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■夏の日の想い出・秘密の呪文(4)
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目次 8
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録音された伴奏が始まる、8小節の伴奏を聴いてから私たちは歌い始めた。今回歌唱者は次の場所からネット中継で歌っている。
北海道 朱雀林業内スタジオ
東北 クレール若林店2号館
関東 あけぼのテレビ内
東海 同上
関西 同上
九州 同上
北陸 津幡アリーナ
中国 SFミュージックスクール広島校内
四国 同上)
沖縄 木ノ下先生宅
新年会の乾杯の時は全員ホテルなどに居たのだが、この歌唱に参加する子にはその後、移動してもらって高速ネット環境のある所に来ている。四国の子は実は夜間に移動してもらって新年会には広島市内のホテルから参加してもらった。中国代表の子と一緒に11時すぎにホテルを出てSFミュージックスクールに入ってもらっている。むろん別の部屋から中継する。あけぼのテレビに入ってもらった4人も別の部屋である。
木ノ下先生の御自宅は、実は松本花子のために高速回線の設備がある。
今回伴奏に録音を使用したのは、リアルタイムの伴奏では、ネット伝達の時間差のために合わなくなるからである。それで実際にはその時間差を考慮したタイミングで伴奏をスタートさせている。だから本当は全員違うタイミングで歌っていた(沖縄の人が最も早く、続いて北海道の人が歌い出している)のだが、それに時差が加わって同じタイミングの合唱になるようにしていたのである。
全歌唱がそもそも全て録音なら全然難しくないのだが、リアルタイムて演奏することにこだわったので、技術陣の皆さんには苦労を掛けた。
歌が終わって拍手がある。私はあらためて歌唱者をひとりずつ紹介する。更に私が「テクニカル・ディレクター、則竹星児」と全国各地の技術陣の指揮を取った則竹部長を紹介すると、すかさず私が密かに依頼していたスタッフが則竹さんの顔を映すので、則竹さんがびっくりしていた!
姫路スピカが拍手しながら出て来て
「ピタリと合いましたね。私はリハーサル見ててタイミング外れまくっていたので大丈夫かなと少し心配していたのですが、みんな本番に強い女だったようです」
などと言う。
「次の曲は3月に発売した『君に届け』」
と紹介すると大きな拍手がある。
映写スクリーンが巻き上げられると、その後にスターキッズがいる。酒向さんが威勢良くドラムスを打ち始めると、ドラムスのラインまで下がっていた、近藤さん(Gt)・鷹野さん(B)・七星さん(Fl)が出て来て、伴奏を始めた。
そして私たちも歌い始めた。200万枚を突破した、現時点でローズ+リリー最大のヒット曲である。それまでの最高は2018年の『お嫁さんにしてね』で、これは実は私の名義にはなっているが本当は千里の代筆だったので、私としてはスッキリしなかった(印税はむろん全額千里に渡している)。『君に届け』は今度こそ自分自身の作品で特大ヒットになったので、私としても随分自信を取り戻せた作品である。
演奏が終わった所で演奏者を紹介する。
「ギター・近藤嶺児、ベース・鷹野繁樹、ヴィブラフォン・月丘晃靖、ドラムス・酒向芳知(さこう・よしとも)、フルート・近藤七星(こんどう・ななせ)、以上スターキッズ」
各々に拍手がある。
「ピアノ・近藤詩津紅、私のお友達」
また拍手がある。
私は補足する。
「近藤さんがたくさんいるのですが、近藤嶺児と近藤七星が夫婦で、近藤詩津紅は無関係。偶然苗字が同じだけです。親戚とかでもありません。私と近藤詩津紅は高校時代に“綿帽子”というユニットを組んでいました」
「まあ、かれこれ40年くらいの仲だよね」
と詩津紅が言うので
「まだ30歳にもなってないよ!」
と私が言うと(あと9ヶ月は言える)、観客から爆笑が起きていた。
少しおしゃべりしてから次の曲を告げる。
「次は『玄武−泉を守る娘』。今日はここだけの話ですが、杉田純子バージョンで」
と私が言うと、忍び笑いが漏れる。
全国放送して200万人が見ているのに「こごだけの話」は無いが、レコード会社と杉田純子ちゃんが所属していた事務所への遠慮である(事務所の社長は偶然このライブを観ていて苦笑したらしい)。
七星さんはアルトサックスに持ち替える。トランペットを持った香月さん、フルートを持った世梨奈、龍笛を持った千里、ギターを持った宮本さん、クラリネットを持った美津穂が入ってくるが、会場のスポットライトがホール側面にあるパイプオルガンの所に当たる。カメラもそこにズームする。
パイプオルガンの前には山森さんが座っている。近藤さんの合図に合わせてパイプオルガンを弾き始める。何と16小節もパイプオルガンのソロを入れた後で、酒向さんのドラムスも打ち始められ、他の楽器も一斉にスタートする。パイプオルガンから始めて1分以上経ってから、私とマリは歌い始めた。
実は昨年このミューズシアターに隣接するミューズアリーナの方の感染対策を見にきた時
「お金がどんどん増えているんだよ。何とか減らす方法思いつかない?」
などと若葉が言うもので
「シアターにパイプオルガンでも入れる?」
と言っておいた。
私はジョークのつもりだったのだが、若葉は本当にパイプオルガンを作ってしまったのである。千葉市の楽器メーカーで、ピアノやギター、管楽器なども製造販売している会社(ビアノ教室・ギター教室なども運営している)が、パイプオルガンについても定評があり、ドイツ系のオルガンを国内だけでなく、全世界で設置・販売している。
そこも、このコロナの影響でセールスが落ちているらしかった。それで若葉の注文に応じて、わずか半年で作ってくれたのである。実は12月25日(金)に受け渡されたばかりである。今回山森さんがローズ+リリーのライブに久々に参加してくれた最大の理由は、この新しいパイプオルガンを弾いてみたい!ということであったと思う。
最新のシステムなので、ストップの操作はメモリーに記憶させておき、エレクトーンなどにあるように、鍵盤の段差の所のボタンを押すことで瞬時に切り替えることができる。そのため、ストップ操作のための助手が居なくても演奏できる。また、演奏台の所に液晶モニターがあってステージが見えるので、これで指揮者やバンドリーダーなどの動きを見て演奏することができる。
この『泉を守る娘』のオリジナルバージョン(「みんなのうた」で放送されたもの)には、NHKホールのパイプオルガンの音が入っていた。今回のライブではその演奏を再現している。私たちは昨年、この曲のオリジナル版にかなり近いものを白鳥リズムに歌ってもらい、彼女のアルバムに入れてもらったのだが、その時は適当なパイプオルガンが利用できなかったこともあり、電子オルガンの音で代用している。今回初めて元のバージョンに近いものが再現できたのであった(ちょっと前奏が長かったが)。
ステージの右手、上手袖近くに、長い髪で、平安時代の女性の普段着、袿(うちき)を着た女性がセリ(*3)で上がってくる。そばに井戸のようなセットもある。
少しおいて、今度は狩衣を着けた男が上手袖から出て来て、井戸の傍の女性に何か要求しているが、女性は拒否している。
やがて男は腰に下げていた刀を拭く。それで「斬るぞ」という姿勢だが、女性はひるまない。にらみ合いがしばらく続いた後、男が本当に女性を斬ろうとして刀を高く上げる。
するとそこに落雷!があり、刀に雷が落ちて、男は倒れた。
ちょうどそこで終曲である。
(*3) 古風な衣装でせりを昇るので裾の短い衣装を使用(最初提案された裳の使用を私が却下した)した上で、万が一にも事故の無いよう、衣装がひっかからないか3人以上の目でチェックするように指示している。1958年には宝塚で、セリの歯車に衣装の裙がひっかかった女優さん(21歳)が金属の輪が入った衣装だったため、それが締まる形になり、胴体を真っ二つに切断されて即死する事故が起きている。この人は体調を崩した別の女優さんの代役だった。大きなチャンスが不幸に転じてしまった。当時の宝塚のセリ機構は今では考えられないが、機械部分が剥き出しで、現場検証した当局から、これはいつかは必ず起きた事故と批判された。
ミューズシアターや火牛アリーナなどのセリは、むろん機械部分は全てプラスチックカバーで覆われている上に、何か抵抗があれば即時停止する安全装置なども組み込まれている。近年のセリ装置はどこでもそういう仕様だろう・・・と信じたい。
むろん金属を使用した衣装なども絶対に使用しない。スカートのフレームなども樹脂などの、簡単に折れる素材を使用している。金属を使った衣装は、セリでなくても他の事故を起こしかねない。以前使用したスターウォールのロボットのような衣装も全て布製品で作り、表面に銀色の塗装をしたものだった。
拍手がある。私は演奏者を紹介する。
「オルガン・山森夏樹」
盛大な拍手があり、山森さんはそれに応えて、短いフレーズをプリンシパル音で入れる。
「トランペット・香月康宏、セカンドギター・宮本越雄(えつお)、以上、スターキッズ・フレンズ」
「フルート・田中世梨奈、クラリネット・上野美津穂、龍笛・醍醐春海、以上、私のお友達」
「泉を守る娘を演じてくれたのは、研修生の常滑舞音(とこなめ・まね)です。ちょっと早口言葉みたいな名前ですね。常滑舞音・常滑舞音・常滑舞音と3回言ってみて」
と私が言うと、マリが発音していたが
「言えない!“とこなめまめ”になっちゃう!」
と簡単に諦めていた。
「娘を襲おうとして、そこに倒れている男については後で紹介します」
と私が言うと、笑い声が起きていた。
平安衣装の常滑舞音が上手に退場し、下手からアルトサックスを持った青葉が出てくる。
「次の曲は『雪が白鳥に変わる』です」
それでまた山森さんのパイプオルガンから伴奏が始まる。それを含めて16小節(約40秒)の前奏を聴いてから、私たちは歌い始める。
あけぼのテレビで見ている人たちは、演奏中に雪が降ってくるのを見るが、これは実はテレビ画面のみに映っている、副調整室で合成しているものである。
間奏が終わった所で、さっきの『泉を守る娘』で雷に打たれて倒れた狩衣姿の男がおもむろに立ち上がる。そして彼に虹色の回転するスポットライトが当たる。
曲がクライマックスにかかる所で、テレビ画面の中の雪が白鳥の姿に変わり始めるのだが、狩衣衣装の男は、虹色のスポットライトの中、すーっとワイプするように、五衣唐衣裳(俗称十二単)に変わってしまった。観客席スピーカーから驚くようにどよめきがある。
そして女性装束に変わった元男'?)は扇を取り出すと、舞を舞い始めた。その美しい舞に思わず拍手が起きる。
そして終曲。
盛大な拍手と歓声があった。
「紹介します。アルトサックス・大宮万葉」
大きな拍手がある。
「狩衣姿の男から五衣唐衣裳(いつつぎぬ・からごろ・も)の女に衣装チェンジした人、羽鳥セシル。セシルちゃん、ちょっとおいで」
と言って、私は彼女を呼び寄せるが時間がかかる!
この衣装はなかなかスムーズには動けないようである。
「セシルちゃん、女の子になった感想は?」
「素敵ですね。男より女の方がいいですよ。ボク、女の子になっちゃったから、新学期からはセーラー服で学校に通うことにします」
「それは良かったね。頑張ってね」
と私は彼女を激励した。
それでセシルは退場するが、観客はかなり戸惑っている。
私は補足する。
「今の曲で降っていた雪が飛翔する白鳥に変化したのはコンピュータによる画像編集なのですが、セシルちゃんが、狩衣姿から五衣唐衣裳にチェンジしたのは、私たちステージにいる人もその一瞬の変化を目撃しました。あれ、どうなっているんですか?シンデレラ日美子さん」
と私が声を掛けると、舞台の裙に居たイリュージョニスト・シンデレラ日美子さんが、黒いボディスーツに黒の網タイツという、これに“うさ耳をつけたら”バニーガールという感じの衣装で出てくる
「明けましておめでとうございます」
と挨拶するので、私とマリも
「明けましておめでとうございます」
と挨拶する。
彼女が出て来たので、今のはイリュージョンだったのかと、多くの視聴者が納得した。あけぼのテレビでは彼女を知らない人のために、彼女を紹介する短いテロップを入れている。
「今のはどうやったんですか?」
「簡単ですよ」
「そうなんですか?」
「虹色のスポットライトで見えにくくなっている間に、私が秘密の呪文を唱えると、一瞬でおちんちんが無くなり、おっぱいが膨らんで女の子に変身したんです」
「ああ、本当に女の子に変身しちゃったんですね?」
「はい。だから、セシルちゃんはこの後は女の子として生きて下さいね」
「本人は喜んでいたようですよ」
「それは良かったです。やはり男より女のほうがいいですよね。女の子になりたい男の娘がいたら私の所につれてきて下さい」
とシンデレラさんが言うと、マリが
「アクアを連れていっていいですか」
と尋ねた。
しかしシンデレラさんは
「既にちんちんの無い人は今更女の子には変えられません」
と言って退場した。
実際には、狩衣を着けていたのは、セシルのフェイスマスクを付けた葉月Mである。セシルは最初から五衣唐衣裳を着けていた。それをシンデレラさんが一瞬で入れ替えたのである。
「やはりアクアはちんちん無いよね?」
などとマリは私に訊く。
「本人は付いてると言ってるけど」
「それ絶対嘘だ」
「それでは次の曲、『土の歌』」
青葉、千里、宮本、香月が退場する。山森さんが座るパイプオルガンの所のスポットライトも消える。
それでこういうメンツで『土の歌』を演奏した。
Gt.近藤 B.鷹野 Fl.世梨奈 Cla.美津穂 ASax.七星 Pf.詩津紅 Vib.月丘 Dr.酒向
続いて同じメンバーで『年号記憶の歌』も歌った。
これで前半のステージを終了する。
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