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■夏の日の想い出・秘密の呪文(16)

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(2021年)1月13日に発売された羽鳥セシルの『ミトラ・シトラ・ゴトラ/雨のある街』はプロモーションのCMなどは全く打ってはいないものの、チョコのCM自体が結果的に曲のプロモーションにもなって、一週間で8万枚売れた。週間ランキングでは、恋珠ルビーの『サンバ・シャポン』に続く2位となっている。
 
1日に発売された『ココと子ギツネのロンド』は、アクアの曲に次いで2位だったし、私っていつも2位なのかな、などとも思ったが、1月(ひとつき)に2枚シングルを発売するというのは異例なので、幾つかのマスコミが♪♪ハウスに電話で質問してきた。白河夜船社長は、『ミトラ・シトラ・ゴトラ』については、メーカーさんの意向で急に発売が決まったものである、と説明した。
 
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「メーカーさんは1月6日に発売したかったみたいですが、お正月で工場が動いてなかったので、結局1月13日になったんですよ」
 
1月6日に発売された七尾ロマンのCDなどは年内に生産されていたものである。
 
「でも、ミトラ・シトラ・ゴトラって、まるで呪文みたいですね」
「呪文ですよ」
「そうなんですか!?」
「ミトラはゾロアスター教の神様で太陽神です。この神は仏教に取り入れられて弥勒菩薩(みろくぼさつ)になりましたし、西洋では“マイトレーヤ”の語源となりました」
 
「へー」
 
「シトラはエジプトの神様で、別名オシリスとしても知られています」
「オシリスは聞いたことありますね」
「天空でいちばん明るい星、シリウス星の語源にもなった神様ですよ」
「へー」
「ゴトラはインドの神様で月の神様なんです」
「へー!」
「正式名はゴトラマシュリーというのですが、短縮形のゴトラ神として一般には信仰されています」
「ほほぉ」
 
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「ですから、ミトラ・シトラ・ゴトラというのは、太陽の神、シリウスの神、月の神に祈る、強力な呪文なんですよ」
 
「本当ですか?」
「嘘です」
 
「うっ・・・・」
 

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このやりとりは、記者が録音していて、白河社長に公開していいかと尋ねたら「どうぞ、どうぞ」というので公開した。するとネットで結構話題になっていた。
 
結果的には、この白河社長のジョークがプロモーションにもなったようである。
 
しかし悪乗りした製菓メーカーは、セシルと一緒に、同じ事務所の中学生女子3人(広沢ラナ・水野雪恵・神田あきら)に、太陽神・月神・シリウス神に扮してもらい、新たなCFを作成して公開したら、これがまた受けてCDも更に売れた。
 

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1月20日(水). 湯河原レコードの新人アーティスト“KYR”(キール)のデビューアルバム『КЯР』(キャル)が発売された。
 
予算が無い中、ネット広告を中心とするプロモーション、浜松から発信するということで、地元メディアにも取材してもらったりした結果、最初の週だけで3万枚と、まずまずの出だしとなり、デビューは成功した。この週のアルバムランキングで1位になった。
 

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1月20日(水)、Ye-Yo(甲斐絵代子)が歌う『美味しい時間/飴のある町』が発売された。“Ye-Yo”というのは、制作を指揮した野潟四朗さんが
「甲斐絵代子は硬いからニックネームを付けよう」
と言って、“エーヨ”と命名したのである。
 
野潟さんは最初「Aejo」と書いたが、川崎ゆりこが「読めません」と言ってYe-Yoに改訂された。
 
この曲はセシルのCM曲同様、歌自体についてのプロモーションは全くしていなかったのだが、お菓子(ショコエール)のCMがプロモーションになり、最初の週だけで5万枚を売って、シングルの週間ランキング1位を取った。
 
§§ミュージックはマスコミから取材を受けた。
 
「デビュー予定とかは聞いていなかったのですが、§§ミュージック今年3人目のデビュー歌手ですか?」
 
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「いえ、彼女はデビューした訳ではありません。たまたまCM曲が売れただけです」
とコスモスは説明した。
 
コスモスは補足説明する。
 
「信濃町ガールズの子たちは、ドラマの端役とか、雑誌の表紙とか、様々な商品のCMとかに出たりしています。それでCM曲を歌うこともありますし、それがCD化されたこともあります。実際、山下ルンバは正式には2019年にデビューしたのですが、2014年以来CM曲やキャンペーン曲で、デビュー前に12枚のCDを出しており、その合計売上枚数は30万枚ほどに達しています。ただ今回みたいに話題にはならなかっただけです」
 
とコスモスは説明した。
 
「ではYe-Yoちゃんの正式デビューは?」
 
「現時点では白紙です。今年はうちの事務所は七尾ロマン・恋珠ルビーと同時に2人の新人を出したので、正直、それ以上に売り出す余力が無いんですよ」
 
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「彼女はテレビなどに出したりしますか?」
「それは多分出ることになると思います。名前を随分覚えてもらいましたから良い機会です」
 
とコスモスは甲斐絵代子のプロモーションについては、積極的な姿勢を見せた。
 

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ところで、Ye-YoのCDが発売された翌週くらいになって、ネットを中心に話題になり出したことがあった。
 
セシルが歌った明治ミトラチョコのCM曲CDは
『ミトラ・シトラ・ゴトラ/雨のある街』
であり、Ye-Yoが歌ったロッテ・ショコエールのCM曲CDは
『美味しい時間/飴のある町』
となっていて、カップリング曲が同音だというのである。
 
「この“ある”は別の意味だよね」
「漢字で書くと、セシルのは“雨の或る街” One Rainy Street、Ye-Yoのは“飴の有る町”Town full of Sweets」
 
「作者は、セシルのは夢紗蒼依作詞作曲、Ye-Yoのは松本葉子作詞・松本花子作曲」
「ライバル同士の作品だ」
「タイトルは似てるけど曲調はかなり違う」
「セシルのは聴かせる歌曲という感じで、Ye-Yoのは可愛いアイドル歌謡」
 
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「でもミトラチョコとショコエールは似てるよね」
「パッケージも似てるし、お菓子自体も似ている」
「ライバル同士のお菓子だって、こないだワイドショーで言ってたよ」
 
「セシルとYe-Yoもライバルだったりして」
 
このあたりから、2人の“ライバル伝説”が始まるのである。
 

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1月21日(木・友引・さだん).
 
§§ミュージック社長・秋風コスモスが突然結婚を発表した。
 
これには誰もが度肝を抜かれた。
 
コスモスはこの日の朝、各報道機関にFAXを送り
「私、秋風コスモスは本日結婚しましたので、ご報告します」
とだけあり、相手が誰かということさえ書かれていない。
 
コスモスが男性と付き合っていたなどとは私は初耳だった。千里、ゆりこなどにも尋ねてみたが、誰も交際を知らなかったようである。
 
記者会見を開いて下さいという声が圧倒的であったので、あけぼのテレビで記者会見を開くことになった。FAXには結婚相手の名前が書かれていなかったので多くの記者が芸能人ではない人なのだろうと思っていたのだか、記者会見でコスモスと並んで座っているのが、Wooden Fourの木取道雄だったので、これまたみんなびっくりする。
 
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基本的にはリモート記者会見なのだが、報道陣を代表してΛΛテレビの宮嶋容子アナウンサーがリアルで会見に出席して、色々質問をすることになった。
 
「先日、七尾ロマンの発売記者会見で『私にエンゲージリング下さる方歓迎です』と言ったら、彼がダイヤの指輪をくれたので結婚することにしました」
と言って、コスモスは左手薬指につけた1カラットほどのダイヤのプラチナ・リングを見せる。
 
「今朝頂いたFAXでは、お相手が木取さんだということが書かれていなかったのはなぜでしょうか?」
と記者が尋ねる。
 
「はい。FAXを送った後で結婚相手を決めましたので」
「え〜〜?」
と宮嶋が驚きの声をあげるが、木取が訂正する。
 
「あれ酷いです。何で僕の名前が書かれてないのよ?と訊いたら忘れてたと言うし」
 
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「入籍は済ませられたのでしょうか?」
「朝一番に婚姻届を提出しました。FAXは提出時間くらいに送信されるように設定しておきました」
 
「結婚式のご予定は?」
「あげるつもりはありません」
「実際彼女はあまりにも忙しくて、結婚式あげたり、新婚旅行とかするのは無理みたいです。実はその代わりと言って、昨日2人でホンダジェットに乗って、北海道まで往復して、向こうではスーパーでマトンを買って、§§ミュージックの研修所のキッチンで、ジンギスカンを作って食べました。もちろん燃料代・パイロット代は僕が払いました」
 
「素敵な新婚旅行じゃないですか!」
「日帰りでしたけどね」
 

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「妊娠はなさってますか?」
「当面妊娠の予定はありません。私は忙しいから、赤ちゃん欲しかったら、木取さんが産んでねと言っています」
 
「どうやったら僕にも赤ちゃんが産めるのか研究中です」
 
さすがに記者団の間で苦笑が漏れる。
 
「ではコスモスさんはお仕事は続けられるんですね?」
「もちろんそうです。結婚ごときで仕事は放棄出ません」
 
「でも僕は仕事をやめさせてもらうことにしました」
と木取道雄が言うので騒然とする。
 
「おやめになるんですか?」
 
「僕は伊藤さんのサポート役に徹することにしました。多忙で過労ぎみの彼女に代わり、運転手役、そして御飯を作ったり洗濯したりする作業に徹します。うちの事務所の社長に話して、3月一杯で契約解除させてもらうことにしました」
 
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ここでリモートで接続している中に(Wooden Fourリーダーの)大林亮平の姿があることに数人の記者が気付く。コメントを求められた亮平は語る。
 
「実は先月、彼から相談を受けました。Wooden Fourはコロナの影響で昨年春以降、全くグループとしての活動ができない状態になっています。かろうじて、僕と本騨と森原の3人は各々俳優として、いくつかのドラマにレギュラー出演していたのですが、実は木取だけが演技が苦手というのもあって、そういうのにはほとんど出ていませんでした。年末にΛΛテレビさんで放送された長時間ドラマ『とりかへばや物語』に4人そろって出演できたのが、よい想い出になりました。それてWooden Fourは3月いっぱいで解散することになりました」
 
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この大林の爆弾発言で記者も視聴者も騒然とした。
 
その後、多数の質問があるが、コスモスと木取道雄、時には大林亮平が丁寧に答えていった。
 
その内、ひとりの記者から質問がある。
 
「さっきから気になっていたのですが、コスモスさんは彼のことを“木取さん”と呼び、木取さんはコスモスさんのことを“伊藤さん”と呼んでいますよね。普段は何と呼び合っているんですか?」
 
「木取さんと言っていますけど」
「伊藤さんと言っていますけど」
 
「あのお、ある程度親しくなったら下の名前で呼び合いませんか?」
「そうですか?私たちは苗字で呼び合っていますけど」
 
「婚姻届では、どちらの苗字を使うことにしたんですか?」
「僕が苗字を変えました。それで今日からは伊藤道雄になりました」
「それでもコスモスさんは彼のことを木取さんと呼ぶんですか?」
「はい、そうですけど。戸籍上も苗字はバラバラのままにできたらいいんですが、そうできないので、便宜的に法的な苗字を変更しただけですから。基本的には彼は木取道雄だと思っています」
 
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「伊藤さんは多数の会社の役員として名前を連ねているので、名前を変更するとその変更の手間と費用が膨大になるみたいです。それで『僕が苗字を変えるよ』と言いました。やはり日本は江戸時代までと同様に夫婦別姓の方がいいと思います」
と木取道雄は言う。
 
記者会見は1時間ほど続いたのだが、要するにコスモスは今までの生活を全く変えないこと、木取道雄がコスモスの専任ドライバー、兼、食事・洗濯・掃除係になるということのようであった。
 
ともかくもこれでWooden Fourは全員結婚したことになるが、3月で解散である。3月31日はネットライブ・あけぼのテレビ方式でさよならライブをすることも発表されたが、その前に3月上旬には“Flower Four”として、震災イベントに登場することになる。
 
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「ちなみに来年以降のFlower Fourは?」
「“彼女たち”に訊いてみないて分かりませんけど、きっと彼女たちは活動を継続すると思いますよ」
と木取道雄は答え、大林亮平も
「彼女たちはまだまだやると言っていたよ」
と言った。
 
つまり男の子4人のWooden Fourは解散するが、女の子4人のFlower Fourは存続していくということのようであった。
 
 
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夏の日の想い出・秘密の呪文(16)

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