来。
 
「そうか。9月の時は美来や織絵はあの子に会ってないのか」
「まさか女の子なの?」
 
「それが分からないんだよ」
「でも男の子の声だったよ」
「あの子、両声類なんだ」
「えー! あれ?でも、そうだ。あの子、男子トイレ使ってたよ」
「男子トイレなら織絵も男装中は男子トイレ使うでしょ?」
 
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「えへへ、札幌ではそれで通した。なかなか楽しかったよ。男装生活も。ハマっちゃって性転換したくなったらどうしようと思った」
 
「性転換したら別れる」
などと美来は言っている。
 
「やはり美来、女の子の方がいいんだ?」
 
「でもアイちゃん、女性歌手として契約したから女性の格好で出歩くことになってるんです、なんて言ってたのに」
 
「違和感なく男装できる子なら、男装で出歩いていても、誰もそのことに気付かないかもね」
などと千里は言った。
 
「青葉とかは、会った時、学生服を着てたけど、女の子がコスプレで着てるようにしか見えなかったけどね」
と付け加えた千里は懐かしむような顔をしていた。
 
「それは冬や千里も同じなんじゃないの?」
と和泉が言った。
 
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