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■夏の日の想い出・秘密の呪文(6)

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緞帳があがる。
 
観客の中にざわめきが起きる。
 
アクアがマイクを持って発言した。
 
「皆さんこんにちは。アクアと今井葉月(いまい・ようげつ)です。ここに並んでいるのは『愛のデュエット』のセットなのですが、今から1年と1日前、2019年12月31日のローズ+リリーさんのカウントダウン・ライブでも、私と葉月(ようげつ)とで『愛のデュエット』を演奏したのですが、当時はまだ彼が17歳だったので、22時以降のステージに出演することができず、大変申し訳無かったのですが、録画で出演させて頂きました。その時“来年のローズ+リリーのカウントダウンにも呼んでもらったら、是非2人で生出演したいです”と言いました。それで今回、その約束を果たすために出演させて頂きました」
 
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アクアは最近名前を“はづき”と読まれ、女性タレントとしか思われていない葉月のことを本来の読み方である“ようげつ”と読み、更には“彼”と言及した。これが実はここにくる飛行機の中での出来事を反映しているものであったことを私は後に知ることになる。
 
アクアはそばに置かれているテレビのスイッチを入れる。
 
「許可を得て足羽放送さんのチャンネルを点けております。ご覧の通り、所ジョージさんの番組が放送中です。それからカメラさん、こちらを映して下さい」
と言ってアクアが新聞を手にしている。カメラが寄って行き、その紙面を映す。
 
「ごらんの通り、1月1日の新聞です。ということで、これは本当に生でやっています。では演奏を始めます。ヴァイオリンさん、お願いします」
 
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とアクアが言うと、脇の方に立っている6人のヴァイオリニストが前奏を始める。4小節それを聴いてから、アクアと葉月の演奏が始まる。
 
ピアノの連弾(AメロBメロ)から始まり、そばに置いているリコーダー(サビ)を吹く。更に傍に置いているフルートでピアノで演奏したAメロBメロを再現し、更にウィンドシンセでサビを吹く(ABSABS).
 
1小節の間奏の間に立ち上がってアルトサックスを首からかけ、それからCメロAメロを演奏する。再び1小節の間奏の間にアルトサックスを首から外し、ヴァイオリンでサビを弾く。そしてチェロを抱えてサビのバリエーションを弾く(-CA-Ss)。ギターに持ち替えてAメロBメロを再現し、最後は2小節のブリッジの間にドラムスの所に移動し、ひとつのドラムスを2人で一緒に叩く(AB--Coda)。(以上合計112小節)
 
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物凄く大きな拍手がアクアと葉月に贈られた、一応私とマリは歌っているのだが、私たちの歌などどうでもよい世界である!
 

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この曲はこれまでこういうメンツにより演奏されてきた。
 
2014.04(PV収録) ヒロシ+フェイ
2018.09(PV収録) アクアM+F
2018.09(夏Fes) 風花/翼→心亜/翼→宮本/田中成美→酒向/レイア・(リレー方式)
2018.12(CountDown) アクア+レイア
2019.07(夏Fes) 葉月+レイア
2019.12(CountDown) アクア+葉月
 
生で2人だけで演奏したのは今回が初めてであった。2018年12月のも本当は生だったのだが、アクアの移動時間を説明できなかったので、建前上録画ということにしておいた(本当に録画なのか生なのかネットで随分議論されていた)。
 
どれも素晴らしいのだが、アクア+葉月版は、絶対に公開できないアクアM+F版を除けば最高の出来だったと思う。
 
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アクアたちの演奏が終わると、拍手の中、ステージが回転するので、ざわめきが起きる。このシアターのステージには廻り舞台の機構が組み込まれているので、それを使用して設備を切り替えるのである。
 
『愛のデュエット』のために、9種類の楽器×2セット(ドラムスだけは1)が並んでいたステージから一転して、華麗な平安衣装をつけた人が8人並ぶステージに切り替わる。
 
『百人一首の歌』を演奏する。
 
華麗な雅楽器の音に合わせて、私たちは「秋の田の刈り穂の庵の苫を荒み、我が衣手は露に濡れつつ」とか「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」などと歌って行った。
 

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雅な世界の歌が終わる。
 
大きな拍手が起きる。私は演奏者を紹介した。
 
「龍笛(りゅうてき):米本愛心、琵琶(びわ):田倉友利恵、笙(しょう):栗原リア、篳篥(ひちりき):花咲鈴美、鞨鼓(かっこ):木原扇歌、箏(そう):坂出モナ、鉦鼓(しょうこ):山里エルカ、楽太鼓(がくだいこ):弘田ルキア、以上、ColdFly5+3 の皆さんでした」
 
私が名前を読み上げる度に拍手があり、最後にまた大きな拍手があった。
 
「彼女たちが着ている衣装は一般には“十二単(じゅうにひとえ)”と呼ばれていますが、これは後世に出て来た俗称で、平安時代の呼び方では“五衣唐衣裳(いつつぎぬ・からごろも・も)”というものです。多数の服を重ねるので、着るのに1時間くらい掛かります。トイレの近い人には着られない衣装ですね」
というと笑い声がある。
 
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「重さも5kgくらいありますので、体力の無い人は着ただけで動けなくなってしまいます」
 
また笑い声がある。
 
「着ているだけで運動になりますから、皆さんもダイエットにこれで通学か通勤してみませんか?ただしこれまでより1時間早く起きないといけませんし、裙を引き摺ってしまうので、裙を持つ係を雇う必要がありますが」
 
というと更に笑いがあった。
 
ちなみに、弘田ルキアが五衣唐衣裳を着ていた件に付いては
「やはりルキアちゃんは、こういう衣装も似合うね〜」
「平安時代なら、きっとたくさん男の人から恋文もらってるよね」
などと言われて、普通の女子と同じ扱いだった!
 
この日の夕方までは!!!
 

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「それでは折角1時間かけてこの服を着てもらったので、もう1曲行きます。『紅葉の道』」
 
拍手があり、演奏が始まる。この曲は元々和楽器を入れた編成で書いた曲だが、今回は完全雅楽器バージョンの編曲をしている。音階も和音律(ピタゴラス音律 *1)で歌う。私は自分で歌いながら、この音律は美しいなあ、と思っていた。
 
(*1)日本音律は壱越(レ)の音が基準点となる。ここから周波数で3/2倍(完全5度上=半音×7)と3/4倍(完全4度下:半音×5)《順八逆六法》あるいは4/3倍(完全4度上)と2/3倍(完全5度下)《順六逆八法》という美しく響き合う音程を頼りに他の音を決めていく。近年の雅楽では少し違うのだが、平安時代の方式では、次のようにする(田辺尚雄の推定)。
 
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壱越(レ)↑5度で黄鐘(ラ)↓4度で平調(ミ)↑5度で盤渉(シ)↓4度で下無(ファ#)《順八逆六法》。

 
壱越(レ)↑4度で双調(ソ)↑4度で神仙(ド)↓5度で勝絶(ファ)↑4度で鸞鏡(ラ#)↓5度で断金(レ#)↑4度で鳧鐘(ソ#)↑4度で上無(ド#)《順六逆八法》。

 
日本音名:壱越(レ)断金(レ#)平調(ミ)勝絶(ファ)下無(ファ#)双調(ソ)鳧鐘(ソ#)黄鐘(ラ)鸞鏡(ラ#)盤渉(シ)神仙(ド)上無(ド#)
 
今回のライブではこの平安時代の音階に調律した楽器(龍笛・琵琶・笙・篳篥)を使用している。(西洋音階の龍笛を作ってくれた雅楽器屋さんと共同で半年掛けて制作したもの:取り敢えずこの1個しか無い!。箏は柱の移動で自由に調律できる。鞨鼓・鉦鼓・楽太鼓は調律不要)
 
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雅な演奏が終わる。
 
私はあらためて「ColdFly5+3でした!」と紹介した。
 
米本愛心(龍笛)、花咲鈴美(篳篥)、木原扇歌(鞨鼓)、山里エルカ(鉦鼓)、弘田ルキア(楽太鼓)の5人が退場し、田倉友利恵(琵琶)、栗原リア(笙)、坂出モナ(箏)の3人は残る。スタッフが楽器を片付ける。ステージの前後を区切っていた幕(中幕)をあげると、そこにスターキッズ(近藤・鷹野・酒向・月丘・七星・宮本)、さっきアクアたちの伴奏をした6人のヴァイオリニスト、それに詩津紅と千里がいる。近藤(A.Gt)・宮本(A.Gt)・鷹野(B)・七星(Fl)・千里(龍笛)は前面に出てくる。
 
田倉友利恵(琵琶)・栗原リア(笙)・坂出モナ(箏)は楽器を交換する。実は西洋音階に調律したものと交換したのである。西洋音律の琵琶は以前から風帆伯母と一緒に製作したものがあったが、西洋音律の笙は取り敢えずこれ1個だけの試作品である。箏は西洋音律の音が出る位置に柱を置いたものである。千里は最初から西洋音階の出る龍笛(30本程作った内の1本)を持っている。
 
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『振袖』を演奏する。
 
アコスティック楽器の美しく重厚な音が響く中、私たちは歌い始める。
 
舞台上手から振袖姿(実はワンタッチ振袖)の常滑舞音が出て来て、扇を持って舞い始める。彼女は正式に日本舞踊を習っている訳ではないのだが、お母さんが日舞の“名取一歩手前”(名取り披露の費用が無いので名前は取らなかった)だったらしく、幼い頃から母が舞うのを見ていたので、結構まともに舞うことができる。
 
美しい演奏と美しい舞のコラボに聴衆は手拍子も忘れて聴きほれていた。
 

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演奏が終わるとそれまで静かに聴いていた観衆が一斉に大きな拍手をする。
 
常滑舞音が上手に退場する。
 
6人のヴァイオリニストの内の4人、田倉友利恵(琵琶)と坂出モナ(箏)は下手に退場する。箏をスタッフが片付ける。栗原リア(笙)は残る。
 
私はMCも入れずに次の曲に行く。
 
『門出』を演奏する。
 
この曲は、千里が他の女性と結婚してしまった彼氏(貴司さん)との関係で悩んでいた時に、自分の遺伝子を受け継ぐ京平君の誕生を機会に“超妻”としての自信を取り戻した時に書いた曲である。その後、ふたりの仲は進行するかに見えたが、貴司さんは更に別の女性と結婚するという迷走を経て、この秋にやっとふたりは結婚できる状態になった。結婚式の日程はまだ未定ではあるが、今月仲に籍だけは入れてしまうらしい。
 
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今千里はどんな気持ちで龍笛を吹いているのだろう?などと考えながら歌っていたら、盛大な落雷が来た!
 
千里が龍笛を吹けば落雷があるのはいつものことである。ギターやヴァイオリンの弦が切れたり、音響機器のICが壊れる青葉よりはマシな気がする?が、今日は特に盛大で5〜6発落ちた気がした。むろん、この落雷の音はあけぼのテレビを通して全国に伝わった。
 
ちなみに今日の福井県地方は午前中は雪が降っていたものの、お昼にはやんでいた。しかしこの雷で「また降ってくるかな」と思った地元の人もかなりあったらしい。
 

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夏の日の想い出・秘密の呪文(6)

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