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■夏の日の想い出・秘密の呪文(23)

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2021年3月1日(月).
 
多くの高校で卒業式が行われ、§§ミュージックの契約タレントも6名が高校を卒業して、以降タレント専業になることになった。
 
森下比南代(原町カペラ)は、制服(もちろん女子制服)を着て、卒業式に出席し、校長の式辞を聞いている間、「今年は少しは売れるといいなあ。大学に進学しなかったことを後悔しなくて済みますように」
などと祈っていた。
 
先輩たちの中で、西宮ネオンさんと花咲ロンドさんが大学進学したけど、ネオンさんは忙しくなり大学を中退してしまった。花咲ロンドさんはまだ在学中だが、それだけ仕事が無い!ということである。
 
でも制服着るのも今日が最後だ、と思うと感慨深いものがあった。この制服は4月にこの高校に進学する信濃町ガールズの子に譲る予定である。
 
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南田容子は森下比南代と同じ高校で一緒に卒業式を迎えたのだが、来年度はリセエンヌ・ドオも「事務所から思い出してもらえる」といいなあ。などと思っていた。昨年春に“デビュー”ということになったものの、以降出したCDは春に出した『倶利伽羅峠の歌』だけである!
 
大西香緒(三田雪代)は別の高校で卒業式を迎えた。中学3年の時にロックギャルコンテストで上位入賞して信濃町ガールズに入った。でも「3年経ってもデビューできなかったなあ」と思っていた。そして香緒は“上が居なくなってきた”ことを感じていた。
 

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田中優子は卒業式に出席しながら希望に満ちあふれる気分だった。高校1年の時(2018)にロックギャルコンテストに出て、東海ブロック4位で本戦出場を逃したが、信濃町ガールズの地方メンバーにはなれるよということだったので入団した。当時は“地方メンバー”というのは、その地区で§§ミュージックの歌手のライブがある時にバックで踊ったりコーラスを入れたりするだけの仕事で、普段の活動というのは特になかった。でもバックで踊るだけでも楽しかったし、博多で毎年行われる新年会(2019.1/2020.1)には全国の信濃町ガールズが集まってほとんどお祭り気分だった。
 
アクアとか姫路スピカさんとかのバックで踊っている内に自分もステージのフロントに立ちたいという思いが募り、去年(2020.1)の春に内部昇格試験を受けて合格。4月に東京の高校に転校して信濃町ガールズの本部メンバーになった。本来高校生は“信濃町ミューズ”なのだが入って1年はガールズでやってもらうということで1年間高校生ガールズをやった。コロナ下でライブパフォーマンスは無かったが、東京にいると音源制作の手伝いをしたり、テレビ番組にも出たりしてワクワクした。安原祥子という芸名も頂いた。4月からは“ミューズ”になる。その内デビューの話とかもあるといいなあ、などと期待している。
 
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木下宏紀は、寮の部屋で朝食を食べた後、歯磨きをし、顔を洗って化粧水を顔によく浸透させた。新しいパンティとブラジャーにキャミソールを身につけ、ブラウスを着た。
 
しかし今日でとうとう卒業か。まあデビューはできそうにないし、高校卒業したら楽器の練習もっとたくさんして、スタジオミュージシャンとか目指そうかなあ、などとも考える。
 
しかし制服着るのも今日が最後だな、と思いブラウスの上にその制服を着ようとしたら・・・
 
無い!?
 
なんで〜!?
 
いつも掛けている部屋の鴨居に掛かっていないのである。
 
「どこかに放置したっけ?」と思って部屋の中を探すが、どうしても見つからない。
 

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宏紀の心の中にひとつの疑惑が浮かび上がる。
 
昨日の夕方、母が寮の部屋を訪ねてきた。
「とうとう卒業だね。芸能活動しながら、よく頑張ったね」
などと言われ、卒業祝いももらった。
 
それで母が買ってきてくれた松花堂弁当を一緒に食べ、夜9時頃、母は帰っていった。
 
まさかその時、男子制服を持ってっちゃったとか?
 
どうしよう?と思いながら、宏紀は鴨居に掛かっている“別の制服”をじっと見ていた。
 
トントンと部屋の戸がノックされる、
 
入ってきたのは親友の篠原倉光である。
 
「あれ?着替え中だった?ごめん」
「ううん、いいよ」
と言って彼を中に上げる。
 

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「いや『緑の海岸線』の譜面がどこか行っちゃってさ。コピーさせてもらえないかと思って」
 
「ああ、いいよ。ちょっと待って」
と言って宏紀は本棚の中からファイルを取りだし、『緑の海岸線』の譜面を出して彼に渡した。
 
「サンキュサンキュ」
「コピー取ったら部屋の中に放り込んどいて。鍵は掛けてないから」
「了解〜」
 
女子寮もそうだが、外部から人が侵入するのは困難なこともあり、鍵など掛けてない子が多い。
 
篠原は首を傾げた。
 
「どうしたの?」
「いや、制服着ないのかなと思って」
「それがさ」
と言って、宏紀は男子制服が見つからないことを話した。そして恐らくは昨夜訪ねてきた母が持ち去ったのではないかと。
 
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篠原は言った。
「そこに掛かってる女子制服を着ていけば?お母さんも、木下君が最後くらいちゃんと女子制服で卒業式に出る気になるように、男子制服持ってっちゃったんじゃない?木下君、実際もう女の子の身体なんでしょ?だいたいブラウス着てるしブラも着けてるし」
 
宏紀はマジで悩んだ。そして再度女子制服を見た。もう出なければならない時間は迫ってきている。
 

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その日、天月西湖は朝起きてから朝食を作って食べた。
 
トイレに行って来てから大きく溜息をつく。
 
11月以来4ヶ月間ほどお世話になったペリドットの指輪をバッグから取り出すと神棚の前に置いた。そして拍手を打ってから
「ありがとうございました」
と言った。
 
軽くシャワーを浴びる。自分の身体をよく確認する。身体を拭き、ブラジャーをしてパンティを穿き、キャミソールを着てブラウスを着る。
 
襟元にリボンを結ぶ。
 
やはりリボンとかできるのは女の子のいいところだなと改めて思う。。
 
女子制服のスカートを穿いてブレザーを着る。髪をブラシでとき、唇に軽くリップを塗ると、鏡の中で笑顔を作った。
 
「でも3年間女子高生しちゃった」
と呟くが3年間女子で通せたのが我ながら信じられない。ボク元々女の子になりたい気持ちがあったのかも?と思う。
 
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そして見送ってくれているおキツネさんたちに
「行ってきまーす」
と言うと、部屋を出てエレベータで1階に降りた。
 
学校はマンションから歩いて5分程度なので、むろん歩いて学校ら向かう。3月の風がスカートの中に吹き込むと「寒いなあ」と思う。女の子はよくみんなこの寒さに耐えてるよね?
 

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木下宏紀が「お早う」と言って教室に入っていくと、みんなが自分を見ている。
 
「どうかした?」
と、わりと仲の良い彩莉奈ちゃんに訊く。
 
「いや、ヒロちゃんは今日は女子制服を着てくるか男子制服を着て来るかってみんなで賭けをしてたんだけど、負けたぁ」
などと言っている。
 
「ヒロちゃん、ほんとに男子制服でいいの?私、洗い替え用の女子制服持って来たから貸してあげようか?」
と女子のクラス委員・令美花が言う。
 
「男子制服で出るけど」
 
「ヒロちゃん、卒業写真は一生残るんだよ。考え直しなよ」
「そんなこと言っても・・・」
と宏紀は困ったような顔をした。
 

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西湖はいつものように教室に入っていくとクラスメイトたちと「お早う」「お早う」と言い合った。
 
「聖子ちゃん、忙しいのに最後まで退学せずに頑張ったね、偉いよ」
と一番の友人であった、立花紀子に言われる。
 
「紀ちゃんも大学に合格するなんて凄いよ」
と西湖は言う。
 
「どこに合格したんだっけ?」
とその話は聞いていなかった菊池由美奈(女優の稲川奈那)が尋ねる。
 
「鳥取環境大学」
と紀子が答えると、誰もその大学を知らないようである。
 
「私立?」
「公立だよ(*1)」
「へー!」
 
(*1)私立大学だったが、経営難に陥り、2012年に救済のため公立化された(ここが無くなると鳥取県内の大学は鳥取大学のみになってしまうため)。
 
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「共通テストの成績では、ここと北見工業大学の二択でさぁ」
「紀ちゃんに理系なんて無理」
「カーリングで有名になったから北見工業大学もいいなあと思ったけど、私、連立一次方程式解けないから無理かもと思って、鳥取環境大学にした。北見工大なら国立なんだけどね」
 
「環境大学って何するの?」
「環境アセスメントとか、そういう関係の仕事じゃないの?よく分からないけど」
「でもよく鳥取まで行こうという気になったね」
「テレビ番組の罰ゲームで一度大田市(おおだし)まで行って、鳥取もいい所だなあと思ったし」
「待て。大田市は島根県だぞ」
「え?そうだっけ??」
 

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「紀ちゃん大丈夫〜?」
「私立は受けてないの?」
「一応滑り止めに東京国際大学と玉川大学も受けてどちらも合格した。入学手続きもしてる。ちょっと入学金は痛かったけど」
 
「玉川大学は分かる」
「演劇舞踊学科だよ」
「演出家とかになるコース?」
「よく分からない。音楽科が第1志望だったけど、第2志望の演劇に回された」
「まあ音痴だから無理も無い」
「私、歌手なのに〜」
 
「でも東京国際大学ってどこにあるんだっけ?」
「川越市」
「東京じゃないじゃん!」
 
(東京国際大学は“中東和平”:中央学院・東京国際・和光・平成国際の一角)
 
「本部は高田馬場にあるんだよ」
「ほぉ」
「そこが手狭になったから川越市に新しいキャンパスを作ったんだよね。でも池袋に22階建ての新しいビルを建ててる。そこが完成したらそちらにまた移転する予定」
「高層ビル型の大学かぁ」
「都会の真ん中に広いキャンパス取れないもんね」
 
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「だけど“国際”大学とか英語のレベル高いんじゃないの?紀ちゃん大丈夫?」
「大丈夫と思うけどなあ。受験に向けて整序問題の本1冊あげたよ」
 

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「紀ちゃん、アメリカの首都はどこ?」
「え?ニューヨークでしょ?」
「うーむ・・・」
「あれ?ロサンゼルスだっけ?」
 
「She will make him a good wife.を日本語に訳して」
「彼女は彼を良い奥さんにするでしょう。性転換させるのかな?結婚前に性転換ってわりとあるらしいよね。セックスしようとしたら両方凸で、これでは結合できないというのでジャンケンで負けた方が凹に改造してから結婚」
 
みんな頭を抱えている(聖子は訳が分からない)。
 
「ブラジルの公用語は?」
「ブラジルはブラジル語じゃないの?」
「うむむ」
「違った?英語だっけ?」
 
「ダメだこりゃ」
「あれ〜?」
 
「よく公立大学に通ったな」
 
「紀ちゃん、悪いこと言わない。玉川大学に行きなよ」
「なんで?せっかく公立にも合格したのに」
 
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「環境アセスメントとか、きっとたくさん歩き回って、物凄く体力使うよ。紀ちゃん体力無いじゃん」
「それはそんな気もしてきた」
 
「だいたい鳥取とかに行ったら、Flower Lights 続けられないのでは?」
「あ、Flower Lightsは今月いっぱいで解散だって」
「解散なの?」
「事務所が倒産しちゃったらしいよ。コロナで全然活動できなかったから」
 
「それは気の毒に」
「今月のお給料もらえるのかなぁ。実は1月以降、遅配になってるんだよね」
 
「それ困るね」
「どこかの事務所が引き受けてくれないの?」
「何人か1本釣りされた。ピカちゃん(川中光梨)はWindFly20に入る」
「WindFly20に行けば彼女なら中核メンバーになるだろうね」
「どうもモナちゃんが抜けたのの補充みたい」
「なるほど。モナちゃん無しじゃ音源制作できないもん」
「私はどこからも声掛けられてない」
「いや、それは大学進学するというので遠慮したんじゃない?」
「どっちみち鳥取の大学に行きながら東京で芸能活動するのは無理」
 
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「そうかなあ。だったら、折角通ったけど公立諦めて玉川大学か東京国際大学にするかなあ」
 
「玉川大学がいいと思う」
と全員が言った。
 

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やがて卒業式が始まる。今年は三密回避のため、会場の体育館に入るのは卒業生とその担任のみで保護者は遠慮してくださいということになっている。在校生も(代表以外)出席しない。
 
教頭先生の開式の辞の後、国歌を斉唱した録音が流れる。その後、校長先生が壇上に登り、「1組○名、2組○名、・・・」と各クラスの人数だけ読み上げられる。そして「卒業生総代・森村亜由美」と生徒会長も務めた子が呼ばれ、その子だけが校長の前に行き、卒業証書を受け取った。
 
その後、校長の式辞、PTA会長の祝辞、在校生代表の送辞、卒業生代表の答辞、と続き、校歌を斉唱した録音が流れる。教頭の閉会の辞があり、卒業式は30分ほどで終わった。
 
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その後各教室に帰り、担任からひとりずつ卒業証書が手渡された。西湖は出席番号3なので、「青島瀬梨香」「浅井童夢」と呼ばれた次3番目に「天月聖子」と呼ばれ、“天月聖子殿”と書かれた卒業証書を受け取った。
 
全員証書を受け取った後、担任から短い言葉があり、それで解散となる。終わったののは10時半頃だった。
 

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夏の日の想い出・秘密の呪文(23)

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