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■夏の日の想い出・秘密の呪文(21)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-04-13
 
アクア主演の映画『君はダイヤモンド』は2月5日(金)に公開されたのだが、その直前2月3日(水)にはこの映画の主題歌『ダイヤモンドの意志』のCDが発売された。この曲自体は10月に発売したアルバム『宝石箱』からのシングルカット(single mix)だが、それに加えて新録音が2曲入っている。
 
『ダイヤモンドの意志』(single mix)(夢倉香緒梨作詞・大宮万葉作曲)
『誘惑するキャッツアイ』(阿木結紀作詞・醍醐春海作曲)
『マドンナの宝石』(岡崎天音作詞・Ermanno Wolf-Ferrari作曲)
 
夢倉香緒梨は花ちゃん(山下ルンバ)のペンネームのひとつ、阿木結紀は秋風メロディーのペンネーム、岡崎天音はマリのペンネームである。
 
『マドンナの宝石(I gioielli della Madonna)』は小学生でも知っている超有名曲だが、元々は同名オペラの第1間奏曲(intermezzo No.1)である。このオペラは現代では2つの間奏曲以外は、ほとんど演奏されることが無い。今回はその曲にマリが歌詞を載せた。
 
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PVは、『ダイヤモンドの意志』は男の子が女の子にダイヤの指輪を填めてあげるシーン(アルバムでもやったもの)を、あらためて収録しているが、演じているのはアクアFとアクアMで建前上は合成ということにしている。
 
「でもあれ女の子の方は、君が演じてるんだろ?」
と、このPVを見て“彼”は言った。
 
「外れ」
「そうなの?」
「女の子役が彼で、男の子役がボクだよ」
「うっそー!?」
 

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『誘惑するキャッツアイ』ではまずロングヘアで黒いドレスを着て椅子に座り妖艶なメイクをしたアクアが登場する。彼女(?)が手に持つカクテルグラスには黄色い液体が入っているが、中央に白い部分があり、これを上から撮影するとまさに猫の目のようである。
 
(黄色い液体は実際にはオロナミンCであり、白い部分はアイスクリームである。小道具さんの力作!この件はビデオの最後にもコメント文で入っており、アクアはアルコールは飲んでいませんと断っている)
 
左手中指に金のリングを填めているが、そのリングの台座にもカクテルと同じ配色の巨大な宝石が輝いている。これは本物のキャッツアイで、実はアクアの初期の頃からのファンである江藤愛来さん所有の指輪をお借りしたものである。値段は恐らく数百万円する。江藤さんの指サイズなのだが、アクアは細いので無理なく填められた。実は抜け落ちないようにリングストッパーを内側に入れている。
 
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そこにベネチアングラスを着けて顔を隠し?白いフロックコートを着たアクアがやってきて、ドレス姿のアクアの向かいに座る。2人が何か会話しているが声などは無いし、字幕も入らない。でも読唇術のできる人が会話を読み取ったらこういう会話だったというので後で話題になった。
 
「さすがに疲れたよね」
「11-12月頃よりはマシになりましたけどね」
「松梨詩恩ちゃん、米本愛心ちゃん、羽鳥セシルちゃんにだいぶ代わってもらったから」
「詩恩ちゃんが『死ぬー』と叫んでた」
「でも葉月(ようげつ)ちゃんも数回倒れたね」
「半日くらい寝てたらだいぶ回復しました」
「こないだ社長からお土産にもらった旭川の青葉のラーメン美味しかった」
「へー。名前は聞いたことありますね」
「今度うちに寄ってよ。半分あげるから」
「じゃ今度」
 
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ということで、この会話はアクアとボディダブル役の葉月の雑談であることが判明した!
 
なお、フロックコートというのは裙が、ひだスカートのようにゆとりのある伝統的デザインのものを着用している。これがフロックコートを見慣れてない人にはワンピースのように見えるので、
 
「これって女の子同士の会話?」
「結局アクア様は女装しかしないのね」
「アクアは本当に女の子になっちゃったみたいだし」
 
などといった会話がネットのあちこちで起きていた!
 

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『マドンナの宝石』では。三陸セレン・高島瑞絵・大崎志乃舞と共演している。実はアクアを含めてこの4人はバレエの経験者で、全員トウシューズで踊ることができる。それで白いクラシックチュチュを着けて各々トウシューズで曲に合わせて踊っている。撮影は深川アリーナのステージで行ったが、振付は、私の友人でバレエ団に所属している、橋口帆華に頼んだ。所属バレエ団の許可を取った上で振り付けと踊りの指導をしてくれた。
 
特にアクアはトウで立って何回転もピルエットをしているので「すげー」とファンのみならず、このPVを見たバレエファンなどからも声があがっていた。むろんこれを踊っているのはアクアFである。
 
アクアがチュチュを着けていることについては、もう今更なので誰も言及しなかった!
 
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今回は映画の公開に合わせたものということもあり、特に発売日の記者会見は行わず、アクアのメッセージだけを動画投稿サイトに流した。
 

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§§ミュージック社長・秋風コスモス(本名:伊藤宏美)のお父さん伊藤太郎(1954生)は奈良県の生まれである。まるで仮名(かめい)みたいな名前でホテルに泊まると「本名書いて下さい」と言われたりして苦労したらしい。神戸大学を1977年春に卒業後、教師を志望したものの、当時は教員の志望率が高かった時代で、コネとかも無い人には厳しく、結局ポートビア・ランドに就職した。
 
お母さんの鈴木花子(1957生)は韮崎市の出身である。彼女も「本名書いてください」と言われること多々で苦労していた。高校卒業後、東京で当時は女性の花形職業であったキーパンチャーになった。しかし、仕事先の男性とのトラブルから(「結婚する」と言っていたことから実家にも帰れず)逃げるようにして大阪に移住。飲食店に勤めている時に伊藤太郎と出会った。
 
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ふたりはどちらも「まるで仮名(かめい)みたいな名前」というので意気投合し、1983年に結婚した。結婚したことで花子は親とも和解したが、花子のお祖母さんが病気で倒れたことから「山梨に戻ってきてくれないか」と懇願された。それで1986年、太郎はポートピア・ランドを退職し、花子のお父さんが紹介してくれた甲府市内の学習塾に転職した。元々教員免許を持っていて教えるのは好きだったし、10年近い遊園地での経験もあって生徒たちに人気の講師になる。本人としてもこれは天職かもと思った。
 
この甲府時代に、1988年、結婚5年目にして最初の子供が生まれる。2人は自分たちが易しすぎる名前で苦労したので、特徴ある名前を付けようというので、秋好(あきこのむ)と名付けた。源氏物語の登場人物(六条御息所の娘で後の梅壺中宮)から採った名前である。
 
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しかし源氏物語でも、みんな桐壺更衣・藤壺中宮や若紫(紫の上)とか夕顔とか葵の上などは分かるものの、秋好まで知る人は圧倒的に少ない。それで、まず「あきこのむ」と読んでもらえない。しばしば“あきよし”とか“しゅうこう”と読まれて男の子思われたりもする。
 
「男の子にしておくのはもったいないくらい可愛いね」
 
などと秋好はよく言われていた。
 
それで両親は考え直し、1991年に生まれた次女には「宏美」(ひろみ)という易しい名前を付けた。
 
そういう経緯で名付けの気合の入り方が極端に違う姉妹ができたのである。
 
1997年に太郎が勤めていた学習塾は、大手予備校に生徒を奪われる形で倒産してしまう。転職先を探していた時、上九一色村に新しい遊園地を作るから、遊園地の経験のある人が欲しいという情報がもたらされる。それで太郎は不便な場所とは思ったが、上九一色村に一家で移住し、新設遊園地“富士ガリバー王国”で働き始めた。
 
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ところが太郎自身も案じたように、とっても不便な場所なのであまり客は来なかった。更に何といってもオウム真理教のマイナスイメージは拭えない。それで2001年に倒産してしまう。
 
転職先を探した太郎は、ポートピアランド時代の友人がサンリオ・ピューロランドに転職していたのに誘われ、そちらに移動した。そして一家はそろってピューロランドのある東京都多摩市に移住した。これが秋好が中1、宏美が小4の時である。
 

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2006年、歌がうまく合唱部でも活躍していた秋好(当時高3)が東京の芸能事務所・§§プロダクションのオーディション(フレッシュガール・コンテスト)に応募し準優勝した。当時は優勝者以外には本来は特に何も無かったのだが、秋好は優勝者とわずか1点差という優秀な成績だったため、練習生になって1年くらいレッスンを受けてからデビューを目指さないかと言われた。それで秋好は§§プロダクションと契約し、毎日学校が終わると小田急で新宿に出てレッスンを受けていた(レッスンは無料だし、定期券代は事務所が出してくれる)。芸名も秋風メロディーと決まった。
 
10月のある日、メロディーは電車に乗った後で、自宅にその日使う予定だった衣装を忘れてきてしまったことに気づき、実家に電話する。それで妹の宏美がその衣装を持ち、後続の電車で信濃町に向かう。宏美は姉の事務所到着後30分でやってきてくれた。そしてその宏美を見た紅川社長(当時)は彼女を見た瞬間、震撼を覚えた。そして思わず言った。
 
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「ね。君、タレントになる気ない?」
 
それで結局宏美は§§プロの練習生になったのである。この時、予定では翌年2007年に秋風メロディーがデビューし、宏美は高校卒業後の2010年くらいにデビューさせようという話だった。
 

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2007年3月、自宅に居た宏美は突然紅川からの電話を受けた。
 
「宏美ちゃん今すぐ新宿に出て来られる?」
「はい。電車で・・・1時間半くらいかな」
「タクシーなら30分で来るよね?」
「多摩市から新宿までタクシーですか!?」
「タクシー代払うから、至急来てくれない?場所は・・・」
 
実際には、偶然自宅に居たお父さんがバイクで宏美を新宿まで運んでくれた。バイクなので渋滞無縁で新宿まで行くことができ、宏美は30分後に新宿の指定されたスタジオに到着したのである。
 
そしてスタジオに着くといきなり譜面を渡され、これを歌ってと言われた。
 
そんな譜面を見て初見で歌うなんて、お姉ちゃんにはできるけど、私には無理だぞと思ったものの、伴奏者がガイドメロディーをキーボードで弾いてくれるのを聴きながらなんとか歌い、録音される。更にはスナップ写真も撮られる。バイクに乗って来ていたから下はジーンズのパンツである(ジャージで来なくてよかったと思った)。それで出来た音源をすぐに工場に持って行ったようだった。
 
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こうしてドタバタで作ったCD『絶叫コレジエンヌ』(酷いタイトルだ)が5万枚も売れるヒットとなってしまう。
 
実は“コレジエンヌ”(フランス語で女子中学生の意味)なので中学生女子でないといけなかった。発売されたのは宏美の中学卒業式前日だった。実は本来歌うはずだった∞∞プロの女子中学生歌手が録音予定当日に喫煙で補導されて使えなくなり、その代役だった。彼女の日程が元々押していたので日程に余裕が無かった。つまり元々その日1日だけで音源制作してしまうつもりだったのに、その当日に本人が補導されてしまったのである。それで“1時間以内に新宿に出て来られる”女子中生を探したら、卒業式直前の宏美が見つかったという事情だった。そして“コレジエンヌ”という言葉に矛盾が生じないよう発売日を早めて、宏美の卒業式前に発売したのである。
 
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宏美にとって運が良かった(?)のは、この曲は失恋した女子中生が焼き肉をやけ食いして絶叫するという内容なので(なんて歌だ)、少々音を外していても、いかにもヤケクソになっている感じで良かった(一応焼き肉のタレのCM)。またそういうシチュエーションなので服装もスカートよりパンツの方が似合っていたのである。
 
しかしこの『絶叫コレジエンヌ』のCDにクレジットされた歌手名“秋風コスモス”というのを見て、宏美は『ひっどーい』と思った。あまりにも適当すぎる名前だ。
 
紅川も
 
「すまない。もう時間がなくてゆっくり考えてる時間がなくて。君のデビュー曲はあらためて用意するから、その時、ちゃんとした名前を考えるね」
 
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と言っていた。しかし“秋風コスモス”の名前で5万枚も売れてしまうと、もう今更変えられなくなってしまったのであった。宏美はCD発売の翌週にはテレビの歌番組にも出演して生歌唱した(CDの音程が酷いから口パクしても無意味)。そして“正統派美人”の姉に対して宏美は“親しみやすい顔”をしていることもあり、カリスマ的な人気となる。
 
デビュー曲のジャケ写でジーンズのパンツを穿いていたのは、バイクに同乗するという目的があったからなのだが、それが似合っていたので、彼女はその後もパンツルックでカメラの前に出ることが多かったし、歌番組にもだいたいパンツで出ていた。ライブでもパンツばかりであった。5曲目のジャケ写で初めてスカートを穿いたら
 
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「秋風コスモスが性転換して女の子になってる」
などと言われた。
 
しかしそういうスタイルだったことから、コスモスは女子のファンがわりと多かった。ライブの観客もだいたい男女半々だった。もっとも当時からライブでコスモスはあまり歌わず、トーク3割・楽器演奏3割・歌4割で、しかもゲストを4人くらい登場させていた。それで2時間のライブで歌は7-8曲しか無かったが、観客は結構楽しんでいた。しかしあまり歌わないのは“本当は男の子なので女の子のような声で歌うのか苦手だから”という噂まであった!
 
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夏の日の想い出・秘密の呪文(21)

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