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■夏の日の想い出・龍たちの伝説(10)

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その日仕事が22時少し過ぎに終わり、葉月は桜木ワルツの運転する車で放送局から用賀のマンションに向かっていた。ワルツはしばらく無言だったが、やがて思い切ったように言った。
 
「ね、西湖ちゃんさ」
「はい?」
「あと5ヶ月くらいで高校も卒業だね」
「ええ。何とかここまで来ました。ボク、高校中退することになるのではと何度思ったか分からないけど」
「一度も単位落としてないでしょ?」
「ええ。1年生の最初の学期は何個か追試受けましたけど、その後はなぜか運良く追試にもならずに済んでるんですよね。ちょっとオマケしてもらったこともあるけど」
 
「頑張ってると思うよ」
とワルツは言う。
 
西湖はなぜか自分では中間・期末の試験を受けた記憶が全く無いけど、不思議にギリギリ20点以上の点数が付いてるんだよなあ、と考えていた。
 
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(この学校は20点未満が赤点である。しかし18-19点くらいだと結構オマケで20点ということにしてくれたりする)
 

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「あのさ、西湖ちゃん、高校を卒業したらさ」
「はい?」
「私をもらってくれない?」
「もらうって?」
「そのつまり、私を抱いてくれないかなと思って」
 
「抱くってもしかしてセックスですか?」
と葉月が確認すると、ワルツは少し恥ずかしそうな顔をして
 
「うん」
と答えた。
 
「でも恋人でもない人同士であまりセックスとか安易にしてはいけないと思うけど」
と葉月が言うと
 
「私を・・・その西湖ちゃんの恋人にしてくれないかな」
とワルツは言った上で
「でも西湖ちゃんのこと拘束しないから。西湖ちゃん、他にも恋人作ってもいいし」
などとワルツは続ける。
 
「えっと・・・つまり・・・」
「私、西湖ちゃんのこと好きになっちゃった。最初は弟みたいな存在と思ってたんだけど、そういう気持で自分の心を抑えておくことができなくなって。何なら、西湖ちゃんがその内誰か他の女の子を好きになった時のための、練習台にしてもいいよ、私のこと」
 
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ワルツさん、最近なんか思い詰めている感じだったもんなあ、と葉月は思った。物凄く勇気を出してこの告白をしたのだろうと思った。
 
でも葉月にはどうしても彼女を受け入れられない問題があった。それで言った。
 
「ごめんなさい」
「だめ?ただのセックスの練習相手でもいいよ」
 
「ボク女の子なので」
「嘘!?性転換しちゃったんだっけ?」
「いえ。ボクFなんですけど」
 
「え〜〜〜!?なんでFちゃんがお仕事してるのよ?」
 
通常学校に行くのはFで、お仕事はMと分担している。学校が休みの日はふたりで交替しながらするが今日は学校のある日だった。
 
「Mが疲れたと言うから、途中で交代したんです」
「うっそー!?」
 
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「でも和紗(桜木ワルツ)さんの気持ちはMに伝えておきますね」
「ごめーん」
 
Fは彼女があまりにも可哀想な気がしたので付け加えた。
 
「でも和紗さん、あの子、そのまま押し倒しちゃえばいいですよ」
「同意取らずにやったらコスモス社長から叱られる気がする」
「女の子は問題あるかも知れないけど、男の子は別に構わないんじゃないかなあ」
「そうかな」
「ただ、あの子、ちんちん立たないから普通の結合ができないかも」
「そのくらいは何とかするよ」
とワルツは言った。
 

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その日、うちのマンションに松浦紗雪が来ていた。政子と『アクア改造マル秘計画』について色々話し合うことが目的だったようだ。その時期、マリはまだ出産前で大きなお腹を抱えていた。
 
「ケイちゃん、ホントにアクアを拉致するのに協力してくれない?」
「ダメダメ。こういうのは空想で言ってるから楽しいのであって、本当に拉致して改造したら、松浦さんもマリも警察に逮捕されますよ」
 
「残念だなあ。もういい加減去勢しないと、声変わりがヤバいと思うのに」
などと松浦紗雪は言っている。
 
「でもマリちゃんは2人目か。マリちゃん、8人くらい子供が欲しいって言ってたね」
「はい。でも1人で8人産むのは大変だから、ケイに半分産んでもらいたいんですけど」
「私は産めないよ」
と取り敢えず言っておく。私の“生理”が昨年夏以降、“本物”になったことは政子には秘密である。
 
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「アクアにもその内、赤ちゃん産んで欲しいですね」
と政子は言っている。
「あの子は子供2〜3人産みそうな顔してるよね」
と松浦紗雪。
 
「どこから種を取ってくるかが課題だけどね」
「アクアを妊娠させた男性はファンから殺されるから人選が難しい。アクアのためには死んでもいいという人でないと」
 
“殺される”確定なのか?
 

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9月中旬、丸山アイと城崎綾香は
 
「妊娠しました!予定日は5月です」
というFAXを報道各社に送った。
 
これだけではさっぱり分からないので、記者会見を開いて欲しいという要請があり、2人はネットで記者会見を開いた。
 
「妊娠なさったのはどちらでしょうか?」
という質問にアイも綾香も
「ボクです」
「私です」
と同時に答えた。
 
「おふたりとも妊娠したんですか?」
「そうです」
「予定日はふたりとも同じです」
「私たち、生理周期が連動していたので」
 
先日妊娠記者会見をした音羽・光帆も同じようなことを言っていた。
 
「父親はどなたでしょうか?」
「お互い相手の子供を胎児認知しようとしたのですが、女ではダメと拒否されました。男女差別ですね」
 
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これも音羽たちと同じようなことを言っている。
 
「実際はどなたなのでしょう?」
「綾香に生でされた後で妊娠したから綾香の子供だと思うんですけど」
とアイ。
「アイに付けずにされた後で妊娠したからアイの子供だと思うんですけど」
と綾香。
 
「あのぉ、おふたりとも男性器を持っていたのでしょうか?」
「そのくらいありますよー」
と2人とも言っている。
 
「セックスする時、アイにおちんちんがある時は、私は女の子になって」
「綾香にペニスがある時はボクが女の子になります」
 
記者たちは呆れている。
 
結局、そういう感じの質疑に終始し、記者たちは2人とも妊娠していること、母子手帳はもらったこと、そして5月に2人とも出産予定であること以外には何の情報も引き出せなかった!
 
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ふたりとも妊娠中はドラマなどへの出演は控えるが、アイの音楽活動は継続するということだった。つまり綾香の方は来年1月から9月までを産休とするということであった。
 

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「ほんとにお互いが父親なのにね〜」
「みんな冗談だと思ったみたい」
「まあいいよね。医学雑誌に論文載せられたりとかになると面倒だし」
 
とアイと綾香は言い合った!
 
2人の言っていたことが本当だと判断したのはヒロシや千里に私くらいである。(フェイは“なーんにも考えていない”)
 

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そのヒロシまでフェイと連名で
 
「妊娠しました!予定日は5月です」
というFAXを報道各社に送った。
 
どうもアイたちと似たような時期に妊娠したようである。
 
しかし記者たちはこれだけでは記事にならないので、記者会見を開いて欲しいと要請し、2人はネットで記者会見を開いた。
 
「妊娠なさったのはどちらでしょうか?」
という質問にアイも綾香も
「ボクです」
とフェイ。
「この子です」
とヒロシ。
 
記者たちの間に安堵の空気が広がる。
 
「フェイさんが妊娠なさっていて、ヒロシさんは妊娠なさってないんですね?」
 
「僕は男なので妊娠できません」
「でもヒロシ、結構男の子と寝てるのに種を仕込まれてないの?」
「ちょっと、そういう話をここでしないでよ」
とヒロシは焦って言う。
 
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「ヒロシさんはバイセクシャルでしたっけ?」
「女の子とも男の子とも男の娘とも女の息子さんとも行けます。僕はどちらかというとパンセクシュアルです」
 
この言葉は分からなかった記者も結構いたようである。
 
ひとりの記者がコメントした。
「バイセクシュアルは、男でも女でも愛せる人、パンセクシュアルはそもそも相手の性別を気にしない人、という理解で良かったでしょうか?」
 
「はい、そんなものだと思います」
「でもヒロシさんが他の男性と寝ていてフェイさんは嫉妬しないんですか?」
「嫉妬ってよく分かりません」
とフェイは言う。
 
これには記者たちの方が困ってしまった。
 
「フェイはそもそも“愛情”というものがよく分からないと言うんですよね。でも僕もできるだけ浮気は控えるようにしているんですが」
とヒロシはフォローする。
 
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「でも月に1回くらいは他の子と寝てない?」
「ごめーん。もっと控える」
 
記者のひとりが苦言を呈する。
 
「ヒロシさん、奥さんが妊娠しているんだから、せめて出産までは浮気を控えられません?」
 
「そうですね。反省します」
とヒロシも答えた。
 
しかし、今回の記者会見は、音羽・光帆や、アイ・綾香の妊娠記者会見に比べるとまあ、まだマトモな部類であった。
 
なお、フェイは10月から来年9月までの1年間を産休(実は入院させて、医師の管理下でホルモンコントロールをする)とし、その間のRainbow Flute Bands のライブでは、ヒロシが代役を務めるということであった。フェイはライブではだいたい前半男装、後半女装で歌うが、ヒロシもそれに倣って、前半は男装男声・後半は女装女声で歌うと、この日の記者会見でも述べて、ネットでは“女装ヒロシ”のファンから歓声があがっていた。
 
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「フェイちゃんは、本当に恋愛という感覚、その前に愛情というのが分からないみたい」
とその日、私のマンションに来た丸山アイは言っていた。
 
「やはり性腺が貧弱で、脳が性的に未発達なのに加えて、育ち方にも少し問題があったみたいだけどね」
 
とアイは言っていた。
 
「愛情を知らない人に愛情を教えるのって難しいだろうね」
「うん。でもヒロシは浮気もするけど、フェイのこと、ほんとに可愛がっているから、その内、あの子にも分かるようになる時が来るかもよ」
 
「そうなるといいね」
 
「§§ミュージックが恋愛禁止を解除したのも、そのあたりでしょ?」
 
「そうそう。10代後半から20歳頃ってのは、恋愛というものを学ぶべき時期なんだよ。人は、その発達段階において、この時期までにこういうものを学ぶべきって時がある。その時期に学んでないと、後から学ぼうとしても、適時の何倍もの努力が必要。元アイドルがしばしば“よりによって”って感じのおかしな異性と結婚しちゃうのは、学ぶべき時に学んでないからだと思う」
と私は言った。
 
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「それで西宮ネオンは同棲始めたんだ?」
 
「婚約したと言うから、週末同棲まで認めた。平日は自分のアパートで過ごす。指輪も見せてくれたよ。まあ相手は3月には大学を卒業するというから、それから結婚式を挙げるんだろうね。それまでは妊娠させないようにと言ってある」
 
「つまり1つ年上の女の子か。ネオン君は大学行ってなかったんだっけ?」
「入学はしたけど、忙しくて通えなくなって退学してる」
「まあ、中高生は学業優先にしてもらえるけど、大学生はだいたい無視されるよね」
とアイは言うが
 
「逆に大学に行っている間も学業優先にしていたタレントは概ね売れなくなる」
と私は言う。
 
「まあローズ+リリーはそれでも売れた希有な例かもね」
「丸山アイもね」
 
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「まあボクは“身代わり”がたくさんいるから」
「私もアイちゃんが貸してくれた“身代わりさん”のお陰で乗り切れた」
 
丸山アイの知り合いに、私によく似ていて歌もうまい人がおり、私は一時期その人に随分代理をしてもらったのである。実はローズクォーツのライブはほとんど彼女が務めている。KARIONのステージもかなり代わってもらった。
 
「ああいうのも楽しいよね。バレないようにするのにスリルがあって」
とアイは言っている。
 
「人は非常識な現象を見ても、常識で理解できる範囲の物事に勝手に修正しちゃうから」
「そうそう。だからアクアが2人とか3人いてもバレない」
 

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夏の日の想い出・龍たちの伝説(10)

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